パルテノン神殿のごと冷奴
https://bushoojapan.com/world/greece/2019/09/26/59792 【ギリシャのお宝パルテノン神殿が爆破! なぜ神の住まいは壊された?】より
どこの国にも、一つや二つは有名な建築物がありますよね。
エッフェル塔とか、自由の女神とか、万里の長城、三大ピラミッドなどなど。
今や、代表的な観光地と同義になっていますが、そういった名所が昔のまま残されている例はほとんどなく、時には戦火に巻き込まれてしまうことも多いもので……。
1687年(日本では江戸時代・貞享四年)9月26日、アテネのパルテノン神殿が爆破されるというダイナミックすぎる事件が起きました。
戦火によるものなので、今回はバカッター(もう古い?)的な出来事ではありません。
大トルコ戦争の中で破壊された?
そもそも国の首都は、戦乱と切っても切れないところ。城で例えれば「本丸」だから当然ですね。宗教的にも政治的にもその国の重要な施設がありますし、戦争では「首都を落としたほうが勝ち」という面もあります。
例えば「第二次世界大戦のヨーロッパ戦線における戦闘は、実質的にベルリン陥落で終わっている」などがわかりやすいでしょうか。
そんなわけで、アテネも都市国家アテナイの時代から度々戦火に巻き込まれています。
大きな変化としては、紀元前4世紀のマケドニア(アレクサンドロス大王)に征服されたり、ローマ帝国の一部になったり、オスマン帝国の支配下に入ったこともありました(15世紀)。今回お話しする1687年の件も、実はオスマン帝国が絡んでいます。
1683年に始まった【大トルコ戦争】です。
ちなみにオスマン帝国のことは昔「オスマントルコ」と呼ぶことが多かったですが、この国はトルコ民族だけではなく、文字通りの多民族国家だったため、現在では「オスマン帝国」のほうが主流になってきていますね。
大トルコ戦争(第二次ウィーン包囲戦におけるヤン3世)/wikipediaより引用
それはともかく、大トルコ戦争の図式は以下の通りでした。
オスマン帝国vs神聖ローマ帝国・オーストリア・ロシア・ヴェネツィア(※当時は独立した共和国)ちなみに同盟側のことは【神聖同盟】と呼びます。
武器や弾薬の保管だけでなく、女子供も避難
戦争の理由は、ものすごく乱暴に言うと領土の取り合いです。
特にギリシャを含めた東欧地域の一部は、この時代オスマン帝国の傘下になっていたところも多く、ヨーロッパから元々近い上に地続きとなってしまったため、より強い恐怖感に苛まされていたでしょう。
そんな感じでヨーロッパ諸国は同盟を組み、オスマン帝国と戦うことになりました。
そして、上記の通り当時のオスマン帝国は東欧地域もシマにしていたので、この戦争で戦場になったのは主に東欧でした。その中にギリシャも含まれていて、 パルテノン神殿も巻き込まれてしまったのです。
南側から見たパルテノン神殿(手前には大理石の平瓦と丸瓦があり、再建用に木枠の上に仮組みされた様子が見られる)/photo by Thermos wikipediaより引用
パルテノン神殿は破壊される前から武器・弾薬の保管庫兼女性や子供の避難所にもなっており、もはや神殿というより軍事拠点。
オスマン帝国は「ヨーロッパの連中は古代ギリシア文明を尊敬しているはずだから、神殿には攻撃してこないに違いない」と考えていたようですが、そうは問屋がおろしません。
そもそも、ちょっと宗旨が違うだけで同じ宗教同士でもブッコロしあうのが日常茶飯事ですしね……。
千年以上昔の文明に対して、どれだけ敬意を持っていたかというのはお察しです。
修復に修復を重ね
そんなわけで、ヴェネツィア軍の砲が容赦なくパルテノン神殿に飛び、中にあった弾薬が大爆発。天井や柱、彫刻の多くが木っ端みじんと化し、現在知られる、あのような姿になってしまったのです。
当然、死傷者も相当出ているはずなんですけどね。
あまりにも神殿の壊れようについてインパクトが強いためか、死傷者に関する記録が見つかりませんでした……それもどうよ。
その後、オスマン帝国は大トルコ戦争に敗れて衰退し、地元ギリシャがオスマン帝国から独立を果たしたのもずっと後(約150年後)のことだったので、 パルテノン神殿の修復は随分後回しになってしまいました。
あまりにも大きいので、一度修復が終わってもまた数十年後には再度修復をしなくてはならず、だいたいの場合観光に行って写真を撮ろうとしても「作業用の足場も写っちゃう(´・ω・`)」と残念な気持ちになられている方が多いようですね。
ごくまれに、修復作業の終わり間際に足場が取り外されていることもあるそうですが……。
近年の戦争やテロでも宗教的なものがぶっ壊されてしまうというのは多々あります。そして後世の人たちも、きっと同じような気持ちになるのでしょう。
やはり戦争は避けたいものです。