第一回水のまちシンポジウム講演者紹介3
2019年1月27日(日)水のにわ:水との共生
基調講演3 永松義博
永松義博(ながまつよしひろ)
1951年 福岡県久留米市生まれ。1974年東京農業大学農学部造園学科卒業。福岡県の公立高校教諭を経て 1992年より南九州大学園芸学部造園学科勤務。博士(農学)。現在南九州大学名誉教授、 2015~16年度公益社団法人日本造園学会理事及び同学会九州支部長。九州各地に残る歴史的庭園を巡り、実測調査に基づき庭園の意匠と機能からその価値を検証。
著書
「鎖国期の歴史のはざまに輝いていた庭園があった」「九州地方の町並み」「本当のアメニテイとは何か」「平戸藩主の庭園に佇む石造物群」「柳川堀割から水を考える」など。
近年の研究論文
「防災施設としての梅ヶ谷津偕楽園」「祀りの場としての薗家庭園」「江戸期の九州に発展した薬学普及機関としての御薬園」「平戸藩江戸屋敷「蓬莱園」に織り込まれた景色」「殖産振興実験場としての庭園・梅ヶ谷津偕楽園」「盲導犬用トイレの利用と設備に関する研究」など。
受賞・表彰
福岡県科学研究奨励賞(1983 1984 1988) 造園大賞(1986)福岡県教育科学研究奨励賞(1986 1988)日本造園学会九州支部Most Impressive賞(2009~2017, 14回受賞)久留米市功労者表彰(2016)宮崎県知事表彰(2016)平戸市民表彰(2018)など。
(写真上 ヘドロで埋まった池の水を抜き掃除する永松先生と「柳川水郷庭園保存機構」チーム。
写真下 きれいになった池)
講演の題目 九州の歴史的庭園の存亡
概要
日本の庭園文化は古来より京都を中心に発展してきましたが、江戸時代後期には、九州においても地域性を反映した独自のスタイルやデザインが生み出されるようになります。しかし、九州では伝統的な中央の技法の伝搬が遅れたことから、形式や様式にとらわれない新しい庭園意匠が盛り込まれて発展してきました。
九州には、歴史的庭園が群区を成している英彦山、久留米、柳川、秋月、唐津・東松浦、平戸松浦、鍋島、肥後細川、人吉相良、杵築・臼杵、薩摩、志布志、知覧、琉球、八重山の 15箇所の存在を確認しています。それぞれの庭園群は、郷土の自然や地形を活かし、地域の水・土・石などの素材を活用することによって、地域性や独自性が巧みに表現されています。いずれも自然風土とその土地を愛する人々が育んだ個性豊かな空間の文化でもあります。
しかしながら近年、生活環境の変化に伴い、郷土色豊かな庭園が消失し始めています。1982年から実施した九州地方の歴史的庭園 391箇所の調査では、 2017年現在の保存・管理状況は、 庭園の原形を留めて管理状況も良好なものは 81箇所( 20.7%)にとどまっています。庭園は原形を留めているものの管理不十分なものが47箇所、原形とは異なるものの管理状況は良好なものが59箇所、原形とは異なり管理も不十分なもの 79箇所、庭園は荒廃し放置状態のものが84箇所、既に消失した庭園が41箇所という結果でした。庭園群別にみると唐津・東松浦、琉球、知覧においては比較的管理状況が良く、英彦山庭園群や杵築・臼杵庭園群では庭園の管理が不十分で次第に原形が失われていくものが多くみられます。
庭園荒廃化の主な原因は、水系利用の庭園における水位の低下や水質汚濁、他には所有権移転や空き家、高齢化による管理困難などがあげられます。これらの中には、文化財の指定を受けながらも高齢化や経済的理由による管理困難により、原形を失いつつある庭園も存在しています。つまり、多くの庭園が都市化や地域開発による環境の変化や不十分な保全管理により衰退の危機に瀕しております。歴史的資産である庭園の抱える諸問題は、自治体や国の文化財行政に重大な問題を投げかけており、今後の文化財保護体制のさらなる整備強化が求められます。
今回のシンポジウムでは九州の歴史的庭園の保存活動に取り組んでいる事例を紹介し、文化的遺産である庭園存亡の危機を自然現象や社会的要因として片づけることなく、庭園が存続していくための付加価値を見出す契機になればと思っています。
(写真上 永松先生と南九州大学卒業生が長い年月をかけて復元した平戸松浦家大名庭園 棲霞園 2018年11月24日撮影)
<水研と永松先生との関わり>
永松先生と初めてお会いしたのは、2018年2月、酷寒の日に永松先生ご夫妻と南九州大学卒業生の皆さんは、柳川市内の庭園の池の水を抜きヘドロを汲み出していました。零度に近い気温の中、全身泥まみれになって作業をしていました。その精力的な活動には、「金八先生」のモデルになったかただというのもうなづけます。永松先生のご活動については、2017年11月にシドニー大学大学院の学生たちが、柳川演習で訪れた際に見せて頂いた庭園の持ち主のかたから聞いていました。その後、先生のご自宅を訪れ、シンポジウムの講演依頼と水研の来年の活動にご協力をお願いし、快く引受けていただきました。永松先生は30年以上、九州各地の庭園保全のために尽力されてきました。その長い庭園修復保存活動から得られた知識と経験、九州(柳川)の庭園の特徴と価値、庭園保存のために必要なものはなにか、行政だけでなく市民一人一人ができることは何か、などについてお話していただきます。
水のまちに特有な「水のにわ」。立花家庭園や戸島家庭園以外の柳川の「水のにわ」の存在は、あまり知られていません。個人所有のものがほとんどで、人知れず消滅していったものも少なくありません。柳川の文化的景観、文化的財産として、「水のにわ」をまず知ることから始め、保存活動へと広げていくのが、水研および永松先生の「柳川水郷庭園保存機構」の目標です。