僕たちには革の魅力を伝えていく使命がありまして(その2)
こんにちは、安田です。
前回姫路には皮革産業が栄えているというお話しさせていただきました。
今回はもう少し深堀していきます。
姫路の伝統皮革【白鞣し革】ってご存じですか?
おそらくほとんどの方が初めて聞くワードだと思います。
実際、革のプロである僕ですら10年前は聞いたこともありませんでした。
しかし実は、この白鞣し革こそが日本の歴史上最も活用された日本の皮革のルーツだったのです。
1000年以上昔から伝統的に鞣されてきた姫路の白鞣し革。
原料となる鹿の皮を川水に漬け、毛根部に発生するバクテリアの酵素の力で脱毛し、塩と菜種油を使って揉みあげ、天日で干す方法で鞣す。
しかし川の水温や気温が高すぎると革にダメージを与えてしまう。常に自然相手の大変な仕事。
なんと、革を鞣すのに実に半年もの月日を要するという。
そんな白鞣し革の技術は実は戦後の高度経済成長期により絶滅しかけていたそう。
戦後、海外から早く大量に皮を革に鞣すことのできるクロム鞣しという技術が日本に入ってきて、姫路の多くの皮なめし工場はクロム鞣しを取り入れた。
何故かって?その方が儲かるから。
月日が流れ、1990年代になると遂に白鞣し革の継承者は1人となってしまったという。
父より皮なめし工場を受け継いだ新敏製革所の新田眞大(にったまとも)さんは
「このままでは姫路の白鞣し革は絶滅してしまう」という危機感を抱いた新田さんと伯父が世話人となり2,000年に白鞣し革保存研究会を発足。
多くの文献や資料を読み試行錯誤を繰り返し現代に白鞣し革を残すことに成功した。
白鞣し革は水と塩と菜種油のみを使って皮を鞣す原点にして究極の鞣し技術である。
その技術は世界的に見ても希少で究極のエコレザーと称される。
新田さんは言う「自然の物だけでなめしてるのがエコなんやない。ホンマのエコはその動物の生きてきた生きざまに魅了され、尊敬し、感謝をして一枚一枚丁寧に鞣すことや。すべての動物に個体差があるように皮もすべて同じでない。一枚一枚の皮と対話しながら鞣すのが俺の仕事や」と。
「なんぼいい革を作ったと自分で納得してても使ってもらわれへんかったら自己満足や。安田くんのように使ってくれる人、この革の良さを伝えていってくれる人が必要なんや」と。
その日最後に白鞣しの牛革を見せてもらった。
えらく大きい。なんと、牛の丸革を鞣したものだった。
「普通は牛の皮は大きいから背中で半分に切って鞣すんや。これはNHKの撮影用に昔なめした丸革の白鞣し。ところどころに血がついてるやろ?それ、牛の血と違うんやで。俺の手の血や。大きいし重たいからな、手で柔らかく揉むのに手から血が出るんや。これは売らずにおいておこうと思って。」
その革を見て触った瞬間に、僕はこの人の鞣す革を日本中に伝えていかないといけない。という使命にかられたのであった。