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【Music Lovers File①】会社を起こすひと ~ The President of Ten Atoms : Ryan Matteson ~

2019.01.03 03:00

Q. 2018年5月にあなたは自身のマネジメント会社“Ten Atoms”を設立されました。Ten Atomsは 伝統的な手法にデジタル主導の戦略を併せた新しいタイプのマネジメント会社とお聞きしています。“デジタル主導の戦略”とはどんなものでしょうか?

実際には4月に会社を始めたんだ。音楽業界がフィジカルを消費することからストリーミングに移行していることを考えると、デジタル主導の戦略はとても重要になってきている。それに加えて、ライブやアルバムを売り込む方法はインターネットやSNSの広告に、より依存している。僕は過去10年デジタルマーケティングを専門にしてきて、常に専門性を発揮してきた分野でもあるんだ。


Q. 以前あなたがやっていたWilcoの曲と同名のブログ“Muzzle Of Bees”はとても人気だったようですね。どうしてブログを始められたのですか?そのブログのタイトルにはどのような意味を込めていたのでしょうか。またWilcoから何か影響を受けていますか?

音楽ブログを始めた当時、僕はアメリカ中部のウィスコンシン州に住んでいて、マディソンやミルウォーキーでは公演のプロモーションを行う人間やそれを紹介する人があまりいなかったんだ。僕はただブログがやりたいという気持で趣味としてやっていたけど、リアルなビジネスに成長していった。Wilcoは僕にとってとても重要なバンドだよ。彼らのキャリアを約20年間ずっとおいかけてきたんだ。ブログの名前は、ちょうどドメイン名を登録しようとしていたときに、ウィルコの"Muzzle of Bees"がステレオから流れてきて、僕はその曲もタイトルの語感も好きだったからその場でその名前に決めたんだ。


Q. 以前コンサートプロモーターもやっておられたようですが、どういう経緯でその仕事を始めたのでしょうか?そこでの経験はいかがでしたか?

僕は過去に音楽プロモーターとして働いていたんだ。すごく大変な仕事だったよ。自分が宣伝する公演にたくさんの時間と労力を費やした。すべての公演をソールドさせたくて、正直で熱心に働くプロモーターとして評価を得るために懸命に働いたよ。最終的に、プロモーターであるかマネージャーであるかを選択しなきゃいけなくなって、後者を選んだんだ。


Q. あなたが音楽ライターやコンサートプロモーターからマネジメントする側へ転向することになったきっかけを教えてください。

僕はバンドのビジネス全般を行う手伝いをしたかったんだ。チームとしてはそれができなければ充分じゃないと思ったんだ。ただマディソンやミルウォーキーでチケットを売ってバンドの手助けをするだけでは足りなかった。 彼らのアルバムやTシャツを、もっと売る手伝いをしたくなったんだ。


Q. あなたはロラパルーザなどの音楽フェスティバルのプロデュースに関わられていたそうですが、そこでの経験はいかがでしたか?

その経験はすばらしかったよ。僕はその場所で働くすべての人からたくさんのことを学ぶことができた。僕はC3マネジメントやロラパルーザに関われてとても幸運だったと思う。自分が関わっていたことは、僕にとっていまだに夢のようで現実味がないんだ。そのフェスティバルで他のたくさんのマネージャーやアーティストがどんな風に動くのか見ることができて、その経験は間違いなく自分のマネージャーとしての腕を磨くことになったと思う。


Q. Ten Atomsはビデオやオーディオコンテンツを制作中だとお聞きしました。この概要について教えていただけますか?またこれまでのあなたの経験をどう活かせると思いますか?

その事業はまさに進行中なんだ。僕はオースティンでいくつかのフィルムを制作する手伝いをしていて、音楽監修やいくつかのCM広告を手伝っている。現段階で制作中だから、まだアナウンスはできないんだ。今はまだこのプロジェクトのことは秘密にしておくよ。


Q. どうして会社を設立することにしたのでしょうか?

できるなら、人は誰でも自分のために働くべきだと思う。僕は契約したすべてのアーティストと一緒に働くチームを完璧に管理できるようにしたかった。多くのアーティストはまだまだたくさん学ぶべきことがある。成功は一夜で起こるものじゃない。一晩で成功したとしても、逆にその成功は一晩で崩れてしまうものだ。僕はアーティストがバンドとして成り立つように2~3年学びながら経験させられる立場になりたいと思った。それは多くの努力を伴う、経験だと思う。旅行についてや、インタビュー、ラジオセッション、商品の在庫管理から健康管理、会計まで学ばなければならないことはたくさんあるんだ。


