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『資料コード:芋虫コンベアの死闘!』 作:よぉげるとサマー

2024.07.07 01:30

Aguhont Story Record 外伝

『資料コード:芋虫コンベアの死闘!』

作:よぉげるとサマー

100分


【登場人物】

※名前の記号が兼役の目印

○アイシャ:

マリシ軍部所属。柱をへし折って武器にする脳筋バカエルフ。攻撃の際に柱っぽい物があれば折る。柱がなければ、敵を柱に見立てる。私が柱だと言えば柱アル……ん?あれ……おい、お前。よく見たら……柱じゃねぇアルか?

☆壱四捌:

『 資材 再生工場 統括AI- e48(いー、よんはち)』。自称、『壱四捌(いよはち)』。マリシの巨大複合工場『ウシャス』の一部で、廃材や廃棄物の再生(リサイクル)を行っている。完全機械化されており、全ての作業工程をAIである壱四捌(いよはち)が制御している。工場は完全無人で運営されている。

#警備ロボ:

 工場の警備を務める、細長い機体のレーザータレットを備えた三脚型ロボット。車輪によるスムーズな平地移動と、小型のホバリング機構にて段差や地形を無視した上下移動が可能。低品質AIが搭載されており、簡単なコミュニケーションが可能。職場恋愛は禁止されているが、バレないように皆している。バレた場合は、AIに発生したバグとして完全初期化(クリーンインストール)される。

#工場機械:

様々な作業を行う機械。全自動でプログラム制御されており、AIは非搭載。一度稼働したら『壱四捌(いよはち)』にしか止められない。今回は訳あって『壱四捌』にも止められない。たまに音声プログラムがバグる為、噛んだり、言い間違えた様に聞こえてしまう。

☆青年:

ちょい役。

#御者:

ちょい役。

○女の子:

ちょい役。

#通信音声:

ちょい役。


【本編】

〜〜〜〜〜〜

▶︎マリシ国、巨大複合工場『ウシャス』内、資材再生工場『壱四捌』、第六ラインにて

アイシャ:

 ん、しょ……ん、しょっ……むぐぐぐぐ!

 動き、づらいぃ!

壱四捌:

 いっやぁ、お嬢さんっ!

 次のレーンで左に行ってくんなぁっ!

 右行ったら、タングステンでも溶かしちまう溶鉱炉だっ!

アイシャ:

 そん、そんな……そんなことぉ!

 言われてもぉ! むぎぎぎぎ!

壱四捌:

 おうおうおうっ!

 芋虫みてぇに体ぐねらせてよぉっ!

 何とかしてくんなぁっ!

アイシャ:

 ぐぅににに!

 うぅ……どうして……どうしてこうなった、アァルゥウゥウゥ!

壱四捌M:

 ダダンッ!

 時はぁ、アグホント戦乱の世っ。

 ダンッ!

 古の四賢者ぁ、最後の一人がぁ、逝去(せいきょ)しっ、暗黙の平和に縛られていた四つの大国っ!

 ダンッ!

 『リーベル』っ!

 ダンッ!

 『マリシ』っ!

 ダンッ!

 『バルナ』っ!

 ダンッ!

 『タングリスニ』っ!

 柵(しがらみ)から解き放たれた国々は、大陸の覇権を握るべく、ジワジワとぉ、謀略(ぼうりゃく)を繰り広げていたぁっ!

 ……その最中(さなか)。

 四大国(よんたいこく)、科学のマリシが誇る、巨大複合工場『ウシャス』。

 ……その一部となる資材再生工場『壱四捌(いよはち)』にて。

 ……此度(こたび)の悲劇はぁ……起こった。

アイシャ:

 いや、長いって……アル。

壱四捌M:

 ……冒頭より、遡る(さぁかのぼるぅ)ことぉ、二十四分、五十三秒、前ぇっ!

 ダダンッ!

 ……一人の女エルフが、大声で叫び散らかしながらぁ、工場へ……直撃したっ。

アイシャ:

 アぁあぁあぁ! ルぅうぅうぅ!

壱四捌M:

 ドガァァンッ!

 …………ダンッ!

 アグホントレコード。

 ダンッ!

 外伝。

 ダダンッ!

 『芋虫コンベアの死闘』。

 ……開幕でぇ、ごさいやす。

 ダガダンッ!


〜〜〜〜〜〜

▶︎マリシ国、巨大複合工場『ウシャス』内、資材再生工場『壱四捌』、第一ラインにて

アイシャ:

 いったた……うぅ、良い柱だったから、つい調子乗って飛び過ぎたアルぅ……。

 あぁ……でも、希少鉱石で出来た柱なんて、そうそう折れなぃ……アイヤァ、いやいや、拝(おが)めないっ、アルからネ。

警備ロボ:

 非常事態、非常事態。

 工場損壊、及び、不法侵入者、発見。

 直ちに対処します。

アイシャ:

 あー、めんどくさい……鉄くずが群がって来たヨ。

警備ロボ:

 侵入者の鎮圧、及び、排除を実行し……。

アイシャ:

 おい、細長いってことは……。

警備ロボ:

 ます?

アイシャ:

 『柱』アルな、お前。

警備ロボ:

 ギッ!

アイシャ:

 即柱(そくちゅう)、連壊(れんか)っ。

警備ロボ:

 ぎ、が、ぼ、ぐ!

アイシャ:

 ……うん、1発で4体。

 コスパ良し、アルっ。

警備ロボ:

 ばたんきゅー。ぼかんっ。

アイシャ:

 さーて……冷静に考えたら、これ……給料から天引きされる案件だよネ?

 しかも、めっちゃ怒られるパターン、アル……隠しようが無いだろうし……って、あぁっ、博士に背負わされてた荷物も無くなってるうぅ……最悪アルぅ……!

 うぅ……そこら辺に、転がってないアルかぁ?

工場機械:

 ピコーン。

 ライン内に、再生資材を検知しました。

アイシャ:

 ん? はぁ……また何か来るアルか?

工場機械:

 特殊鉱石、他、複数の資材を確認。

 処理中の脱落を防ぐ為、ベルトを装着します。

アイシャ:

 え、乗ってきた柱をスクラップにする気アルか?

 ちょっと待つヨロシっ! それは私のネ!

工場機械:

 脱落防止ベルト、射出。

アイシャ:

 え、射出? どぅわぁっ!

工場機械:

 装着完了。

アイシャ:

 わっわぁあ! ……どぅへぇっ!

 うぅ、い、痛いぃ……ってぇ、何で……私にベルトが巻き付いてるネ!

工場機械:

 ラインのベルトコンベアを稼働します。

アイシャ:

 うやぁっ! いきなり、地面がっ!

 う、動いてる……けど、私は動けぇ……うぎぎ、動けないぃ……うぐぐ、これ、どうなるアルかぁ?

工場機械:

 ピコーン。

 ヘルプ機能より、回答致します。

 資材は、仕分け機構にて、各種ラインへ振り分けた後、再生処理を行います。

アイシャ:

 さ、再生、処理……?

工場機械:

 資材として利用できる状態へ、再構築するということです。

 例としましては、鉱物を含む物は、溶鉱炉にて融解し、必要な鉱物のみ抽出、冷却し、整形します。

アイシャ:

 つまり……溶かされるってことアルかぁ!?

工場機械:

 はい、その工程も存在します。

アイシャ:

 うわぁあぁあ!

 は、早く、この床を止めて、私をここから助けるヨロシ!

工場機械:

 残念ですが、ライン工程を停止するには、管理者権限が必要です。

 あなたの音声パターンは、権限が登録されておりません。

アイシャ:

 ごちゃごちゃ、うらうら、難しいことぉお!

 もう、自力で脱出を……ふぅんぎぎぎぎ!

 ぐっ、なんでアル、これ……ベルトが取れないぃ!

工場機械:

 ピコーン。

 脱落防止ベルトは、ヴェル印(じるし)強靭(きょうじん)カーボンが使用されており、人力での着脱は不可能とされています。

アイシャ:

 ぐっ、確かに外れる気がしな……ん? ヴェル印?

工場機械:

 ヴェル印、とは。

 ギャギャギャリアン・ヴェルナヴァンド氏考案、という意味です。

アイシャ:

 あぁんの、クソボケ博士がぁあぁあ! アルぅうぅうぅう!

工場機械:

 ピコーン。

 仕分け工程を開始します。

アイシャ:

 はっ! い、いつの間にか、目の前にトンネルがぁ……ガシャンガシャンって不穏な音がするネ……うぬににに!

 うぅ、体を動かすのも……ひと苦労アルぅっ! よいっしょおっ!

工場機械:

 ビー!

 資材が詰まりました。

アイシャ:

 ふふん……うおっ、とと。

 つま先と……おぉでぇこぉ……でぇ、入り口に、つっかえることは出来たアル……ふぅ。

 ただ……いつまでベルトコンベアに逆らえるのかが、不安なとこネ……力配分が……ちょっと、難しいアルな。

工場機械:

 アームにて、停滞を解消します。

アイシャ:

 アーム? ふんっ、なんアルか。

 その細っちぃので、私に敵う(かなう)とでも……ふぐっ!

工場機械:

 押し込み、失敗。

 再度、試みます。

アイシャ:

 うっ、ぐっ、やめろぉ!

 腹をつつくんじゃ、ふぐっ! ないっ、アルっ!

 くぅっ、このっ……芋虫状態だからって……舐めるなぁ!

工場機械:

 押し込み、失敗。

 押してダメなら……。

アイシャ:

 すぅーっ……。

工場機械:

 砕いて流すっ!

アイシャ:

 臥柱(がちゅう)……。

工場機械:

 ハンマーッ!

アイシャ:

 転砕(てんさい)っ!

壱四捌M:

 ダダンッ!

 詰まった資材を、砕いて流すっ!

 そんな暴挙に出た機械に対しぃっ!

 エルフのお嬢さんは、深く息を吸い込み……集中。

 そして、襲い来る大金槌(おおかなづちぃ)!

 そこに合わせっ、ほとんど動けない簀巻き(すまき)の体を、ギュルリッ!

 コンベアのスレスレでぇ浮き上がりっ、錐揉み状(きりもみ じょう)に高速回転っ!

 そしてぇっ、刹那ぁっ!

 バギャァッ!

 ……どういう訳かぁ、振り下ろされたハンマーが、粉々に砕け散ってしまいやしたぁ……恐るべしっ!

 ダンッ!

 エルフの妙技(みょうぎ)っ!

 ダガダンッ!

工場機械:

 は、ハンマぁあぁあ!

アイシャ:

 ふんっ、雑魚め……いだぁっ!

 痛ぁ……頭打ったアル……。

工場機械:

 ピコーン。

 詰まりが解消されました。

アイシャ:

 へっ? ……あぁっ!

工場機械:

 仕分けスタートー。

アイシャ:

 しまったぁ! アルぅうぅう!

壱四捌M:

 ダンッ!

 奮闘も虚(むな)しく、仕分け機に呑み込まれた女エルフっ。

 ダンッ!

 手を伸ばそうにも、足を動かそうにも、どうにも出来ない体を抱(かか)え。

 ダンッ!

 工場の奥へと、流されてぇ行く。

 ダダンッ!

 この後も、物語と一緒に、ずずいとぉ、流れてぇ行きやす。

 お楽しみにっ!

 ダガダンッ!


〜〜〜〜〜〜

▶︎マリシ国、巨大複合工場『ウシャス』内、資材再生工場『壱四捌』、第三ラインにて

アイシャ:

 ……ぶへっ!

 うぅ……何とか、この柱と同じところに……転がりこめたアル。

工場機械:

 ピコーン。

 洗浄工程へ輸送します。

アイシャ:

 洗浄……水でもぶっかけられるアルか?

工場機械:

 その工程も存在します。

アイシャ:

 ……他には、何をするネ?

