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Evidence Based Physical Therapy - 理学療法士 倉形裕史のページ

『○○法は現代の科学では証明できない』の誤解⑤

2018.12.29 01:29

おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。 


何回かに分けて、 

臨床研究で良い結果が出ていないものの、長い間使われ続けている理論、治療法に関して『○○法は現代の科学では証明できない』という発言に対して書いています。 


タイトルのフレーズには医学研究に対する典型的な誤解が含まれています。  

典型的な誤解として6つのものを上げました。ちょっと繰り返しすぎてしつこい(?)ので今日は繰り返しません。ご興味があれば前の記事をご覧いただければ幸いです。 



今日は⑤に関して書きます。 


⑤○○法はアートなので、わかる人にわかって頂ければいいんです。→医学においてはそのような姿勢は許されません。 


例を使って説明します。裁判でのルールとして、「疑わしきは罰せず」、「推定無罪」という原則があります。これは、「『裁く側の人間』が『裁かれる側』の有罪を証明しない限り、無罪判決が下される(=『裁かれる側』は自らの無実を証明する責任を負担しない)」ということを意味する言葉です(弁護士に友人たちの目に留まって、ツッコミを受けるのが怖いですが、概ねこんな感じだと思います)。  


一方、私たちが普段病院などで受けている治療が、治療として認められるためには、全く別のルールが働いています。 「『その治療が有効であること証明したい人』が効果を証明しなければ、その治療は有効とは認めらない。」です。 


『その治療法を支持している人たち』が、証拠を出して治療効果を証明することがルールです。 『裁く側』が、有罪(その治療に効果がないこと)を証明しなければ、無罪(治療として認められる)ではないんです。 


効果がないことが証明されたわけではないので、この治療法を行っても良いという態度は、現代の医学においては認められません。 (中には治療効果がないことが証明されているにも関わらず、色々な言い訳を重ねて生き残っている治療体系もありますが。。。) 


そして、その有効性を証明するには、最低でもコホート研究、社会に与えるインパクトの大きいものであれば、盲検化された無作為化対照試験が必要です。どんなに偉い先生であっても、世界一優秀なリハビリ専門職の方のものであってもデータに基づかないその先生の意見は、最もレベルの低いエビデンスに過ぎません。 


 リハビリの治療体系の中には、非常に繊細なコントロールが要求され、治療による変化を手の感覚や、熟練の観察眼で評価するような理論があります。 この様なスキルに関して優位性を主張し、『私たちの治療はアートの部分があるので、わかる人にわかって頂ければいいです』のような態度をとる、有名な先生もいます。 


ですが、こういった○○法が、おまじないの類でなく、医学・医療であるならば、こういった主張は認められません。 皆、医学というルールの枠組みの中で、新しい治療の開発を死に物狂いでやっている中、特定の人や治療法がそのルールに従わなくていいということはありません。  


また、『熟練の観察眼で評価する』というようなことを書きましたが、これらの治療は、エキスパートたちがお互いの評価を知らない状況下で、同一の対象者を評価した場合の一致率を調べていません。

もしかしたら、同じ患者を見ているにも関わらず、全く正反対の評価をする可能性もあります。 


『エキスパートが自信満々に言う以上は、何らかの根拠があるだろうからそんなわけがない』と思われるかもしれません。 本当にそうでしょうか?


こういった意地悪な実験をカイロプラクターに行ったという話があります。以前の記事で紹介したこの本に載っています。

子供を連れて、複数の開業しているカイロプラクターに診断を求めたというものです。 この話では、カイロプラクター達の診断は全くのバラバラで、治療をすべき箇所に関しても一致しませんでした。唯一、一致したのは、「今後もカイロプラクティックを継続的に受け続けるべきである」という結論だけだったそうです(本は日本の実家に置いてあるので、正確な記述ではありませんが、10人程度のカイロプラクターに相談して、治療の必要がないと診断したのは1人だったとかいう結果だったと思います)。


もう一つの問題は、カイロプラクターの診察を受けた子供は、事前に経験豊富な小児科医によって、完全に健康であると太鼓判を押された子供であったということです。嘘をついて実験を行ったのは褒められるものではありませんが、自信満々のエキスパートの意見が当てにならないこともあるという良い例です。  


この例は、カイロプラクターに何かを言いたくて出したわけではありません。 もしかしたら、現在セミナーなどで、(特に若い)理学療法士の方が休日を返上して、高いお金を払って勉強している治療理論もこのカイロプラクティックの例と同じかもしれないのです。 


「そんなわけがないだろう!!」と言いたい場合は、最初の所に戻ってしまいますが、その治療を支持している先生方が、証拠を出してそうでないことを証明して頂く必要があります(^^♪。 


エビデンスに基づいて考えるリハ専門職は、『その理論が一見おかしなものであっても、十分に信頼できる根拠(良くデザインされた複数の臨床研究)があれば、当然受け入れるし、それが発見されれば、今日から○○法の勉強を開始する』というオープンマインドを持っています。


⑤に関してはこれで終了です。次回でようやくこの話題は最終回です。 


今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。

 理学療法士 倉形裕史 

次回へのリンク









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