三代目❤夢小説 『NAOTO編40』
夜になり民宿のカウンターで食事を済ませ、直人が席を立とうとすると、主人が声を掛けてきた。
「シーズンオフといっても、まだまだ気温も高いですし、かえって今くらいの時期の方が人も少なくておすすめですよ」
「はぁ…」
「どーです?滞在中に一度潜ってみませんか?」
プライベートの旅行なら、すぐに快諾しただろう。
だが、直人はとてもそんな気にはなれなかった。
「休暇が終わったらすぐに大切なイベントがあるので」
まりあの実家は小さな民宿で、宿泊費も一泊3食付きで5500円、東京では考えられない位の安さだ。
きっと体験ダイビングなどの収入で利益を補って、宿を運営してるんだろう。
そんなことを考えながら主人の顔を見ていると、直人は何だか申し訳ない気持ちになってきた。
「…ダイビングは無理でも、シュノーケリングなら」
「そうですか❗ではさっそく明日ご案内させます」
ーん?
ーします…じゃなくて、させます?
ー他にスタッフがいるんだろうか?
直人が腑に落ちないような複雑な顔をしていると、主人がフォローするように言った。
「ああ‼ご案内ですが、丁度いまうちの娘が帰ってきてるので、それに案内させます」
「…え!?ご主人じゃないんですか?」
ー娘っていったら、まりあちゃんのことだろ?
ー嫁入り前の娘にそんなことさせていいのか?
ーそんなことって、なに想像してんだ、俺…
「あいにく今夜から別のダイビングツアーの予約が入ってまして、明日の夜まで留守にします」
ー最初から分かってたら、シュノーケリングなんて言い出さなかったのに。
直人が変に気を使ったために、もう後には引けない状況になった。
「ご心配なく。うちの娘もスキューバダイビングインストラクターの資格を持ってますし、経験もあります」
ーいや、そういう問題では…
「まりあ!」
「はぁい‼」
思ったより元気な声が厨房の奥から聞こえてきた。
首里城が描かれた色鮮やかな暖簾(のれん)をくぐってまりあが顔を出した。
すぐに直人の方を見て頬を染めた。
「アチャー(明日)お客さんをシュノーケリングにお連れして」
「あ、はい!よろしくお願いします」
まりあはペコンっと頭を下げた。
直人はまりあが断るかと思っていた。
「ハナリ辺りがいいだろ?」
「ハナリ?」
「シブがき隊の像がある無人島です」
「え?そうなんですか」
主人に付け加えるようにまりあが続けた。
「もうずいぶん風化してしまって、誰の像かもわかりませんが」
「遠いんですか?」
「いやぁ、ビーチからすぐ沖に見えてる島ですよ!島まで渡し船も出てます」
ーまりあちゃんと二人でシュノーケリング?
「ぁんたぁ、そろそろ出んと」
厨房から出てきたまりあの母が主人に声を掛けた。
「そうだな、どうぞごゆっくり」
主人は直人に挨拶して出かけていった。
振り向くとまりあの姿も見えなくなっている。
まりあの母と二人だけになった。
「あのー、お願いがあるんですが」
「はい?なんですか?」
「コインランドリーってありますか?」
「ああ‼うちの洗濯機使って下さい。干場は裏口出た所で」
「助かります」
つづく