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桜楓会 Ohfukai Society

世界一の怪曲 暗い日曜日 ダミア歌

2024.07.26 02:40

1.痛ましいストーカー殺人のお話として、4月号でご紹介した歌劇「カルメン」は、19世紀フランスのビゼーの作です。このオペラには、カルメンの死を予告する巧みな伏線がいくつか仕組まれています。その中の一つに「カード占いのシーン」があります。夜のつれづれに、密輸団の若いロマ(ジプシー)の女性たちがカード占いに興じています。彼女たちはお金や恋の行方を占いながら大はしゃぎです。そこへカルメンが顔を出し、その遊びに加わります。ところが、彼女が引いたのは「死のカード」でした。そんなものには動じない彼女がまたカードを引くと、これもまた「死のカード」。結局、このシーンでカルメンは3度カードを引き、その全てが「死のカード」だったというストーリーになっていますが、「たとえそのために死ぬことがあっても、私は自由に生きる。」という確固たる信念のもと、その運命をも受け入れる覚悟をカルメンが示して閉じられます。

さて、初演されて間もないころ、パリの歌劇場で「カルメン」が上演されていました。そして、くだんのカード占いのシーンにさしかかります。カルメン役の歌手が舞台の上でカードを引いたところ、本当に死のカードが現れました。気味が悪いと思いつつも、彼女は演技を続け、二回目のカードを引きます。しかし、これもまた「死のカード」。真っ青になった彼女が震える手で引いた3度目のカードですが、これもやはり・・・。主演歌手がそこで気を失い続行不能になったため、その日の上演は、途中で打ち切りとなりました。翌朝、ベッドの上で目覚めた彼女は、わが身に何も異変がなかったことに胸をなでおろしました。しかし、そこへ見舞いに来た劇場関係者の口から衝撃のニュースを聞くことになります。それは、昨晩、作曲者のビゼーが急死したという知らせでした。

https://www.youtube.com/watch?v=mcNUf094VFY  歌劇「カルメン」より カード占いのシーン
2.シャンソンとして知られる「暗い日曜日」は1933年、ハンガリーで作曲されましたが、1936年、フランスの歌手ダミアによる録音によって広く知られるようになりました。曲の内容は、自分を捨てた恋人を恨み、次の日曜日に死のうとする若い女性の嘆きを歌ったもので、恋や人生を歌う一般的なシャンソンのイメージとは大きくかけ離れたものでした。

この曲がラジオ放送されるや、主にヨーロッパ各地でこの曲を聴いて自殺する者が多数出る事態が発生します。道端で子どもが歌うこの歌を聴いた途端、川に飛び込んで死んだ男性や、自分の葬式でこの曲を流してほしいという遺書を残して死んだ女性のエピソードなどもあって、呪われた歌として広まっていきます。BBC(イギリス国営放送)は、これを放送禁止曲に指定しました。
https://www.youtube.com/watch?v=UZ_RvLMs0Fs&pp=ygUP5pqX44GE5pel5puc5pel  暗い日曜日 ダミア
何人もの音楽学者や心理学者などが、こぞってこの曲と集団自殺との因果関係を突き止めようとしましたが、何も分からずじまいでした。この曲の発表されたのが、ナチス台頭に始まる第二次大戦前の時期だったため、もともと個人的に生きづらさを感じていた人々に、そういった世相不安が加わり、さらには、この曲が引き金となって、多くの自殺者を出したのではないかという指摘も一部にあります。そのようにいわくつきの曲ではありますが、「暗い日曜日」は音楽としての魅力から、ビリー・ホリデイをはじめレイ・チャールズやビヨークなど数多くの歌手がカバーしています。日本でも、淡谷のり子や東海林太郎や美輪明宏などの大御所がこの曲をレコーディングしています。                                   また、ナチスドイツがヨーロッパを侵略していく時代を背景とした映画「暗い日曜日」(Gloomy Sunday)も作られました。虚実入り混じったそのストーリーの中、実際の作詞者と作曲者(いずれもハンガリー人)をモデルにしたとおぼしき人物たちも登場します。                           https://youtu.be/MsDjPK88yPE 映画「暗い日曜日」(Gloomy Sunday) 抜粋とエンディング