NHK「放送テロ」潜伏する「中国の代理人」の暗躍に警戒せよ
NHK国際放送で中国語担当の外部契約スタッフの中国人が8月19日、生放送のラジオ番組で、「靖国神社での中国人による落書き事件」に関するニュースを読み上げたあと、突然、「釣魚台(ティアオユィタイ・尖閣諸島の中国語名)は古来より中国の領土だ。NHKの歴史修正主義宣伝に抗議する」と中国語で話し、さらに英語で「南京大虐殺を忘れるな。性奴隷だった慰安婦を忘れるな。731部隊を忘れるな」と檄を飛ばし、これが「電波ジャック」だとか「放送テロ」だとして大問題になっている。
このネット時代に、短波放送や中波の第2ラジオ(教育ラジオ)で実際にどれくらいの人が放送を聞いているか分からないが、ことは単に視聴人数だけの問題ではない。NHKの国際放送は、政府から年間36億円の制作費の補助を受け、まさに「国策放送」として海外に日本の立場を伝え、日本政府の政策への理解増進を促すことも大きな目的の一つになっている。
新・旧「放送法」にある「命令」放送と「要請」放送
ところで、かつての「放送法」第33条には、「総務大臣は、NHK に対し、『放送区域、放送事項その他必要な事項』を指定して、国際放送を行うことを命ずることができる」とあり、2006年、当時の菅総務大臣が、ラジオ国際放送で「北朝鮮による日本人拉致問題に特に留意する」という命令を出したことがあった。実は、これが「放送法」制定以来、「命令放送」に対する“最初にして最後の命令”だった。編集の独立自主権を主張するNHKは「国策」とか「命令放送」とかには強い拒否反応を示し、この翌年(2007)には、「国際放送の命令放送制度について、『命ずる』との文言を『要請する』に改め、NHKはこれに応じるよう努めるものとする」(平成19年版 情報通信白書)という言い方に変わった。
そして現在の「放送法」では、その第65条(国際放送の実施の要請等)で「総務大臣は、NHKに対し、放送区域、放送事項(邦人の生命、身体及び財産の保護に係る事項、国の重要な政策に係る事項、国の文化、伝統及び社会経済に係る重要事項その他の国の重要事項に係るものに限る。)その他必要な事項を指定して国際放送又はテレビ国際衛星放送を行うことを要請することができる」とある。つまり、その要請できる「放送事項」は、括弧内にある内容に限定され、何でも要請できるというわけでもない。たとえば、北朝鮮による拉致被害者の家族会や救う会全国協議会なども参加する「特定失踪者問題調査会」(荒木和博代表)は北朝鮮に残る拉致被害者に向けてメッセージを送る「しおかぜ」という短波放送を2005年から現在まで発信している。調査会は、この「しおかぜ」の放送実施主体をNHKに依頼したことがあるが、NHKは拒否したと言われる。「邦人の生命」に関わることでもNHKは簡単には対応しないのである。(ただNHKが海外向け国際放送で使用する「KDDI八俣送信所」(茨城県古河市)の短波送信設備をNHKが使用しない空き時間に「しおかぜ」が使用することで合意している。)
中国語スタッフによる電波ジャックは確信犯か?
