お子様とご子息
外国人観光客がたい焼きの餡子(あんこ)を「豆のジャム」と呼んでいて、なるほど!と感心した。
言われてみれば、確かに、餡子は、小豆(あずき)で作ったジャムだ。「目から鱗が落ちる」とは、まさにこのことだ。
さて、この「餡子」という言葉は、「明治時代から現れる俗語で、「餡粉」などの字も当てられた」そうだ。
へぇ〜。比較的新しいスラングだったんだね。
餡子は、もともとは「餡」と呼ばれ、「子」は単独では意味をなさないから、接尾語ということになろうか。
接尾語とは、「語構成要素の一。単独では用いられず、常に他の語の下について、その語とともに一語を形成するもの。意味を添加するもののほかに、上の語の文法的機能を変える働きをもつものがある。「彼ら」「殿さま」などの「ら」「さま」は前者、「深さ」「春めく」「男らしい」などの「さ」「めく」「らしい」は後者の例。接尾辞。」(『デジタル大辞泉』小学館)
様子の「子」、帽子の「子」、椅子の「子」、扇子の「子」、杏子の「子」、餃子の「子」など、いずれも接尾語だそうだ。
この接尾語と対をなすのが接頭語だ。
接頭語とは、「語構成要素の一。単独では用いられず、常に他の語の上について、その語とともに一語を形成するもの。語調を整えたり、意味を添加したりする。「お話」「こ犬」「御親切」などの「お」「こ」「御」の類。接頭辞。」(『デジタル大辞泉』小学館)
そうすると、面白いことに、相手を敬ってその子供を指す「御子様(お子様)」の「御(お)」は、接頭語で、「様」は、接尾語ということになる(『精選版 日本国語大辞典』小学館)。
この「お子様」が唯一用いられている法令が食品表示基準(平成二十七年内閣府令第十号)であって、その別表第十九(第四条、第五条関係)には、次のようにある。
「子供、高齢者、食中毒に対する抵抗力の弱い方は食肉の生食をお控えください」、「お子様、お年寄り、体調の優れない方は、牛肉を生で食べないでください」等子供、高齢者その他食中毒に対する抵抗力の弱い者は食肉の生食を控えるべき旨の文言を表示する。
「お子様」が食べるものと言えば、生肉ではなく、お子様ランチ。小さい頃は、デパートに行く際には、余所(よそ)行きの服(『名探偵コナン』のコナンくんの服装で、蝶ネクタイをし、靴はスニーカーではなく、黒のエナメル。)を着て、デパートの食堂でお子様ランチを食べるのが定番だった。
小さな国旗が欲しくてお子様ランチを注文するのだが、大事そうに持ち帰った国旗は、飽きられて部屋の片隅に放置され、いつのまにやらゴミ箱に捨てられているのが通例だった。
肝心のお子様ランチは、決して美味い料理ではなく、「お子様」と言いながらも子供だからこの程度でいいだろうという感じで、金儲け主義が透けて見えた。
同様に、店員が使う「お坊ちゃん」も、親に胡麻をする大人の下心が見え透いた。
そのため、他人から「お子様」・「お坊ちゃん」と呼ばれるよりも、「ご子息」と呼ばれることを好んだ。実際、私を「ご子息」と呼ぶ人たちは、落ち着きがあり、優しい雰囲気の大人だったということも影響している。
最近は「ご子息」「ご息女」という言葉をめっきり聞かなくなった。紳士淑女が死語になりつつあるから、致し方ないが、語彙の減少は、現代日本の品性の低下を表しているような気がする。