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富士の高嶺から見渡せば

習近平独裁体制の終焉を告げる「北戴河政変」情報 ネットで拡散

2024.08.21 16:33

真偽を確かめることはできないが、中国の指導部体制の中で異変が起きているとの「内部情報」が世界を駆け巡っている。この情報が真実ならば、習近平独裁体制はその終焉に向かって歩み出していることになる。

情報の発信源は、米国在住の中国人政治評論家、呉祚来(Wu zuolai ごそらい)氏のX(旧ツィッター)への投稿だった。呉祚来氏といえば、2008年の民主化を求める「零八憲章」の作成にノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏らとともに関わった一人で、これをきっかけに職場を追われ、2012年に渡米。現在は米国を拠点に政治評論活動を行っている。Xでのフォロワーは27万人という。

その呉祚来氏の発信した「内部情報」は、『禁聞網』という中文サイトで8月17日に掲載された。記事のタイトルは「呉祚来:北戴河で習近平と元老が8つのコンセンサスで最終合意と伝わる」(吴祚来:传北戴河习与元老最终达成八条共识 )である。

記事によると今年の夏の北戴河会議では、「元老」と呼ばれる歴代指導部の中枢を務めた党長老や古参幹部が、口々に厳しい習近平批判を展開し、そうした発言をとりまとめる形で合意されたのが「8つのコンセンサス」(北戴河八条共識)だという。

習近平全面批判でまとまった長老たちのコンセンサス

その8つの共通認識(コンセンサス)とは、『禁聞網』の記事を訳すと、以下のような内容である。

1)習近平同志は、党と国家の重大な意思決定において、核心的権威を強調しすぎて、深刻な過ちを犯し、政治・経済・外交・軍事面において党と国家に災難的な悪影響を及ぼした。このことを深く反省しなければならない。

2)今後、中央の政策方針は一人の独断で決定してはならず、個人崇拝を宣伝してはならない。(指導者は公務と関係ない図書を出版してはならない、新聞刊行物は公務と関係のない事跡を宣伝してはならない【注】習近平の著作はどれもベストセラー)、集団指導体制を強調し、党と国家の重大な決定は事前の調査研究が必要であり、古参同志の意見と大衆の意見を諮詢しなければならない。

3)党と政府の分離を強化する、党中央は重大な政策決定と方針策定を担当し、国務院は相体的に独立して国家の行政事務を処理する。党中央は国務院の行政活動に一切干渉してはならない。

4)ロシアのウクライナ侵攻を支持せず、中東のテロ支援勢力を支持しない。米国や西側諸国との関係を修復・改善すること。(【注】戦狼外交をやめよ)

5)香港の自治権を尊重し、台湾海峡の平和を維持し、台湾および南シナ海周辺国との対立を激化させない。

6)経済、とりわけ民営経済を中心とする発展を通じて、国民生活を保障し、暴力的な治安維持の取締りをやめ、苦情受付のアクセスの円滑化を保障し、悪質な社会勢力を打倒し、もって社会の安定を保障する。

7)幹部の隊列を養成し,特に党と国家の後継者を養成して経験を積ませ,党と政府の人材はあまねく広く登用するを原則とし、個人の親戚や縁故者に頼ったり、派閥や徒党を作ってはならない。

8)政治体制改革を議事日程に上げなければならない。草の根の民主、党内民主に力を入れ、民主的な手続きを制度で保証し、中国共産党の党員は真の民主を実践しなければならない。そうでなければ、人民を裏切り、初心を忘れることであり、必然的に中国人民によって見放され、覆されることになるだろう。

北戴河会議の定例化と長老たちの役割の制度化でも合意か

追加の条項として:北戴河会議は1年に1回開催し、退職後の国家級指導者と現職の中央政治局常務委員が参加するよう制度化する。その主な職責は、現在の党中央の活動を監督し、重大な過ちに対して責任を問い、取り返しのつかない重大な過ちに対しては、現在の指導者に責任を負わせて検討、是正させ、最終的に引責辞任を迫ることになる。

記事には、このほか討論への参加者として、かつての首相など国家レベルの指導者や鄧小平、江沢民、毛沢東の遺族として鄧朴方、江綿恒、毛新宇が参加したことが記されているほか、討論の方法と議事の進行順序についての記述がある。そして呉祚来は最後に、長時間の会議の中身について、重要な部分だけをまとめると8つのコンセンサス(共識)に整理することできるとした上で、この記事を「たくさんの人に見てもらい、拡散してほしい。ただしその真偽については問い詰めないでほしい。歴史の大転換期には真実とデマがつねに同居している」と思わせぶりのことばで締め括っている。

呉祚来氏の記事は具体性と臨場感があり信憑性はある?

