東シナ海、南シナ海での脅威
https://ipdefenseforum.com/ja/2023/02/%E6%9D%B1%E3%82%B7%E3%83%8A%E6%B5%B7%E3%80%81%E5%8D%97%E3%82%B7%E3%83%8A%E6%B5%B7%E3%81%A7%E8%84%85%E5%A8%81%E3%82%92%E5%A2%97%E3%81%99%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%85%B1%E7%94%A3%E5%85%9A%E3%81%AE%E3%80%8C/ 【東シナ海、南シナ海で脅威を増す中国共産党の「第二の海軍」】より
インド太平洋の係争海域で、急成長し自己主張を強めている中国海警局が厄介な存在になっている。 インドネシア、ベトナムから日本、フィリピンまで、中国共産党の約150隻を擁する中国海警局の艦隊が近隣諸国の沿岸に出没し、時には漁船や石油、ガス、鉱物を求める船舶と衝突している。
中国海警局は、他国の排他的経済水域(EEZ)において権限の主張を強めている。排他的経済水域とは、沖合200海里(約370km)までの水域を指す。 中国政府は、南シナ海のほとんどの水域と地形が中国の領土であると主張しているが、2015年の国際法廷で、中国はそのような法的地位にはないことが宣言されている。
2021年2月に中国政府が施行した中国海警法は、中国が主権を主張する海域で活動する外国船に対して、この海警法を執行する艦隊が殺傷力を行使することを許可している。 この法律は国連海洋法条約に違反し、自由で開かれたインド太平洋の原則に逆行すると、ニュース誌「ザ・ディプロマット」は2021年4月に報じた。 「法執行機関と称しているが、中国海警局の戦闘能力はアジアのほとんどの海軍をはるかに凌駕している」と同誌は報じている。
共同通信が2023年2月上旬に報じたところでは、中国海警局は第二の海軍ともいえる存在であり、一部の艦船には軍艦と同じ大砲が装備されている。 2015年4月の時点で、米国海軍研究所は中国共産党が 「海警法執行、および海警局を国家運営の道具として着実に利用している」と指摘していた。 それ以来、中国海警局は劇的に成長し、船舶や人員を増やし、対立を引き起こしている。
中国とフィリピンの法執行機関と中国海警局は、2022年11月末に中国のロケットの残骸を回収していたフィリピン船の引き綱を中国海警局の船員が切断した際に、パグアサ島(ティトゥ島)沖で対立した。AP通信によれば、アユンギン礁とも呼ばれるセカンド・トーマス礁でフィリピン海兵隊への食糧輸送を妨害しようと中国海警局の船舶が放水砲を発射してからおよそ1年後のことだ。 フィリピン沿岸警備隊は、この地域の漁民などに対する中国海警局の脅威を阻止するためにパトロールを強化していると、ロイター通信は2023年2月初旬に報じている。
2023年1月下旬、東シナ海の尖閣諸島周辺の日本の領海で、中国海警局の船舶4隻が民間船に接近したことを、ジャパンタイムズ紙が報じた。 日本の海上保安庁の船は、中国海警局の船に対して退去を要求した。 両国はこの海域の排他的権利を主張しており、しばしば対立の場となっている。
ラジオ・フリー・アジア(RFA)は2023年1月、中国海警局最大の船舶が、インドネシアとベトナムが領有権を持つナトゥナ海のガス田と油田の近くで数週間にわたり巡行し続けていたと報じた。 インドネシアの軍艦が中国海警局の船舶を監視した。
戦略国際問題研究所のアジア海上透明性イニシアティブ(Asia Maritime Transparency Initiative – AMTI)によると、中国海警局は2022年に南シナ海5か所でプレゼンスを高め、一部の地域ではほぼ毎日巡行を実施している。
例えば、2012年に中国がフィリピンから奪取したスカボロー礁では、中国海警局の船による巡行が2020年の287日から2022年には344日に増加していることが、AMTIの分析で明らかになった。 (写真:2022年12月下旬、南シナ海のスカボロー礁を巡行する中国海警局の船) ベトナムが石油・ガス開発を行っているバンガード堆では、中国海警局の船による巡回は2020年は142日であったのに対し、2022年は310日にまで達している。
