大学を好きになりたる落葉かな
https://osaka-kyoiku.ac.jp/university/kouhou/closeupdaikyo/labo/labo_17.html 【ラボ訪問 岡田 耕治 教授】より
教育現場と学生の橋渡しに
教職教育研究センター 岡田 耕治 教授
「恋い焦がれた人に再び出会うことができました」。大阪府岬町で生まれ,岬町で育った岡田耕治青年は,母校の中学校に採用された着任の挨拶で,こんなとびきりの第一声で,国語教師として歩みを始めました。途中,教育行政の世界を経験した後,再び現場に戻り,今年の3月まで小・中学校の校長を務めました。38年間,教育一筋にささげた人生を「毎日失敗の連続ですよ」と前置き,とっておきの失敗談を語り始めました。
「ソフトボール地区大会の決勝の最終回、4点リードもピンチが広がり満塁の場面。監督のわたしはタイムをとり,『ホームランを打たれても同点だ,楽に行こう』と子どもたちを励ましました。その直後ですよ,ホームランを打たれたのは」。チームはそのまま逆転負け。「今思えば,あのときタイムをとったことで選手に動揺が生まれてしまった。プレーを続行していたら勝っていたでしょうね。それからわたしは準優の岡田と呼ばれるようになりました」と苦笑い。
しかし,と切り出し「準優の岡田は子どもを主人公にしたチーム作りにシフトしてから,優勝の岡田へと変貌を遂げます。通常,監督が打者に声かけするのは,プレー後,ベンチに戻ってきたときです。そうではなく,ネクストバッターズサークルに立つ前に声をかける。ランナー2塁の場面で,『この後送りバントが決まればどうする? 初球をねらって打つか、それともスクイズを決めるか?』と選手自身に考えさせるのです。教育学者D.ショーンの言葉に「行為の中の省察」があります。行動しながら常にそれを顧みるという意味ですが,これはまさにその実践なのです」。
教授としての初授業でもこの鉄板ネタから入り,そこで熟練の授業テクニックも披露します。「『これがあったら絶対教師としてやっていけるスキルは何か?』,ふつうならここで少し間を取って,『行為の中の省察』と結論を述べます。でも,わたしは間を取る代わりにこの模造紙を貼ります」と達筆の筆文字を見せました。「授業で一番大事なことは,いかに学生の視線をこちらに向かせるか。プレゼンテーションソフトでは画面を切り替えてもここまで誘導できません。模造紙を貼って視線を誘導し,そこから一人ずつ丁寧にアイコンタクトをとっていく。模造紙は最強のプレゼンテーションツールなのです」と力強く断言します。
かつて校長時代には,荒れた学級の隣に校長室を移し,騒がしい教室に自ら乗り込んだり,集団で勉強しづらい子どもを預かったりと,常に子どもの心に寄り添ってきた岡田教授。そんな観察眼のプロが見る本学の学生は「親や教師を困らせないまじめで素直な子たち」。ただ,「その分挫折が少なく,生きるのに必死で勉強どころではない子どもたちに,教師としてうまく接していけるのか不安を感じているよう」と推察します。現場の教師たちはいったい何に悩み,喜びを見出しているのでしょうか?その答えは,岡田教授が立つ,もう一つの教壇にありました。
大阪狭山市では,若手教員を対象とした教師塾を開講しており,岡田教授は講師として,アイコンタクトの取り方,表情の作り方など,自らの経験を活かしたプログラムを提供しています。「講義の終わりに毎回アンケートを書いてもらいますが,先生たちの心の内がよくわかります。それを大学で学生に伝え,教師としての構えを養わせています」と現場と学生をつなぐ橋渡し役を担っています。そして,「つらいこと,苦しいことがあれば,いつでも相談できる我が家のような存在でありたい」と温かいまなざしを向けました。
趣味は俳句で,校長時代には俳句ポストを設けて子どもたちの作品を選句し,全校集会で優秀作を発表していました。その中の一作「こいのぼり風にふかれて歩きだす」は金賞に輝きました。「『泳ぎだす』と紋切り型の表現で満足してほしくない。子どもたちの自由な発想を引き出せるような,枠にとらわれない教師を生み出したい」と語るその瞳は輝いていました。
https://www.youtube.com/watch?v=A4uLksc1g88
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B2%A1%E7%94%B0%E8%80%95%E6%B2%BB 【岡田耕治】より
岡田 耕治(おかだ こうじ)は、大阪教育大学教職教育研究センター教授[1](2015年4月 - )である。大阪狭山市教育委員会と大阪狭山市校長会の共催による若手教員を対象とした教師塾「がじゅまるカフェ」のファシリテーターを務める。教育研究機関「子ども教育広場」の事務局長として、若い教職員やスクールリーダーに学びの場を提供する。「おとなの学び研究会」のメンバーとともに、対話を大切にした学びの場を創る。
来歴
大阪府内の中学校に勤務後、大阪府教育委員会の指導主事、社会教育主事、管理主事等として勤務した後、2009年4月から大阪府岬町で小学校長、中学校長を歴任した。
著作
対話からはじまる人権学習(2007年、部落解放・人権研究所・解放出版社、ISBN 9784759223392)
おしゃべりの道具箱
「ことば・表現・差別」再考