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いろはうたう

螺旋の縺れへ

2024.10.10 10:00

驢馬は鼻先で揺れる人参を眺め思う。

何事かを求めて止まぬ心には深い暗闇が存在する。

程度の多少は意味をなさず、希求する対象もまた問題ではない。

その闇から逃れたい一心でここまで走り続けてきた。


しかしこの所、その闇が前より大きくなっている気がする。

飼い葉は順調に減っていくのに、体の中に積った闇は重く深くなる一方だ。

今や好物を鼻先にぶら下げられているというのに、欲しいとも思えない。

この飢えと渇きを満たすには、もっと別の何かが必要なのだ。


いつからか陽光の下、眼前で揺れる人参は質量を失ったようだ。

幸福と名づけられたその人参はいまや光そのものである。

欲する自分を装う不毛な行為であると承知している。

だが恐怖が驢馬の足を動かし続ける。


抗い難く確信に近い予感がある。

その未来は驢馬にとって予言ではなく歴史である。

光を追い求めることに疲れた魂はやがて瞳を閉じるだろう。

そして自らの身を闇へ委ね、概念の隘路に迷うのだ。


玻璃色の暗闇に銀色の雫が軌跡を描き

朽ちた木々の如き言葉たちが驢馬の足を串刺す。

遠目には驢馬は闇と戯れ踊っているよう見えるかもしれない。

孤独な影が安らぎを求め岐路に立つその傍らで。