山田昌弘教授と白河桃子氏の「婚活時代」について 2024.09.21 03:24 「婚活時代」という言葉は、社会学者の山田昌弘教授とジャーナリストの白河桃子氏によって広められ、2007年に出版された共著『「婚活」時代』がその象徴です。この言葉は、結婚が自動的に行われるものではなく、積極的に行動して相手を見つける活動、すなわち「婚活」が必要となる時代を示しています。本論では、山田教授と白河氏の立場から「婚活時代」について詳細に論じます。二人の視点を軸に、婚活時代の背景、影響、そして現代社会における結婚観や個人の生き方への影響を探っていきます。1. 山田昌弘教授の立場 山田昌弘教授は、社会学者として現代日本における家族の在り方や結婚、少子化の問題に深く関わってきました。彼の研究は、主に日本の社会構造の変化とそれに伴う家族形態の変遷に焦点を当てています。山田教授は、結婚をめぐる問題が単に個人の意思やライフスタイルの変化だけでなく、社会的・経済的な要因と密接に関連していると考えています。1.1 晩婚化と非婚化の要因 山田教授は、1990年代以降、日本で急激に進行した晩婚化や非婚化を問題視しています。彼は、この現象が個人の自由な選択の結果であるという見方に加え、社会構造や経済的な要因が大きな影響を与えていると指摘します。特に、バブル崩壊後の不況が、若者の経済的安定を難しくし、結果として結婚が遠のく原因の一つとなったと考えています。 山田教授によれば、現代の若者はかつてのように安定した雇用や収入を得ることが困難であり、経済的な不安定さが結婚へのハードルを高めています。特に男性の場合、安定した収入がないことが結婚の障害となり、女性にとっても経済的に頼れる相手を見つけることが難しくなっているといいます。このように、経済的な不安定さが婚活を必要とする時代を作り出していると山田教授は主張します。1.2 パラサイト・シングル論 山田教授が1990年代に提唱した「パラサイト・シングル」という概念も、婚活時代を理解する上で重要です。パラサイト・シングルとは、親と同居しながら自立した生活を送らない独身者を指し、特に都市部における若者の生活様式として注目されました。この概念は、若者が経済的な理由から独立できず、結婚に対する意識も後ろ向きになっている状況を説明するために用いられました。 山田教授は、この状況が婚活時代の到来を予見していたといえます。パラサイト・シングルの若者は、親との同居により生活費を抑え、経済的な負担を軽減する一方で、結婚を先送りにしているため、婚活という新たな活動を余儀なくされることになります。1.3 結婚のハードルとしての「格差」 さらに、山田教授は「格差社会」の問題を婚活時代の背景として強調しています。経済的な格差が広がる中、結婚ができるかどうかは経済的な安定性に大きく依存するようになりました。この結果、裕福で安定した職に就いている人々と、そうでない人々との間で結婚の機会に大きな格差が生じています。つまり、結婚自体が一種の「格差の再生産」のメカニズムとして機能しているという指摘です。2. 白河桃子氏の立場 一方で、白河桃子氏はジャーナリストとして、特に女性の視点から婚活やキャリア、結婚に関する問題を取り上げています。白河氏の視点は、現代女性が直面するキャリアと結婚の両立の難しさや、女性の経済的自立と結婚の関係に焦点を当てています。2.1 女性の社会進出と婚活の関係 白河氏は、女性の社会進出が進んだ一方で、結婚への圧力や期待が依然として強いことを指摘しています。多くの女性は、教育やキャリアを積むことで経済的に自立し、社会的な地位を築くようになりましたが、その一方で、結婚を求められるというプレッシャーも感じています。特に30代に差し掛かると、「結婚適齢期」という社会的なプレッシャーが強まり、婚活に対する焦りが生じると白河氏は述べています。2.2 婚活市場における「売り手市場」と「買い手市場」 白河氏はまた、婚活市場における「売り手市場」と「買い手市場」という概念を用いて、男女のバランスが崩れている現状を説明しています。特に女性にとって、30代後半以降は婚活市場での競争が激化し、厳しい状況に置かれることが多いとしています。一方で、男性にとっても、年収や社会的地位が婚活市場での評価を左右するため、全ての男性が有利であるわけではないと指摘しています。2.3 結婚への「焦り」と「婚活ビジネス」 白河氏はまた、結婚をめぐる焦りがビジネスとしての婚活を促進している点にも注目しています。結婚相談所や婚活パーティーといったビジネスは、結婚を希望する人々にとって一つの解決策となっていますが、同時にプレッシャーを強める側面もあります。