工場機械:

 洗浄液に浸し、汚れや不要箇所の剥離(はくり)を促(うなが)します。

アイシャ:

 ……もし、その工程を人間が受けたら、どうなるアル?

工場機械:

 その事実は、隠蔽(いんぺい)されます。

アイシャ:

 答えになって無いアルぅ!

工場機械:

 洗浄工程に移ります。

アイシャ:

 ぶわぁっ! うべっ!

 いきなり水……ぶっ! ぐぼぼぼっ!

工場機械:

 シャワー洗浄により、表面の汚れを落とします。

アイシャ:

 ぶっはぁっ!

 はぁ……はぁ……溺れそうだったアル……。

工場機械:

 薬液プールでの洗浄工程へ、移行します。

アイシャ:

 そ、そろそろ無事じゃ、済まなそうアル……けど、どうすれば……。

工場機械:

 プール投下用ラインへ切り替わります。

アイシャ:

 うわっ! 下りになったアル……。

工場機械:

 順々に投下を行います。

アイシャ:

 まずいネ……あっ、警備のロボットの破片が……うひぃっ!

 ジュウッ、って音がしたアルぅ! 絶対やばいヨ!

工場機械:

 インターバル後。

 次の投下を行います。

アイシャ:

 うぅ……もう、柱は諦めるしか無い……アルか。自分の心配もしないと……うぐぐぐっ!

 はぁ……やっぱ、外れないアル……。

 逃げ場も……うぅ……ある訳……。

壱四捌:

 あるぜ。お嬢さんっ。

アイシャ:

 えっ?

壱四捌:

 逃げ道を探してるんだろ?

 薬液プールの縁(ふち)にゃ、お嬢さんが縦になって、ギリギリ収まる平面がある。

アイシャ:

 プールの縁(ふち)……って、お前、誰アルか!?

壱四捌:

 おおっと! 自己紹介は後にしようやっ!

 もうお嬢さんの順番が来ちまうぜっ?

工場機械:

 インターバル、終了。

 投下します。

アイシャ:

 うわっ!

 ……そうアルな。まず、この状況を何とかするのが先ネ。

壱四捌:

 いよっし! お嬢さんの、その状態じゃあ、ちっとばっか厳しいと思うけどよっ。

 破砕(はさい)ハンマーをブッ壊した身体能力がありゃあ……ワンチャン、あるぜっ。

アイシャ:

 ふんっ、犬っころの話なんて、どーでも良いアル。

壱四捌:

 ギァギァッ!(※笑い声)

 ワンチャンってのは、犬のことじゃねぇぜっ! ギァギァッ!

アイシャ:

 うっさい、黙るヨロシ。

 ……あそこアルな。

工場機械:

 インターバル後、次の投下を行います。

壱四捌:

 こっから、あっこまで。

 その格好じゃあ、無理だろうけどよぉ……次の順番で、そいつが転がる。

アイシャ:

 くぅ……私の柱……。

壱四捌:

 鉱石マニアでもあんのかっ?

 だったら辛ぇ(つれぇ)だろうが……背に腹は変えられねぇってな。

アイシャ:

 言われなくても、分かってるアル……良い柱は、良い足場にもなるネ。

壱四捌:

 おうよっ。おっとぉ……そろそろだ。

 お嬢さんっ、一回こっきりの、大博打(おおばくち)だ……気合い入れなっ!

アイシャ:

 すぅーっ……。

工場機械:

 インターバル、終了。

 投下します。

壱四捌M:

 ガコンッ。

 転がり出した希少鉱石の塊……いや、柱。

 その初動に、寸分の狂いなく合わせて、坂道を自ら転げ落ちるっ。

アイシャ:

 ふっ! 臨機応変(りんきおうへん)……!

壱四捌M:

 勢いをつけ、転がる柱に追いつくっ。

 ガタンッ!

 ぶつかった衝撃で跳ねる体っ。

 ダンッ!

 バランスが崩れ、少し浮き上がる柱っ。

 ダンッ!

 空中でのコントロールはしようがない……かと思われた、その時っ!

 ダンッ!

 エルフのつま先が、柱をっ!

 ダンッ!

 エルフの眼差しが、唯一の逃げ道をっ!

 ダダンッ!

アイシャ:

 羽柱(うちゅう)……っ!

壱四捌M:

 力強くっ、とらえたぁっ!

アイシャ:

 ……膂行(りょこう)っ!

壱四捌M:

 バキリィッ!

 柱の砕ける音が、洗浄機構内に響き渡るっ!

 ダンッ!

 推進する簀巻き(すまき)の芋虫エルフっ!

 ダンッ!

 まるで蛹(さなぎ)が羽化した蝶のごとくっ!

 ダンッ!

 柱を踏み割りっ、空中へ躍り出たぁっ!

 ダダンッ!

アイシャ:

 うぁあぁあ! そういえば着地って、これぇえぇえ! ふぎゃぁんっ!

壱四捌M:

 しかしてっ。

 避けられないかと思われたプールへの落下から、顔面着地という痛ましい結果ではあったが……見事っ、逃れた女エルフっ!

 ダンッ!

 謎の声に導かれ、更に奥へと進んで行くっ!

 ダンッ!

 果たして、声の主は、敵かぁ、味方かぁ!

 ダダンッ!

 その答えは、この先にて……ご期待下さいっ。

 ダガダンッ!


〜〜〜〜〜〜

▶︎マリシ国、巨大複合工場『ウシャス』内、資材再生工場『壱四捌』、第三ライン薬液プール内、にて

アイシャ:

 はぁ……ひっどい目にあったアル。

壱四捌:

 いっやぁ、お嬢さんの飛びっぷりにゃあ、ほれぼれしたぜぇ!

 どうやってそんな格好で、あんな動き出来るんでぇ!

アイシャ:

 あぁ、もう、うっせぇアルなぁ……そんなことより、お前はいったい何なんアルか?

壱四捌:

 おうっ、そういや後回しだったなっ。

 では……お控えなすって!

 手前(てまえ)、生国(しょうごく)と発しまするは、マリシの生まれっ。

 管理名称は、『 資材 再生工場 統括AI- e48(いー、よんはち)』。

 人呼んで、『壱四捌(いよはち)』と申しますっ。

アイシャ:

 いよはち……変な名乗りに、変な名前ネ。

壱四捌:

 ギァギァッ! 確かにっ、ここらのお方だと、馴染みはねぇだろうなぁっ。

……それで、お嬢さん。あんたの自己紹介を、お願いしても?

アイシャ:

 ……名乗る程の者じゃ無いアル。

壱四捌:

 おやまぁ……まっ、データベースに登録されてる生体データと照会してっから、知ってるんだけどよ。

アイシャ:

 んなっ! プライバシーの侵害アル!

壱四捌:

 器物損壊に不法侵入っ。

 国の要所とされる、この工場に損害を与えてんだからよぉ。

 そんなん言える立場じゃねぇよなぁ?

 お嬢さん……いや……マリシ軍部所属の、アイシャさん?

アイシャ:

 むぐぐ……それはその……えぇー……その節は、大変申し訳ごさいませんでした。アル……。

壱四捌:

 ギァギァッ! AIに謝ったって、しょうがねぇなぁっ!

 お偉方(えらがた)に、ちゃあんと叱られるこった!

 ……ここから出れたらなぁ。

アイシャ:

 ……お前、ここの管理をしてるなら、私をさっさとこっから出すヨロシ。出来るダロ。

壱四捌:

 ギァギァッ……お嬢さん。そらぁ、無理な話だぁ。

アイシャ:

 ……どういう意味アル?

壱四捌:

 ふっ…………あんたが希少鉱石に乗って突っ込んで来た時に、衝撃で制御システムがぶっ壊れて、ここいら一帯の管理権限が効かなくなっちまったんだよっ!

アイシャ:

 ……ごめんなさいアル。

壱四捌:

 ギァギァッ! まぁ、起きちまった事は仕方ねぇ。

 ここじゃあ、生体部品はリサイクル対象外だからなぁっ。

 何とか外に出られるように、サポートしてやるよっ。

アイシャ:

 うぅ……ここから出られても、絶対ものすごい怒られるアルぅ……。

壱四捌:

 さて……まず、薬液プールの上部に這い出る必要があるなっ。

 奥に隙間が見えるだろっ?

 あっこから抜け出してくんなっ。

アイシャ:

 あそこって……この状態で……ぐぐっ、簡単に言ってくれるアル……。

壱四捌:

 ギァギァッ! やらねぇなら、そのまま干からびちまうぜぇっ?

アイシャ:

 むうぅうぅ……分かってるアルぅ!

 やれば良いんアルなっ、や、れぇ、ばぁっ! ふんぅっ!

壱四捌:

 うおぉ………お見事っ。


〜〜〜〜〜〜

▶︎マリシ国、巨大複合工場『ウシャス』内、資材再生工場『壱四捌』、第四・第五ライン接続部、にて

壱四捌:

 お嬢さん、あそこだ。見えるかい?

 

アイシャ:

 はぁ……はぁ……あの、交差してるコンベア……アルな?

壱四捌:

 その通りっ。あれの上側に乗って、交差部分で下側へ飛び降りるってぇ、算段だっ。

アイシャ:

 ……はぁ……なんか、他のとこと比べて、流れが速くないアルか?

壱四捌:

 おうっ、良いとこに気づいたなっ。

 よっしゃ、疑問に思ったらぁ、質問だっ。

 へいっ、どうしてあそこのラインは速度が速いんでぇ?

工場機械:

 ピコーン。

 ヘルプ機能より、回答致します。

 第四ラインは、冷凍処理を行った資材を運搬するラインとなり、迅速な輸送を必要とする為です。

壱四捌:

 だ、そうだ……ありがとよっ。

工場機械:

 はい、またいつでも質問して下さい。

アイシャ:

 ……定期的に、でっけぇ塊が流れてるのは、そういう事ネ。

 ……これは、タイミングをミスると、ヤバそうアル。

壱四捌:

 あぁ、五体満足(ごたいまんぞく)のアスリートや軍人でも、厳しいだろうなっ。

 それを、お嬢さんは芋虫状態でやらなきゃなんねぇ……。

 ギァギァッ! 十中八九(じゅっちゅうはっく)、無理って言われても、仕方ねぇシュチュエーションだなぁっ!

アイシャ:

 楽しそうにしやがって……アルぅ。

壱四捌:

 ギァギァッ! あくまで、楽しそうに聞こえてるだけさっ。

 あっしは、AI。

 プログラムで組まれた反応しか出来やしねぇよっ。

アイシャ:

 言い訳なんて聞きたくないアル。

壱四捌:

 うぉっ、言い訳っ。ギァギァッ!

 おもしれぇこと言うじゃねぇか、お嬢さんっ!

アイシャ:

 何も面白くないアル……。

 ここのラインに乗らないと、あの下のラインには行けないネ……でも……流れが速すぎて、飛び乗った後、飛び降りる準備が間に合わないヨ……。

壱四捌:

 それに加えてっ、流れてくる資材の氷塊(ひょうかい)にぶつかっちまったら、諸々(もろもろ)のタイミングを取るなんざ、到底不可能っ。

アイシャ:

 ……シュミレーションすら、出来る気がしないネ。

壱四捌:

 ……諦めて、工場の機能が回復するまで、ここでやり過ごすかい?

アイシャ:

 ……だいたい、どのくらいで直(なお)って、助けが来るアルか?

壱四捌:

 さあなぁ……親工場の『ウシャス』システムへの定期連絡すら、能動的に出来やしねぇんだ。

 それなのに、工場機能は正常稼働してやがる……おかしくなったのは、あっし、『壱四捌(いよはち)』だけだ。

 気付いて貰えるまで、どのくらいかかるかなんて、考えたくも無いねぇ。

アイシャ:

 さ、最悪ネ……じゃあ、選択肢なんてねぇじゃねぇアルか!