今回の中国人によるNHK国際放送での“不適切”突発発言は、いずれにしても、領土や歴史問題など「国の重要な政策に係る事項」に関わり、政府の立場や政策に完全に反する発言であり、国家に重大な損害を与えたことは間違いなく、NHKは、偽計業務妨害などで刑事告訴し損害賠償請求すべき事案だろう。しかし、従来からNHKは不偏不党、独立自主をうたい、「命令・要請放送」や報道・番組に対する政府の干渉は極端に嫌う一方で、内部に入り込んだ外国人スタッフによる見えない干渉や外国政府を背景にした謀略に対しては、警戒が甘くなっていたのではないか。
問題の中国人は、中国の大学を卒業し2002年に来日し、東大大学院で学んだあと、NHKのほか政府機関の通訳の仕事も請け負ったことがあるという。日本滞在22年に及ぶ男がなぜ突然豹変しただろうのか。しかし、男が事件の翌日には出国し、中国に戻っているところを見ると、この電波ジャックはけっして偶発的なものではなく、何か確信犯的で計画的なものを感じる。帰国直後に発した彼のSNS「微博(ウェイボー)」には、「あらゆるコメントには反応しない。すべては22秒(の不適切発言)に濃縮した。すべての真実と真相、過去、現在、そして未来もだ」とあり、たった「22秒」の発言で世間の注目を集めたことに、いまや英雄気取りだ。ある意味、その発言が世界の注目を集めたことで、彼の行動は一定の成果を収めたともいえる。
<高口康太Wedge8/31【愛国と貧乏】NHK国際放送で中国人はなぜ“不適切発言”をしたのか?>
「中国の代理人」による謀略犯罪が相次いで摘発
ところで、この日本での事件とあい前後して、アメリカなどでは中国人の不正、謀略事件が相次いで摘発されている。
ニューヨーク・タイムズによると、ニューヨーク州の検察と連邦捜査局(FBI)はニューヨーク州のホークル知事の側近だった中国出身の40歳女性(リンダ・サン)とその夫を中国政府の代理人として活動し金品を受け取った疑いで逮捕・起訴したと発表した。女は2012年から23年まで州政府に勤務し、中国に関する事務や開発プロジェクトを担当、州知事の主席補佐官代理まで勤めた。この間に、中国政府の要請を受け、台湾の要人が知事と面会するのをボイコットしたり、知事のスピーチから新疆ウイグル自治区に関する記述を削除したりするなど、州知事の業務に関与して中国の立場を積極的に反映させることに成功していた。こうした活動の見返りに中国から多額の援助を受け、ニューヨーク州やハワイ州で不動産を取得し、さまざまな高級車を購入していたという。
<NHKニュース9/4「米ニューヨーク州知事元側近を起訴“中国の代理人として活動”」>
女は、2022年末に州政府幹部の職を棄て、その数か月後、去年3月には民主党所属の下院議員候補の選挙キャンプに陣営スタッフとして入った。この突然の異動が、違法行為の証拠が見つかる端緒となったとされる。事件が発覚しなければ、「中国政府の代理人」は米議会の内部にまで潜入することになったかもしれない。
また7月には、中国共産党のスパイとして活動した容疑で、米国に帰化した中国人(王書君ワン・シューチュン、76歳)らが、中国政府に代わって、米国に移住した中国系家族を監視していたとして検察から起訴されている。
<中央日報9/4「ニューヨーク州知事の前秘書、中国スパイ容疑で逮捕…「対価として鴨料理も」>
中国の代理人になってスパイ活動する元「民主活動家」も
また1989年の天安門事件後、台湾を経て米国に亡命し、その後は中国政府に反対する「民主活動家」としての活動で知られてきた中国人(唐元隽・タン・ユァンジュン)が、中国国家安全部の諜報活動に加担したとして、FBIによって逮捕、起訴された。起訴状によれば、2018年、中国国家安全部の情報工作員が唐に接触し、米国在住の中国民主活動家たちの活動資料などを提供する見返りとして、中国へ里帰りが許可されたという。そして2021年にニューヨークで行われた天安門事件の追悼記念活動に関する資料を中国の情報工作員に提供したほか、22年には議会選挙に立候補予定の中国系米国人に関する選挙活動や募金収集の資料を提供したとされる。
