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こんぶトマト文庫のふみくら

8月16日(金)22時46分

2024.08.16 14:25

前職に就いていたころ、職場に届いたとある展示会の案内を見た僕は「これ行っていいですか?」と上司に駄々をこねたことがあった。当時勤めていた業種に係るものではあったし、確かに勉強にはなるものだったのだろうけれど、それ以上にその手の展示会に行った事が無かったからちょっと行ってみたいっス!というのがおおよその動機だった。

その手の催しに行くことを会社が奨励しているのなら交通費も出たのだろうけれど、あいにくとそういった気質には乏しい会社であり、そして慢性的に人手もなく、何を見て知り学んでこようがどのみち設備投資をするほどの余裕もなく、そもそも当時の僕の立場でそこに行くのは若干お門違いでもあった。お前が行ってどうすんねん、と他ならぬ僕自身が思っていた。だからそもそも会社が交通費を出す義理もなかったと思う。

結果、特に支援を頂戴するわけではなかったけれど浮いた休みをそこにあてがう許可を無事もらい、コミティア以来のビックサイトへはせ参じることにした。同人誌文化を前提にしているとあの奇抜な建物は一種の聖地であるけれど、そもそもは多種多様な企業・業界を対象とした展示会場であることを思い出す。当日の会場は現場・管理それぞれの職務をこなしているであろうバリバリのビジネスパーソンでいっぱいだったし、書籍界隈のソレとはまた異なる類の熱気で満ちていた。

主に食品製造や残渣処分に係る機器、従業員へ支給するサプライなどを紹介する企業が出店するブース、そしてその前で熱心に商品説明をする企業とそれを真剣な面持ちで聞く参加者、そしてその間をふらふら回遊している僕。使用済みの食器を全自動で洗浄したのちに容器の種別ごとにピックアップして重ねていくロボットは見ていて面白かった。食品汚泥の脱水機の仕組みを紹介しているブースは図らずも当時の仕事に直結する知識で大変ためになった。


一通り見て満足して飲食エリアでコーヒーを啜ってすっていたら、すぐ近くのフロアで国交省と経産省の官僚さんが来て「2024年問題」についてトークをする、とのことだったので、せっかくなので聞いていくことにした。


「2024年問題」を個人的理解でざっくり言えば

・今まで物流関係者(主にトラックドライバー)の長時間労働ありきで回ってきた物流業界なのだけど、お国から「ドライバーの毎月の残業時間ここまでにしなさい」というお達しが出て2024年に施行されることになった結果、輸送能力が下がって今まで回ってきたものが回らなくなって物の流れがうまくいかなくなるのではないか?

といった問題。ちなみにこの展示会は2022年に開かれたものなので、当該の問題は直前まで迫っていたし、2024年現在、既にそこは通過しているし状況は進行している。興味ある方は国交省が出してる資料とかご覧になってみると良いと思います。頭抱える話しか載っていない。

以前とある政治家が「高速道路で走行するトラックの制限速度を上げたら輸送能力が上がる」と言っていたが、安全面で見るなら当然言語道断な考え方となるのだけれど、移動速度が上がれば輸送能力もそれだけ上がるし、それくらい無茶な発想が出てくるほどにのっぴきならない状況であるとも言える。

少し本筋が逸れるけれど、今僕が住んでいるエリアでは「ツインライナー」というバスが走っている。通常のバスの車体の後ろにもう一台バスを連結させたような代物で、単純におよそ二倍の人員輸送能力を持っている。時折乗る機会があるのだけど、その度に運転手さんに通常のバス以上の敬意を覚える。あんなのよく運転できるな…閑話休題。

ふたりの官僚がそれぞれの領分から現状の危機を訴えていたけれど、特に印象深かったのは経産省の方で、パレットの規格統一化を進めていかなければならないのにそれが遅々として進まない現状に相当憤りを覚えている様子だった。仮にA社とB社のパレットが共通規格として成立していたら、トラックからの荷下ろしやトラックへの積み込みはフォークリフトで一発となるので大変楽なもんである。いいですよ、フォークリフト。

ただこれが共通していなかったりすると、寸法が違うパレット間への移動を人力で行なわなくてはならない(それを誰がやるのかといった問題も当然起こる)。じゃあ共通化したらいいじゃん、となればいいのだけど、世の中に流通している各種製品を運送するために使用するパレットを単一企画にするぞ、と言ったところで「いやうちの業界はその大きさだと滅茶苦茶不便だわ」ということはままあるし、パレットの大きさを変えてしまったらコンベアやパレタイザーの更新も無論必須であり、ン億円単位があっという間に必要となる。じゃあ頑張って人力で!っつったところでそもそもの人手も足りなけりゃ物流に携わる人間の高齢化も別問題として依然存在する。


僕自身は今まで積極的に物流に関わってきた訳ではないのだけれど、たまたま比較的近くで状況を眺めていることが多く、その短く浅い環境であってもゲンナリするほどの問題がそこにはあることを見てきた。きっとそれらも全くマシな方の状況だったのだろう、と昨今いろんな話を耳にしていてつくづく思う。

ネットが発達してどれだけ情報を瞬時に且つ大量に得ることが出来るようになったところで、未だに人間はネットの世界に自分の全てを没入させることが出来ない以上、物質を必要としている。そしてその物質を手に入れるためには、自分で取りに行くか、誰かに持ってきてもらうか、あるいはその掛け合わせをするほかない。加えて言えば、そのネットの力によって物流の総量(特に宅配)が上がっているのであれば、業界の如何を問わず全体の物流機能が著しく低下することは、言ってしまえば自明。輸送費の上昇や翌日配送の廃止の話は、物流に係る人でなくとも耳にしたことはあると思う。カスタマーレベルにまでそんな影響がでてきているのだから、いわんや業界内部をや。


そんなことを、今日とあるお店の物流についての話を読んで思い出した次第です。