知れば、知るほど、好きになる「声種―オペラ配役の基本」「チェンバロ」
音楽の小箱
声種―オペラ配役の基本
声種は、声楽の基礎であり、オペラ配役の基本です。声域の高い順からソプラノ、メゾソプラノ、アルト(以上、女声)、テノール、バリトン、バス(以上、男声)。オペラでは、役柄に合わせて各声種の声質に合わせてさらに細分化しています。その主だったものをご紹介しましょう。
ヒロイン役を席捲するソプラノは、超高音を急速なパッセージで歌う「コロラトゥーラ」、若く可憐な「レッジェーロ」、レッジェーロより重く王女やお嬢様などの役まわりの「リリコ」のほか、リリコより重く強い「リリコ・スピント」、さらに強靭で重量感があり劇的な表現に相応しい「ドラマティコ」などがあります。
メゾソプラノは、「コロラトゥーラ」や「ドラマティコ」があり、男装する女性役(ズボン役)もメゾの役割です。
アルトの役は、17世紀までカウンターテナー(裏声[ファルセット]の男声)が歌っていました。男声から女声に交代するなかで、ドイツでは喜劇的な役柄の「コーミッシャー」、悪魔的(デモーニッシュ)な「ドラマティッシャー」という声種が形成されました。
男声の花形テノールでは、「レッジェーロ」「リリコ」「スピント」「ドラマティコ」のほか、輝かしい響きの「ヘルデン(英雄)テノール」などがあります。
バリトンは、18世紀後半になってからバスと区別されるようになりました。ハイ・バリトンとバス・バリトンに細分され、喜劇的な役どころの「ブッフォ」や「リリック」、「ヘルデン」のほか、輝きのある「カヴァリエ(騎士)」などがあります。
バスは、「ブッフォ」のほか、深い響きの「プロフォンド」や叙情的な「カンタンテ」などがあります。
今年の10月に県民ホール・オペラ・シリーズでも上演される「カルメン」の題名役は、主にドラマティコのメゾが務めますが、ソプラノが歌うことも多々あります。その声質の違いで、男を破滅させる妖艶な女性から、強い意志を持った自立した女性と人物造形が変わってきます。どうぞお楽しみに。
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華麗なアリアを歌う「魔笛」の夜の女王は、コロラトゥーラ・ソプラノ
神奈川県民ホール・オペラ・シリーズ2018 出張公演「魔笛」(宮本亜門演出)より ©青柳 聡
楽器ミュージアム
チェンバロ
チェンバロ(伊)[英語はハープシコード、仏語ではクラヴサン]は、ピアノが登場する以前、鍵盤楽器の花形でした。発明時期や場所は不明ですが、その最古の記述は14世紀終
わりにまで遡ります。バロック時代(17~18世紀半ば)に入ると、独奏をはじめ、器楽合奏の中で、あるいはオペラの伴奏として大活躍しました。
チェンバロは、鍵盤や楽器内部にはった弦など、外見はピアノとよく似ています。しかし、発音の機構はまったく別もの。鍵盤を押してハンマーが弦を「叩く」ピアノに対し、チェンバロは、鍵盤奥の柱(ジャック)が上がり、その先端の爪が弦を「はじく」のです。
16世紀にイタリアで、17世紀にはフランドル地方*で独自に改良と発展を重ねたチェンバロは、フランス、イギリス、ドイツの各国でさらなる発展を遂げます。とりわけ18世紀フランスでは、本体に色鮮やかで優美な絵を描き、瀟洒(しょうしゃ)な猫脚を付け、5オクターブの音域をカバーする鍵盤は、音色を変化させるために鍵盤を二段構えとするなど、ルイ王朝の宮廷を彩りました。今日、このフランス様式がチェンバロの標準型となっています。
19世紀に入ると、鍵盤へのタッチの強さで音の強弱が付けられるピアノに押され、 チェンバロ製作は途絶えてしまいます。しかし、19世紀末から復元が試みられ、20世紀後半には古楽器ブームのもと、再び脚光を浴びることとなりました。アーティキュレーション(音と音のつなぎや区切りの仕方)を使い分け、速度(テンポ)を揺らすなど、チェンバロは、繊細な音の変化で音楽を豊かに表現します。日本でもチェンバロに魅せられた演奏家やチェンバロ製作家が数多く活躍しています。
*オランダ南部、ベルギー西部、フランス北部にかけての地域
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県民ホールのチェンバロは、典雅な響きで知られる、アトリエ フォン ナーゲル社製
(1994年製作 フレンチダブル マニュアル ハープシコード 音域 FF~f³[61鍵]) ©T.Kaneiwa