頭の良い子は将棋で育つ
子供向け教室では、女流棋士の高橋和さんの著書『頭の良い子は将棋で育つ』を参考に指導を行っています。以下は同書冒頭部分の引用です。子どもに将棋を習わせたいと思っている親御さんに向けて将棋のことがわかりやすく書かれていますので、皆さんもぜひご一読ください。
頭の良い子は将棋で育つ
高橋和
女流棋士三段。「将棋の森」代表。一般社団法人「日本まなび将棋普及協会」代表理事。一九七六年、神奈川県生まれ。九一年三月に十四歳でプロとなり、二〇〇〇年四月に女流棋士二段。〇二年に第四〇回詰め将棋看寿賞短編賞を受賞。〇五年二月に現役を引退。子ども向け将棋教室開催やインストラクター養成、ゲーム絵本『ぴょんぴょん将棋new!』(幻冬舎)出版など、普及活動に力を注いでいる。
はじめに
はじめまして、女流棋士の高橋和と申します。
私は二十九歳で現役を引退し、現在は東京・吉祥寺の将棋教室『将棋の森』で主に子どもたちに将棋を教えています。今まで指導した子どもは三〇〇〇人を超えます。
最近は、藤井聡太六段の活躍もあり、将棋を習う子どもが増えてきました。
「賢い子になってほしい」
「将棋を習うと、礼儀正しい子になりそう」
「プロになって、藤井六段のように活躍してほしい」
こんな思いを胸に、『将棋の森』へお子さんを連れてくるお父さん、お母さんがたくさんいらっしゃいます。
昔は、将棋というと、タバコの煙がもくもく立ちこめる中、おじさんたちが指すものというイメージがあったかもしれません。でも、今はすっかり知的なゲームとして定着し、子どもの習いごとの1つとして選択肢に挙がるようになりました。
実際、将棋は、子どもの力を育むうえで大いに役立つと感じています。
考え続けることができる「集中力」
勝利への道筋を脳にインプットする「記憶力」
正しいゴールを見極める「先を読む力」
失敗ら学ぶ「復習力」
結果を引き受ける「逃げない力」
頭でなく心で学ぶ「礼儀作法」
無言の対話から育まれる「コミュニケーション力」
最適な判断を瞬時に下す「決断力」
将棋には、このように素晴らしい要素がたくさんあります。
でも「なぜ、将棋を続けているんですか?」と聞かれれば、私は「楽しいから」と答えます。
小学校一年生で将棋に出会って以来、将棋を指すことは私にとっての日常になりました。
もちろん大変なことも多いのでいつも「楽しくて仕方がない!」と思っていたわけではありませんが、それでも将棋を続けてきたのは、やっぱり楽しいからだと思います。
なぜなら、こんなにゴールが見えないゲームは他にありません。指せば指すほど、力つけばつくほど、思考の回路が増えるので奥深さが増していきます。それが、多くの人を惹きつける理由だと思います。
だから私は、たくさんの子どもたちに将棋の楽しさを伝えるとともに、将棋を通じて子どもたちの成長をサポートしていきたいと思っています。
将棋をすることで子どもの顔がパッと明るくなって、目がキラキラッと輝く。そんな瞬間をたくさん作り出すことが私の使命であり、生きがいです。
この本は、将棋を子どもに学ばせたい、もしくは、すでに学ばせているお父さん、お母さんに向けて書きました。
「何から始めればいいかわからない」「子どもが将棋をすると、どんないいことがあるの?」「子どもが強くなるためには、どう導いてあげればいいんだろう」など、さまざまな疑問やお悩みにお答えしています。将棋のルールをご存じない方もいらっしゃると思うので、こみいった話はしません。今現在、将棋に関する知識がゼロでも、気軽に読み進めることができ去す。
ひと昔前のように、一緒に住んでいるおじいちゃんや、近所のおじさんから、子どもが自然に将棋を習う機会は、少なくなってきました。だからこそ、お父さん、お母さんの導きが必要です。
この本がきっかけとなって、より多くの子どもたちが将棋の楽しさを体感し、健やかに成長してくれることを願っています。
目次
第一章
将棋で子どもの脳を育てる
将棋の舞台は「脳の中」
宇宙より広い世界での戦い
今だからこそ必要な頭の使い方
考え続けることができる「集中力」
最初はイスにじっと座ることから
勝てる→楽しい→集中できる、の好循環
勝利への道筋を脳にインプットする「記憶力」
棋士の記憶力は超人的
記憶力があれば応用力も鍛えられる
正しいゴールを見極める「先を読む力」
無限の選択肢からベストの一手を選ぶ大局観
将棋を習っている子どもは成績が良い
失敗から学ぶ「復習力」
勝った人と負けた人が一緒に振り返る「感想戦」
日常生活でも復習をする習慣が身に付く
(将棋界こぼれ話)藤井六段の登場はどのくらい衝撃的?