こうした活動は、中国政府が自国の領土と主張する広大な海域を支配しようとする決意を示していると、AMTIの2023年1月の報告書は結論付けている。
一方、東南アジア諸国連合が最近復活させた南シナ海行動規範の策定作業は、地域の様子が合意に資するものではないため、成功の見込みはほとんどないと、アナリストらが2023年2月初旬にベナール・ニュースに語っている。
シンガポールのS・ラジャラトナム国際研究大学院のコリン・コウ(Collin Koh)研究員は同ニュースに対し、「インドネシア、マレーシア、フィリピンなど東南アジアのライバルに対する中国の最近の海上での強制的な行動は、信頼の構築に寄与しないだろう」と述べている。
画像提供:APF/GETTY IMAGES
https://globis.jp/article/4358/ 【東アジアの安全保障~北朝鮮・東シナ海の脅威にどう立ち向かうか G1サミット】より
https://www.youtube.com/watch?v=0o1Tso0mTBQ
第5部分科会C「東アジアの安全保障~北朝鮮・東シナ海の脅威にどう立ち向かうか~」
2016年1月には北朝鮮が「水素爆弾実験」の成功を発表し、翌2月には弾道ミサイルの発射が行われた。中国は南シナ海に人工島の造成を進め、周辺国が領有権を巡って対立。東シナ海では尖閣諸島問題で日中間での緊張が続いている。激変する国際情勢の中で、東アジアの安全保障をどのように考えるべきか。日本のとるべき外交と安全保障政策を議論する(肩書きは2016年3月20日登壇当時のもの)。
https://www.sankei.com/article/20150708-2QRN6TLW6ZLRXNFOYRE6YHFFOU/ 【中国のガス田開発 国は東シナ海の脅威語れ】より
2015/7/8 05:03
東シナ海の日中中間線付近のガス田で、中国が海洋プラットホームを急増させている。
国際社会が非難する南シナ海での人工島建設と同様に、東シナ海でも軍事拠点化が進行している疑いがある。政府は把握している事実を公開し、東シナ海における脅威を語るべきだ。それが国を守る議論に通じる。
ジャーナリストの櫻井よしこ氏は産経新聞への寄稿で、最近1年間にプラットホームが12カ所へ倍増したと指摘し、中国の軍事利用に警鐘を鳴らした。
これを受け菅義偉官房長官は平成25年6月以降、中国がプラットホームを増やした実態を政府が把握し、中国に繰り返し抗議したことを明らかにしたが、詳細については、情報収集や外交交渉への支障を理由に言及を避けた。
日中は20年にガス田の共同開発で基本合意したが、22年の尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で交渉が中断した。日本の関心が尖閣周辺における中国公船の領海侵入や南シナ海に向いたすきに乗じてプラットホームの建設を急ぎ、既成事実化を狙ったようにみえる。
これは共同開発の合意をほごにする行為である。日本の資源が奪われている可能性もある。
それ以上に、軍事的にも大きな脅威だ。南シナ海の岩礁を埋め立て軍事基地を建設中であることから分かるように、中国軍には、国際ルールや国際社会の批判を無視し、使えるものはなんでも使う臆面のなさがある。
プラットホームは巨大であり、石油・天然ガス掘削用の民間施設を装いつつ、軍事基地へ容易に転用できる。軍用ヘリや無人機の離着陸はもとより、武装した兵員を配置し、レーダー施設、対空・対艦ミサイルの拠点にできる。
櫻井氏が指摘したように、レーダーを置けば、大陸から尖閣周辺までしかカバーできなかった中国軍の監視の目が、南西諸島全域に及ぶようになる。自衛隊と米軍の行動が把握されることは、沖縄防衛にとって大きなマイナスだ。
民主国家において、把握した事実は公開されることが原則だ。
眼前の東シナ海に脅威があるなら、国民はこのことを知るべきである。政府与党が早期成立を目指す安全保障関連法案についても、こうした国際環境を国民が正しく理解することで、議論が深まるのではないか。
https://www.nippon.com/ja/in-depth/a00504/ 【中国の動向と日本の海洋戦略】より