FBIが彼の所持していたパソコンと5台の携帯電話を押収し調べた結果、中国国家安全部の情報工作員との連絡内容の記録やオンライン銀行口座などが発見され、そのうち情報工作員から手渡された携帯電話には、写真、スクリーンショット、音声記録など、全ての情報を瞬時に中国側へ転送するためのプログラムが仕込まれていたという。
<譚璐美JBpress8/31「中国に寝返って諜報活動」の容疑で米国在住の中国民主活動家を逮捕、背信の裏にあった中国の容赦ない破壊工作」>
「中国の代理人」として暗躍する在米中国人がこうして次々に摘発される事態について、ニューヨークタイムスは「検察のこうした動きは米中間で貿易・技術に対する葛藤が高まり、外交関係が壊れるなかで明るみになった」と伝えている。要するに、平時であれば、外国パスポートを持つ滞在者であれ、外国から帰化した移民であれ、すべて当該政府が保護し援助すべき対象だが、太平洋戦争中には日系移民の強制収容があったように、戦時下における敵性国家のスパイ摘発と同じく、中国系の人々の背後には中国政府の影があることを最初から疑わなければならない、もはやそんな戦時下のような緊張状態が米中両国の間には覆い被さっているともいえそうだ。それに比べて、日本政府や日本の国会議員の中国政府や在日中国人に対する対処の仕方は甘いのではないか。「日中友好」の幟(のぼり)を掲げ、与野党の国会議員が雁首を並べて「北京参り」する時代ではもはやないのは明らかだ。
反中国と親中国に分かれ乱闘する中国人
ぜひ、次の動画を見ていただきたい。
去年11月、サンフランシスコで開かれたAPEC首脳会議に習近平主席が出席した際、チベット人や香港人などでつくる在外団体が行った「アンタイ・チャイナ」(反中国)の抗議活動と、それを阻止するために集結した「プロ・チャイナ」(親中派)の在米中国人たちによる街頭での衝突の模様である。
https://www.youtube.com/watch?v=J2WuxEX3tFU
https://www.youtube.com/watch?v=gxcgF6vr2C8
ワシントンポストによると、このサミットの期間中、サンフランシスコには全米から35以上の親中派団体が集結したとされ、親中デモ隊は主として血気盛んな若者が前面に出て、反中デモ隊に向かって化学スプレーを撒いて攻撃をしたり、中国旗を付けた棒を振り回したり、拳で殴ったり足で蹴ったりの暴力を繰りかえした。反中デモ隊の中には顔面に砂をかけられた人もいたという。こうした親中派の団体や支持者を集めるためにLA駐在の中国領事館が宿や食料を提供し、LAに住む親中派団体関係者の1人はバス20台とホテルの客室400室を確保した証言している。またワシントンポストが、顔認証技術で写真や動画を分析したところ、在LA中国領事館の外交官4人も現場にいたことが判明し、親中派のデモに直接加担し、何らかの指揮をしていたこともわかった。
<中央日報9/4 WP「中国、昨年の習近平訪米時に反中デモ隊の攻撃に関与」>
反中国の団体と親中派の人たちによる乱闘騒ぎは、実は2008年長野でも経験している。北京五輪の聖火リレーが善光寺を出発するのに合わせ、チベットの独立を支持する団体の人たちが聖火の行進を妨害するために集まったのに対し、中国国旗を持って集結した中国人留学生らが対抗して、街頭で乱闘騒ぎを起こし、大混乱となった事件である。この日、数千人の中国人留学生が長野に集結したが、これは在日中国大使館が全国の留学生組織に命令し動員をかけたものだった。
中国には有事の際に人を強制的に駆り出す国家総動員法という法律があり、海外で暮らす中国人も例外ではない。外国の土地に来て、そこで暮らす人にはお構いなしに、傍若無人な暴力を平気で繰り返す中国人の姿をみて、国家総動員法の恐ろしさを痛感したものだった。街では中国人旅行者の姿をいたるところで目にし、彼らの中国語の会話をすぐ近くで耳にすることができる。この人たちが動画のような暴徒にいつ豹変するかわからないと考えると、とてつもない恐怖を覚える。