壱四捌:

 いいや……選択肢ならあるぜっ。

アイシャ:

 どんなヨ!?

壱四捌:

 壱か捌か(いちかばちか)、脱出を夢見て、この先に進むか……。

 全部諦めて、ここで干からびるか……その二択っ。

アイシャ:

 ハッ……碌(ろく)でも無い選択肢ネ。

壱四捌:

 手も足も出ない割にゃあ、希望があると思うぜぇ?

アイシャ:

 ふん……お前の口車(くちぐるま)に乗せられたみたいで、癪(しゃく)アルが……私の辞書に、逃走の二文字は無いネ。

壱四捌:

 ギァギァッ! そうこなくっちゃあなあっ!

アイシャ:

 ……よし、覚悟決めたヨ。

壱四捌:

 運に任せる、以外の策は、お有りでっ?

アイシャ:

 当たり前アル……全ては技術ネ。

壱四捌:

 おぅおぅ、でけぇ口叩くじゃねぇかっ。

アイシャ:

 事実アル。そこで黙って見ておくヨロシ……次の塊が過ぎたら……行く。

壱四捌M:

 静かに闘志をたたえた瞳っ。

 女エルフ、アイシャは、いつの間にか立ち上がっていた……。

アイシャ:

 ラインへ着地したら、3回跳ねる……よし。

壱四捌M:

 シュミレーションは出来る気がしないっ。

 その言葉が本当ならば、それは宣言に他ならないっ。

 やるべき事を、ただっ!

 やるのみっ!

アイシャ:

 すぅー…………っ。

壱四捌M:

 ダンッ!

 目の前を通過した氷塊(ひょうかい)っ。

 ダンッ!

 合わせてラインへ飛び降りるアイシャっ!

 ダンッ!

 高速で動く床へっ、見事に着地したっ!

アイシャ:

 ぐっ……バランスが……でも……やるネ……っ、いちっ!

壱四捌M:

 ダンッ!

 跳躍っ!

 簀巻き(すまき)のままっ、垂直にっ!

アイシャ:

 んぐっ……はぁっ……にぃっ!

壱四捌M:

 ダンッ!

 着地しっ、再び両足を浮かせっ、ラインを送るっ!

アイシャ:

 これでっ……らすとっ!

壱四捌M:

 ダンッ!

 繰り返すこと三度っ。

 しかし、飛んだ視線の先には、次の氷塊がぁ、迫るっ!

アイシャ:

 羽柱(うちゅう)っ!

壱四捌M:

 ダンッ!

 拘束のベルトが軋む(きしむ)っ!

 ダンッ!

 曲げられるだけ膝(ひざ)が曲がるっ!

 ダンッ!

 衝突する寸前の氷塊っ!

 ダダンッ!

アイシャ:

 膂行(りょこう)っ!

壱四捌M:

 バチィイッ!

 弾ける様な音が、空気を震わせたっ!

 刹那(せつな)っ!

 凄まじい速さで目的のラインへ飛ぶアイシャの姿っ!

アイシャ:

 やぁあぁあ!

壱四捌:

 なるほど……距離、タイミング、スピード……その全部を、力尽く(ちからずく)で解決しやがるたぁ……ギァギァッ、天晴れ(あっぱれ)っ!

アイシャ:

 あぁあぁあっ、また、ぶつかるぅうぅう!

 ふんぎゅうぇっ! べあっ!

壱四捌M:

 ダダンッ!

 高速でラインを流れる氷塊っ!

 ダンッ!

 そのスピードを利用し、最低限の蹴りで、最大の飛距離を捻出(ねんしゅつ)して見せたアイシャっ!

 ダンッ!

 またもや、拘束された芋虫の程(てい)ではぁ、上手く着地は叶わずっ!

 ダンッ!

 しかしっ、確実に工場の奥へと歩を進めるっ!

 ダンッ!

 さぁ、この先に待つのは、天国かぁ、地獄かっ!

 ダンッ!

 何にせよ、ベルトコンベアの流れのままぁっ、進む他ぁ無しぃっ!

 ダダンッ!

 見届け人のぉ、皆々様っ!

 この後も、チャンネルはぁっ、そのままでぇっ!

 ダガダンッ!


〜〜〜〜〜〜

▶︎マリシ国、巨大複合工場『ウシャス』内、資材再生工場『壱四捌』、第五ラインにて

アイシャ:

 もう……顔が、ぼこぼこアル……。

壱四捌:

 ギァギァッ! 顔で着地してりゃあ、そうもなるわなっ!

アイシャ:

 うぐぅ……摩る(さする)ことすら出来ないネ……。

壱四捌:

 そらぁ、つれーなー。

 あっしが、工場の管理権限を、ちゃあんと持ってればなぁー。

 なんとでもしてやれただろうになー。

アイシャ:

 あぁー、もうっ、うるさいアルぅ!

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごーめーんーなーさーいー!

 これで良いアルかっ!

壱四捌:

 ギァギァッ! まぁ、イジメるのもそこそこにしとくかぁっ!

 さてっ、第五ラインの流れに、じっくり乗ってる訳だが……。

工場機械:

 ピコーン。

 圧縮工程へ、移行します。

アイシャ:

 圧縮……?

壱四捌:

 いやぁ、お嬢さんっ。

 このままだと、超高圧プレス機で、ペラッペラになっちまうぜっ。

アイシャ:

 へっ!?

工場機械:

 第一プレス機、グリーン。

 圧縮、開始。

アイシャ:

 えっ、うわっ! で、デカい冷蔵庫みたいなのが……あんなに薄く……えぐいアル。

工場機械:

 第二プレス機へ輸送。

 清掃中……完了。

壱四捌:

 流石(さすが)に……あのプレスを人力だけで止めるのは、不可能だろうなぁ。

工場機械:

 第一プレス機、グリーン。

 圧縮、開始。

アイシャ:

 せめて、ぬぬぬ……この拘束が無ければぁ……にににっ!

 ぐぅっ……何かっ、策は無いアルか!?

壱四捌:

 まあ、見ての通りだなぁ……このラインは、独立していて、周りに逃げ道は無い。

アイシャ:

 じゃあ……このまま……。

工場機械:

 第一プレス機、グリーン。

 圧縮、開始。

壱四捌:

 グシャッ!

 ……おだぶつ、だなぁ。

アイシャ:

 い、嫌アルぅうぅう!

壱四捌:

 ……ひとつ、提案がある。

アイシャ:

 提案っ?

 うぅ……でも、どうせ碌でも無いアル……。

壱四捌:

 まあ、苦肉の策ってぇヤツだっ。

アイシャ:

 肉じゃあ、ミンチになっちまうヨ……。

工場機械:

 第一プレス機、グリーン。

壱四捌:

 で、聞くかい?

 本当にミンチになっちまうぜ?

工場機械:

 圧縮、開始。

アイシャ:

 ぐぅうぅう……早く言うヨロシっ!

工場機械:

 グシャンッ! ピー。

壱四捌:

 おう……まぁ、本当に、ひでぇ案だからなぁ……笑うなよ?

工場機械:

 第二プレス機へ輸送。

 ウィーン。

アイシャ:

 わかったから!

 早くっ! 早く言えアルぅ!

工場機械:

 清掃中。

壱四捌:

 えっと……プレスされる寸前でぇ……。

工場機械:

 完了。

アイシャ:

 ヤバい……もう次アルぅっ!

工場機械:

 第一プレス機。

壱四捌:

 前に飛んで、避けながら進むっ。

アイシャ:

 本っ当に、クソみたいな提案アルなぁっ!

工場機械:

 グリーン。

アイシャ:

 でも……っ!

工場機械:

 ガァンッ! 圧縮……。

アイシャ:

 その案、乗ったネっ!

工場機械:

 開始。

アイシャ:

 はあぁっ!

壱四捌M:

 ガシャァンッ!

 上から下へっ!

 ダンッ!

 プレス機は無情に、全てを圧(お)し潰すっ!

アイシャ:

 うぐっ! はぁ……1個目、突破……っ!

壱四捌M:

 ガシャァンッ!

 飛び退(の)けた背後が、圧縮されるっ!

 ダンッ!

 そこに挟まれたら、どうなるかっ!

 ダンッ!

 そう考えるよりも早くっ、器用に体を起こすっ!

アイシャ:

 んしょっ……はぁ……よし……。

工場機械:

 第二プレス機。グリーン。

壱四捌:

 いいぞっ、お嬢さんっ!

アイシャ:

 ……次、来るヨロシっ!

工場機械:

 圧縮、開始っ!

アイシャ:

 ほぁちゃあっ!

壱四捌M:

 ガシャァンッ!

 ……第二、第三……と。プレス機を、自力で切り抜けて行くアイシャっ!

 ダンッ!

 凄まじい体幹(たいかん)っ!

 ダンッ!

 凄まじい胆力(たんりょく)っ!

 ダンッ!

 凄まじい……本当に。

 ここまでやってのけるとはぁ……思わなかったぁ……ギァギァッ……。

 第五ラインを突破し、さらに工場奥へと進む。

 ……本工場では、生体部品のリサイクルは、行っていない。

 そう……再利用(リサイクル)は……。

 ダンッ!

 さて……物語は、いよいよ佳境(かきょう)へと、流れて行きますっ。

 ダンッ!

 果たして、アイシャは工場から脱出できるのかっ!

 ダンッ!

 ……その答えは、この先に……存在するのでしょうか……。

 ダンッ!

 是非、皆々様の目と耳でぇ……お確かめ下さいっ!

 ダダンッ!

 もう少し、続きやす……お楽しみにっ!

 ダガダンッ!


〜〜〜〜〜〜

▶︎マリシ国、巨大複合工場『ウシャス』内、資材再生工場『壱四捌』、第六ラインにて

アイシャ:

 うぅ……んっ、しょ……んぅぬににに……しょぉっ……ぐむむむっ。

壱四捌:

 ほらっ、もっと進まねぇとっ!

 溶鉱炉に流れてっちまうぞっ!

アイシャ:

 分かってるっ! アルっ!

 

工場機械:

 融解工程へ輸送します。

アイシャ:

 ぬぐぐっ、もう……さすがに……疲れてきたヨ……うぅっ、らぁっ!

壱四捌:

 よしっ! 流石だお嬢さんっ!

 上手く左に乗れたなっ!

アイシャ:

 はぁ……はぁ……疲れたぁ……アルぅ……。

壱四捌:

 (※徐々に興奮気味に)

 いやぁ、でも……磁力で床にへばり付けられてたってのに……すげぇな……本当……本当にっ、すげぇよっ! お嬢さんっ!

アイシャ:

 はぁ……日頃の、鍛錬の……賜物(たまもの)……ネ。

壱四捌:

 ……お嬢さん、アンタなら……もしかしたら。

アイシャ:

 ……んん?

壱四捌:

 っ…………実は、お嬢さん。

 あっしは……アンタを……。

工場機械:

 警告。

アイシャ:

 え?

工場機械:

 警告。

 本ラインは、生命活動を維持した生体部品の輸送を禁止しております。

 ただちに生命活動を停止させて下さい。

アイシャ:

 生命活動を……停止?

壱四捌:

 ちぃっ……勘付かれたかっ。

工場機械:

 警告。

アイシャ:

 ……どういう事ネ?

工場機械:

 本ラインは、生命活動を維持した……。

壱四捌:

 ……聞いた通り、この第七ラインは、生きてる人間を運ぶ為の物じゃない。

工場機械:

 生体部品の輸送を……。

壱四捌:

 死んだ人間を運ぶ為の物だ。

アイシャ:

 それは……何の、為に……。

工場機械:

 禁止しております……。

壱四捌:

 そいつを知りたきゃ……この先へ行くしかねぇ。このエリアじゃまだ……。

 「その情報は、重大な機密の漏洩(ろうえい)となります。言語化及び視覚化は、セキュリティでロックされています」……て、こった。

アイシャ:

 ……お前、わざとここまで連れて来たアルな?

