ギリシア神話の図像を集めた本
今日、NHK文化センターの講座で、T・H・カーペンター『図像で読み解くギリシア神話』(人文書院、2013年)を活用させてもらった。この本に載っている図版のいくつかをOCRを使ってお見せし、それに僕なりの解説を加える、という形式。参加者の方々にはご興味をもっていただけたようで嬉しかった。
この本は、発売後すぐに入手し、今にいたるまで頻繁に参照している。僕がこれをとくに気に入っているのは、以下の三つの理由による。
一つ目は、図版の数が非常に多いということ(全部でおよそ370ほどある)。ギリシア神話の図像を集めた(日本語の)本は、他にもいくつか出回っているが、本書ほど多くの図版を収録しているものは管見のかぎり存在しない。他の本でもよく見かける図像が収載されているのはもちろんのこと、そうではない図像も含まれているので、知識の幅が広がる。
二つ目は、「図像に描かれた人物の身許確認」(p. 6)に重きが置かれているということ。これはどの本でも同じのように思えるが、実際はそうではない。もちろん、図像だけ載せておいて「身許確認」は一切ない、というケースはほとんど見ないが、その場合でも、「身許確認」がなされるのは、図像中で目立つ人物(大きく描かれているetc.)、もしくは、物語のなかで主役級の活躍をする人物に限られていることが非常に多いのだ。そういったものに出会ったとき、僕はしばしば、「では後ろにいるこの目立たない人物は誰なのだろう?」と疑問に思う。カルチャーセンターの受講生の方々からも類似の質問を受けることがよくある(だが、わからないので答えられない)。類書ではこういった傾向が強いなか、この『図像で読み解くギリシア神話』は、図像中の人物をできるかぎり多く特定しようとする。もちろん著者の推測によるものもあるが、まったく情報がないよりは、はるかにましである。
三つ目は、二つ目の話と関連することだが、「アトリビュート一覧」の付録があること。「常春藤(ivy)」はディオニューソス、「雷霆(thunderbolt)」はゼウス、といったもの。いうまでもなく、アトリビュートは「身許確認」のために欠かせないもので、類書でもしばしば説明がなされるが、その情報は断片的なことがほとんどだ。それを考えると、「一覧」としてアトリビュートをまとめてくれているのは非常にありがたい。
これからも本書には大いにお世話になることだろう。