闇で見守る者 15 決意
コウタは色々考えた末、花売りを辞めることにした。
いつまでも続けられる仕事じゃない。コウタはずっと漠然と取りたいと思っていた資格を取ることに決めた。
「保護司?」
プリンスクラブの支配人は目を丸くする。
「うん。ずっと思ってたんだ。身寄りのない子供達を助ける仕事がしたいって。ここを出て、メインシティで資格を取るつもり」
コウタが静かに微笑んで言うと、支配人はうなづいた。
「あんたにピッタリね。確かに、ここでずっと花売りしてるより、あんなみたいないい子は日の当たる場所で真っ当に生きたほうがいいわ。稼ぎ頭がいなくなっちゃうのは残念だけど」
コウタは申し訳なさそうに髪をかきあげる。
「支配人にはたくさんお世話になったから、本当に申し訳ないんだけど。ごめんなさい」
「そんなのいいのよ。寂しいけどね。あんたのことは好きだから。夢は応援してるわ。メインシティにあてはあるの?」
コウタは首を振る。
「全然。でもきっと、行ってみればどうにかなると思うんだ。迷ったらあそこを目指して行けって、伊織さんが…」
そこまで言ってコウタは言葉を詰まらせた。
支配人は心配そうに足を組み替える。
「伊織ちゃんがそう言ったのね…私の方でもどこか保護司ができる場所がないか探してみるわ。あなたはゆっくり荷物ややり残したことをまとめなさい。」
「そこまでしてもらうのは、申し訳ないよ」
「いいのよ。」
支配人は立ち上がるとコウタの隣に腰掛けて、母のようにそっと抱きしめた。
「頼れるところは頼りなさい。アタシもね、あんたにはたくさん世話になったから。」
香水の強い匂いがする。コウタは支配人に抱きしめられながらうなづいた。
仕事は今月いっぱいまでにした。太客で話せそうな人には辞めることを伝えようと思った。面倒なことになりそうな人には黙っていなくなるつもりだ。支配人がフォローしてくれると言うので甘えることにした。
仕事をしながら断捨離をして荷物をまとめ、リュック一つに収まるだけの荷物にまで減らした。トレインの乗車券は決して安くはない。コウタは貯金していたお金をはたいて乗車券を買った。
日に日に部屋の中はがらんとしていく。
「随分殺風景になったな」
家を訪ねて来ていたユノが言う。
「ソファもチェストもテレビも売っちゃったしね。この部屋こんなに広かったっけって感じ」
「いよいよだな」
ユノはオレンジソーダを一口飲む。
「離れてもお前は俺の大事な友達だから。何か困ったことがあったらなんでも言えよ。保護司の施設にはもう話はいってるのか?」
「うん、手紙を書いたよ。前にもいったけど、五色財閥っていうところが経営してる孤児院なんだって。メインシティより海沿いにあるらしいんだ。海、やっぱり綺麗なのかな。初めて見るから、すごく楽しみなんだ」
コウタは嬉しそうに笑う。
支配人が五色財閥の施設を探して来たとコウタから聞いた時ユノは驚いた。
五色財閥はユノの組織「闇猫」の母体の一つだ。本来ならユノがこの施設を紹介しようと思っていたのだが。
支配人は薄々コウタと闇猫の関係に気がついていたのかもしれない。
「さあなぁ…俺だって本物の海は見たことないもん。そりゃあ綺麗だろうな。しかも、綺麗な姉ちゃんとかが水着着てわんさかいるんだろ」
ヒヒヒ、と悪ガキの顔をしてユノは笑う。
そこに行けば間違いない。そこにいる限り、コウタはいつか伊織に会える。ユノはそれを分かっていた。
コウタに仕事があったので、スラムのメインストリートまでユノと一緒に出て来た。
「じゃあな。なんか手伝えることがあったら言えよ。またな」
夕暮れ時の薄闇の中、ユノが手を振る。