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地政学

2024.08.21 12:25

https://studyu.jp/feature/theme/geopolitics/ 【【地政学】ってどんな学問? なぜ流行っているの? 大学で学ぶならどの学部・学科?】より

さまざまな「○○学」がある中で、最近目にする機会が急増しているのが「地政学」です。関連する書籍も次々に発行されています。ただ、見聞きすることが多い一方で、「地政学」は大学の学部名・学科名にはなっておらず、どんな学問なのかよくわからないという声も少なくありません。そこで今回は「地政学」の基本や歴史から、どの学部・学科で学べるのかなどを説明します。

そもそも「地政学」とは?

一言でいうと、地理的な条件に注目して、軍事や外交といった国家戦略、また国同士の関係などを分析、考察する学問です。

国というのは、基本的には「ある決まった場所」に存在しています。例えば、日本は四方を海に囲まれた国です。また、オーストリアやスイスといったヨーロッパの国の一部などは、海に面しておらず国境はすべて陸にあります。そうした地理的な条件は、それぞれの国の政治や経済、安全保障などの戦略、国同士の外交戦略に大きな影響を及ぼします。国や国同士の過去の出来事やいま起きていることを、地理的な側面から読み解いていくのが「地政学」なのです。

「地政学」を理解するための基本のキーワード

具体的にはどのように読み解いていくのでしょうか。「地政学」には、基本となる代表的なキーワードがあります。キーワードを押さえておくことで「地政学」を理解しやすくなります。

「シーパワー」と「ランドパワー」

地政学の基本的な概念の一つが、「シーパワー」と「ランドパワー」です。「シーパワー」とは、国境線の多くが海に接している海洋国家(あるいは海洋国家が持つ力)のことで、「ランドパワー」は逆に陸続きで他国と接している大陸国家(あるいは大陸国家が持つ力)のことです。例えば、アメリカや日本、イギリスなどは「シーパワー」の国で、中国やロシア、ドイツなど「ランドパワー」の国とされています。

「シーパワー」は周りを海に囲まれているため、他国から攻められにくく、交易によって利益を得ようとする傾向が強いとされます。一方の「ランドパワー」は、他国から侵略されやすく他国を侵略しやすいのが特徴です。

「地政学」的には、「シーパワー」と「ランドパワー」の国は対立しやすいとされ、典型的な例には冷戦時代のアメリカとソ連などが挙げられます。また、一つの国で「シーパワー」と「ランドパワー」は両立しないというのも「地政学」での定説です。一例を挙げると、日本は「シーパワー」にもかかわらず、第二次世界大戦時には「ランドパワー」を目指してアジア諸国に勢力を拡大しようとして失敗しました。

現在、中国が「一帯一路」という陸路(一帯)と海路(一路)からなる巨大経済圏構想を進めています。侵略による領土拡大とは異なりますが、「ランドパワー」の中国が「シーパワー」も手に入れようとしている構図であり、「地政学」の定説を覆す結果になるのかどうか注目されています。

「エアパワー」「スペースパワー」「サイバーパワー」もある

「シーパワー」と「ランドパワー」以外にも、いくつかの「○○パワー」があるとされています。その一つは「エアパワー」で、国家の総合的な航空能力を指します。「エアパワー」については、第二次大戦の頃から、一部の地政学者が重要性を指摘していました。

また、米ソによる宇宙開発が盛んになってからは「スペースパワー」、つまり国家の宇宙開発能力にも注目されるようになりました。「エアパワー」と合わせて「エアロ=スペースパワー」と呼ばれることもあります。さらに現在は、インターネットなどサイバー空間でも国家間の勢力争いがあることから「サイバーパワー」にも関心が集まっています。

これらは、「地理的条件から考察する」という従来の「地政学」からは外れますが、国家レベルの力が働き、国家間の勢力争いが繰り広げられるという点で「地政学」の問題として捉えられています。

「ハートランド」と「リムランド」の関係

もう一つ、「地政学」でよく使われるキーワードに「ハートランド」と「リムランド」があります。「シーパワー」や「ランドパワー」は「国」単位の話ですが、こちらは「領域」に注目した概念です。

「ハートランド」とは、ユーラシア大陸の中心部、主に現在のロシアがあるエリアです。「シーパワー」の攻撃が届かない位置にあり、歴史を振り返るとナポレオンやヒトラーがロシアの制圧を試みましたが、いずれも失敗しています。

一方の「リムランド」は、「ハートランド」の周縁(リム)のことで、具体的にはユーラシア大陸の海岸線に沿ったエリアを指します。具体的な国名では、中国やインド、スペイン、フランスなどです。「リムランド」に属する国には、温暖で作物を育てやすく、経済活動が盛んという特徴があります。

環境の厳しい「ハートランド」に属する国は、豊かな「リムランド」の国に進出しようとするため、「リムランド」は「ハートランド」と衝突しやすく、地政学的には「リムランド」は国際紛争の起こりやすい地域とされています。また、「リムランド」が面している海域は「マージナルシー」と呼ばれています。