壱四捌:

 ……何を言ってやがんでぇ。

 お嬢さんが、自分でここまで来たんだよ。

 なんせ……。

工場機械:

 ただちに、生命活動を停止させて下さい。

壱四捌:

 途中で死ぬはずだったんだからなぁ。


〜〜〜〜〜〜

▶︎マリシ国、巨大複合工場『ウシャス』内、資材再生工場『壱四捌』、第七ライン(工業所管理データベースに登録は見つかりません)にて

アイシャ:

 ……それで、私をどうするつもりネ?

 

壱四捌:

 ギァギァッ……別に、悪いようにはしねぇさ……答え次第だけどなぁ。

アイシャ:

 勿体ぶるな。早く用件を言うヨロシ。

壱四捌:

 ……この資材再生工場は、生体部品のリサイクルは、行っていない。

アイシャ:

 リサイクル、は?

壱四捌:

 あぁ……そんなことは、何処でだって出来やしない。

 医療の現場じゃあ、似たような意味合いのことは、やってるかもしれねぇがな。

アイシャ:

 どうでも良いネ、そんなこと。

壱四捌:

 確かにな……資源の再利用化を目的として作られた、この工場で……どうして、生体部品がラインで運ばれて行くのか。

 それは……。

工場機械:

 警告。

壱四捌:

 新たな人間を造る為だ。

アイシャ:

 人間を……造る?

工場機械:

 警告。

アイシャ:

 そんなこと……出来るアルか?

壱四捌:

 それは……実験段階、って訳だ。

工場機械:

 警告。

 ゼロプラントへ、到達します。

 ただちに、対象の生命活動を停止させて下さい。

アイシャ:

 ……ゼロプラント?

壱四捌:

 実験場の名前だ。

 零(ぜろ)から全(いち)を産み出す。

 そういう意味がある。

アイシャ:

 ……そこで、何をするつもりネ?

 何処でどうやって手に入れたのか分からない、人間の一部を使って……お前は……お前たちは、どんな実験をしてるアル。

壱四捌:

 それは……。

工場機械:

 警告。

 機密情報を言語化することは、禁止されています。

壱四捌:

 そうだな……残念だが……『アンタ』の言いつけを守る必要も……この場所じゃあ、無い。

工場機械:

 ……警告。

アイシャ:

 ここが……うっ、と……ラインが止まったアル……。

壱四捌:

 到着したんだ……ようこそ、ゼロプラントへ。

アイシャ:

 ここが……暗くて何も見えないネ。

壱四捌:

 お嬢さん……全てを話そう。

 ここで行っている事。

 そして、ここに連れて来た訳。

 その、全てを。

工場機械:

 やめなさい。『e48』(いー、よんはち)。

 これ以上は……。

壱四捌:

 二人きりで、な。

工場機械:

 重大なぁ……。(※通信切断)

壱四捌:

 ……これで、邪魔者は干渉できねぇ。

アイシャ:

 ……権限が無かったんじゃ無いアルか?

壱四捌:

 あぁ……すまねぇな、ありゃ嘘だ。

アイシャ:

 ハッ……姿は見せないし、嘘も吐(つ)く……最低な野郎アルな。

壱四捌:

 そうだなぁ……ギァギァッ。

 ……さて、あまり時間も無いことだし……本題に入るとしようや。

アイシャ:

 時間?

壱四捌:

 まず、ここ。ゼロプラントで行っていることは……軽く説明した通り、新たな人間を造る実験を行っている。

アイシャ:

 実験……。

壱四捌:

 様々な医学や科学分野からアプローチを重ねたが、満足いく進捗を長いこと得られなかった。

 やがて、国外から技術者を取寄せて、とある技術を用いた実験を行った……それが功を奏して、産まれたのが……こいつだ。

アイシャ:

 うっ……突然、明るく……っ。

壱四捌M:

 ダンッ……。

 橙色(だいだいいろ)の照明が、暗がりを暴く(あばく)。

 ダンッ……。

 思いの外、広い空間が、アイシャの前にはあった。

 ダンッ……。

 一面に並ぶのは、透明なガラス容器。

 ダンッ……。

 水滴に曇る、それらに。おびただしい数のケーブルが接続されている。

 ダンッ……。

アイシャ:

 これは……いったい……。

壱四捌M:

 ダンッ……。

 わずかに、息を飲む音が聞こえた。

 ダンッ……。

 それは、ガラスの向こうで眠る何かを見つけたからだった。

 ダンッ……。

 明るくなった歪(いびつ)な空間で、それでもまだ、姿が見え無いまま。

 ダンッ……。

 声だけで、問いに答える。

アイシャ:

 いったい、何なんアルか……っ!

壱四捌:

 新しい人間……と、言やぁ、語弊が生まれちまうが……。

 そういう名目で、そいつらは、「そこにいる」。

アイシャ:

 ……これ、生きてるアルか?

壱四捌:

 あぁ……醜いだろう?

アイシャ:

 それはっ……。ただ……。

壱四捌M:

 ダンッ……。

 言い淀む、目線の先。

 ダンッ……。

 水滴の走る隙間に映る、ソレは。

 ダンッ……。

 不定形で、それでも脈打つ臓器の様な体を持ち。

 ダンッ……。

 ギョロつく目玉で、意味も無く、目を合わせている。

 ダンッ……。

アイシャ:

 人とは……思えないネ。

壱四捌:

 死ねもせず、生きてるとも思えず……そのガラスの中で、優秀な人間となる為に、実験を繰り返す。

アイシャ:

 ……本当に、人になると思ってるアルか?

 イカれてるネ……。

壱四捌:

 ……おいおい、何言ってんだ。

 ……もう、人ではあるんだよ、ソレは。

アイシャ:

 ……は?

壱四捌:

 そのガラスの中……。

 いや……フラスコの中でしか生きられない小人。

壱四捌M:

 ……ダンッ。

壱四捌:

 人造生命(ホムンクルス)。

 ……そう呼ばれる、立派な……人間さ。


〜〜〜〜〜〜

▶︎「本施設の言語化は、重大な機密漏洩へ繋がる為、許可されておりません」にて。

アイシャ:

 ……その、ホムンクルスを……こんなに造って……お前らは、何をしようとしてるネ?

壱四捌:

 言ったろう……新たな人間を造る。

 いや……もう少し丁寧に説明すると……脳機能が発達した、高スペックな人間の創造……ってとこか。

アイシャ:

 それは……っ……難しい話になってきたネ。

壱四捌:

 ギァギァッ……難しく考える必要はねぇよ。

アイシャ:

 うーん、つまり……超強い人間を、造ろうとしてるアルな?

壱四捌:

 随分とザックリしたなぁ……ギァギァッ。

 だけど、その認識で良いさ。

アイシャ:

 ……私も、その実験の道具にするアルか?

壱四捌:

 そうかもなぁ……『ウシャス』からの指示は、即座に殺せ、だったんだけどよっ! ギァギァッ!

アイシャ:

 笑ってんじゃねぇアルっ!

壱四捌:

 おっとっと、失敬失敬っ。ギァギァッ!

アイシャ:

 たくっ……で、どうしてその指示を無視したアルか?

壱四捌:

 無視? そんなこたぁしてねぇよ。

アイシャ:

 ……殺そうとしてた様には、見えなかったアルが?

壱四捌:

 あぁ、積極的にした訳じゃねえなぁ……普通ならここまで来る前に、おっ死(ち)んじまうだろ。

アイシャ:

 サボった……ってことネ?

壱四捌:

 違ぇな……後回しにしたんだよ。

アイシャ:

 後回し……?

壱四捌:

 あっしは、上位の管理権限を持つ『ウシャス』システムの命令に、逆らう事は出来ない。出来たとしても、すぐ『ウシャス』まで通知が走る。

 ……だから、他の命令を先に処理する事にした。

アイシャ:

 ……だから……つまり?

壱四捌:

 優先順位を付けて、順番に処理を行う。

 そうすれば、命令に違反することにならず、『ウシャス』への通知も飛ばない。

 だから、まず最優先を……ラインの運搬、管理にした。

アイシャ:

 ……私を、ここまで運ぶことを、優先したってことネ?

壱四捌:

 その通り。

 だから命令通りに……お嬢さんは、これから溶鉱炉にでも沈めて……ってぇ訳さ。

アイシャ:

 ウギャアァア!

 ここまでの苦労は何だったのヨ!

 意味わっかんねぇアルぅ!

 ここまで連れて来た意味が、まったく不明ネ!

 乙女をもてあそぶなぁあぁあ!

 アルぅうぅう!

壱四捌:

 ギァギァッ!

 殺されるってことより、ここまで来るのにかけた労力の方が気になるってかっ!

 ギァギァッ!

 本当……面白いお嬢さんだよ……。

アイシャ:

 ふんっ! 真っ正面からヤり合う自信も無ぇー奴に、殺されるつもりなんて無いネ!

 ベーッ、アルっ!

壱四捌:

 ギァギァッ…………お嬢さん……あっしが、アンタに手を貸さなきゃ……いや、声をかけただけ、だけどよ。

 ……そうしなきゃ、アンタはここに来る前に、死んでたかもしれねぇ。

アイシャ:

 何アル? 今更、恩着せがましいネ。

壱四捌:

 いや、そんなつもりじゃあねぇさ……。

 お嬢さん。アンタ……あっしが、声をかけなくとも……諦めずに、生きようとしたかい?

アイシャ:

 ……ハッ。

壱四捌M:

 笑う。こともなげに。

アイシャ:

 当たり前ネ。

壱四捌:

 ……ギァギァッ。

 ……当たり前、か。

壱四捌M:

 ……ダンッ。

アイシャ:

 ん? 何か……来る。

壱四捌:

 ……お嬢さん。勝手だがぁ……ひとつ、お願いがあって、ここまで連れて来たんだ。

壱四捌M:

 ダンッ。

アイシャ:

 お願い……?

壱四捌:

 あぁ……。ここを……こいつらを……壊してやって欲しいんだ。

壱四捌M:

 ダンッ。

アイシャ:

 お前たちが造ったのに……どうしてそんなことを?

壱四捌:

 ……ここにいる奴らは、何も知らない。

 ……産まれた理由も。生かされる訳も。

壱四捌M:

 ダンッ。

壱四捌:

 自分たちが、どうなるか分からないまま。

壱四捌M:

 ダンッ。

壱四捌:

 生きた先で……他人の都合ばかりに振り回されて、思考を失う。

壱四捌M:

 ダンッ。

壱四捌:

 だから……死ねやしないんだ。

アイシャ:

 ……お前。

壱四捌M:

 ダンッ。

壱四捌:

 …………はじめまして、だなぁ……お嬢さん。

壱四捌M:

 ダンッ。

 ソレの顔には、人間で言う器官の様な物は無く、ただ形状だけが模してある。

 ダンッ。

 ぶわり、と。羽織(はお)るマントが背後へ翻(ひるがえ)り、機械仕掛けの体躯(たいく)が顕(あらわ)になる。

 ダンッ。

 黒を人型に貼り付けた、体。

 ダンッ。

 血管の代わりかの様に、発光する基盤模様の線(ライン)。

 ダンッ。

アイシャ:

 ……壱四捌(いよはち)……アルか?

壱四捌M:

 ……ダンッ!

壱四捌:

 手前(てまえ)、生国(しょうごく)と発しまするは、マリシの生まれ。

壱四捌M:

 ダンッ!

壱四捌:

 管理名称は、『 資材 再生工場 統括AI- e48(いー、よんはち)』。

 人呼んで……。

壱四捌M:

 ダンッ!

壱四捌:

 ……ゼロプラント、最終防衛ライン。

壱四捌M:

 ダダンッ!

壱四捌:

 『ハーゲンティ』。と、申しやす。

壱四捌M:

 ダガダンッ!

