おかえり南のウイスキー。Vol.2
蒸溜棟ワンダーランド。
ピカピカの蒸溜釜に、できたてのウイスキーの原酒。
初めて出会う光景に、ワクワクしてくる。
玉ねぎ型のポットスティル(蒸溜釜)。
蒸留の内部の様子が見えるタイプなので、マニアにはたまらないらしい。もろみをポットスティルに入れて熱し、アルコールの蒸気を上部の細長いところで冷却することで、無色透明のウイスキーの原酒を抽出する。
ポットスティルは形も重要。
津貫蒸溜所のなでがた、くびれがないずんどうの形は、重みのある複雑な味わいに。
真新しい世界
情熱的なエンジ色の扉を開けると、
あっ、と息を飲んだ。
新しいウイスキー蒸溜棟に入ったときだ。
目に飛び込んでくるのはピカピカに輝く金属の物体。
まるで巨大な金管楽器のよう。
「奥に二つ並ぶ玉ねぎのような形が、
ポットスティルと呼ばれる蒸溜釜。
ウイスキーの原酒をつくります」と田中さん。
アルコール度数を70%近くまで上げると聞いて、
頭がくらっとする。
棟内には、ほんのり発酵の香りも漂うようだ。
「かすかにお味噌のような香りがしますね」と編集長。
「原料に使われる大麦のせいでしょう」と田中さんの言葉に「なるほど」。
女性が拾う香りの繊細さに感心する。
ウイスキーの基本の「き」
そもそも、ウイスキーとはどんな酒なのだろう。
「一般的にウイスキーと呼ばれるには3つの条件があります。
原料が穀物であること、蒸留酒であること、
樽で3年以上熟成すること」と田中さんは、やさしい口調でこう続ける。
「できたばかりのウイスキーは無色透明ですが、
樽で熟成させることで、あの独特な琥珀色の液体になるんです」。
ウイスキーづくりは蒸留して終わりではないのだ。
そしてさらに、ちょっと意外なことを教えてくれた。
「じつは、ウイスキーの原料はたった3つなんです。
水と、大麦やトウモロコシなどの穀物、そして微生物である酵母」。
3つだけがウイスキーの原料だと聞かされても、
シンプルすぎて、ぽかんとしてしまう。
「そこが、ウイスキーの面白いところです。
これだけの原料で、酵母によっても、日々、香りが変わるんです。
発酵室では、技術者たちと話してます。
今日はパイナップルの香りだねとか、今日はイチゴだね、とか」。
それを語る田中さんは、なんとも楽しげだ。
シングルモルトって、何?
最近よく耳にするシングルモルトについて聞いてみた。
「シングルモルトとは、
大麦麦芽(モルト)だけを原料につくられたウイスキーのうち、
一つの蒸溜所でつくられたものです。
蒸溜所の個性が出やすいんですよ。
主にスコットランドやアイルランド、
そして日本のものが知られています」。
小規模で個性的な味わいを大切にする蒸溜所が、シ
ングルモルトに力を注いでいる。
津貫の蒸溜所もその一つだそうだ。
見学していて驚くのは、手が届きそうなその距離感。
間近で見て、肌で感じる体験は、
ウイスキーとの距離も近づけてくれるようだ。
見学の興奮は、次の貯蔵庫で、さらに高まった。
2階は見学室になっており、ウイスキーづくりの流れを観察できる。
蒸溜所は自由に見学できる。
見学案内は約30分。事前に予約しよう。