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石川県人 心の旅 by 石田寛人

ボイジャーの音楽

2024.07.23 15:00

 今月7日。笹の葉のそよぎで暑気を払いたいこの日、都知事選の投票を前日に済ませた私は、ガラにもなくクラシック演奏会場と楽屋で一日を過ごした。場所は墨田区のすみだトリフォニーホール。眼目の演奏曲は『ボイジャー楽章付き組曲「惑星」』、演奏はシズオ・Z・クワハラ氏指揮の新日本フィルハーモニー交響楽団、合唱は加藤洋朗氏が指揮する桐朋学園大学One Voice Kで、ソプラノが秋本悠希さん、ボイジャー楽章の作曲は清水研作新潟大学教授であった。それに、宇宙の語り部として極めて著名な的川泰宣JAXA名誉教授と天体観測の権威渡部潤一国立天文台上席教授が、惑星と宇宙について解説され、私は妻と朝から会場に駆け付けてこの七夕演奏会を裏表から満喫したのである。

 この演奏は私の和敬塾の後輩の音楽プロデューサー小沢陽氏の企画によるものだった。今年は組曲「惑星」の作曲家ホルスト生誕150周年にあたり、惑星探査人工衛星のボイジャー1号と2号が惑星探査を終え太陽圏を出て遠い宇宙の旅に赴いて数年あるいは十数年経ったところなので、そこから想を得た小沢氏は、組曲「惑星」に新たに「ボイジャー」の楽章を付け加えて演奏することを計画した。その作曲を清水教授に依頼するかたわら、演奏の舞台でその道の大家から惑星と宇宙探査の解説をしてもらうことを思い立ち、その相談を私に持ちかけられたのである。私は長年科学技術に関わってきたが、宇宙についてはトバ口に立ったとも言えないほどなので、早速、宇宙フォーラムの理事長で親しい友人の藤木完治氏にそれを繋いだ。藤木氏はすぐに的川先生と渡部先生に話され、両先生とも快諾されて、かくして、音楽関係者の尽力で仕上がったのがこの日のステージであった。的川先生は、30年ほども前から金沢市のキゴ山の青少年用の宇宙教育施設や宇宙塾の整備で指導して頂き、渡部先生は、小松のサイエンスヒルズのエグゼクティブアドバイザーとして御教示頂いてきた方で、ともに石川県に御縁が深い。

 小沢氏の企画は、墨田区文化振興財団の主催の許に行われることになり、宇宙のゴミの除去などで活発に活動している株式会社アストロスケールが協力し、JAXA、国立天文台、宇宙フォーラムの後援が得られた。このような枠組みで、二度にわたるプレイベントを経て、7月7日の演奏となった。

 組曲「惑星」は、「木星」の楽章がよく演奏されるが、「戦争をもたらす者」火星、「平和をもたらす者」金星、「翼のある使者」水星、「快楽をもたらす者」木星、「老をもたらす者」土星、「魔術師」天王星、「神秘主義者」海王星の各楽章を通して聴くと迫力に満ち、そのあとの「希望をもたらす者」ボイジャーの楽章の曲の輝きとソプラノの美しさで、心が澄みとおっていくように感じた。また、的川、渡部両先生のトークが分かりやすくて素晴しく、惑星とボイジャーの現況がよく理解できたが、特に今や冥王星が惑星から準惑星に格下げになっていること、ボイジャーが人類から宇宙の未知なる生命に語りかける黄金のレコードを携えていることに深い興味を覚えた。一日を終えて、小沢氏の壮大な企画の見事な結実にただただ驚き、感動した。実は、これから、この曲が金沢をはじめ全国各地で演奏されることを期待したいのだが、小沢氏によると、管弦楽が大編成なので、容易なことではないようだ。しかし、この演奏を機会に、宇宙とその音楽がさらに我々に親しみあるものになることを願いつつ、関係者に感謝している。(2024年7月18日記)