「8つのコンセンサス」だけを見れば、習近平個人独裁に対する全面的な批判であり、習近平という存在の完全否定となっている。実際に北戴河会議でこうした議論がなされ、8つの合意事項でまとまったとすれば、もはや習近平の退陣を迫るクーデタが起きたも同然といっていいかもしれない。

呉祚来の記事について、中国専門家の石平氏が自身のYoutube番組「石平の中国週間ニュース解説」8月20日増刊号で「習近平全面批判・北戴河政変(?)の衝撃全容」として早速取り上げて解説しているほか、

同じくチャイナウォッチャーの渋谷司氏のYoutube番組「渋谷司の中国カフェ」8月20日でも呉祚来氏の記事を紹介し、「北戴河会議で長老たちは反習近平で固まったか」と論じている。

両氏とも、情報の真偽については確認の方法がなく、場合によって呉祚来氏の完全な創作ということも考えられないことはないが、だからといってこの記事を完全に嘘だと否定する材料もなく、半信半疑の状態だという。

ただし石平氏によると、呉祚来氏のこれまでの経歴や評論活動から見てそう簡単にデマを撒くような人物ではなく、彼が披露した会議での長老の発言の中身は実に生々しく具体性と臨場感があり、石平さん自身は本当かもしれないという感触を得たという。

107歳の古参幹部や歴代首相経験者が習批判を展開

以下は、呉氏が伝えた長老たちによる習近平批判の発言の中身である

元政治局常務委員(在任1989~92年)の宋平氏(1917年4月生まれの現在107歳)による書面発言:「習近平同志は政治、経済、外交の多方面で意思決定の厳重なる過ちを犯し、党と国家に挽回できない損失を与えた。本人はそれを深く反省しなければならない。また、習近平同志の精神状態と健康状態に鑑み、適切な時期と適切な形で指導者の立場から退いて、党内民主のやり方で次期指導者を選出することを提案する。」

胡錦濤前国家主席の書面発言:「習近平同士の政策方針は出発点で善ではあるが、個人崇拝の推進に大いに問題がある。ウクライナ戦争でロシアと組んだことは中国と西側との関係と経済建設に不利をもたらした。習近平同志はそれを深く反省し改めることを期待する。なお、習近平同志には終身独裁をやめてほしい。それは党と国家に百害あって一利なし。」

朱鎔基元首相の発言;「習近平同志は近年起きた災難的な諸問題に対し重大な責任がある。改革開放の成果は台無しにされ、国家が破産へ向かっている。習近平同志には個人崇拝をやめてほしい。過ちを正して真面目に仕事をこなしてもらいたい。」

温家宝元首相の発言;「習近平同志の独断専行と権力濫用は深刻な災難を招き、政治、経済、外交、軍事など各領域で重大な危機をもたらした。今後は政治局常務委員会のメンバーたちは集団指導体制で責任をもって自分たちの管轄する分野の仕事を全うし、情勢を安定化させなければならない。」

それぞれの習近平批判には程度の差はあるが、習近平政治が中国に「災難的な結果」をもたらしたことについて意見は一致している。そして各自の発言と『8つのコンセンサス』の内容には共通点が多く、確かに長時間に及んだ討論のエッセンスをまとめれば「8つ」に集約できると言うことも納得がいく。

習近平は3年後の退陣を約束した、というが

宋平氏が習近平の退陣を求めた以外は、その他の発言は習近平の「反省と過ちの是正」を求めるに留まっている。そして長老たちの批判を受けて、当の習近平は以下の4つの点で過ちを認め、反省と是正を表明したという。

① 自分に対する個人崇拝の推進は過ちだった、

② 外交上での厳重な誤りがあった。ロシアの戦争を支援したことは欧米を敵に回してしまい、対外開放と経済建設に厳重な悪影響を与えた。戦狼外交の推進も過ちだった。

③ 経済運営において国有企業を重要視するあまり民営企業を軽視し、国務院の仕事に干渉しすぎた。

④ 人事の面では自分の熟知する幹部、側近ばかりを重用し、長老たちの意見に耳を傾けなかった。

こうした反省に立ち、習近平はいまの3期目の任期が満了すれば引退すると表明、今後3年間で次期指導者を物色し、育てることに力を入れたいと約束したとされる。これが真実ならば、習近平の終身制独裁はなくなり、2027年の党大会では次の指導者に交替することになる。2027年を目指して準備を進めているとされる台湾侵攻はどうなるのだろうか?

「北戴河政変」は最近の李強首相の発言の変化でも裏付けられる?

呉祚来氏が伝えた「北戴河異変」、あるいはもはや「北戴河政変(クーデタ)」といってもいい「内部情報」について、これを真実だとも嘘だとも断定する根拠もないが、しかし人民日報紙面に現われた最近の李強首相の発言などを見れば、かなり真実に近い可能性も窺わせる。

人民日報8月17日付の、李強首相が主催して16日に開催した国務院全体会議に関する記事によると、「会議は党3中全会の精神と中央政治局会議、政治局常務委員会議の精神を深く学び、党中央の精神をもって思想の統一、意思の統一、行動の統一を図るべきだと強調した」という。ここで注目すべきは、「党中央の精神」というだけで、「習近平」や「習近平思想」についてはひと言も語られなかった。さらに「党中央」といっても従来の「習近平総書記を核心とする党中央」という習近平体制下では絶対不可欠な表現も使われなかったという。石平氏によると、「党中央の政策・精神」と「習近平の思想」はまったく別のものという姿勢を明確に打ち出し、「習近平排斥」も乗り出したのが、李強首相が久しぶりに主催した国務院全体会議だったというわけである。

石平氏によれば、こうした言葉の使い方の変化から、中国政治の変化をつかむのはチャイナウォッチャーの基本だという。北戴河会議で合意されたという「8つのコンセンサス」の真偽は今後の中国の変化をみていけば必然的にわかることだ。それにしても、習近平体制の終焉と今後の中国の変化に目が離せない。