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一般社団法人 江戸町人文化芸術研究所

vol.76『遠山金四郎の時代』を読んで

2024.09.24 20:20


↑ 誰だこの爺さん?

と思ったら遠山の金さんです。金さん。

こっちの画像の方がピンと来ますね ↓

本名は「遠山景元(かげもと)」って言うらしいのに、通称は「遠山金四郎」なんですってさ。なんでだよややっこしい。


ちなみに有名な「この桜吹雪がまるっとすべてお見通しだ!」のイメージ(なんか違う)は、あくまでフィクションで、そもそも刺青があったかどうかも不明らしい。けども、12th家慶から絶大な信頼を受けていたこと、天保の改革水野忠邦鳥居耀蔵コンビの厳しい規制に反対したり、緩和させたことなどから、人気の名奉行であったのは事実だったご様子。


てなわけで今回は、この本を読んで知った、本当の遠山金四郎像をまとめてみることにしよう。




⚫︎ 青年期は家出して町で放蕩生活


なんかね、親父がね、子供のいない遠山家の後を継ぐために養子になったんだけど、後になって遅まきながらその養父に息子が生まれて「こっちの方が正当なる後継ぎじゃん」てなっちって、ほんなら、その息子を親父の養子にして、成長したら遠山家の家督をまた直流に戻しましょ、ってことになったんだと。で、その直後に俺(金さん)が生まれるわけ。けど、さっきの養子縁組の手続きする上で、実の子がいないから養子の申請するものなのに、実の子がいるとなると審査が通らんつって、俺は生まれてないことにして、出生届もその養子手続き完了後の9ヶ月後に、ようやくしたらしい。ひどくね?


親父はマスオさんみたいなもんで、カツオが兄ちゃん、俺がタラちゃんよ。(厳密にはマスオさんは養子じゃないからちょっと違うんだけど)要は、俺あんま居場所ないわけよ。遠山家の正当な後継ぎはカツオ兄ちゃんだからさ。ってことで、若い頃は家出して町で好き勝手にフラフラ遊んで暮らしてましたわ。悪そな奴はだいたい友達。その時期にノリで刺青も入れたような入れなかったような。忘れたわ。


だし、まあ庶民の暮らしっぷりは、よく知ってる。10代の頃は、寛政の偉老による風紀取締りが続いてて、出版規制とかで蔦重の息子さんも苦労してたな。贅沢品も禁止だったし、みんな「元の田沼の濁り恋しきー!」つってたわ。あと、個人的には銭湯を混浴禁止にされたのが許せなかったな。庶民のささやかな楽しみを奪うならグレてやるぞ!って思ったもん。


けど、20代になったら世間のムードが一転してさ。老中が水野忠成に代わってからかな、急に町にパリピが増えたんよ。歌舞伎座とか寄席とか、盛り場はいつも盛り上がっててさ、祭りも花見も花火も賑わってたな。風紀もどんどん乱れて、カオスな感じで楽しかったわ。永代橋が崩落して人死にまくった時はさすがにビビったけど。


で、25歳くらいん時に、カツオ兄ちゃんの子供が早世しちゃって「また後継ぎいなくなったから、お前がカツオ兄の養子になって、後継げ」言われてさ。もうワケ分かんないけど、だいぶ遊び尽くしたし、継げる家があるなら継ぎますか、って感じで遠山家に戻ったのよ。いわゆる放蕩息子の出戻りなんだけど、怒られるどころか、歓迎されてさ。逆玉の嫁さんまで、もらっちって。だし、こっからは真面目に生きよ、って気持ち切り替えたわけ。それから親父が死んで、俺が幕府に出仕することになって、12th家慶の世話役になって、え? 将軍を呼び捨てすんなって? いーんだよ、タメだしアイツ。気に入られてっし、俺。


その後、なんかいろいろ出世して、40後半で今の北町奉行に収まっとりますわ。若いころ町で遊んでたから、町人の事情もよく分かるんで「名奉行」なんて持てはやされちゃって。と、まあ、なんだかんだ順調なリア充人生を送ってたんだけど、大御所様が亡くなったとたん、新老中の水野忠邦って奴がなんか、天保の改革だー言うてハリキリやがっててよ。ちょいちょい呼び出されっから、今日も城行ってくるわ。ダリーけど。じゃーな。




