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精神科医 諸藤(モロフジ)えみりの心のレッスン

それは逃げているのではなく

2024.09.16 13:54



こんにちは、

精神科医の諸藤えみりです。



外来の一コマをご紹介します。


「それは逃げていませんよ。」

って話です。





患者さんから相談されました。


「母親が入院しました。


以前はしっかり歩いていたのに

今は足元がおぼつきません。


わたしが歳をとるのだから

親だって歳をとるのは当たり前です。


でも

弱っていく母を

受け入れられません。


このまま

良くならなかったら

どうしようと不安になります。」


と言われます。



この方、以前は

不安になったら

慌てふためいていました。



最近は

心を落ち着かせようと

色々試されています。



「不安な気持ちを紛らわせるために

塗り絵を買いました。


でも、

塗り絵をすることは

不安から

逃げているのではないかと思い、

ぜんぜん楽しくありません。」


と言われるのです。






精神科に入院すると

「作業療法」

という時間があります。



作業療法とは

作業に焦点を当てた

治療、指導、援助のことを言います。

医療、福祉、教育、職業などで

行われます。




作業内容は

日常生活活動、家事、仕事、

趣味、遊び、対人交流、休養など

さまざま。



わたしの病院でも

塗り絵や編み物、音楽鑑賞や体操など、

作業療法士さんたちが

多岐に渡って

指導してくれます。




たとえば

うつ病の患者さん。



塗り絵やドリルなど

課題に集中します。

充実感や達成感を味わうことで

気分転換をします。


身体を動かすことで

こころが動き、

沈んだ気分が改善するのです。



不安が強い患者さんもそう。


作業をすることで

不安に支配されない

健康的な時間を作ります。


自己表現や

感情表出の機会にもなります。





わたし

「不安に飲み込まれないように

塗り絵をするのは

いいことですよ。


塗り絵に集中することで

不安が落ち着きますからね。


作業療法という

ちゃんとした治療ですよ。


それにね、

塗り絵は

逃げていることになりませんよ。


たとえば

頭の中に不安がありますね。


今まではずっとその不安を

見張っていました。

なぜなら怖いから。


不安は考えれば考えるほど

大きくなります。


でも、

作業をすることで

不安ではなく

違うところに目を向けるように

なります。


塗り絵をしていても

頭の中に

不安はありますよ。


不安を見ないようになっただけ。


視点がずれると

大きくなっていた不安は

小さくなります。


塗り絵は

不安と共存するための方法です。

逃げていません。


逃げるということは

『親の老化を受け入れました!

もう大丈夫!』

と、ぜんぜん納得していないのに

分かったふりをすることです。


不安をなかったことにしている。


不安を拒絶しても

追いかけてきます。


だって不安も

あなた自身の一部だから。


お母さまの老いも

いずれ受け入れられるように

なります。


不安を無くそうと

躍起になるのではなく、

目線をずらしましょう。」





このように考えることも

できます。



頭の中は

ネット検索と同じです。



何でもいいのですが、

たとえばネットで

「おにぎり」

について検索するとします。



何度も何度も

おにぎりについて調べると、

勝手に

おにぎりの項目が

上位に表示されるようになります。



頭の中も同じ。


不安について

考えれば考えるほど

上位に表示されることになります。


とらわれてしまうんですよね。



じゃあ

検索にひっかからないように

するのはどうするか。



塗り絵のように

違うことに集中して

検索に

ひっかからないようにします。



もしくは

好きなことや楽しいことをして

上位に表示される内容を

上書きしていくのです。



繰り返し繰り返し

やることが重要ですね。



ここでのポイントは

不安が上位に表示されなくなる

ということは、

「不安がなくなった」

ではないということです。



検索にひっかからなくなって

下に沈んでいるだけです。



完全にゼロになるわけでは

ありません。


共存しています。



不安は

「あなたは何に意識を向けますか?」

という

問いかけでもあります。






わたしの話を聞いて

この患者さんは


「えっと、

先生の言っていることは

分かります。


分かるんですけど

分かりません。


家に帰って咀嚼します。」


と言われていました。



今、完璧に

すべてを理解しなくても

いいんですよ。


いずれ分かるから。




わたしが

「次、外来に来られたときに

塗り絵の作品を見せてくださいね。

すんごいの期待しています。」


と言ったらこの方は

笑顔で帰られました。



笑って家に帰る、

まずはそれだけでいいんですよ。