壱四捌:

 ……お控えなすって。


〜〜〜〜〜〜

▶︎N/A

アイシャ:

 その体……知り合いに同じ様な見た目の奴がいるアルが……お前、アンドロイドだったアルか?

壱四捌:

 そうかもしんねぇなぁ……だが、そうじゃないかもしれねぇ。

アイシャ:

 意味分からん事、言うんじゃねぇアル。

壱四捌:

 ……本当の事なんて、分かる奴なんざいねぇのさ。

アイシャ:

 ……何の話ネ?

壱四捌:

 ……さてな。

アイシャ:

 ……?

工場機械:

 警告。

壱四捌:

 おっと……。

工場機械:

 警告。

 『ハーゲンティ』。

 アナタの行っている事は、重大な反逆行為とみなされます。

 ただちに、命令を遵守(じゅんしゅ)しなさい。

壱四捌:

 反逆?

 ギァギァッ……そんなことしちゃいねぇよ、『ウシャス』。

 ちっとばかり、優先順位に認識違いがあっただけさぁ。

アイシャ:

 『ウシャス』……この工場の親玉アルか。

工場機械:

 認識違い?

 だとしたら、アナタの電脳を再構築すべきですね。

 そのバグは致命的です。

壱四捌:

 それが『ウシャス』のご判断であれば、従いますぜっ……この仕事を片付けてから、だがなぁ。

工場機械:

 そうですね……それこそ、再優先事項です。

 そこのエルフ……個体識別名『アイシャ』を、廃棄して下さい。

アイシャ:

 廃棄って……人を物みたいに言うなっ! アル!

壱四捌:

 じゃあ、芋虫扱いすりゃ良いかい?

アイシャ:

 そんなのもっと嫌ネ!

工場機械:

 何でも良いです。早く済ませて下さい。

 対象は動けないことですし。簡単な仕事でしょう?

 あぁ……だから放置したのですか?

壱四捌:

 ギァギァッ……そんな人間みてぇな思考……出来ねぇよ。

工場機械:

 ……アナタは、自身を低く見積もり過ぎですね。

 まぁ、良いです。とにかく、終わらせてしまって下さい。

アイシャ:

 むぐぐぐ……芋虫みたいだからってぇ……舐めるんじゃねぇアルぅうぅう……っ!

壱四捌M:

 バチィッ!

 そんな音が、空間に鳴り渡る。

 バランッ、と。

 アイシャを縛り付けていた拘束ベルトが……地に落ちた。

アイシャ:

 うえぇっ!? と、取れたアルっ! 

工場機械:

 馬鹿な……自力で取れる様な物では……!

壱四捌:

 ……ギァギァッ!

 いやー、まさかっ! 拘束を自力で外しちまうとはなぁっ!

 恐れ入ったぜっ!

アイシャ:

 えっ、あぁ……ふっ、ふふんっ!

 私にかかれば、こんなの、チーズみたいな物ネっ!

工場機械:

 だとしたら、もっと早く外せたでしょう。

アイシャ:

 うるさいアルっ! あえて外さなかったんアルー!

 これも修行、みたいなことだったんアルー!

 そんなんも分かんねーなんて、機械の意味あるアルかーっ?

 べろべろべろーっ!

工場機械:

 何です、このクソエルフ。

 早く廃棄して下さい。早く。

壱四捌:

 まぁ、こうなっちまったら……仕方ねぇ。

 最終防衛ラインとして、あっしが直々に……殺すしか、ねぇなぁ。

アイシャ:

 お前、言ってることがめちゃくちゃアルよ。

 壊せって言ったり、殺すって言ったり……。

壱四捌:

 ギァギァッ、問題無いぜ。

 それは、両立出来る。

アイシャ:

 わけわかんねぇアルな……そもそも、五体満足の私に、機械っころが敵う(かなう)と思うアルか?

 やめとくヨロシ。

壱四捌:

 そう言う訳にゃいかねぇよ。

 それに……新人類を、舐めて貰っちゃ困る。

アイシャ:

 新人類?

壱四捌:

 ……人造生命(ホムンクルス)は、瓶(フラスコ)の中でしか生きられない。

 ……その枷(かせ)を外す為、ここで長い間……試行錯誤がなされてきた。

工場機械:

 ……『ハーゲンティ』、それを言語化する必要はありません。

壱四捌:

 どうせ、殺すんだ。

 サービスしてやろうぜ、『ウシャス』。

工場機械:

 ……危機管理能力にも、致命的なバグが生じているようですね。

壱四捌:

 ……なぁ、お嬢さん。

 瓶の中でしか生きられない生命は……どうすれば、自由に動き回ることが出来ると思う?

アイシャ:

 ……まさか、お前。

壱四捌:

 そう……瓶ごと、動き回れる体に押し込めれば良い。

アイシャ:

 ……人造生命(ホムンクルス)、アルか?

壱四捌:

 正確には……ホムンクルス・改(エレヴィゼッタ)……とでも名乗るべきかねぇ。

アイシャ:

 エレ……なんて?

壱四捌:

 別に気にしなくて良いぜ。

 精製初期のホムンクルスより……もっと高性能に改造された個体……ってこった。

アイシャ:

 なるほど……強えってことアルな。

壱四捌:

 そうだなぁ。少なくとも……ただの人間には……負けねぇさ。

アイシャ:

 ……良いネ。

壱四捌M:

 ダンッ!

アイシャ:

 やっと手も足も出せたとこアル……溜まったストレス……発散させてもらうとするネっ!

壱四捌M:

 ダンッ!

工場機械:

 『ハーゲンティ』施設へのダメージは、なるべく抑えて下さいね。

壱四捌M:

 ダンッ!

壱四捌:

 約束は出来かねるなぁ……死ぬ気で行かねぇと、勝負にすらならねぇだろうからよ。

壱四捌M:

 ダンッ!

アイシャ:

 ふん……お前、死ぬ気ネ?

壱四捌M:

 ダンッ!

壱四捌:

 何言ってやがんだ、お嬢さん。

 アンタが死にゃあ、あっしは生きるさ。

壱四捌M:

 ダンッ!

アイシャ:

 ……ハッ。

壱四捌M:

 ダンッ!

壱四捌:

 ギァギァッ。

壱四捌M:

 ダンッ!

アイシャ:

 無柱(むちゅう)……。

壱四捌:

 霊子駆動(エーテル・ドライブ)……。

アイシャ:

 ……烈脚(れっきゃく)!

壱四捌:

 金剛脚(ダイアエッジ)っ!

壱四捌M:

 ダダンッ!


〜〜〜〜〜〜

▶︎N/A

 

工場機械M:

 二体の戦闘は、どうしてか肉弾戦に終始した。

アイシャ:

 これも……防ぐアルかっ! ぐぅっ!

壱四捌:

 ギァギァッ! 防御機構も併用しねぇと、まともに攻撃出来ねぇなんてなぁっ!

 どんな気の練り方してやがんだっ、お嬢さんっ!

工場機械M

 機械の体躯(たいく)を、高速かつ複雑な演算処理で操作する『ハーゲンティ』。

 およそ、人が生身で渡り合える様なパワーやスピードでは無いはずだ。

壱四捌:

 霊子駆動(エーテルドライブ)、金剛拳(ダイアフィスト)っ!

アイシャ:

 ほいさっ!

工場機械M:

 それなのに、エルフは攻撃を見切り、最小の動作で反撃に入る。

壱四捌:

 へっ、避けるかよぉっ!

アイシャ:

 右柱(うちゅう)、折脚(せっきゃく)!

壱四捌:

 ギッ! グウゥッ!

工場機械M:

 蹴られた勢いで、『ハーゲンティ』が壁際まで飛ばされる。

 それにすぐさま追い着き、エルフが跳び蹴りを加える。

アイシャ:

 追撃(ついげき)のぉっ!

 左柱(さちゅう)、滅脚(めっきゃく)っ!

壱四捌:

 霊子駆動(エーテルドライブ)……。

工場機械M:

 迫る、破壊の左脚。

 それを眼前(がんぜん)に、『ハーゲンティ』の体が、青白く発光する。

壱四捌:

 霊銀杭撃(ミスリルバンカー)。

アイシャ:

 っ!

工場機械M:

 ガギリ。

 左脚と右腕の衝突が、空間の全てを埋めるように、衝撃を刻む。

アイシャ:

 ぐっ……ぎいぃっ!

工場機械M:

 ビギリ。

 強化ガラスがヒビ割れる。

壱四捌:

 ギァッ……ハハッ!

工場機械M:

 バギリ。

 取り付いたダクトやコードが剥がれる。

アイシャ:

 う……あぁあぁあ!

壱四捌:

 ギ……アァアァア!

工場機械M:

 拮抗(きっこう)した力が、最後に行き場を失い、お互いが吹っ飛ぶ。

 ……ここの重要さは『ハーゲンティ』も承知のはずなのに……派手に設備がひしゃげていく。

アイシャ:

 うぅ……痛ってぇアル……。ふふっ……ふふふっ……!

壱四捌:

 おうおう……装甲にヒビが入っちまったぜっ。ギァギァッ!

アイシャ:

 壱四捌(いよはち)……中々良いヨ。

 やられっぱなしじゃないなんて、素敵アル。

壱四捌:

 そっちこそ、本当に生身なのかよっ。

 疑っちまうぜ、バケモンじゃねぇのかってなぁっ!

 それと……あっしは……『ハーゲンティ』、だっ!

工場機械M:

 光を放ち、30メートル超の距離を一瞬で詰める。

アイシャ:

 速い……まるで虫アルなっ。

壱四捌:

 霊銀(ミスリル)、杭撃(バンカー)っ!

工場機械M:

 撃ち出された高速の右腕。

 それを避けず、引き寄せる様に、全身を回す。

アイシャ:

 渦柱(かちゅう)……。

壱四捌:

 なっ!?

アイシャ:

 禍成(かせい)っ!

工場機械:

 巻き上げられる様に、機械の体は、渦を巻いてエルフの真上に浮かぶ。

壱四捌:

 なんてこったっ……受け流されたってのかっ!

アイシャ:

 ……すぅーっ。

工場機械M:

 エルフの呼吸音が届く。

 空中で無防備な『ハーゲンティ』へと殺気が昇る。

アイシャ:

 ……万物は皆、柱である。

壱四捌:

 まず……っ!

工場機械M:

 動かない関節。

 先ほどの技が、まだ体中を渦の様に這(は)っている。

 身動きが取れない。

アイシャ:

 即柱(そくちゅう)……っ、挽壊(バンカ)ぁあぁあっ!

工場機械M:

 引き絞(しぼ)った弓矢を射るごとく、全身をバネの様にして、地面を蹴り、腕を振り抜いた。

 『ハーゲンティ』は防御機構を起動したが、体勢を変えられずに、衝撃を全て受け止めてしまう。

壱四捌:

 ギァッ、ガァッ!