<0から学ぶ地政学【ゆっくりわかりやすく解説】/論文YouTuber笹谷ゆうや>

https://www.youtube.com/watch?v=dxvbiMlfKI0

地政学の歴史

「地政学」は、19世紀末~20世紀の初めにかけて誕生しました。現在の「地政学」の考え方は、さまざまな学者によって歴史の中で徐々に積み上げられてきたものです。

「地政学」の成り立ち

例えば「シーパワー」という概念は、アメリカの軍人でありアルフレッド・マハンが1890年に最初に提唱しました。その後1910年に、イギリスの地理学者ハルフォード・マッキンダーによって、「シーパワー」と「ランドパワー」という考え方が確立しました。

「ハートランド理論」を提唱したのもマッキンダーです。それに対して、「リムランド」に注目したのはアメリカ人の政治学者で地政学者でもあるニコラス・スパイクマンです。スパイクマンは「リムランド」の重要性を、「ユーラシアのリムランドを制する者が、世界の運命を制する」という言葉で主張しました。

マハンやマッキンダーの考え方は現代の地政学に通じますが、「地政学」という言葉は使っていませんでした。「地政学」という言葉を初めて用いたのは、スウェーデンの政治学者ルドルフ・チェーレンです。それは1916年、第一次世界大戦が終了した翌年のことでした。

「地政学」とナチス・ドイツとの関わり

チェーレンは、国家を生物のように捉える「国家有機体説」を他の地政学者らと提唱した人物です。そして、「生物である国家は、生命の維持に必要な資源を獲得しなければならない」と主張した点に特徴があります。

では、必要な「資源」が不足したら、国家はどのような行動を起こすのでしょうか? ドイツの軍人で地理学者のカール・ハウスホーファーらが主張した「生存圏」という考え方に、その答えがありました。「生存圏」とは簡単にいうと国家が自給自足するために必要な領土のことで、不足した場合は生存圏を拡大しても問題はないとされていました。

つまり、かつての「地政学」では、国を大きくするために他国を侵略することは当然の権利だと考えていたのです。そして、この理論を利用して、自国の侵略政策を正当化したのがナチス・ドイツでした。ナチス・ドイツは、「生存圏」などの考え方を背景に、オーストリアや東欧、ロシアへの軍事侵攻を推し進めました。しかし、「生存圏」の考え方は、第二次大戦後は否定されています。

いま「地政学」が注目される理由

かつての「地政学」は、植民地政策で領土を拡大しようとしていた当時のヨーロッパ列強の戦略に合致した部分もあり、第二次大戦までは盛んに研究されていました。日本でも「地政学」の書籍が複数刊行されるなど、「地政学」への関心は高かったようです。

戦後になると、侵略戦争を理論的に下支えし、推進した悪しき概念だと捉えられて、「地政学」が取り上げられる機会は激減しました。しかし、1979年にアメリカの国務長官も務めた国際政治学者のヘンリー・キッシンジャーの著書で「地政学」が取り上げられたことなどをきっかけに、世界では再び「地政学」が注目されるようになっていきました。

現代の不透明な世界情勢を理解するヒントになる

日本でも、ここ数年「地政学」が非常に注目されています。その理由はどこにあるのでしょうか。

1990年代に、西側自由主義諸国と東側社会主義国による対立、いわゆる東西冷戦は終了しました。ただ、その後も世界は平和になったわけではなく、領土問題や民族問題など新たな対立や紛争が絶えまなく起きています。2022年には、ロシアのウクライナへの軍事侵攻が世界的な問題となっています。

世界のさまざまな問題をどう理解すればいいのか。地理的にも離れた他国の政治や戦略はわかりにくいものですが、「地政学」に照らしてみることで複雑な対立や紛争の構図を整理することができると考えられているようです。

大学で「地政学」を学べる学部・学科とは

「地政学は大学では学べない」という話を聞いたことがある人もいるのでは? 冒頭で触れたように、国内の大学には「地政学部」や「地政学科」といった学部・学科は設置されていません。

「地政学は大学で学べない」はホント?

といっても、「大学の学びでは地政学を扱わない」というわけではありません。実際、国立研究所が運営する研究や論文のデータベース「CiNii」で検索すると、「地政学」をタイトルなどに入れた博士論文は2000年以降で18件あります。数こそ多くはありませんが、大学で地政学を研究できないわけではないのです。

ただし、学問の場で「地政学」を取り上げることに慎重な考え方があるのは本当です。大学ではなく高校の話ですが、以前文部科学省の「教育課程部会」で、「高校の地理や歴史の科目でも地政学を教えてはどうか」という意見が出たことがありました。このときは「地政学というと国家戦略のように捉えられる可能性があり、深い知識や論争を知らない人が教えると危険だ」といった反論が出たようです。

