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俳句療法という俳句の新たな展開

2024.08.09 07:59

https://ameblo.jp/amenooshiwo/entry-12841986461.html 【俳句における癒やしの力】より

 最近、大学や企業において日本語教育に関心が寄せられている。例えば医学部では、高い倫理観やコミュニケーション能力あるいは研究における創造性などに資すべき豊かな人間性の涵養がそこに求められる。

 現在、私は自治医科大学で日本文学(古代~近代)と文芸創作(俳句・短歌)を授業しているが、毎年、これらを選択受講する医学生の数は少しずつだが増えている。「活字離れ」が進む昨今だが、日本語文化の底力は辛うじて残っているようだ。

 それにしても現代の医療現場の忙しさは尋常でない。それでも医師は患者との十分な信頼関係を速やかに確保しなければならない。短い言葉で心の交流を図る俳句の文芸性が威力を発揮する所以がここにある。

  かぜの子に敬礼をしてかぜ心地             細谷喨々

 細谷氏は小児科の名医として第一線で活躍している。小児科医の減少でますます多忙を極める現場にあっても自然に患児と目線を同じくする思いやりの心が掲句からひしひしと伝わってくる。「松の事は松に習え」と芭蕉は言ったが、同様に掲句では患者から病気のことを学ぶという謙虚な姿勢が咄嗟の敬礼に覗われると共に、さらにそれがユーモアによって詩的昇華されている。他者の立場に立って考えるという想像力が医師にも俳人にも肝要なのである。

  先生と話して居れば小春かな              寺田寅彦

 黛まどか著『あなたへの一句』に取り上げられた句である。この本は一昨年末に黛さんが創刊した携帯メールマガジン「俳句でエール!」の書籍版で、言語力の低下がもたらす人間疎外によって傷つけられた現代人の心を俳句の力で元気づけたいという願いに貫かれている。たとえ肉体的な難病に冒されたとしても、いやそうであればなおさら心からの対話がもたらす安穏は貴い。

  春隣病めるときにも爪染めて              黛まどか

 難病を克服した黛さんだからこそ心に深く迫るものがある。

                                            初出 : 朝日新聞2009年


https://ranyokohama.amebaownd.com/posts/8011687?categoryIds=5803370 【病と癒し】

https://ranyokohama.amebaownd.com/posts/8645601?categoryIds=5803370 【「 健康と病気の十大原理 」】


https://ameblo.jp/amenooshiwo/entry-12841992921.html 【俳句療法という俳句の新たな展開】より

  はじめに

 東京医科大学名誉教授の飯森眞喜雄が五十数名の精神患者(大多数が慢性期の精神病)に対して、詩歌療法の一つとして俳句療法を臨床的に応用した成果を「俳句療法の理論と実際―精神分裂病を中心に―」として『俳句・連句療法』(創元社・1990)に掲載した。これが日本で初めての学術的な俳句療法についての発表である。追って、私も統合失調症患者における俳句創作について『俳句・深層のコスモロジー』(雄山閣出版・1997)の「性的欲望と俳句」において報告した。その後の2008年、木下照嶽によって「俳句療法学会」が設立されたが、その名誉会長であった日野原重明の逝去を機にその活動はほぼ停止して久しいものがある。

  俳句療法の可能性

 俳句療法は、芸術療法における俳句という言語芸術を用いた詩歌療法の一つと位置づけられる。もっとも、ここでは精神疾患の治療というよりは、むしろ一般人向けのメンタルヘルスケアにおける俳句療法の在り方について述べたい。その概要のいくつかを以下に列挙する。(以下、俳句療法における指導者を助言者、俳句を創作する者を作者と呼ぶが、前者と後者が重複することもあり得る。)

① セルフコントロール : 俳句の短い詩形式は、作者が感情を簡潔に表現する機会を提供する。言葉を選び、俳句独特の制約の中で感情や経験を整理することで、作者は冷静に感情を認識し、それを処理する能力を獲得する。

② マインドフルネス : 作者は、自然や季節、感覚、感情などのテーマに基づいて、自由に俳句を創作する。助言者は、俳句を通して作者に対して鑑賞やアドバイスを述べて、深層心理やスピリッチャルな交流を図る。その際、作者は、自然(天然造化)や日常の瞬間に開かれる非日常的な詩境に参入することにより、日常的な社会的ストレスからの解放が期待できる。

③ 自己探求と洞察 : 俳句の創作は、内省と自己探求のプロセスを促進する。作者は、前述したような詩境において豊かな感受性を獲得し、自己の内なる世界に向き合うことで、新たな洞察や理解を得て、適切な自己肯定感を獲得する。

④ 人間関係の円滑化 : 俳句は短い詩形式でありながら、深い感情や意味を表現する力を持つ。句会やグループセッションでは、参加者同士が俳句の鑑賞を通して、他者への共感性や相互理解が形成される。これによって吾を知り、真のアイデンティティが培われ、同時に築かれる良好な社会性を介して、孤独からの解放が期待できる。

⑤ 高齢化社会におけるメンタルヘルスケア : 前述したような俳句療法は、紙とペンさえあれば行えることであり、老若男女に拘わらず、その適応が容易である。特に高齢者においては、脳神経の活性化が図られ、認知症対策や精神的アンチエイジングにも資するものと考えられる。

 このように、ますます高齢化する社会における精神衛生、あるいは、様々なハラスメントなどによって増大する社会的ストレスからの解放やカタルシス、さらには日常社会における硬直した二項対立的観念を超克する「ほんとうの幸い」へと人々を導く可能性を俳句療法は秘めている。

 もっとも、そうした心理的な効用を保証するためには、科学的なエビデンスに基づく俳句療法の確立が大切なことは言うまでもない。そのために今こそ「俳句療法学会」の再興と、それによって認定される俳句療法士の育成が喫緊の課題と言える。後者における必要条件としては、俳句の詩的創造性を熟知し、かつ、メンタルヘルスケアに通暁していることなどが挙げられよう。新しい時代における、もう一つの重要な俳句の展開がそこに始まるのである。


故日野原先生の著書です。予防医学としての俳句療法・・・自分を表現することは自己一致を促し、潜在意識の暗部を消し去る力になるからでしょうか?

日野原/重明

京都大学医学部卒業、同大学院修了。41年聖路加国際病院に内科医として赴任。51年米国エモリー大学に留学。73年(財)ライフ・プランニング・センター創設。早くから予防医学の重要性を指摘、患者参加の医療や医療改革に向けての提言。「生活習慣病」という言葉を提言するなど、医学・看護教育の刷新に尽力。2000年には「75歳以上」の新しい生き方を提唱して「新老人の会」を立ち上げた