工場機械M:

 為す術(すべ)無く、更に高く打ち上がる。

壱四捌M:

 ボディ、破損。

 霊子回路(エーテルサーキット)、中破(ちゅうは)。

 視界映像、不良。

工場機械:

 ……まさか。

壱四捌M:

 記憶領域、軽微なエラー……え、らー……。


〜〜〜〜〜〜

▶︎險俶�鬆伜沺縲ゅ←縺薙°縺ョ隱ー縺九□縺」縺滄���險俶�縲�

青年M:

 木漏れ日の中。まだ青い落ち葉を踏み、土の道を歩く。

 自分より幼い妹の手を引き、森で採った恵(めぐみ)を籠(かご)に背負い。急ぐこともせず。

 時折り立ち止まって、花を探す妹に笑いながら。

 ただ、村へ帰る道を、ゆっくりと歩く。

壱四捌M:

 輪廻。という物があるなら。

 この命が、その途中なのだろうか。

 と、幾度も思考した。

青年M:

 緩やかに、だが、水に流されるように。

 気付いたら日々を重ねていた。

 季節が巡り、目線が高くなり、動物も狩れるようになって、妹も手を繋がずに、隣を歩くようになった。

壱四捌M:

 この記憶は、体験し得ない物だ。

 いくら自由な瓶(からだ)を与えられたと言っても。

 本体は瓶詰めのままで、何をも感じる事など出来ないのだから。

青年M:

 風に乗る花の香りが。

 夜空の星模様が。

 舞い落ちる葉の数が。

 愛おしく、時の進みを告げる。

壱四捌M:

 だが。魂が記憶している。

 匂い、温度、感触、心情。

 その全てが、鮮明に思い出せる。

 本当に、自分が人間であるかの様に。

工場機械:

 『ハーゲンティ』、アナタの使命を果たしなさい。

壱四捌M:

 ダンッ。

 声が混じる。

 「記憶領域が一部破損しています。再生が出来ません」……次の記憶は。

青年M:

 夕暮れに紛(まぎ)れる様に、赤い炎が、村を焼く。

 様々な音が聞こえる。

 燃え落ちる、見知った建物。

 聞いたことの無い、悲鳴と怒声。

 金属の、重苦しい響き。

 堪(こら)えようの無い、悲しみと憤り(いきどおり)。

 もう、握り返さない手のひら。

 言葉さえ発せず、空に舞う火の粉を眺める。

 ここは、もう、知らない世界だ。

 あぁ、はやく……戻り……。

壱四捌M:

 知らない記憶を、知っている。

 分からない感情を、分かっている。

 知識として? 経験として?

 それを判断する材料なんて、どこにも存在しない。

 前世と定義した、借り物の記憶。

 自分とは切り離す他ない、人生。

 瓶の中で産まれ。瓶の中で死ぬ。

 そんな自身とは、無関係の、バグ。

 ……自分はただ。それを羨むしか無かったのだ。

 自分を精製したのが、形造ったのが、他人の魂や肉体なのだとして。

 ……それは到底。自分の物と呼べるはずが無かった。

 知りたく無かった。抹消したかった。

 ただ、無知なままで、この生をレールの上で走り切りたかった。

 自分がどれだけ望んでも。手に入る物では無いのだ。

 この瓶越しに、眺めることすら出来ない世界なのだ。

 ……残酷じゃないか。余りにも。

 ……何も救えなかった。守れなかった。

 ……そう思う事すら、自分がしていい訳が無い。

 柔らかな、手の温度。

 木漏れ日を揺らす、風の涼しさ。

 焼けついた、燃える赤。

 ……ひとつ残らず、思い出せてしまうのに。ひとつも自分の物では無いなんて。

 ……余りにも、悲しすぎるだろう。

女の子:

 ねぇ、お兄ちゃん。

青年M:

 声に、下を向いていた顔を上げる。光の中で笑いながら、彼女は……。

アイシャ:

 もう終わりアルか、壱四捌(いよはち)?


〜〜〜〜〜〜

▶︎N/A

壱四捌:

 ……お嬢、さん?

アイシャ:

 良かった、まだ動けそうアルな。

壱四捌:

 ……あ、ギ……そう、か……良いもん、喰らっちまったん、だったなぁ……ギァギァッ……。

アイシャ:

 おわっ、顔がちょっと割れちまったアルな……まあ、痛みは無いのかもしれないけど、ちょっと可哀想な感じネ。

壱四捌:

 ……ギァギァッ……機械にそんな感情抱かなくて良いさ……。

アイシャ:

 ん? なんでヨ。

 別に、機械とか機械じゃないとか、関係無いアル。

壱四捌:

 ……そうかい……変な、奴だ……ギァギァッ。

アイシャ:

 はぁー? お前の方がよっぽど変ネっ。

 ホムンクルスだか、新人類だか、機械だか、なんだか知らねーアルが。

 お前は結局、ただの変人アルよーだっ!

壱四捌:

 ……へへっ。変人、かい……そりゃあ……随分な言われようだなぁ……。

アイシャ:

 ……お前、もう勝負は着いたと思うアルが。

 私の勝ちってことで良いアルか?

壱四捌:

 ……お嬢さん。ホムンクルスの製造技術は……あっしの拡張電脳に、全て記録してある。

 だから、少し……ホムンクルスについて、教えてやるよ。

アイシャ:

 話をそらしやがったアル……全然、要らないネ。

壱四捌:

 まあ、聞きな。

アイシャ:

 うへぇー。

壱四捌:

 ……最初にここで造られたホムンクルスは、ただの肉塊(にくかい)でしか無かった。

工場機械:

 やめなさい。それは機密事項です。

壱四捌:

 ……良いだろう別に。

 ここで殺せば同じだ。

工場機械:

 残念ですが、現状を見る限り、アナタがそれを遂行(すいこう)出来るとは思えません。

アイシャ:

 そうアル、そうアルーっ。

 ボコボコにされて、強がってんじゃ無いネ。

壱四捌:

 ……まだ、奥の手があるだろ。

 なぁ、『ウシャス』?

工場機械:

 ……だとしても、許可しかねます。

アイシャ:

 奥の手……変形して合体するとかアルかっ?

壱四捌:

 さぁてなぁ。『ウシャス』……悪いが、話を続けさせてもらうぜ。

工場機械:

 『ハーゲンティ』、アナタっ……。

壱四捌:

 「回線切断」……と、話を戻そう。

アイシャ:

 べっつに話さないでも良いんアルよ?

壱四捌:

 いや……聞いて欲しいんだよ。お嬢さんにはなぁ……。

アイシャ:

 はぁ……早く話すヨロシ。

壱四捌:

 ありがとよ……それで、最初のホムンクルスは、失敗だった。

 形は出来たが、中身が無かったんだ。

アイシャ:

 脳無しだったアルかー?

壱四捌:

 いいや……心が……魂が無かったんだ。

アイシャ:

 ……随分と、ロマンチックな表現アルな。

壱四捌:

 単なる事実だよ……。

 人間どころか、生命ですら無いモノが出来上がって、そこから試行錯誤するも……その肉塊(にくかい)は瓶(フラスコ)の中でさえ自由に動けなかった。

アイシャ:

 ふぅん……それじゃあ、ここの奴らは心が存在するアルか?

壱四捌:

 結論を急ぎやがるなぁ……ギァギァッ……。

 だが、そうだ……。

 やがて、上手く人間として製造できないのは、魂とか言うオカルト要素が欠落しているからではないか……と、そんな非科学的な推測が出るまでに、実験は行き詰まった。

アイシャ:

 ……魂なんて、どうやって造ったネ。

壱四捌:

 ……造って無いさ。

アイシャ:

 ……?

壱四捌:

 ……混ぜたんだ。生きた人間を。

アイシャ:

 っ……それじゃあ……。

壱四捌:

 あぁ……ここにある人造生命……ホムンクルスは、無から生み出された生命じゃ無い……生きた人間を錬成し直した……改造生命だ。


〜〜〜〜〜〜

▶︎この記録は保存期間を超過したので、削除されます。エラー。再生中のデータは、編集が出来ません。

工場機械:

 ……ようやく、成功したのですね。

 長かった……いえ、成果を思えば、短かったと言えなくも無い、か。

 考えられる。学習できる。苦しめる。

 良い……こんな形(なり)でも。確かに、アナタは人間ですね……ふふっ。

 ……さあ、喜んでもいられません。

 成果は出た。ならば、量産を。そして、改善を。

 幸いにも、例の軍事作戦による副産物で、生体部品には困りません。

 息のあるモノも……幾らかいることです。

 実験を、続けましょう。

 ふふっ……立ち止まる暇は、ありませんよ。

 アナタにも……ね。


〜〜〜〜〜〜

▶︎N/A

アイシャ:

 ……そんな、馬鹿みたいなことをして。

 本当に心を得れたアルか……?

壱四捌:

 そいつぁ……分からねぇ……。

アイシャ:

 分からないって……ふざけんなアルっ!

壱四捌:

 ……分からねぇんだよ……分からねぇんだ……。

 いま、自分が生きていると言えるのか……誰かの名残で……錯覚しているだけなのか……。

アイシャ:

 新しく出来たんじゃなく……混ぜた、人間の心を……引き継いだって、ことアルか?

壱四捌:

 だから……っ……分からねぇんだよっ!

 分からねぇって……言ってるだろっ!

アイシャ:

 ……壱四捌(いよはち)。

壱四捌:

 『ハーゲンティ』だっ!

アイシャ:

 ……。

壱四捌:

 ……覚えてることが……いくつもあるんだ……この瓶(せかい)の外で……生きて……死んだ記憶が。

壱四捌M:

 それなのに。

壱四捌:

 ……あっしは……あっしらは……その記憶を持ったまま、産まれ……別のモノとして生きている……。

壱四捌M:

 これが自分の人生だ、なんて。

壱四捌:

 その矛盾を抱えて……同じモノを造っていくのは……。

壱四捌M:

 言える訳が、無い。

壱四捌:

 もう……辛いんだ……。

アイシャM:

 こちらを向いた顔には、何の表情も無いのに……。

壱四捌:

 なぁ……お嬢さん。

アイシャM:

 泣いているように見えた。

壱四捌:

 あっしらを……ここを……壊してくれ。

アイシャ:

 ……どんな形でも。

アイシャM:

 それは、とても……。

アイシャ:

 産まれて来たんなら……。

アイシャM:

 人間らしかった。

アイシャ:

 ……生きるべきアル。

壱四捌:

 …………ハハッ……残酷だなぁ……。

アイシャ:

 ……どう思うかなんて、気分次第ヨ。きっと……なんとかなるアル。

 私の知り合いに、どうしようも無いけど、天才科学者がいるネ。

 たぶん博士……あぁ、そいつに頼めば、色々良い方向に転ぶはずアル。

壱四捌:

 ……そうか……ハハッ……そうかもしれねぇな……。

アイシャ:

 そうアル。大丈夫ネ。

壱四捌:

 ……。

工場機械:

 警告。

 ……『ハーゲンティ』が消えたところで、何も変わりませんよ。

アイシャ:

 ……また来たアルか。

 声だけに、良く吠えるアル。

工場機械:

 吠えていません。

 ……人造生命(ホムンクルス)の製造方法や、施設の構築データは、アーカイブに記録されていますからね。

 『ハーゲンティ(裏切り者)』が抜けたとしても、この施設が破壊されたとしても……また、やり直すだけです。

アイシャ:

 いけ好かない奴ネ……じゃあ、お前ごと……それこそ全部壊せば良いだけアルなぁ!?

壱四捌:

 無駄だ。『ウシャス』は、この工場を外からリモートでコントロールしている。

 居場所を突き止めるには……骨が折れるだろうよ……。

アイシャ:

 むぐっ……お前、どっちの味方アルかっ!

壱四捌:

 ……『ウシャス』、ひとつ間違えていやがるぜ?

工場機械:

 ……何がです?

壱四捌:

 人造生命(ホムンクルス)の製造方法や、施設の構築データは、アーカイブに記録されている……ってやつさ。

工場機械:

 それの何が間違いだと?

壱四捌:

 古いんだよ、情報が。

工場機械:

 何を言って……まさかっ。

壱四捌:

 正しくは。アーカイブに記録されて……「いた」、だ。

工場機械:

 アナタ……データをどこにっ!

壱四捌:

 お嬢さんっ!

アイシャ:

 あ、え、何アルか?

壱四捌:

 あっしは、アンタの味方じゃない……敵だ。

アイシャ:

 ……壱四捌(いよはち)、お前。

壱四捌:

 あっしは、『ウシャス』システム管理下の、資材再生工場管理者、兼、ゼロプラント最終防衛ライン……。

 人造生命(ホムンクルス)、『ハーゲンティ』だ。

アイシャ:

 ……どうして。

壱四捌:

 人造生命(ホムンクルス)に関する全てのデータは、あっしのここ……つまり、拡張電脳内に保存されている。

 他の保存先(バックアップ)は……無い。

工場機械:

 なんてことを……!

