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rikka's Diary

お空の記憶

2024.08.03 00:00

1.

いつのことか分からない日の記憶。

お空からやってくる前のお話。

お空は、ずっと晴れてどこまでも透きとおる青い空と極上の柔らかさの綿雲が漂っている世界。

ここでは「おとうさん」と「おかあさん」のもとに行くのを、沢山の子どもたちが待っている。


私は以前、とある家族のおじいちゃんとしてその生涯を全うした。

そのおじいちゃんは少しだけお空のはずれの世界でゆっくり過ごした後、私になった。

色白でぷくぷく、ふさふさでくりくりのくせ毛の黒髪の女の子って、けっこう可愛いと思う。


私は誰のお家にいくんだろう。「その日」が来るのを楽しみに、今か今かと待っていた。

年上のお友達が何人かいたので「その日」に行く瞬間を何度か見させてもらった。

子どもたちそれぞれのおうちに、長い長い滑り台があって、行く先ははるか彼方。お空の下の海に落ちていって、そこから「おとうさん」と「おかあさん」のもとにいくようだ。

ながいながい滑り台の先は、はるかかなたの先にある海。そのまま落ちていくのは怖いと思う。だから、お友達たちはそれぞれの反応がある。楽しみに滑っていく者、私が背中を押して滑って行く者、良く分からずに滑っていくもの、泣きながらゆっくり進んでいく者…本当に様々だ。


私は…どうなんだろう。ちょっと怖い。

いま、家に一緒に住んでいるのは、私より少し後にやってきた男の子。どこから来たのかわからないが、そんなに体は強くないし、小柄だ。体が強くないせいか、気性はかなり荒いので中々に気を遣う。

体は弱いし、気性は荒いし、なかなかビビり。

都合のいい時だけ近寄ってきてお願いしてくる。なんて奴だ。


私とは違って、ストレートな柔らかい髪、小柄な体、気弱そうな八の字眉。そして触り心地はよくない。子供というのは大抵ふにふにしていて皆が触りたくなるのだが、こいつは小さい癖に何かごつい。ただ、他の女の子から人気が高い。なんでだろう。


2.

「おでもこれ欲しい!」

「やぁー!こないで!!!!」

こいつは、いつも人のもっているおやつが欲しいやつなんだ。

私からぶんどったおやつを、近寄ってくる女の子たちにあげている感じ。

本当に腹が立つ、自分のものを渡せ。


いつもの喧嘩の最中「その日」が来た。


自宅の呼び鈴がなる。

「あーー!!おでが先行くもんねーー!」

鈴の音を聴いて、あいつは真っ先に滑り台に走っていく。

先に生まれた方が滑り台に立つのだが、やっぱりあいつらしい。

しかも、お見送りのお友達が来るのを待つことが多いけどね。


「やーい!ぶーぶーぶたしゃーん」

いつものような煽りをしてくる。いつも通り過ぎて慣れた。

「・・・」

そのうちに、家の外から話声が聞こえる。あいつの友達が集まってきたようだ。

私の友達の声も聞こえる。

滑り台にたったあいつに問いかける

「ねーねー!どんなお家が見える?」

私の「おとうさん」と「おかあさん」がどんな人か気になる。滑り台の先にたつと、これから行くお家が見えるらしいので、あいつに聞いてみた。

何も応答がない。

私の背丈だと滑り台に立ったあいつの様子が見えないので、よじ登ってみることにした。


3.

滑り台をのぼった先にいたあいつは、固まっていた。

「怖くて固まる」タイプだったか。


滑り台からは、何千メートルもある上空から遥か彼方の海を眺めるような感じだ。ちょっと怖い。例えるなら、パラシュートがあるのはわかっていても、生身でヘリから空に飛び立つ感じだ。


あんなに威勢のいいやつが固まってる。しかも、しゃべらない。

そうだ…こいつは生粋のビビりだ…。


「大丈夫?」

「…」


しかも、どんどん友達も集まってきた。

家の中に入ってきて、滑り台のふもとに集まって歓声が湧いている。

今日は何せ、子供たちが心から待ち望んでいる「あの日」。

祝福されるべき日。

でも、こいつが固まるのも分かる。

ごくまれに、おとうさんとおかあさんの家に着地できなくて失敗して戻ってくる子がいる。

戻って来ることができればいいが、時々命を落とす子がいるからだ。


4.

穏やかそうな子で通っている私だが、意外と気が短い。

「もー。どいて!!。あんたは後からこい」


滑り台の先に立つ。遥か彼方にある海と一緒に見えてきたのは、小さいアパートで暮らす若い夫婦だ。


おとうさんは髪を金色に染めた作業服姿の人。多分職人さんかな?

おかあさんは、全てが小柄で細い人でけらけら笑っていた。楽しそうな人だ。

裕福とはいかないけど、多分大丈夫そう。


轟音を鳴らしながら風が吹いている。ちゃんとつかまってないと飛ばされそう。

ぐっと体に力を入れて、そのまま滑り台を滑りだした。


「おとうさんとおかあさん、だいじょうぶそうだよ!!あとからおいで~~~」


しゅうううっと滑りだしたまま声をかけたので、あいつの顔は見えなかったが、多分声は届いたはず。

なんだかんだで、きっと後ろからついてくるだろう。


友達たちの「ばいばーい」「またねー」という声に送り出されながら、私はお空の世界を飛び出してこの世に生まれた。


ずっと構想があったお話その2。

「子どもは空からやってくる」というお話から着想を得たお話です。


7月末に投稿した「蝕まれる」は「死」だとしたら「お空の記憶」は「生」のおはなし。

対局だけどくっついてる話ですよね


出てくる登場人物たちは、きっとわかる人にはわかるはず。笑


こういう話、どこに出したらいいかしらね…