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バー・クリオ のこと

2024.08.19 13:00

先日令和6年7月26日。

僕の古巣であり、僕にとって一番大きな存在であった名古屋錦三丁目の Bar Cli-o “クリオ” が30年の歴史に幕を閉じました。

名古屋での7年間の飲食修行時代、いくつもの業態を経た末ある意味行き詰まっていた僕が最後に漂い着いた『精神と時の部屋』。仕事だけでなく人生に於いても、本当に大切なものに包まれた3年半でした。


“栗さん” ことマスターの栗原誠さんがオーナーマスターとして一代で立ち上げ、30年の永きに渡り幾人ものスタッフを育てながら守り抜いた名店。 僕などがこの店や栗さんについて語ることさえおこがましいくらいですが、本当に幸運なことに自分にとって一番必要な時期にここにお世話になることができたと思う。


不出来なスタッフだったと思うし、たくさん叱られたし、辛い想いもたくさんした。迷惑もいっぱいかけたし、失望も落胆もきっといっぱいさせた。 体力的にもスケジュール的にも今よりずっとハードだったし、バー業界の仁儀や水商売の風習や繁華街のノリにもずいぶん戸惑うことが多かった。

 


でも栗さんのことや先輩の尚哉さんのことを嫌いになったことは一度だってなかった。

あんなに真っ直ぐに向き合って僕のことを真剣に見て、自分の生き様ごとぶつかってくれた人たちが初めてだったから。そして自分の店に対しての信念と自分の仕事に対しての厳しさとお客様に対する誠意が本物であることが、すぐそばにいてわかったから。知識や技術以上に、もっともっと精神的で根本的なこと。


10代から都会で遊び始めたとはいえ28まで三重の片田舎で育ってきた僕が、思いもよらず飛び込むこととなった大都会一の繁華街の夜の世界。そんな似合わない土地で出逢ったかけがえのない師と兄弟子、そして今なお絆の消えない多くのお客様たちと同業者の皆様、そこで学んだ本当の真心の商売… 一生の宝物です。


自分の年齢や将来を鑑み、他業種への転職も視野に形としては3年半の在籍であとにすることになったクリオ。

その後はもう名古屋で修行したい場所はなく1年間のホテルマン生活を経て、それまでないがしろにしてきた実家への想いから半帰省した桑名・四日市で再び飲食に携わっていくことになるのですが、自分の根っこというものは完全にここで作られた実感があります。

偽らないこと、誤魔化さないこと、その場しのぎにしないこと。本気を “姿で” 伝えること。

 


栗さんからクリオ閉店の知らせをもらった6月、僕などに言えることなど何ひとつなく「必ず顔出します」とだけ返したけど、今この自分の店を試行錯誤しながら経営している僕には正直つくづく羨ましく、また「カッコいいな」と思った。


だって30年ですよ!? 

20代に裸一貫で名古屋の一等地に店を出し、アルバイトでなく本気で独立を目指す従業員だけを雇い、鍛え、巣立たせ、家庭を持ち、お子様を育て上げ、そして還暦を迎える前に自分の決断で沢山のお客様に惜しまれながら最後まで満席で店を畳む… これだけのことを全うできる飲食人がはたしてどれ位いるか。


そんな訳でこの期に及んで僕が栗さんにどれほど感謝を伝えようが、僕なんかがいくら「お疲れ様でした」などと栗さんを労おうが、そんな余裕もないのになけなしのお金でクリオで酒を飲もうが、すでに心あるお客様たちがつめかけているであろうクリオに旧知のお客様を連れていこうが、何をしてもかなわない大きな存在であるからこそ、「最後のクリオを、僕はどう過ごすことが一番いいんだろう?」と考えました。


結果思い至ったのは、僕が僕の道をしっかりと歩み続けることこそが本当の恩返しであるということ。「じゃあそのために今しなきゃいけないことは何だ?? 」いうこと。

 


そう思ったらすべてのピースがはまったように腑に落ちて、「次の定休日伺いますので、最後に3時間だけ手伝わせてください」とLINEしていました。

実際クリオを辞めてからこの店を開業するまで10年近いタイムラグもあり、その間何度顔を出しても得られなかった “同じカウンターに立つ栗原誠” のカウンター捌きを、そして今まさにバーテンダーを全うしようとしている栗さんを肌で感じたかったから。客としてでなく、あの頃と同じ目線で。


時代や土地柄や業態は違えど、開業3年経って未だ軌道に乗れたとは言えない僕に足りないものがあるとしたら… と。クリオで学んだ中で何か忘れてることがあるかもしれない、と。

だから最後の授業を受けたかった。栗さんにそんなつもりはなくても、その一挙手一投足をこの目に焼き付けたかった。

 

あの3年間をこんな姿勢で取り組めていればもっと違ったのかもしれないという気もしましたが、先月7月18日の夜は、今の僕にとってはあの3年半に負けないくらい貴重なものでした。


 

まだまだお店は大盛況の中、終電までという約束もあって、最後は固い握手と記念撮影と常連のお客様への挨拶でバタバタ終わっていきましたが、この場をお借りして…


栗さん、貴方はいつまでも、僕のたった一人の師匠です。