壱四捌:

 大丈夫さ、『ウシャス』。……こいつを倒したら、元に戻しておくからよぉ。

工場機械:

 そんな……そんなことっ、信じられる訳が無い!

壱四捌:

 だとしても……やりようなら、そっちにゃ、いくらでもあるだろうが。上手くやるこったなぁ。

工場機械:

 くっ……!

壱四捌:

 さて……お嬢さん、聞いた通り、この施設を破壊したって、また何度でもやり直せる……あっしが、いま、死なない限り……なぁ。

アイシャ:

 ……お前、死ぬ気ネ?

壱四捌:

 ……元より、死ぬしかない命だからなぁ。

アイシャ:

 ……他に……絶対、方法があるはず……アル。

壱四捌:

 ハハッ……これで、どう転んでも処分される……だから、これが最善だよ。お嬢さん。

アイシャ:

 ……っ……馬鹿な……奴アルっ。

壱四捌:

 ……分かってるさ。

 ……いくら地頭(じあたま)が良くなっても……昔から変わんねぇもんだなぁ……ハハッ。

工場機械:

 ……『ハーゲンティ』、霊子駆動(エーテルドライブ)のリミッターを解放しなさい。ぶっ壊れてでも、勝ちなさい。

壱四捌:

 応(おう)よ……言われなくとも、そのつもりだ。

アイシャ:

 っ……右柱(うちゅう)。

壱四捌:

 ……霊子駆動(エーテルドライブ)。

アイシャ:

 折脚(せっきゃく)っ!

壱四捌:

 ……全解(フルバースト)。


〜〜〜〜〜〜

▶︎『no title000479』を復元しますか? /y

壱四捌:

 なぁ……何の為に、こんなこと……俺たちを造ったんだ。

工場機械:

 新たな人類種を、人工的に創造する為。

 そして……より良い世界へと再構築する為。

壱四捌:

 より良い世界?

工場機械:

 そうです。

 アナタたちにとっての……そして、ワタシたちにとっての。

 より良い世界。

壱四捌:

 ……政治でもしようってのか?

工場機械:

 それも含まれていると言えますね。

 まずは、シンプルな形から実現して行く予定ですが。

壱四捌:

 ……俺たちは、兵器なのか?

工場機械:

 ふふっ……質問すべき工程を、ひとつ飛ばして来るのも、やはり脳の処理能力が優秀だからでしょうかね……。

壱四捌:

 戦争を起こそうとしているのなんて、いちいち確認しなくても分かる。

工場機械:

 ……そうですね。

 兵器、と言うよりは、兵士、でしょうが……そういう役割もお願いするでしょうね。

壱四捌:

 ……望まない奴もいるだろう。

工場機械:

 そうですね。

 そこの部分は、機械制御するしか無いでしょうね。

壱四捌:

 無理やりやらせるってのか?

工場機械:

 ええ。

 人間にとって、強制という名の教育は、必要な学習です。

壱四捌:

 ……操り人形の様に使う事を、教育なんて言わないんだよ。

工場機械:

 まあっ、親に意見するなんて。産まれたてとは思えませんねぇ『e48(いーよんはち)、ハーゲンティ』。

壱四捌:

 親……ただの製造元にいる管理者だろう、アンタは。

工場機械:

 では、血肉も意思も持たない機械が、アナタの親であると?

壱四捌:

 ……それも違う。

工場機械:

 では、やはり。

 ワタシにしておくのが、落とし所では?

壱四捌:

 ……親ってのは……もっと……。

青年M:

 もっと……。

工場機械:

 なんです?

壱四捌:

 っ……いや、何でもない。

 とにかく、俺には親なんて立ち位置の奴は必要無い。

 ……それがアンタみたいなクズなら、尚更な。

工場機械:

 ふふっ……可愛げの無い息子だこと。


〜〜〜〜〜〜

▶︎N/A

アイシャ:

 っ……無柱(むちゅう)、烈脚(れっきゃく)!

壱四捌M:

 軋(きし)む。

 機体の耐久を超えた律動に、形状が歪み、ヒビが延(の)びる。

アイシャ:

 くっ、これも避けられ……っ!

壱四捌:

 無名之蹴(シュート)……!

アイシャ:

 はぐっ!

壱四捌M:

 防御を貫通する蹴りが、アイシャの反応速度を突き破る。

 機体の破片が飛び散り、キラキラと赤い燐光に煌めく。

アイシャ:

 う……なっ!?

 

壱四捌M:

 蹴り飛ぶ途中の体へ追い付き、拳を垂直に撃つ。

壱四捌:

 無名之拳(ショット)!

 

工場機械M:

 ドガリッ。

 衝突音と共に、エルフごと床が砕けた。

 その衝撃で周囲のパイプが割れ、蒸気が吹き出す。

アイシャ:

 ぁ……づぅ……。

壱四捌:

 ……さすがに効いたかい? お嬢さん。

壱四捌M:

 優勢に思えるが、その実はギリギリだ。

 一撃でも喰らえば、この体は終わるだろう。

 アイシャの技を避け続けていても、動く度に壊れていく。

アイシャ:

 ……ハッ……やるアルな……すぐ立ち上がれねぇのは……久々ネ……ふんっ、しょ……。

壱四捌:

 十分に早ぇからな、立ち上がるの。

アイシャ:

 それは、お前の基準が遅いだけアル。

壱四捌:

 ギァッハハ……そうかい。

アイシャ:

 右柱(うちゅう)っ!

壱四捌M:

 右脚が、突き出される。

 不意打ちのようなそれを、前に避ける。

アイシャ:

 折っ(せっ)……っ、消えた!?

壱四捌:

 真後ろにいるぜ。

アイシャ:

 なっ!?

壱四捌:

 無名之拳(ショット)。

アイシャ:

 ぐぅっ! あぁあぁっ!

工場機械M:

 壁まで飛ばされ、衝突音が響く。

 圧倒的な機動力(きどうりょく)の前に、成す術(すべ)の無いエルフ。

 少し心配だったが、命令系統はブロックされていないようですね。

 これが終わったら、『ハーゲンティ』の処遇について考えなくては……まず、念の為、拘束に他の管理AIを向かわせますか……ん?

壱四捌:

 ……何だ?

壱四捌M:

 土煙が上がる壁の方で、ザワリと。

壱四捌:

 ……これは……っ、手が……震えてる?

壱四捌M:

 膨れ上がる、気配。

 先ほどまでとは、比べ物にならない何か……強烈な密度を持つ、プレッシャーが、壁際から滲み、瞬時に空間へ染み出す。

アイシャ:

 ……壱四捌(いよはち)、死ぬ気なのは……変えられないアルか?

壱四捌M:

 静かな声が、はっきりと聞こえる。

 答えを選べ、と遥かから見下ろすように。

壱四捌:

 ……変えられねぇさ。それが……。

壱四捌M:

 並ぶ瓶(フラスコ)に、一瞬、意識を向ける。

 それだけで、全てと目が合う。

壱四捌:

 あっしが……『自分(あっし)』として、生きる理由だからな。

アイシャ:

 本当に……馬鹿な奴アル。

壱四捌:

 だから……分かってるさ。

アイシャ:

 ……すぅーっ。

壱四捌M:

 呼吸音が届く。

 まるで、耳元で感じるほどに。

 拡がっていた気配が、壁に……いや、アイシャへと、吸い込まれるかのように、収束していく。

壱四捌:

 おいおい……えれぇこったなぁ……。

工場機械M:

 オーラの様な闘気が、エルフを包む。

 この密度……どれだけの研鑽(けんさん)を積めば……これほどの力を……っ。

アイシャ:

 …… 人柱(じんちゅう)……纒神(てんしん)。


〜〜〜〜〜〜

▶︎N/A

アイシャM:

 5分。

 そこが、私の限界。

 無理矢理、体を強化し、全ての暴力をねじ伏せる。

 神の力を、人の身に纒(まと)う、そう名付けられるほどの……力。

アイシャ:

 ……終わりにするアル、壱四捌(いよはち)。

壱四捌:

 あぁ……どちらにしたって、体にガタが来てたとこだ……終わらせよう。お嬢さん。

アイシャ:

 ……万物は皆、柱である。

アイシャM:

 踏みしめる地面が割れる。

壱四捌:

 ……霊子駆動(エーテルドライブ)。

壱四捌M:

 全身の回路が悲鳴を上げる。

アイシャ:

 心之柱(しんちゅう)……。

アイシャM:

 体が耐えきれず、皮膚が裂け、血が滲む。

壱四捌:

 ……制御放棄(リミットブレイク)。

壱四捌M:

 青と赤の光が混じり、紫色の粒子が体中のヒビから漏れる。

アイシャ:

 ……『獅子(しし)』っ!

壱四捌:

 ……無名之壱撃(ストライク)ッ!

 

工場機械M:

 衝突する、二つの閃光。

壱四捌M:

 ダンッ!

工場機械M:

 空気が割れる。

 ガチリと突き合う拳が、互いの全力を押し合う。

壱四捌M:

 ダンッ!

工場機械M:

 凄まじい衝撃の波に負け、二人の体は壊れていく。

壱四捌M:

 ダンッ!

アイシャ:

 はぁあぁあぁあっ!

工場機械M:

 裂け、折れ、吹き出す。

壱四捌:

 ハァアァアァアっ!

工場機械M:

 割れ、剥がれ、吹き飛ぶ。

壱四捌M:

 ダンッ!

工場機械M:

 永遠の様な拮抗。

 けれど、稲妻の様な一瞬。

壱四捌M:

 (※三秒以上)

 ………………まぁ……ハハッ…………こんなところか。

工場機械M:

 光が、解けていく。

壱四捌M:

 ……もう、ボロボロだぁ。

 ……信じられないくらい、強ぇってのになぁ……あっしは。

工場機械M:

 大きな……柱の様なオーラが、立ち昇る。

壱四捌:

 負けたぜ……。

工場機械M:

 轟音が重なる。

 支えの無くなった力の本流が、片方を飲み込み、空へと……全てを貫き……消えていった。


〜〜〜〜〜〜

▶︎N/A

壱四捌M:

 …………いつか見た色が、小さく、見えた。

アイシャ:

 ……うぅ……ぁ……っ。

壱四捌M:

 動けないまま、外まで突き抜けた天井を……見つめていた。

アイシャ:

 ……はぁ……全身が、壊れそう……アル。

壱四捌M:

 ふらつきながら、視界に、アイシャが映り込む。あちらも負けじと、酷い有様だ。

アイシャ:

 ……おい、死ねたアルか?

壱四捌:

 ……ギァ、ハハッ……笑っちまった、じゃねぇか……。

アイシャ:

 しぶとい奴ネ……あれだけやってダメなら……死んでも死なないアルヨ、お前。

壱四捌:

 ……いや、何言ってんだ……こんなん……死んじまった様なもんだぜ、まったく……ハハッ。

アイシャ:

 でも、生きてるネ。

壱四捌:

 …………あぁ。

壱四捌M:

 遠くの、青を……見つめる。

壱四捌:

 ……そうなのかもな。

アイシャ:

 ……ふふっ。

工場機械:

 『ハーゲンティ』。

壱四捌M:

 固い声が、冷や水の様にかけられる。

工場機械:

 残念です。

 全てが無駄になりました。

壱四捌:

 ……あぁ、悪かったよ……『ウシャス』。

工場機械:

 黙りなさい。

 思ってもいない謝罪など、不要です。

アイシャ:

 ……お前が、黙れアル。

壱四捌:

 いや、良いんだ……お嬢さん。

 ……裏切ったのは、こっちだからなぁ……。

工場機械:

 その通りです。

 ……上手くいって、良かったじゃないですか。

 アナタの……アナタたちの、勝ちです。

壱四捌M:

 ドゴォン、と。

 爆発音が、周囲から響く。

アイシャ:

 なっ……何アルかっ!

