丸編み生地製造の勉強-繊維の話編1(麻の回)-
生地を作っていく上で、繊維の特性を知っているのと知らないのでは、ものすごく違いがでる。
ビールとホッピーくらい違う。
シーズン性を持たせる為にあえてその原料なのか?という原料のチョイスも散見するが、果たして洋服になった時に「本当にそれ必要だった?」という混用率になっている生地はよく見かける。
以前、某テレビ番組で商品を売るやつに出させていただいた時、前職の会社がノリと思いつきで作った糸『リヨセル80%とシルク10%とリネン(麻)10%の三種類混ぜられた糸』で仕上がった生地を取り上げてもらったのだが、司会担当者から「この生地は3つ混ぜることでどういう意味があるのですか?」と問われた際に僕は答えに窮してしまった。
意味なんてなかったから答えられなかったのだ。
なんとかその場は取り繕ったが、正直自分が恥ずかしくなった。「他社にないから価値がある良い生地」なんて思い上がりで、その実、着用者に対してどのような体験やメリットを与えることができるかなどを一切考えられていなかった。
なんとなく風合いが良さそうとかなら、リヨセルだけでもほとんどその風合いを体現している。シルクの10%も光沢感に寄与していたか。しかしそこへ敢えてリネンをブレンドすることで滑らかだった肌触りにツブツブとした違和感を足すことが何か意味があったのだろうか。その10%のリネンがあることでまとわりつきやすい他の繊維から肌離れをよくする効果があったと言いたかったのだろうか。こんな理由は後付けで、作った時は「他社にない独自商品」を作りたかっただけに他ならない。
そりゃ在庫たんまり残すわな。初回発注から半分も消化せずに5年も売れなかったんだぜ。
と、こういう悲惨な結果を残さない為にも、服や生地を作る人たちは「繊維の特性」を知っておいた方が良い。
だいぶ前置きが長くなったが、今回は麻について。
最近たまたま、麻について深掘りする機会をいただいていて、改めて繊維を見ると、これを糸にしようとした先人はヤバいなと。(まぁ他の繊維もそうだが)
とりあえず麻の特徴だけさらうと
・硬い
・強い
・光沢がある
・伸びない
・チクチクする
・シワになりやすい
・やっぱり硬い
・水を吸うと強くなる
・あと、硬い などなど。
さっき事務所にあった麻の生地を解いて拡大したものがこれ↓
まっすぐで生真面目な印象。多分嘘がつけなくて、言わなくて良いよってことまで言っちゃうヤツだ。でも信頼が置ける。不器用だけど良いヤツ、そんな感じ。
なんの話や。(麻の繊維の話)
ただ糸屋さんに「麻の糸ください」と言っても、種類が色々あるので注意が必要。
基本は「亜麻(リネン)」と「苧麻(ラミー)」そこに「大麻(ヘンプ)」がある。「リネンは茶色くてラミーは白い」くらいの把握で問題ないかと思う。ヘンプは白味というか黄色い。蛇足だが、冒頭絵に書いたのは島谷ひとみ氏の歌「亜麻色の髪の乙女」の「亜麻」とはリネンの色味ということである(絵の髪の毛の色が全然亜麻色を表現できていない)。
最近は麻100%のカットソーの生地もたくさん出てきたけど、昔(10年くらい前)は麻100%の糸をまともに編むことができなかった。
硬いから、糸を編機に持っていく前に針金みたいにしゃわわわー!ってコーンから解けてぐちゃぐちゃになっちゃったりしてた。
編機の周りに加湿器をバンバンたいて加湿することで糸がしっとりすると少し柔らかくなるのでその状態をキープしながら編むという日々が続いてた。しかしその方法だと編機が濡れて錆びてしまい非常に高価な設備費用を必要としてしまうので工場は皆嫌がった。
ところが麻100%の生地の需要が増え、たくさんの人たちの知恵が集まり、前処理で工夫することを思いつき、糸の段階でびしゃびしゃに濡らして柔らかくしてから間髪入れずに編むという工程を開発することで編むことに対すハードルは下がったが、依然簡単なものではなく、非常に難易度の高い繊維であることに変わりはないから編み工場に対して気軽に「麻100%の丸編み生地を別注で」なんて言わない方がよい。
「ちょっと麻やってみたいなー」という程度なら、瀧定かヤギ(サンウェルにはラミーがあった気が)など問屋さんにあるやつ買って。
マジで。
お互いに怪我しないように。
基本的にはさらっとした風合いなので春夏用途が多いが、ウールリネンなどの混ぜ物も色々ある。繊維に伸縮性が壊滅的にないので、カットソー生地にした場合は洗えないものとして扱う方が良い。今の所。強く引っ張ったら伸びっぱなしになる。
と、簡単に説明してみたが、言葉で見るより触れてみよ。たくさん生地を触ってそれぞれの繊維の風合いを知るのも楽しいものだよ。
何より自分のお客さんにどういう風合いを纏って欲しいか考えて繊維を追求していくと頭に入りやすいかもしれない。