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いろはうたう

空も知らず海も知らず

2024.09.30 10:00

雲が空を流れて行くから

過ぎ去る時の非連続性に涙することもできるのだ、と蛙は思った。

清涼飲料水の空缶を自室で徒に積み上げていたときのことだ。


誰かを愛すること、何かを愛でること、

そんな一過性の祈りを捧げる対象が

常に心の中にあるわけでもない。


激しい感情の昂ぶりが、

もしも海のように干上がることのないものならば

もしも太陽のように燃え尽きることのないものならば

つまりそう信じさせられるだけの力強さを秘めていたならば


けれどもその器たる幼心は

傷つくことを免れえないだろう、と蛙は思った。


蛙は夜という概念としての時間の持つ意味の意義を疑った。

蛙は別れという終局へ至る必然的帰結の必然性を顧みた。

蛙の耳は地球の裏側で鳴る目覚まし時計の音を求め

そして目の前には崩れた空缶の塔がある。


ここ数日、月には日毎誰かがインクをこぼしている。

にもかかわらず当の月はといえば目映いばかりの微笑みで

蛙は月の安定した情緒や正常な思考力や

公正な判断力を疑わずにはいられない。


月が暗幕の夜空に吊るされた

黄色い画用紙であればいいのに、と蛙は思った。

この暗い室内を照らすガラス越しの月が

路傍の街灯であればいいのに。


それが幸運なのか不幸なのか、蛙の溜息は夜には溶けない。