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WUNDERKAMMER

[四国]被猿

2019.01.05 07:29

俺の生まれ育った町は四国の田舎町で、俺が小さかった頃はまだ旧い風習や考えが残ってた。

例えば、幼馴染みに双子がいるんだけど、それを年配の人は"忌み子"として嫌っていたり、

五感や身体に傷害がある子を、"欠け子" と呼んだり。

つまり、普通には生まれてこなかった子(こう書くと大変失礼で、お怒りになられる方は多いとおもいますが)を忌み嫌う風習があった。

今ではほとんどないらしいが、昭和の終わりまではあったと思う。


町自体がかなり小規模なこともあり、そういう子が生まれるとすぐに噂は広まる。

迫害を受けるようなことはなかったようだけど、後ろ指さされたり、遠ざけられたりということはあったようだ。

となると、そういう子は生みたくない。

そこで、妊婦さんに"普通の子" を生んでもらうための、あるまじないがあった。

それが、この地域に伝わる"被猿"という風習だ。

これは、妊婦さんのいる部屋や病室に木彫りの猿を置き、

"忌み子"や"欠け子"の基になるとされる陰の気(災い)を、代わりに被ってもらうというもの。


簡単に言えば身代わりだ。

昔は、障害児が生まれたり災害があると、それを神や悪霊、呪いなど、

目には見えないものに無理矢理結び付けていた。

"被猿"もまたそういうものだろう。

しかし今思えば、そういった風習が、20年ほど前までの日本に残っていたのはすこし怖い。

話が逸れたが、役目を終えた被猿は土深くに埋められる。

燃やすと空気に混じって災いが飛散するからダメ。

どこかに封じても、誰かが持ち出すかもしれないからダメ。

水の中は神聖な場所だから、土の中が一番らしい。


ある日、祖母に聞いてみた。

「土に埋めても、土から災いがやって来るんじゃない?」と。

「確かにね。でも、土は長い時間を掛けて災いを薄めてくれる。だから一番いいんだ。

 でもね、忘れちゃいけない。

 命は土に還り、花を咲かせたりして循環するだろう?

 災いも同じだ。決して消えるわけじゃない」

被猿は掘り起こされないために、決まった場所にまとめて埋めない。

つまり、今俺の足下にも埋まっているかもしれない。

そう考えるとほんのり怖い。