Q. あなたの会社で働くことは一人の人間としてバンドのマネジメントをすることではなく、チームの一員になるということだとおっしゃっていました。ただマネジメントを行うということと、チームを作るということにはどのような違いがあると思いますか?

僕達は5人のチームで動いているんだ。オフィスの空きスペースを共有している会社を経営するマネージャーが他にいて。全体で、会社には16人の人間がいて毎日互いに最高のものを引き出している。僕らは代理人としてアーティストのキャリアに100%の力を注いでいるから。


Q. あなたのマネジメント会社には日本でも人気のあるWhitey、Bully、Japanese Breakfastを始めとした魅力的なアーティストが所属しています。独立するにあたって、彼らの存在は大きかったですか?

僕にとって、マネージャーであることというのは音楽を愛さなくてはいけないし、自分達のアーティストの音楽に心底惚れ込むということなんだ。アーティストのマネジメントは1日中が仕事だ。毎晩の夕食は中断させられるし、すべての休暇や週末は遮られる。1週間の内、毎晩行かなければいけない公演がある。もし、この仕事に全力を賭けるなら、担当アーティストに惚れ込まないといけない。アーティストの音楽性がどれだけ素晴らしいかということに加えて、僕らのアーティストは良いものを作るために貪欲でとても素晴らしいアーティストばかりなんだ。


Q. あなたの会社に所属するアーティストの音楽は心を揺さぶられるものばかりです。あなたを惹きつける彼らの魅力はなんだと思いますか?

二つのことがあるんだ。僕が彼らの音楽に惚れ込んでなければならないし、アーティストは突き動かされるような思いを持ってなければならない。音楽ビジネスは簡単なものじゃない。とても厳しくて、常に変化している。一緒に働きたいと思うアーティストはたくさんいるけど、素晴らしい仕事を成し遂げるために必要な労働観や責任感が足りなくて、結局は一緒に働くことが叶わないこともある。時間は守らなければならないし、感謝の気持ちをもって礼儀正しくなければいけない。敬意を持って人に接しなければならない。逆に勤労意識が高くても、音楽的に僕の心を動かすことがなければ、僕はそういうアーティストと働くことはできない。


Q. これからの音楽を取り巻く環境はどのように変化していくと思いますか?

アーティストと彼らのチームはこれから結ぶ契約を注意深く見ていかなければならないと思う。ストリーミングはこれまでの音楽市場を追い抜こうとしている。アーティストとそのチームはもっとツアーを積極的に行わなければならないし、一緒に働くプロモーターに対して強い姿勢で臨まなければならない。これからのマネジメントは、今まで以上にアーティストが経済的に公平に報酬を得られるようにしていかなければいけない。


Q. 仕事をする上で一番大切にしていることは何ですか?

毎日、朝起きて足を床におろして、アーティストのために働きに行くんだ。僕は夜寝るときまで止まらない。僕は自分達のクライアントのために100%の仕事をするし、それ以外の方法はないと思ってる。


Q. 音楽を仕事にするということは、ビジネスとビジネス以上の何かがある気がします。そのバランスをとるのは非常に難しいと思いますが、それについてどう思われますか?

人との関係がすべてだよ。関係を壊さないようにしなくちゃいけない。明日は誰がどこにいるかなんて誰にも分からないから。僕はそのことをもっと早く誰かが伝えてくれたらよかったのにって思ってるよ。このビジネスを大きくするには、他のマネージャーやエージェント、ビジネスマネージャー、パブリシスト、レーベルが頼れる人間であることが必要とされる。周囲の人に対する敬意や尊敬を忘れず、やると言ったことは必ずやらなくちゃいけない。