政治・外交 2012.02.02
道下 徳成 【Profile】
海洋戦略における中国の台頭が著しい。防衛政策を揺るがしかねない事態に日本はどう対処するのか。政策研究大学院大学の道下徳成准教授がその対処方法と課題を考察する。
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近年、米国や欧州における財政危機などにも助けられ、中国の台頭が一層目立つようになっている。筆者は講演のための出張先である欧州で本稿を執筆しているが、こちらでも中国の話題になると聴衆の目の色が変わるのが分かる。マドリッドにおける議論では、スペインの政府関係者が中国に対する武器輸出に肯定的な見解を示すなどして、驚かされた。財政危機に直面しているスペインにとって、国債を買ってくれる中国は明らかに友好国なのである。
中国はグローバルなプレゼンスを示しつつ、アジア地域においても着実に影響力の拡大を進めている。そして、そのための手段の1つが海空軍を中心とする軍事力の増強と近代化であり、その運用方法の多様化である。一言で言えば、中国は海空軍力の増強によって、いわゆる「アクセス拒否能力(anti-access capabilities)」を構築しようとしているのであるが、これは南シナ海、東シナ海、黄海などから米国をはじめとする他国の影響力を排除し、それを通じて、地域において自国に有利な秩序を形成することを目的とするものである。
こうした状況の中、日本をはじめとするアジア諸国にとって、「中国の台頭による秩序変化にどう対処するか」が外交・安全保障政策の最大の焦点になってきている。本稿ではこうした認識に立ち、海洋における中国の動向と、それに対して日本がどのように取り組もうとしているのか、また、今後の課題としてどのようなものがあるかを論じることとする。
1 中国の動向
現在、中国が強化しつつあるアクセス拒否能力の目的は、短期的には台湾への米国の介入を阻止するためのものであり、中長期的には米国や日本をはじめとする地域諸国が、領土や資源の帰属を含む地域秩序のあり方に口出しできなくするようにするためのものであるとみられる。そして、中国はその手段として各種の水上艦艇、潜水艦、戦闘機、爆撃機、巡航ミサイル、弾道ミサイル、対艦弾道ミサイル(ASBM)などを増強あるいは開発している。中でも、中距離弾道ミサイルや長射程の巡航ミサイルは前方展開された米軍や在日米軍基地に脅威を与えることができ、多数の対艦ミサイルを搭載したソブレメンヌイ級駆逐艦、静粛性にすぐれるキロ級潜水艦などは、米国の空母をはじめとする機動打撃部隊が中国の周辺海域や西太平洋で行動するのを阻碍することができる。一方、ASBMは技術的には実現困難であり、米海軍にとっての現実的な脅威とはなり得ないであろう。しかし、実際に命中しないとしても、ASBMが配備されれば米軍はコストのかかる対抗措置をとらざるをえなくなり、また、米国の政策決定者は中国近海への空母などの配備をためらわざるを得なくなる。そして、ASBMがなくても、J-20ステルス機をアクセス拒否のために用いることは十分可能である。
なお、中国のアクセス拒否戦略は、多くの点で冷戦期にソ連が採用していた「海洋支配」および「海洋拒否」戦略と共通している。当時、ソ連はオホーツク海を聖域化し、この周囲に「海洋支配」および「海洋拒否」ラインを設けて、オホーツク海へのアクセスを拒否しようとしていた。現在、中国は自国の周辺に「第1列島線」と「第2列島線」という2つの防衛ラインを設けて、南シナ海、東シナ海、黄海を聖域化しようとしている。中国が、ロシアが冷戦期に開発・生産した装備を多数導入しているのは偶然ではない。
2 日本の対応
それでは、こうした中国の動きへの日本の対応はどのようなものであろうか。日本の対応には3つの側面があり、1つめは日本独自の対応、2つめは米国との協力を通じた対応、3つめは地域諸国との協力を通じた対応である。
(1)日本独自の対応
