心の歌よ!~日本人の『故郷』を求めて
Facebook伊藤 千尋さん投稿記事「心の歌よ!~日本人の『故郷』を求めて」出版
昨年10月から執筆していた新刊本「心の歌よ!」が刷り上がり、我が家にド~ンと届きました。表紙は鶯色の背景に朝露をかざした瑞々しい桜の花です。以下は「あとがき」の一部です。
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歌は、それを作りだした人の個性や好みだけではなく民族、時代、社会を醸し出す。人々の心を打つ歌、長く歌いつがれる歌は、作詞家や作曲家の脳を借りて民族や時代の魂が舞い降りたものと言えよう。広く愛唱される歌をつぶさに見て、その成り立ちを追い求めて行けば、作家の人間性を浮き立たせるにとどまらず、取り巻く風土や文化を映し出すことになる。歌の探求は、私たち自身を知ること、再発見につながる。
それだけではない。何か困難な状況に陥ったときや辛い時には、歌が私たちを慰めてくれるし癒してくれる。それどころか、燃え尽きそうになっていた精神を奮い立たせてくれる。歌が心に、困難に立ち向かう凛とした勇気を注ぎ、自分らしい人生を歩む手助けをしてくれるだろう。現に、ここに挙げた歌の多くが、そうした状況の下で作られ、闇に置かれた人々に光をもたらしてきた。
今も昔も、人の世はままならないことばかりだ。理不尽だと怒ることは多いし、不条理に絶望しかけることもある。しかし、ここに書かれた歌にまつわる人々の生きざまを読んで涙を流したなら、その涙の分だけ自分を取り戻し前に進むことができるだろう。
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<目次>
序章.日本人の歌
・日本人を引きつける「赤とんぼ」~兵庫県、北海道
5歳で別れた母、峠の彼方を、トラピストの赤とんぼ、親友・山田耕筰、日本はトンボの国、歌に癒しの力
第1章 人間愛
1.母よ、父よ、子よ
・世の母への感謝を込めた「かあさんの歌」~岡山県、長野県、東京都
家出先に届いた小包、かあさん「は」、母の手の記憶
・母を慕う太陽のような歌「上を向いて歩こう」~茨城県、北海道
安保闘争の挫折から、母ちゃん街道、スキヤキの名で、九ちゃんの星
・亡き父を慕う少年の心「小さな木の実」~兵庫県、岩手県
父を亡くした子の願い、交通遺児を励ます、死を肯定に変える力
2.兄よ、妻よ、夫よ
・夜空の星に早世した兄を想う「涙そうそう」~東京都、沖縄県
空から励ました兄、泣いて踊った沖縄のおばあ、貧しい開拓民の記憶
・辛い人生を夫婦で生き抜く「喜びも悲しみも幾歳月」~福島県、岩手県
孤島で灯を守る、この人となら、灯台守に嫁いだ娘、死の間際まで手を
・海を汚した公害を告発する「瀬戸の花嫁」~香川県、山口県
欲望が自然を破壊、人名による自立の島、日本のモデルを創る、働く人の手
第2章.生きる
1. 生きる
・故郷への思いがほとばしる「北国の春」~長野県、新潟県
故郷・八ヶ岳の春、歌う速さでできた、僕に幸せはないんですか、世間の冷たさが励ました
・母親と仲間への思いで流行らせた「星影のワルツ」~岩手県
苦難の中で見た星空、土の匂いの歌、電話・タスキ・サンドイッチマン、
・自分らしく生きることを訴える「ゴンドラの唄」~長野県
「即興詩人」から、薄幸の母を看取って、映画「生きる」
2.前を向く青春
・実は男の闘争宣言だった「神田川」~東京都
1時間で完成、闘う男の闘争宣言、凛として生きる美意識
・別れよりも旅立ちの思いを秘めた「なごり雪」~大分県
門が開いた、1拍の違い、旅立ちの歌
・真理に生きた女性の哀感がこもる「平城山」~奈良県、高知県
万葉の女性に思いを、「真理に生きたい」、非難をものともせず、生き方も恋も貫く