Q.  あなたにとって音楽とは何ですか?

すべてだよ。ここ30年の自分の人生の中で一日たりとも音楽を聴かなかった日はないよ。


Q. 音楽業界で働きたいと思う人や何かを始めたいと思っている人に何かアドバイスがあれば教えてください。

音楽業界で働いているいないに関わらず、毎日全速力で走れる何かを見つけてください。あなたが愛情をかけて、そのために完全に自分の身を投げ打てるようなことをしてください。やさしい人でいてください。助けを必要とする人を助けて、あなたが必要とするときに助けを求められる人でいてください。


-----------------Answer from Ryan Matteson



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読み終えて、耳が、痛いと思った。

自分の心にチクっと刺さった過去の失敗の痛みから、目をそらしたくなった。

それだけ、彼の言葉は真実を突いていた。


Ryan Matteson氏は人気ブログMazzle Of Beesを運営、プロモーターとなり、アメリカのC3 Managementでマネジメント経験を経て、昨年4月に日本でも人気のWhitneyやBullyを擁する、自身が経営するマネジメント会社を立ち上げた。


彼が語る「大事なこと」は本当の基本だ。一番大事なことで、常に心掛けていて、実行しているつもりなのに、誤解や伝える能力の足りなさから、失敗してしまったり、見過ごしてしまっていたり。後悔とともに胸の中にある、この先も一番大事にしていきたいこと。


熱心に、誠実にアーティストのために働き、アーティストの音楽に一心に愛情を注ぐ彼の姿を見ていると、きっと彼のような人がこれからの音楽を取り巻く環境を変えてくれるのだろう。


彼のような人の存在を知ることが、誰かの励みになればと思う。


2017年も終わりに差し掛かったころ、名もない、まだ何の記事も公開されていない音楽サイトから彼の元に一通のメールが届いた。そのメールには、“自分の住む国に、素敵な音楽を溢れさせたい”というたわいもない文章が書かれていた。


彼は言ってくれた。“Sounds good.”と。




【Ten Atoms' Artists】

Bully

2013年にナッシュビルで結成されたインディーロックバンド、Bully。2015年にリリースした『Feels Like』が各メディアで絶賛され、2017年に2ndアルバム『Losing』がSub Popからリリース。心に真っ直ぐに響くストレートな楽曲と、ボーカル・Aliciaの甘くクールなボーカルが魅力。

http://www.bullythemusic.com/video/


Whitney

2015年に結成されたシカゴ出身の人気バンドWhitney。2016年に発売されたデビューアルバム『Light Upon The Lake』は時代を超えるオーセンティックな響きが多くの人の心を打ち、日本でも話題となった。2017年に初のジャパンツアーを開催、同年サマーソニックで再来日を果たした。

http://www.whitneytheband.com/videos/

Japanese Breakfast

アメリカのインディーロックバンドLittle Big LeagueのMichelle Zaunerによるソロ・プロジェクト。多彩なサウンドと愛らしく艶やかな歌声が織りなす彼女のポップな楽曲のファンは日本でも多い。スロウダイヴやミツキのアメリカツアーのオープニングアクトを務めるなど、高い実力が認められている。

http://www.japanesebreakfast.rocks/video

Black Pumas

Black Pumasはボーカル・Eric Burtonとオースティンでの長い音楽キャリアを誇るギタリスト・プロデューサーAdrian Quesadaの‟beat-heavy psychedelic”ソウル・プロジェクト。ソウルフルで圧倒的なボーカルと確かなサウンドが融合し、極上の音楽を奏でる。公開されてる作品もまだ少なく、これからの動向に期待が高まる。

https://www.tenatoms.com/wye-oak-1


Strand of Oaks

フィラデルフィアに拠点を置くシンガーソングライター、Timothy Showalter のソロプロジェクト。2003年から活動し、Dinosaur Jr.のJ・Mascisが参加した3rdアルバムなど、確固たるキャリアを築いてきた。エモーショナルで心を揺らすボーカル。もう一人のボーカルがいるような表現豊かなギターサウンド。抜きんでた世界観は聴くほどに魅了される。

https://www.strandofoaks.net/videos/


The Mountain Goats

1991年にソングライターを務めるJohn Darnielleを中心に結成されたインディーフォークバンド。4DやMerge Recordsからのリリースを含み、通算16枚の作品をリリース。そのキャリアに裏付けられた正真正銘の音楽の素晴らしさは、どの時代をとっても心に響くものがある。

http://www.mountain-goats.com/discography/