⚫︎ 奢侈禁止令に反対


あのですね忠邦さん、貴方が出した奢侈禁止令のせいで、町の呉服屋の売上はガタ落ちです。また、世間体をはばかって新たに家建てるのもみんな控えてるから、大工も仕事がなくて困ってます。水茶屋も料理茶屋も、閑古鳥が鳴いてます。大不況っす。このままだと天保の大飢饉よりヤバい状態になりそうです。貴方が浮かれ過ぎた風紀を正したいのは理解してますよ。してますけど、ちょっと禁止ペース早すぎすわ。困窮者が溢れたら、救済で余計に金かかることになりまっせ?


一方で、庶民に奢侈を禁じておきながら、武家は例外って、そりゃないでしょう。武家や大奥では、まだ奢侈りまくってるじゃないですか。禁ずるなら、将軍から大奥から幕府から、お手本を示さなきゃ。でないと、暴動になりますよ。次にまた何か贅沢を禁ずるなら、武家も対象にしてます、って書いたやつにしてくださいよ。じゃないと自分、次のお触れ、町にリリースできねっすよ。こんなんもう、米屋とか武家屋敷を打ち壊していーよ、って言ってるようなもんすもん。第二の大塩平八郎の乱が起こりますわ。


とにかく、町を急激に不景気にして良いことなんぞ、一個もないですってば。だし、ペース緩めましょ。ね? 自分、なんか間違ったこと言ってます?




⚫︎ 寄席の撤廃をめぐって口論


えっと、すね。寄席ってのは、歌舞伎みたく観覧料がバカ高くないから、庶民の息抜きの場なんですよ。手品とか落語とか人形劇とか、可愛いもんすよ。まあ、中には女浄瑠璃とかいって、会えるアイドルまがいの良ろしくないのもありますから、それは規制してきます。はい。けどね、だからって無闇やたらに撤廃ってのは、、ちょっと。勧善懲悪とかの歴史もんは、ある意味、庶民に道徳を教える授業みたいな面もあるわけですし。


それに、撤廃すると芸人らが職失うでしょ。あいつら芸しかできないから、農民にも商人にも転職できないんで、やがて確実にゴロツキ化します。いや、ホントに。寄席という安い娯楽を奪われた観客の方も、次は100パー賭博に走ります。間違いないっす。結果、罪人を増やすだけなの、目に見えてます。一部の品の無い演目が目障りだからって、全部NGにすんのは間違いですって。8割はささやかで健全な娯楽の場なんすから。


え? じゃあ15軒だけなら許してやる? ええ〜、今211軒もあんのに? 忠邦さん鬼っすか?




⚫︎ 芝居所の所替え案にツッコむ


ところで、この決定済みってなってる「中村勘三郎座が火事で燃えたついでに、芝居所を青山とか四谷あたりの、淋しい場所に移転させようぜ、案」ですけど。。移転させたら、芝居と関わる料理茶屋から食物商人まで、全部一緒についてくんで、移転先がまた繁華街化して、せっかくの山の手の質素な風紀が、壊れますよ? 乱れてない土地を乱して、どーすんすか? それ、何か意味あります?


そもそも、火事で貰い火しても、芝居町の人らは出てって欲しがってなんかいませんし。むしろ、移転されたら生活に差し支える、って反対してますよ。なのにやる? 見せしめ的に、市川團十郎を処罰したのも、意味わかんないっすよ。ちなみに家慶、じゃなくて将軍様も「遠山の言うことももっともだ」言うてますよ。え? だから青山や四谷はやめて、浅草にすることにした? いやいやいや、場所の問題でなくてー。あー噛み合わねーなマジでー。




