【加藤幸恵】VOL.① 不満ばかりだった主婦の人生を変えたピラティス〜スタジオオーナーがシンプルに生きる今を語る
清々しく明るい雰囲気をまとう幸恵さん。ピラティストレーナーとしてお客さんから絶大な信頼があり、彼女の予約はいつも満席だ。さらに、抜群の行動力で、昨年2店舗目のスタジオをオープン。
スタジオの空間やInstagramは、彼女のシンプルさと洗練されたセンスの良さが際立つ。インストラクターは現在5人。人材育成にも力を注ぐ指導者でもある。
解剖学から身体機能、インソール、分子栄養学に至るまで、お客さまにとっての最善を考え尽くし、好奇心をもって学び続けている彼女はどこに向かっているのだろうか?
彼女がつくる、「彼女の仕事」は、どのような想いから表現されているものなのか、触れさせていただこうと思う。
(取材/はぎのあきこ)
お客さんに変化を感じて喜んでもらうために学び続ける
ーピラティスインストラクター、経営者としてご活躍されている幸恵さんですが、「お母さん」としての側面もしっかりあるように感じます。
そうですね。ただ、いつも仕事と家庭とのバランスは難しいなと感じています。昔から仕事優先の傾向があるので、娘には基本的に寂しい思いをさせてるなと思います。でも、結局「娘は娘の人生」と思ってる面もあります。
「母の顔」だけになってしまうと、自分の世界が狭くなってしまう気がするんです。もちろん、それで幸せを感じる人もいると思います。でも、わたしはそうではなかった。結果的に今、外に仕事に出ていて良かったなと思っています。
ー「母の顔」だけではなく、外に出る。
そうなんです。それに、最近になってようやく《余白》がもてるようにもなってきました。わたしは、やっぱり仕事が好きで、ピラティスインストラクターとしてお客さんにレッスンをしている時間が一番楽しいですね。
お客さんの身体が変わっていくのを見ると、「ああ、良かった」と心底思います。
だからこそ、わたし自身、身体のことを勉強しようと思えますし、その学びが結果につながるからこそ、とても楽しいです。
ーなるほど、お客さんの変化に喜びがある、と。
はい。自分の体が変わっていくというのも、もちろん楽しくやりがいがありますが、お客さんからいただくエネルギーの方が大きいです。お客さんが、レッスンを満足してくれて、変化したことが「嬉しい」と感じてもらえて、喜んでいただく。その良いエネルギーを、私もいただいているんです。
自分のことのように嬉しくなるんですよね。だから、そこには付加価値をつけて、レッスン以上のものを提供しようと思っているサービスの根幹部分でもあります。だから、先ほどもお話したように、私が学び続けようとも思えるところです。
ーかなりストイックに学ばれている印象を受けます。
そうですね。お客さんに変化してもらうためには、やはりわたし自身が進化していく必要があります。だから、自分もインストラクターからピラティスのレッスンを受け続けています。
ピラティス以外でも、分子栄養学や骨格コンディショニング、脳神経学も身体をととのえていくには必要だと思い、学びを深めています。色々学んでいくと、「人間ってすごいな」という感動がありますね。
ー人の身体をみる視点は、学びを通して身につけてこられたものですか?
そこは、もう私の中では《センス》なのかなと思っています。昔から、わたしには《人を引き寄せる力》があるのではないかとも思っているんです。例えば、誰もいないお店にわたしが入った後、お客さんが大勢入ってくる現象が頻繁にあるんですよ。
ー《引き寄せる力》と《見抜く力》は、センス。それは、もともと持っていた力でしょうか?
そうだと思います。勝手に目に入るんです。お客さんが来られた時に、なんか調子悪そうだなと表情や目、足音など様々な情報からキャッチしてそんな風に捉えていますね。初見でも、その人の動きや様々な客観的な情報を見て状態を予測しています。
短大を卒業してから百貨店で紳士服の販売をしていた期間があるんですが、そうやって人を観察することがその頃から好きなんです。でも、自分の思い込みでその人を見ないようにしています。
「・・・だから〇〇に違いない」という決めつけはしない、ということです。「この人は、こうかもしれない」とパッと捉えてはいるけれど、それが後で全然違ったとしても修正が可能なんですよね。
ーなるほど。それは、「直感」とも言えますよね。直感を大事にしながらも、同時に客観性をもつ。直感は当たっていますか?
当たっていると思います。学生時代のバイト先の仲間にその「直感」の話をしたら、誰もそんな風に人をみてはいなくて。みんなには、分からないようだと知りました。それで、その「人をみる視点」について、《自分が変わってる面があるんやな》と自分と人との違いを感じたことがあります。
ーそれが「センス」なんですね。
そうなんだと思います。
「痩せたい」をきっかけに辿り着いたピラティス
ーそのセンスを活かそうと思ってピラティスをやり始めたのですか?
いいえ。ピラティスを始めたきっかけは、ただ「痩せたい」が始まりでした 笑。ピラティスに出会ったのは、専業主婦をしていた時です。
―専業主婦だった頃があるのですね。意外です。
そうなんですよ。結婚後、転職しては、東京、淡路島と転々としながら、子どもが1歳になった時、「私も働きに出る」と神戸に戻ってきました。でも、子どもが保育園に入ることができなかったので、実家にも助けてもらいつつ、一時保育で繋ぎ合わせていたんです。
「働きながら子育てするの大変やな」と実感しました。それから、子どもが大きくなっても、9時から17時で働ける仕事をした方がいいなと、コールセンターで働き出しました。すると、それまでの立ち仕事が座り仕事に変わった。
そうしたら、体の変な部分にお肉がついてしまいました。
ーそれで「痩せたい」と思った。
そうそう。スポーツをしたくても、その頃は時間がなかったんです。ちょうどその頃、コールセンターの仕事に慣れてしまい、ステップアップというものがなくて、面白味が感じられなくなっていたんですよ。
だから、「この仕事を一生するのは無理やな」と思い、思い切って仕事を辞めました。娘と一緒にいたかったという理由もありますけれど。
仕事を辞めると時間ができて、ホットヨガを始めました。でも、体重は減るのに、驚くほど見た目が変わらない。
「脚が細くなりたいのに、ならへんやん!」と、レッスン後、インストラクターにどうしたら脚が痩せれるかをしつこく質問していましたね。
ー目標を定めたら突き詰めていく感じでしょうか 笑。
そう。だって、見た目を変えたいじゃないですか!でも、全然変わらないから、いくら質問に答えてもらっても、わたしは腑に落ちなくて。そうしたら、論理的に説明が可能なピラティスをすすめられました。
ーそれで、ピラティスをするようになった。
はい。ピラティスを始めて、知らなかった知識が増える度に《自分の体のこと、何にも知らへんやん》と衝撃を受けました。レッスンの度に帰りの電車で、筋肉や骨の解剖生理を調べるようになりました。
そうやってボディイメージができてから体を動かすと、とても動きやすいことを実感しました。体型も変わり、変化を伴うので、ピラティスがどんどん面白くて仕方なくなって今に至ります。