第3章.日本の伝統と風景
1.伝統美の力
・凛として生きる美の象徴「桜」~京都府
3代で違う歌詞、進化する歌、桜のテーマは「生きる」、京の桜守、シルクロードに桜並木を
・着物の美と凛とした女性を歌う「女ひとり」~京都府、茨城県
歌われた着物文化、後世に残る物、懸命に生きたあかし、色あせない日本人の心
・苦難の克服から生まれた民謡「南部牛追唄」~岩手県
陸の孤島の人間力、牛も涙を流す、「生命村長」、全国最悪が全国一へ、ロック調の民謡へ
2. 郷愁の四季
・日本人の原風景を描く「故郷」~長野県
あれが「かの山」です、志を果たした、自然を称える日本の唱歌
・可憐なようでたくましい「ちょうちょう」~愛知県
なぜ花でなく葉か、元は胡蝶、菜の花は自然エネルギー
・日本人の心にしみついた「茶摘」~京都府、静岡県
新芽摘み、茶と日本文化、独身女性は茜の襷、アメリカにも茶畑
終章.苦悩から歓喜へ
・国境を超えた和解「幸せなら手をたたこう」~フィリピン
お前を殺そうと、私たちは友だち、校庭に響く歌、生命倫理へ
・自由と喜びを歌う「第九交響曲・歓喜の歌」~徳島県、全国
アジアで初めての「第九」、寛容な俘虜収容所長、今や日本の市民の歌に
https://www.tokyo-np.co.jp/article/104341 【息づく日本の原風景 『心の歌よ! 日本人の「故郷」を求めて』 国際ジャーナリスト・伊藤千尋さん(71)】より
長く歌い継がれている歌はなぜ人々の琴線に触れ、魂を揺さぶるのか。その背景にあるものを探ろうと、歌の舞台となった地に足を運び、誕生のルーツを丹念に追った。考古学者さながら、埋もれていた事実を発掘するたびに「一つ一つの歌が宝物のように輝いて見えてきた」と振り返る。
童謡「赤とんぼ」を作詞した三木露風。五歳で生き別れた母の死を七十二歳の時に知らされ、懇願して亡きがらに一晩添い寝した。作曲の山田耕筰も少年時代に両親と死別している。「赤とんぼ」は米軍立川基地の拡張に反対する砂川闘争(一九五六年)で警官隊と対峙(たいじ)する学生、農民らが斉唱した。相手を人間的な気持ちに戻すことが狙いだったことを、当時の闘争幹部の証言で突き止めた。
「一人の人間として、これからどう生きるべきか。そんなことを考えるきっかけにしてくれる歌です」
♪兎(うさぎ)追いし かの山…と歌い出す唱歌「故郷(ふるさと)」。高野辰之が故郷の長野県永江村(現・中野市)の原風景を基に作詞した。冬のタンパク源を確保するため、大正時代まで村の恒例行事だった「兎追い」。岡野貞一による賛美歌を想起させるゆったりした曲調。日本人が望郷の念にかられるのは「二人の身体の中に日本の自然が息づいているからこそ」と分析する。
登場するのは、他に「かあさんの歌」「瀬戸の花嫁」「北国の春」「ゴンドラの唄」「桜」「茶摘」など計二十一曲。興味の向くまま「歌の探偵」として東奔西走。「一つの歌に人間模様、時代、社会、国民性が凝縮されていることを実感できた」と手応えを語る。
大学では混声合唱団に所属し、テノールのパートリーダーで活躍。最初に出合った歌がロマ民族を描いた「流浪の民」。その実態を知ろうと、大学の仲間と探検隊を組織して東欧に飛んだ経験を持つ。新聞社時代には世界八十二カ国を取材し、現地の多彩な歌に接してきた。収集した民族楽器は百を超え、歌への思いの深さは人後に落ちない。
本作の一連の取材で、自然とのつながりを日本人が大切にしてきたことを肌で感じ、この国の良さを再認識したという。「だからこそ、その大切な自然を今、自らの手で破壊していることに怒りがわいてきます」
十五日に『こうして生まれた日本の歌』が発売。九月刊行の『歌から見える世界』で三部作が完結する。
新日本出版社・一七六〇円。 (安田信博)