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スパークリングワインのメイラード反応

2024.08.15 15:45

2022年のカナダ オンタリオ州ブロック大学からメイラード反応とスパークリングワインについての総説論文です。

メイラード反応とは、アミノ酸と還元糖(酸化されやすい「アルデヒド基」をもつ糖のこと)の間で起こる非酵素的な反応で、多様な香り成分が生成され、複雑かつ多様な反応経路で生じます。一般的には、食品の調理過程で高温下にて進行する化学反応としてよく知られています。例えば、パンの焼き色やコーヒーの香ばしい香りはメイラード反応によるものです。しかし、この反応は低温でもゆっくり進行しワインでも反応が起こることが分かっています。スパークリングワインにおいては、特にトラディショナル方式にて瓶内二次発酵が行われた後、ワインが長期間酵母と接触することで、アミノ酸や糖分と共にメイラード反応が生じます。

メイラード反応の条件

低温での進行:

通常の食品調理とは異なり、ワインのメイラード反応は低温(10〜20°C)で長期間にわたってゆっくりと進行します。

酸性での反応:

ワインは酸性(pH 3〜4)であるため、メイラード反応は比較的ゆっくり進行します。一般的な食品のメイラード反応とは生成される化合物が異なり、特徴的な香りが生じることがあります。

糖とアミノ酸の供給:

ワイン中の糖分やアミノ酸は、主にブドウや発酵過程での酵母から生じます。これらの化合物はメイラード反応の前駆体として働きます。


メイラード反応がワインに与える影響

香りの生成:

メイラード反応は、ワインに特徴的な香りをもたらす化合物(フルフラール、ピラジン、またはチアゾールなど)を生成します。これらには、ロースト、キャラメル、ナッツのような香りなどがあります。これらの香りは、特に長期間熟成したスパークリングワイン、スティルワイン、シェリー酒などで顕著に感じられます。

色調の変化:

メイラード反応の進行により、ワインの色調が変化します。通常、メイラード反応は褐変化を伴うため、熟成したワインは深みのある色調になります。

風味の変化:

メイラード反応はワインの風味に影響を与え、特に香り、味わいに複雑さをもたらすことによって味わいが豊かになります。


スパークリングワインにおけるメイラード反応の役割

メイラード反応は非常に複雑で、糖分とアミノ酸の反応から数百から数千の関連する化合物が生成されます。スパークリングワインでは長期熟成によって、酵母の自己分解(オートリシス)によって生じたアミノ酸や様々な化合物がワイン中に溶出しメイラード反応を促進します。

スパークリングワインの製造プロセス

一次発酵: 

収穫されたブドウは全房で圧搾され、ブドウ果汁が発酵されてスティルワインになります。

二次発酵:

 瓶内で二次発酵が行われ、この過程で炭酸ガス(二酸化炭素)が生成されワイン中に泡が生じます。

熟成: 

ワインは酵母の死骸(滓)とともに熟成され、この段階で酵母のオートリシスが進行し、アミノ酸や糖分、その他の化合物がワイン中に溶出します。


メイラード反応の段階

初期段階: 還元糖とアミノ酸が結合し、N-グリコシルアミンが形成されます。この段階では生成物は無色です。

中間段階: pH依存的にアマドリ転移による生成物が生成され、これがさらに反応してα-ジカルボニル化合物(フルフラールなど)を生成します。但し、スパークリングワインでは、低温(約12~15°C)および低pH(pH 3~4)などの環境下で長期間にわたって熟成が行わるとα-ジカルボニル化合物の形成はゆっくりと進行します。

フルフラール(furfural): ナッツやパンのような香りを与える。
5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF): キャラメルのような香りがする。
メチルグリオキサール: 特有の香ばしい香りを持ち、ワインの風味に複雑さを加える。

最終段階: 高温条件下では、最終反応が進行して複雑なポリマー化合物や褐色色素(メラノイジン)が生成されます。しかし、通常のスパークリングワインでは高温になることはないため、このような生成物が形成されることはありません。


メイラード反応に影響を与える因子

温度と時間: 

反応速度は温度に依存します。高温では反応が速く進行しますが、低温下のワインではゆっくり進行するため、長期間の熟成が必要になります。

pHの影響: 

ワインの酸性度が高いほど、メイラード反応の進行が遅くなります。

金属イオンの影響: 

銅や亜鉛などの金属イオンは、メイラード反応を促進する触媒として働くことがあります。これらの金属イオンは、ワインの製造過程で使用される機材や添加物から供給されることがありますが、それらの影響は十分研究されていません。


ワインにおけるメイラード反応の研究

ワインにおけるメイラード反応は、特にスパークリングワインや長期熟成されたワインで重要な研究テーマとなっています。この反応がワインの風味や品質に与える影響を理解することで、より良いワインの製造や最適な熟成を考えることができます。今後の研究では、メイラード反応の進行条件による生成物の分析が進められており、特定の風味や香りを明らかにしつつあります。


私見:

一般的にスパークリングワインの熟成はよりゆっくりと、じっくりと進行します。そしてメイラード反応による変化がより重要であるため、今回の論文は外観、香り、味わいの変化を理解するためにわかりやすいと思いました。
「普通のシャンパーニュはワインセラーに入れずに、部屋に放置したり物置とかに入れた方が美味しくなる」と名言を残した友人がいますが、今回のブログでその理由が理解できそうです(笑)

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Reference:Charnock, H. M., Pickering, G. J., & Kemp, B. S. (2022). The Maillard reaction in traditional method sparkling wine. Frontiers in Microbiology, 13, Article 979866. https://doi.org/10.3389/fmicb.2022.979866