「地政学」に近い分野を学べる学部・学科

では、現時点で地政学に近い分野を大学で学ぶには、どの学部、学科を選べばよいでしょうか。主に、次の2つが考えられます。

①地理学科

②国際政治学科

①の地理学科は、文学部や文理学部、教養学部などに設置されています。学科の下に「地理学コース」「地理学専修」などの形で設けられている場合もあります。

地理学は、大きく自然地理学と人文地理学に分かれますが、後者の人文地理学の一分野である「政治地理学」が、地政学に近い内容を扱っています。政治地理学は、国家や領土などを地理学的な視点から考える学問だからです。

ちなみに、政治地理学と「地政学」の違いはそもそも明確ではありませんが、政治地理学に比べて「地政学」はより実用的、実践的と見られていることが多いようです。

②の国際政治学科のように、国際政治を扱う学部・学科も「地政学」に近い分野を学ぶことができます。国際政治学は、国家や地域の政治問題を歴史や制度、思想などさまざまな方向から研究する学問で、地理的側面から国際政治問題を分析する可能性があります。

現時点では、単純化した大陸や海洋の配置から国際政治を分析する「地政学」に対する批判もあります。しかし、今後「地政学」の研究がもっと進んでいけば、いずれは大学でも「地政学」を科目や学科として取り上げるところが出てくるかもしれません。

https://www.youtube.com/watch?v=-lREGBwH7_Q

https://www.youtube.com/watch?v=C6NABnGChu4

https://www.youtube.com/watch?v=xYvAaKxMAok

https://gendai.media/articles/-/121025?utm_source=antenna 【なぜ戦後日本で「地政学」が怪しい危険思想としてタブー視されたのか?】より

GHQが警戒しなかった地政学もある

篠田 英朗東京外国語大学教授

国際関係論、平和構築プロフィール

なぜ戦争が起きるのか? 地理的条件は世界をどう動かしてきたのか?

「そもそも」「なぜ」から根本的に問いなおす地政学の入門書『戦争の地政学』が重版を重ね、5刷のロングセラーになっている。

地政学の視点から「戦争の構造」を深く読み解いてわかることとは?

戦後の地政学のタブー視とドイツ思想受容の伝統

第二次世界大戦が終結すると、ドイツではハウスホーファーが戦争犯罪人としての嫌疑をかけられた。

日本においても、ハウスホーファーの地政学理論を参照しながら大東亜共栄圏を推進していた人々は、戦争犯罪人としての嫌疑をかけられた。

アメリカが主導するGHQが、大陸系地政学を、日本の対外的拡張主義の理論的基盤となった危険な思想と見なしていたことは間違いない。

日本人の間でも、ハウスホーファーの系統の地政学の受容が、対外的な拡張主義を正当化する軍国主義と結びついていたことを反省する議論が起こった。

そのため戦後の日本では、ハウスホーファーとともに広がっていたゲオポリティークとしての地政学をタブー視する傾向が生まれた。

これは拡張主義の基盤となった大陸系地政学に関してのみ該当する歴史的事実である。GHQがマッキンダー理論を警戒した経緯はない。

ただそもそも戦前の日本において、地政学といえば、ハウスホーファーに代表されるゲオポリティークのことであった。

そのため、戦後の日本では、地政学と名のつくもの全てが、怪しい危険思想としてタブー視されるようになった。実際の戦後日本の外交安全保障政策は、スパイクマン地政学理論によって補強されたアメリカとの間の安全保障条約を基盤とするものに刷新された。大陸系地政学を嫌い、英米系地政学によって理論的基盤を再構築する動きだったと言ってよい。

しかし地政学はタブーだという風潮が広まると、逆に語られていない地政学の理論に基づいた外交安全保障政策が、秘密の理論への信奉に基づくものであるかのように見えることになった。

この地政学と戦後日本の外交安全保障政策をめぐる微妙な関係は、憲法学者らを中心とする知識人層の間における根深いアメリカへの不信感によって、さらに複雑な様相を呈することになる。

憲法9条を根拠として主張された非武装中立主義の傾向すら持つ平和主義が「表の国体」である「顕教」で、日米安全保障条約に代表される外交安全保障政策が「裏の国体」である「密教」であると語られるようになった。

その際、本来であれば日本の外交安全保障政策の理論的基盤と言ってもいい英米系地政学の理論ですら、「密教」として、表では語られない教義であるかのようにみなされることになった。もともと日本の学界では、アメリカの思想の伝統に対する研究関心は薄弱であった。代わりにヨーロッパの影響が根強く、特に憲法学のような法学においては、ドイツ思想の影響が顕著であった。

そのような学問分野では、国家有機体説に代表される大陸系地政学の思想的伝統が強く、反米主義的なイデオロギー的傾向も顕著になりがちだった。

そのため、実務における密教としての「裏の国体」と、学界における顕教としての「表の国体」が、矛盾を抱え込みながら、併存していく状況が、長く続いたのであった。

https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=NDnBuZIoBxQ