まず、1つめの日本独自の対応の基本的な姿は、2010年に改訂された防衛政策の基本文書「防衛計画の大綱」(以下、新大綱)に示されている。新大綱は、平時から戦時にかけて発生する各種のシナリオに柔軟かつ「シームレス(切れ目なく)」に対応することを目的に、「動的防衛力」という考え方を示している。動的防衛力とは、警戒監視活動を強化することによって平時における情報収集能力と地域におけるプレゼンスを高め、また演習や訓練を強化することによって平時におけるプレゼンスと、危機や紛争の発生時に必要な即応体制を向上させるというものである。
こうした考え方は、これから中国との関係で中心的な課題となるのは、「がっぷり四つの本格的な軍事衝突」ではなく、「軽いジャブの応酬を繰り返す平時における競争」であるとの認識に基づいている。2010年、中国海軍の艦載ヘリが海上自衛隊の護衛艦の近くを飛行するという威嚇行為を行ったり、中国船が日本の排他的経済水域(EEZ)内(中国は自国のEEZ内と主張)で海上保安庁の測量船を追跡し、調査中止を要求したりするなどの事案が発生しているが、このような牽制行動こそが、今後、日中間で発生する典型的な事態であると考えられる。中国がこれからも同様の行動をとり続ければ、より深刻な危機が発生しても不思議ではない。また、同じく2010年に発生した尖閣諸島における中国漁船衝突事件に見られるように、必ずしも両国政府のコントロールの効かない民間人の行動によって危機が引き起こされる可能性もあり、事態を一層複雑化させている。
1950年代から60年代にかけて米ソ間に数々の危機が発生したが、これは、当時、冷戦が始まってからあまり時間が経っておらず、両者の間に「ゲームのルール」が確立していなかったためである。そして現在、中国と周辺諸国の間には「ゲームのルール」は確立していない。両者は相互に牽制行動をとりつつ、「ゲームのルール」を作る作業にようやく着手したばかりである。こうした時代にはどうしても事故が起こる。2001年の海南島でのEP-3事件や、2010年の中国ヘリによる威嚇飛行、そして尖閣での事態は、今後発生するであろう危機の予兆に過ぎない。こうした時代には危機管理が重要になり、あらゆる事態において関係各国が迅速かつ賢明な対応をとることが不可欠となる。
(2)米国との協力を通じた対応
次に、米国との協力を通じた対応についてであるが、ここで重要なのは、現在、新しい作戦概念として注目されている「エアシーバトル(air-sea battle)」である。これは米国が中国のアクセス拒否戦略に対抗するために開発中の作戦概念であり、長距離攻撃能力の向上や海空軍の共同作戦能力の強化を進めようとするものである。そして、「エアシーバトル」の実施にあたっては、在日米軍基地の防衛に自衛隊が重要な役割を果たしていること、中国の防衛ラインである第1列島線が日本の南西諸島に沿って引かれていること、そして自衛隊が強力な対潜水艦戦(ASW)能力を備えていることなどから、日本の協力が不可欠であると考えられている。冷戦期、ソ連の海洋拒否戦略に日米がいわゆる「海洋戦略(Maritime Strategy)」で対抗し、日本がASW、防空戦、機雷戦などで重要な役割を果たしたが、今後、中国のアクセス拒否戦略に対して、日米が共同で実施する「エアシーバトル」が重要な役割を果たすようになると考えられる。
(3)地域諸国との協力を通じた対応
最後に、地域諸国との協力を通じた対応であるが、中国の経済成長率と日米の経済状況を比較すれば、日米だけで中国の台頭に対応するのが困難であることは自明であろう。2010年までの過去10年間に、日本の防衛費は1.7%減少したのに対し、中国の防衛費は189%増加している。日米両国はそうした現実を踏まえ、環太平洋連携協定(TPP)などによって経済成長の促進を図ろうとしているが、それだけで中国に追いつくことは不可能である。
このため、日米両国は地域の友好国との連携を強化することによって、中国の台頭に対応しようとしている。2010年の新大綱が韓国、オーストラリア、ASEAN諸国、インドを名指しし、これらの国々との防衛協力を強化する方針を示したのは、まさにこのためであった。
日本近海などにおける中国艦船の活動例
2004年11月 原子力潜水艦が沖縄近海を潜没航行
2005年9月 ソブレメンヌイ級駆逐艦等5隻が東シナ海・樫ガス田付近を航行