(将棋界こぼれ話)三日三晩飲み続ける集中力
第二章
将棋で子どもの人間力を育てる
勝ち負けを経験する意味
感情の経験値が増える
痛い目に遭うことは一生の財産
結果を引き受ける「逃げないカ」
敗れた人が自分から「負けました」と言う
負けたときの言い訳を作らない
どんなに負けても諦めず続ける力
波を察知して「運をつかむ力」
運気が下がっても、じたばたしない
ゲームには必ず勝ち方があるという信念
頭でなく心で学ぶ「礼儀作法」
挨拶がきちんとできることの意味
勝っても「やったー!」と言わない
真剣勝負から生まれる本当の優しさ
全力で戦うことが相手への一番の敬意
子どもたちがみんな優しくなっていく
無言の対話から育まれる「コミュニケーション力」
棋士ほどコミュニケーション力が高い人はいない
いつ攻め、いつ守るかの駆け引きが身に付く
最適な判断を瞬時に下す「決断力」
一つの対局で六〇回も決断する
プロ棋士に優柔不断な人はいない
失敗を受け入れて最善を探す「切り替える力」
将棋は心のリセットが利かないゲーム
強い棋士ほど切り替えるのがうまい
(将棋界こぼれ話)棋士は段位を気にしていない
(将棋界こぼれ話)棋士はお金で買える物に興味がない
第三章
そもそも将棋とはどんなゲーム?
一番身近で学べる伝統文化
平安時代の貴族も将棋で遊んでいた
「負けました」は日本ならではの美学
日本の将棋は海外でも人気
これだけは知っておきたい、将棋のルール
相手の王様を取ったら勝ち
覚えておきたい将棋ワード【指す】【王手】【詰む】【詰め将棋】【棋譜】【棋譜並べ】【手筋】【成金】【序盤、中盤、終盤】
将棋で使うのはこんな道具 盤、駒台、駒箱・駒袋
(将棋界こぼれ話)対局にはトイレ休憩がない!
(将棋界こぼれ話)正座をすると集中力が上がる?
第四章
子どもに将棋をどう教えるか
年齢に応じた伸ばし方
幼稚園年中さんで習い始める子も
始めるのにベストな年齢は?
プロを目指すには「遅すぎる年齢」がある
性格に応じた伸ばし方
盤には性格が表れる「積極型」「おっとり型」「内なる闘志型」「無気力型」
自分と向き合うことで性格も変わる
お父さん、お母さんのNGワード 集絶対に言ってはいけない言葉とは?
負けて泣く子どもは強くなる
放っておく、どーんとかまえるお父さん、お母さんのすべきこと
親は将棋を指せなくてOK
子どもの生活にどう将棋を組みこめば良い?
勝ったときには褒めてあげる
伸びるタイミングが来るのをじっと待つ
将棋が強くなる自宅学習法
基本は詰め将棋
答えを見てもかまわない習い始めのときにおすすめの本入門
入門~15級レベルの学習法
14級~8級レベルの学習法
7級~3級レベルの学習法
子どもがコンピューターで学ぶのは良くない?
盤を前に人間と指すのがやっぱり一番やる気スイッチが入る
ちょっとした工夫小さなニンジンぶら下げ作戦
1000回負けたら強くなる「一〇〇〇敗カード」
親以外のたくさんの人に関わる機会を作る
「悔しい」気持ちの、その先を育てる
子どもの心に火がつくテッパンワード
「とにかく指す子」は伸びるのが速い
(将棋界こぼれ話)いいおやつ、いい食事
(将棋界こぼれ話)扇子は何に使う?
第五章
「プロ棋士」とはこんな仕事
プロとは何か
プロはどうやってお金を稼ぐ?
プロは毎日をどう過ごす?
最初のステップは教室・道場
級はどんなふうに上がるのか
対局の相手はこう決まる
教室は「学ぶ」ところ、道場は「指す」ところ
プロへの道のり「研修会」から「奨励会」へ
プロになれるのは年に四人だけ
なぜ男性と女性のシステムが違うのか
なってからがさらに厳しいプロの世界
目指せるかどうかは小学生時代に決まる
自分の子どもには棋士になることをすすめない
学業と両立させるのが最近の流れ
引退後の生活
棋士の引退はどう決まるのか
引退後の職業は?
(将棋界こぼれ話)対局を見ながら囲碁を打つ
第六章
私が「教える棋士」になったわけ
将棋との出会い
始めたときから「勝つまでやめない!」
「将棋を休む」という選択肢は頭になかった
中学三年生でプロに気が付いたらなっていた
「頑張って」と言われるのが苦しい
「女流棋士・高橋和」から解き放たれた高校時代
「一番になりたいと強く願う」という才能
二十九歳、現役引退
里見香奈さんとの指きりげんまん
「教える」という意欲がわき上がった瞬間
引退、そして思わぬ展開
「教える棋士」誕生
自宅教室から「将棋の森」へ
「レッスンプロ」がいない将棋界
やっぱり将棋は楽しい
息子が教えてくれたタレー?の世界」
人間として成長してほしいという思い
子どもは他人に育てられる
親が教えるのは難しい
今が人生で一番楽しいー
おわりに