第5話 装置製作
「なあ、これ何が駄目なのか説明はされないのか?」
その作業を開始してから、これで一体何日かかったのだろうか。一体何回俺は同じような、しかし構造が違うから存在している物として違うという屁理屈のような理由を並べて効果としては同じものであるはずの「理論上存在できない魔法を組み込んだ装置」を作っているのだろうか?
「駄目です。まだまだエネルギー効率を効率化しないといけません」
「整備上の問題でも、今後俺達が自分達で手に入れられるもので整備できるようにするって言う注文だしたのはお前さんだろう」
「あのさ、何でこの間まで種族単位でいがみ合っていた奴らが手を組んで俺をこき使っているんだよ」
「それに答える義務があるのですか?」
「早く次作れ。仕事は終わらないぞ」
悪魔かよ。そう思いながらも、俺は何とか魔素回復用のエネルギードリンクを飲んで次の装置を頭に思い浮かべて存在したことにするのだった。
「それって単純に、俺が存在しないからこそ存在していることに俺の能力でしちゃだめなのか?」
その疑問を口にした時、森人達はこっちが怖くなってくるような興奮した顔で近づいてきた。
「出来るのですか⁉ 存在しない物を存在したことにする! そんなことが!」
「ま、まあ。それが俺の力だし」
素直にそう白状すると、森人達は直ぐに机の上に何か書きながら話し出す。
「hpihlsahp;bsap;knp;iagsobljxzm>JBx;ks」
「pihip;sgbpiwqogびおwくぁikliobi;oqd」
「うおさdぶgヴぉgb;あすv;osaj」
聞こえるような、聞こえないような、不思議な言葉の羅列で語られるその話の内容が耳に入って来ない一方で鉱山人達が話しかけてくる。
「お前、それを一体どうしたいってんだ」
「どうしたいって」
「お前、やろうとしていることがどんなことか分かっているのか?」
その鉱山人の言葉の意味が分からなくて聞いてみると、鉱山人はこう語る。
「王都のお偉いさんたちは俺達鉱山人や森人達の技術を出来る限り管理下に置きたいという意向があるみたいだ」
「管理下に」
「ああ。万が一にも戦争とかを吹っ掛けられようものなら自分達の方が不利だという事を理解しているんだろうな」
まあそうだろう。人間族たちが重宝するほどの様々な種族でも扱える上に、様々な怪物たちに対応出来た武器。
それを一手に作ることが出来る上に、あらゆる古代文明の構造物を理解できる種族。
そして、魔法的な理論の基礎から応用まで一世代は先を既に歩んでいると言われている上に、その理知的な存在感で圧倒している種族。
この種族が反旗を翻そうなんて考えたくも無いのは確かに無理もない。だからこそ管理下に置こうとする。
だから種族的な人数差によって無理やり抑え込もうとする。森人からは嫌がられて、鉱山人からは依頼としては受け付けてもらえるが「それ以上の関係」は築けない。
「だからよ、あんたは俺達に俺達の自由で作りたいものを作らせてくれるのか?」
それは間違いなく職人としての渇望だった。
自分の最高傑作を作りたい。そしてその最高傑作を超える最高傑作を作りたい。
無限に続く種族としての絶対的な願い。
それを俺は叶えることが出来るのか。
「勿論だ」
「決まりだ。俺達はあんたに従おう。その代り、あんたも俺達の言う事を聞いてくれよ」
取引が成立した瞬間だった。
そこからは俺の意向など無視して種族単位で新しい魔法と、それを取り込んだ装置を作れるかもしれないという妄想に憑りつかれた森人によって鉱山人と俺は日夜作業をぶっ続けで行う羽目になった。
まあ鉱山人は交代制で作業に当たるし別に本人たちも嫌がっていないために、一人負け状態の俺という図式が出来上がっただけなのだが。
「大丈夫ですか?」
植物人たちが彼女たちの体液として出す蜜から作られたドリンクをまた持ってきてくれる。
「ああ、ありがとう」
「ひ、いえ。大丈夫です」
「……悪いな。怖がらせて」
「い、いえ。これで失礼します」
「……何なのだ、あいつらは」
「そんなに恐がる奴じゃないだろう」
森人と鉱山人達はそう言うが、そもそも恐怖心を従えるために植え付けた張本人である俺からすると申し訳ない事をしたなとは思うのである。
大人のような見た目であるからこそ植物人たちは自分より年上であるかのように錯覚をしてしまうのだが、聞いたところによると彼女たちは全員がなんと年下だというではないか。
しかも寿命だってそんなに長くないために他の種族を襲ってでも精を欲するのは新しい雄との交尾が移動をそんなにしない彼女たちにとってそれだけ重要だからだと言うのである。
「……」
そんな種族に恐怖心を植え付けたのか。
「何か逆に罪深いことをしたような気がするな」
「罪深いことをしたと思うなら早く次の装置を作ってくれ」
「飲んで魔力回復しただろう」
「少しは感傷に浸らせてくれよ」
こいつら一体俺の事を何だと思っているのか。
そう思いながらも。俺は次のドリンクを飲むと新しい装置を頭に思い浮かべて作業をするのだった。