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かすたどんの謎 Vol.5

2018.12.30 10:33

時代が変わっても

まあるい気持ちに
してくれる。

発想の原点

かすたどんの人気がまさに

蒸気のような動力となり、

大きくなってきた薩摩蒸氣屋というお菓子屋さん。

それをひっぱってきた山口さんは、

いまも菓子づくりの現場で汗を流す。

「日々、遊んでるんですよ。

苦虫をかみつぶしたような顔で甘いお菓子をつくってもねえ。ははは」と

屈託なく笑う山口さんは、

毎日のように田畑を眺め、

草を踏み、

土に触れ、

野山の花を愛でる。

そして、その日、肌で感じた思いをメモにとり、

お菓子や仕事の発想を得るのだという。

「朝霧や夕暮れに見とれたり、

旅に出たり、おいしいものを食べに行ったり。

それが大事なんです。

目に見えない思いや感覚を、

いかにものづくりに生かすかが菓子職人の仕事だから」。

なにげない自然の中におもしろさを見つける能力。

かすたどんの、あのふっくらまあるい、

太陽のようにも満月のようにもみえる色や形も、

山口さんが見つめる美しい自然のなかから生まれてきたのだろう。


「できる人が怠けるより、できない人が精一杯している姿がどれだけ美しいか。努力する人には、勝てないと思います」人づくりへの考えも、どこか温かい。山口さんの撮られた写真には、自然や季節の美しさが映し出されている。



「失敗」という利益

商の心得も味わいのある表現で語る。

「たとえばね〝出入り口〟というでしょ。

〝入り出口〟とはいわない。

お客さんに喜んでもらえることをとことん先に出す。

そうすれば入ってくるんです。

でも、みんな自分に〝入る〟のを先に考えたがるんだ」。

そして、失敗を恐れてばかりいる姿勢をいましめる。

「失敗したら損した損したっていうけれど、

失敗も自分の利益だと考えたらいい。

私なんか大失敗をたくさんしてきた。

でも、ぜーんぶ自分の利益だよ。

そのおかげで、いまがあるんだから」。

なんだか、心が開いてくるなあ。

人生では苦労なしには、豊かさはない、とも。

「かすたどんも苦労して苦労して育てた子どもです。

だから、かわいいですし、人からもかわいがられると思うんですよ」。

なるほど山口さんの親心も、

かすたどんにはみっちりと詰まっているのだ。


楽しいことたくさんよっといで。
40年前、お店を出すとき書いた言葉。
「書は好きですが、この言葉は書いて欲しいとリクエストが多いですね」。ほんとうに眺めるだけで和んでくる。