2008年10月 ソブレメンヌイ級駆逐艦等4隻が津軽海峡を通過。
2008年11月 ルージョウ級駆逐艦等4隻が沖縄本島と宮古島の間を抜けて太平洋に進出。
2008年12月 海洋調査船2隻が、尖閣諸島内の領海内に侵入。
2009年6月 ルージョウ級駆逐艦等5隻が南西諸島を通過して沖ノ鳥付近まで進出。
2010年3月 ルージョウ級駆逐艦等6隻が沖縄本島と宮古島の間を抜けて太平洋に進出。
2010年4月 キロ級潜水艦、ソブレメンヌイ級駆逐艦等10隻が沖縄本島と宮古島の間を抜けて太平洋に進出。
3 今後の課題
本稿を終えるに当たって、今後、日本がとるべき措置をいくつか指摘しておきたい。まず第1に、日本は今後、「エアシーバトル」の発展に積極的に関与していくべきである。現段階では、「エアシーバトル」は細部まで煮詰まった作戦概念とはなっていないし、各国の役割分担も明確化されていない。従って、これからも、まだまだ改善の余地がある。例えば、「エアシーバトル」は冷戦期の「エアランドバトル」のような縦深攻撃を重視するものであるとの議論がなされているが、米中の本格的な直接戦争でも発生しない限り、米国が中国に対して本格的な縦深攻撃を行うことはあり得ない。そうであれば、可能性の低い米中戦争に備えて、長距離攻撃能力に膨大な資源を投入する必要があるのであろうか。もちろん、こうした能力の保有には、平時において中国に防衛コストを強いる戦略(cost-imposing strategies)という面もあるのだが、それにしても、そのための財政負担の大きさは無視できないものであろう(※1)。今後の中国との競争の形態が、「軽いジャブの応酬を繰り返す平時における競争」となるのであれば、どちらかといえば、中国大陸の外の海空域における競争に資源を集中させる方が合理的であるかもしれない。
また、「エアシーバトル」についての報告書は、「米国がエスカレーションの全ての段階で優位に立つ能力をみせることで危機の安定性を高める」という考え方が示されているが、そのように贅沢な能力を維持し続けることができるかどうかにも疑問がある(※2)。こうした状況における作戦概念のあり方は、中国との間に発生する衝突や危機がどのような形態をとり、また、我々がそれをどのように解決しようとするのかという政治判断によって規定されるべきであり、軍事作戦上の合理性によって主導されるべきではない。その意味で、平時から戦時への全てのシナリオに「シームレス」に対応しようとする「動的防衛力」という日本の考え方は、よりバランスのとれたものであり、「エアシーバトル」をこのようなシームレスな対応策の中のどこに、どのような重みで位置づけるのかを米国と真剣に議論すべきであろう。
第2に、今後の戦略を考える上で、日本は自国の比較優位がどこにあるかを冷静に見極める必要がある。例えば、2010年に米国が発表した「4年ごとの国防見直し(QDR)」は、今後の中国との競争において「水中における作戦上の優位を活用する」ことが重要であると指摘している。これについては、伝統的に自衛隊が強力なASW能力を有していることや、新大綱で潜水艦の保有数を16隻から22隻に増加させようとしていることなどから、明らかに日本が活躍できる分野である。また、同様に、QDRは「米前方展開戦力の抗堪性を向上させる」ことを謳っているが、これも在日米軍基地の抗堪性の向上や基地機能の分散など、日本にも関係のある課題である(※3)。
最後に、今後、対中戦略を策定する上で、中国自身も明確かつ完成された戦略を持っているわけではなく、中国の戦略も変化し続けるであろうことを念頭に置いておく必要がある。中国の将来が不確実であるという事実は誰もが認識しているが、中国の将来は中国の指導者にとっても不確実なものであることを忘れてはならない。1970年代から80年代にかけて、日米両国は太平洋戦域におけるソ連軍の増強に共同で対処したが、西側の海上交通路(SLOC)攪乱を目的としていた70年代のソ連海軍戦略と、戦略核戦力の運用が中心目的となっていった80年代のソ連海軍戦略は全く異なるものであった。今後、我々が対中戦略を考えるときにも、常に中国の軍事・外交戦略の変化や、我々の戦略と中国の戦略の相互作用に十分配意しながら作業を進めていくべきである。