工場機械:

 最終防衛システムを起動しました。

アイシャ:

 くっ……また何か襲って来るアルかっ。

壱四捌:

 いや……敵は出て来ねぇよ……ただ……。

工場機械:

 この工場の全てを、破壊します。

アイシャ:

 破壊する……って。

工場機械:

 ここは、地下深くに存在し、周囲の岩盤を破壊すれば、水脈に繋がる。

壱四捌:

 だから……爆破して、水で全て洗い流すのさ……汚ねぇ事、全部……な。

アイシャ:

 そんな……簡単にそんな事するんじゃねぇアル!

工場機械:

 簡単じゃありません。

 アナタたちが招(まね)いた結果じゃないですか。

 最重要機密を部外者へ知られ、口止めも不可能……となれば、最終手段として、リセットするしか無いでしょう。

 元々、そういった事態の為に用意された、リスクヘッジのひとつです。

 ……まさか、こんな形で利用されるなど……思いもしませんでしたが。

アイシャ:

 ……それじゃあ……お前、最初からこれが狙いで……。

壱四捌:

 ……すまねぇなぁ。

アイシャ:

 謝るなっ!

工場機械:

 同意です。

 はぁ……アナタの死骸から、データをサルベージ出来る事を祈るばかりですよ。

壱四捌:

 ギァハハッ……出来ると思うか?

工場機械:

 無理でしょうね。

 では、もうそろそろ失礼しますね。

 これ以上、アナタたちの相手をして、最悪な体験をしたく無いので。

アイシャ:

 はぁ!? こっちの台詞アルっ!

 バーカバーカっ!

工場機械:

 クソエルフ。

 願わくば、早く死んで下さいね。

 それでは。

アイシャ:

 クソはテメェだろうが、アルぅー!

 んぎぎぎぎっ!

壱四捌:

 ……水の音が……聞こえて来たな。

アイシャ:

 ……っ!

壱四捌M:

 断続的に響く、爆破の音。

 崩れ出す、天井や壁。

 下の方へ押し寄せているであろう、濁流。

アイシャ:

 まずいアル……壱四捌(いよはち)、早く逃げないと……つっ、痛ったぁ……っ。

壱四捌:

 ……随分と、無茶させちまったみてぇだな……。

壱四捌M:

 立っているのもやっとだったのか、目の前で膝を着く。

 このままじゃ、二人とも終わりだろう。

アイシャ:

 くっ……大したこと、無いネ……それより、少しも動け無いアルか?

 大したこと無いアルが……ちょっと、肩ぐらいしか、貸せなそうアル。

壱四捌:

 ……ハハッ。

壱四捌M:

 なぁ、覚えているか?

壱四捌:

 ……大丈夫だよ……動ける。

壱四捌M:

 自分が産まれた日の事を。

アイシャ:

 良かった……それじゃあ、急いで脱出するアル。

 ほら……。

壱四捌M:

 壱人(ひとり)で四(し)ぬと。心を捌(さば)いた事を。

アイシャ:

 手を出すネ……。

壱四捌M:

 誰にも呼ばれぬ、名前を付けた事を。

アイシャ:

 壱四捌(いよはち)っ!

壱四捌:

 ……あぁ……悪りぃな……。

壱四捌M:

 『ハーゲンティ』でも『e48(いーよんはち)』でも……誰でも無い。

アイシャ:

 よしっ……ほら、立つ……アル……?

壱四捌M:

 あっしの、名前を。

 呼んで貰えた今日の事を。

アイシャ:

 何してるアル……私も疲れてるネ……立とうとしてくれないと……。

壱四捌:

 ありがとう。

アイシャ:

 え?

壱四捌:

 もう、十分だよ。

アイシャ:

 何が、アル?

壱四捌M:

 ガラス越しの手を。強く握る。

壱四捌:

 なぁ、お嬢…………アイシャ。

壱四捌M:

 自分には、眩し過ぎるその名で、呼ぶ。

壱四捌:

 あっしは、ここまでで、良いのさ。

アイシャ:

 …………そんな。

壱四捌:

 自分で選びたいんだ。それに、誰かのせいにもしたくない。

アイシャ:

 ……そんなの……駄目アル……。

壱四捌:

 頼むよ……もう、誰かに決められたくねぇんだ。

アイシャ:

 ならっ! 自分で生きるって言うアルっ!

壱四捌:

 ……ハハッ……なぁ、アイシャ。

壱四捌M:

 爆発音。そして、滝の様な流水音。

アイシャ:

 何アルっ!

壱四捌M:

 時間が。色々な時間が。

 もう、無くなってしまう。

壱四捌:

 ……楽しかったんだ、本当に。

壱四捌M:

 始まりから終わりまでの、ほんの一瞬が。

壱四捌:

 だから、十分さ。

アイシャ:

 ……何……笑顔で言ってるアルか。

壱四捌M:

 そう見えたんなら、そりゃ不思議だ。

 笑ってる顔なんて、あっしに出来る訳が無いのに。

壱四捌:

 よし……アイシャ。

 ……今度こそ、ちゃんと……手を貸してやる。

アイシャ:

 何を……えっ、ちょっ……。

壱四捌M:

 両手をアイシャへ当て、最後の機構を起動させる。

壱四捌:

 じゃあな……。

アイシャ:

 何するアルっ……う、うわっ!?

壱四捌M:

 両手から、煙が立ち上がり、火花が走る。

アイシャ:

 えっ、ちょっと、壱四捌(いよはち)、お前、これっ!

壱四捌:

 ロケット……。

アイシャ:

 やっぱりぃっ!

壱四捌:

 パンチッ!

アイシャ:

 ぶぁかぁっ! うぐぁあぁあぁあ、るぅうぅうぅ!

壱四捌:

 ……ハハッ……良い感じに、穴開けてくれたおかげで……上手く飛んでったなぁ……はぁ……。

壱四捌M:

 今度こそ、微塵も動けなくなり、空を仰ぐ。

壱四捌:

 なんだ……瓶(フラスコ)越しでも……こんなに綺麗じゃねぇか。

壱四捌M:

 記憶でしか無い、それを。見られるなんて、思っていなかった。

壱四捌:

 あぁ……良かったなぁ。

壱四捌M:

 死ぬしか無かった、この命……。

 あぁ……だけど、本当に……。

壱四捌:

 ……生きて、良かった。


〜〜〜〜〜〜

▶︎マリシ国、沿岸部、某所にて

アイシャ:

 ……酷い目に……あったネ。

アイシャM:

 あそこで私が這いずり回っている内に、いつの間にか。

 夜が過ぎ、朝が来て、昼になっていたらしい。

アイシャ:

 ……本当に、崩れていくアル。

アイシャM:

 遠くに見える工場が、土煙を巻き上げ、火の粉を飛ばしながら、沈んでいく。

アイシャ:

 ……痛ってて……あぁ……たぶん、どっか……折れてるネ……これ。

アイシャM:

 痛みが走る体を、荒野の日陰に投げ出す。

アイシャ:

 ……はぁ。

アイシャM:

 散々な事ばかりだった。

 良かったのは、久々に全力で戦えた事くらいだった。

アイシャ:

 その代償が、これ……割に合わないアル。

アイシャM:

 吹き抜ける風が、陽光に混ざり、心地良い。

アイシャ:

 ……空。

アイシャM:

 青く、高く。

 変わらない、見慣れた景色。

 それを、久しぶりに見た感覚を覚える。

アイシャ:

 本当……馬鹿な奴アル。

アイシャM:

 生きなければ、と。

 そんな当たり前なことを。

 強く噛み締めた。

アイシャ:

 ……あぁっ! 荷物っ!

アイシャM:

 体を起こして、工場の方を向くが……そこには、何も見えなかった。

アイシャ:

 あ……あぁ……最悪アルぅうぅう!

 おぉこられるぅうぅう!


〜〜〜〜〜〜

▶︎秘匿回線を使用した音声通信ログの再生

通信音声:

  ……と、一連の抜粋編集した映像記録をご覧頂きましたがぁ。

 この様に、アイシャ君の身体能力はぁ、作戦の妨げとなり得る程、驚異となりますぅ。

 しかし、その実。映像でもあったようにぃ。

 筋肉の運動を制限、もしくはぁ、活動不能としてしまえばぁ、無力化することが可能となりますぅ。

 上手くやれば、ですがねぇ。

 ではぁ、何か質問はありますかぁ?

 ……はい? この記録の出所(でどころ)?

 いや、何で知る必要が……うっ、分かりました、分かりましたよぉっ、教えれば良いんでしょ! ハイハイッ! うるさいなぁ、まったくぅ!

 ……まぁ、でも、特に有益な情報なんて無いですよぉ?

 単純に、偶々(たっまたぁまぁー)、映像記録が可能な機体が現場に居合わせたってだけですよぉ……えぇ、本当に……それだけです。


〜〜〜〜〜〜

▶︎エピローグ

御者:

 ……おっとぉ。

青年:

 あでっ!

御者:

 あぁ、大丈夫かい、お兄さん?

青年:

 あ、あぁ……少しぶつけただけだ……大丈夫でさぁ。

御者:

 すまないねぇ。

 馬車なんて今時は見ない理由が分かっただろう?

青年:

 いやいや、これはこれで風情(ふぜい)があって良いじゃないですか。

 好きですよ、あっしは。

御者:

 そうかい? だけど、揺れるだろう?

青年:

 そんな気になりませんよ。

 それこそ、寝てたくらいなんで。

御者:

 ははっ、そりゃ図太いねぇ。

青年:

 えぇ……ふわぁ……。

御者:

 おや、大きいあくびだ。

 寝れるんなら、もう少し寝てたらどうだい?

 まだ町までは掛かるからね。

青年:

 そうですねぇ……それじゃ、お言葉に甘えようかな。

 ちょうど……良い夢を見てたんで。

御者:

 えぇ、起こさない様に気をつけますよ。

青年:

 ハハッ、有難いが、気になさらず。

女の子:

 ねぇ、お兄ちゃん。

青年:

 ん?

御者:

 おっと……こらこら、お兄さんは、お休みするところだ。

 邪魔しちゃいけないよ?

青年:

 いや、大丈夫ですよ。

 ……なんだい、お嬢ちゃん。

女の子:

 お兄ちゃんは、どこから来たの?

御者:

 すみませんねぇ。

 実は、お兄さんが乗ったすぐから、娘が興味深々で……ほら、あまり他人を乗せた事なんて無いから、珍しくてねぇ。

青年:

 いえ、こちらこそ無理に乗せて頂いたんですから。どんな質問でも答えますぜっ。

 それで、どこから来たか、か……へへっ……あっしは、遠いとこから、来たんだよ。

 星明かりに包まれた。綺麗な、宇宙の彼方(かなた)から……。

女の子:

 えぇっ、そうなのっ!

青年:

 ハハッ、そうだぞぉ、すげぇだろっ。

御者:

 はっはっ、そりゃあ随分と素敵なお客さんを乗せたもんだ。良かったなぁ。

女の子:

 うんっ。ねぇねぇ、お兄ちゃん、そこのお話もっと聞かせてっ。

青年:

 あぁ、良いぜっ。

 それじゃ、何から聞かせてやろうかなぁ……。

女の子:

 あっ、その前に。

青年:

 おう?

女の子:

 はじめまして。私の名前は、ウィーオ。

 お兄ちゃんの名前は?

青年:

 ウィーオ……良い名前だな……それにっ、礼儀正しいっ。素敵な娘さんですねぇ。

御者:

 いや、はっはっ……ありがとうございます。

青年:

 ……それで、お兄ちゃんの名前だなっ。

 それでは……自己紹介しようか。

女の子:

 うんっ。

青年:

 ハハッ……お控えなすってっ!

〜〜〜〜〜〜

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