⚫︎ 株仲間解散令に抵抗


はいはい。確かにリリースしないで、しばらく手元に置いときましたよ、株仲間解散令。で、それがサボタージュだって「将軍へ御目通り禁止」の罰すか。チッ、わかりましたよ。受けますよ罰、受けりゃいーんでしょ。けどね、南町奉行のヤベッチ(矢部定謙)の罷免は酷すぎません? 絶対あれ鳥居耀蔵の言いがかりじゃないすか。ヤベッチ、怒って断食して、死んじゃいましたよ。どうすんすか。いやいや「ね〜」じゃなしに。


だいたいね、物価が高騰してるのは、株仲間のせいじゃないですって。各地から江戸に物資を直送して良い許可を幕府が与えたから、物流No.1の大阪の取扱量が減って、だから大阪問屋が値上げせざるを得ないのが原因なんだって、ヤベッチあれだけ言ってたじゃんすか。なのに、それを無視して商人憎しで株仲間解散させるから、市場大混乱っすよ。結局、よけい物価高騰してるじゃないすか。


で、ヤベッチの後任に鳥居耀蔵ですか。。改革が進まないのは、自分とかヤベッチのせいだと? あのね、まともな案なら反対しませんよ、自分だって。どうしてこうも次から次へと、馬鹿な案ばかり、、あ、いえ何でもござらんす。




⚫︎ 人返しの令に代替案を提言


だから、帰れつって素直に帰るわけないでしょが。江戸なら「其の日稼ぎ」で白米食べて生きてけるのに、誰が過酷な農家に帰ります? お願いですから現実見てくださいよ〜。こんなの命令したって、無理なもんは無理ですて〜。強制送還も不可能です。そんな人員、どこにいますよ。イーサン・ハントでもインポッシブルなミッションなんですってば。英語わかります? やっぱわかんねーか、クソッ。


とりあえず代替案として、これ以上、江戸の人口が増えないように「人別改め」を強化しましょう。新しく江戸に入ってくるなら、ちゃんと申請させて、帳簿に登録させます。で。悪いことしたら国に帰すか、蝦夷地で働かせるとかしますんで。そうすりゃ今までみたく、ガンガン増えないでしょ。まあ、言い換えれば、今までがザルだったから江戸に人口集中しちゃったわけっすよ。つまり、幕府の責任じゃないすか。その責任に触れもせず、急に「帰れ!」ってのはダサすぎっしょ。


だから道理を通すため、まず人別改をちゃんと、、はい? 自分を大目付役に人事異動? それって、確かに昇進ですけど、今の実務ができなくなる立場っすよね。つまり、ていの良い追っ払いじゃんすか。。え、なに「話は以上」って。じゃ、今日はその話だったわけ? えー、それ先に言ってくださいよー、すっごい独り語りしちゃったじゃないすかー!




と、言うことで、無理のある改革案にことごとく反対していた金さんは、とうとう実務から遠ざけられてしまいました、とさ。おしまい。なんだけども、その町人想いの抵抗っぷりは、後世に語り継がれ「嫌われ者の水野忠邦&鳥居耀蔵 VS 庶民の味方 遠山金四郎」って構図が美化され、フィクション化され、かくして我々の知る人情味あふれた「遠山の金さん像」が出来上がったのでした。


例えるなら「新任の理想論上司(水野忠邦)」と「策略家の側近(鳥居耀蔵)」の、変な社内改革を「現場調整役の中間管理職(金さん)」として、なるべくマイルドにマイルドに軟着陸させることに尽力したのだけども、その努力も虚しく、断行されまくった挙句「あいつ社長のお気に入りだから処分できないし、逆に昇進させて蚊帳の外に行ってもらいまひょ攻撃」を受けて飛んでいった、といった感じでしょうか。


しかしそれにしても、この時代のことは詳しく教えてもらった記憶がなく、こうしてじっくり学んでみると、予想以上にバチバチした政治バトルが繰り広げられてて驚かされました。私はふざけた調子でまとめちゃいましたが、これ実際は、半沢直樹のテーマソングが流れくるような、相当ピリついた雰囲気でやってたんでしょうね。

そーゆーストレス高めの戦い、大好物っすw



参考
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/遠山景元https://www.amazon.co.jp/遠山金四郎の時代-講談社学術文庫-藤田-覚/dp/4062923173