特に、結婚を「成功」と捉え、それをビジネス的に支援するサービスが盛んになることで、結婚が一種の市場化し、個人がその中で競争しなければならない状況が生まれていると白河氏は指摘しています。3. 婚活時代の背景とその影響 山田教授と白河氏の立場から見た「婚活時代」は、社会的・経済的な変化が大きく影響していることがわかります。具体的には、次のような要因が婚活時代を生み出していると考えられます。3.1 経済的不安と安定志向 経済的不安が結婚への意欲を低下させ、結果として婚活が必要となる現象は、山田教授の主張に基づくものです。若者が正規雇用を得ることが難しく、将来に対する不安が高まる中で、安定した結婚生活を望む傾向が強まっています。これにより、婚活市場での活動が活発化しているのです。3.2 キャリアと結婚の両立の難しさ 白河氏の指摘するように、特に女性にとっては、キャリアと結婚の両立が難しくなっていることが婚活を必要とする要因となっています。キャリアを積む一方で、結婚を諦めることができない女性たちは、時間的制約の中で効率的に相手を見つけるため、婚活に頼らざるを得ない状況に陥っているのです。3.3 少子化問題との関連 山田教授は、婚活時代の到来が少子化問題とも密接に関連していると主張しています。結婚が遅れることや、そもそも結婚に至らない人々が増えることは、結果として出生率の低下に繋がっています。3.4 社会的な期待と個人の生き方 婚活時代の到来は、結婚に対する社会的な期待と個人の生き方の多様化との間の葛藤も反映しています。山田昌弘教授と白河桃子氏は、結婚が社会的に期待されるライフステージであり続ける一方で、個人が自分自身のキャリアや生活の選択肢を広げる中で、結婚が必ずしも人生の最終的な目標ではなくなりつつあることを指摘しています。特に白河氏は、女性が「結婚しない選択」をすることが増えている一方で、社会からは結婚を求められるというギャップが婚活市場を複雑にしていると述べています。 このギャップが、婚活に対する一部の人々の焦りを生み出し、その焦りが婚活ビジネスの成長に拍車をかけているという点も興味深いです。結婚は依然として「幸せな生活」の象徴とされ、多くの人がそのために婚活を行うものの、社会の変化によりそのハードルが高くなっているため、婚活に対して高いストレスを感じる人々が増えているのです。4. 婚活ビジネスと社会的影響 婚活時代の到来は、ビジネスやメディアの分野でも大きな影響を及ぼしています。婚活を支援するサービスは近年急速に成長し、結婚相談所、婚活パーティー、オンラインマッチングサービスなど、様々な形態が登場しています。この現象について、山田教授と白河氏の視点を交えて詳しく考察していきます。4.1 婚活ビジネスの拡大 婚活ビジネスは、結婚を希望する人々の増加に伴い大きく拡大しました。山田教授の分析によれば、婚活が一種の「市場」として発展することで、結婚に対する経済的・社会的なプレッシャーが強まっています。結婚がもはや自然なプロセスではなく、明確な目的意識を持って活動する対象となったため、婚活市場においては競争が激化し、参加者はより多くの選択肢とリソースを必要とするようになっています。 例えば、結婚相談所は高額な会費や成婚料を設定し、参加者が真剣に結婚相手を探すことを前提としています。さらに、婚活パーティーやマッチングアプリなどの新しいサービスは、よりカジュアルな出会いを提供し、多くの人々に婚活の敷居を下げる効果をもたらしています。しかし、これらのビジネスモデルの広がりは、結婚が一種の「商業活動」として捉えられ、婚活が利益追求の手段となっている側面も否めません。4.2 婚活市場の階層化 婚活市場における「格差」もまた、重要なテーマです。山田教授が述べるように、経済的な安定性や社会的地位が婚活市場での競争力を決定づける要因となり、結果として婚活市場の階層化が進んでいます。高収入の男性や高学歴の女性は市場で有利な立場に立つ一方、低収入や不安定な雇用にある人々は不利な立場に置かれることが多くなっています。 また、白河氏も指摘するように、特に女性においては年齢が婚活市場での「価値」に直結する要因となっており、年齢を重ねるほどに婚活が難しくなるという現実があります。これにより、婚活市場では一部の人々が「勝者」となり、他の人々が「敗者」となるような構造が形成されつつあります。このような市場化された婚活では、結婚そのものが一部の人々にとっては困難な目標となり、社会的な格差を再生産する要因となり得ます。4.3 メディアと婚活ブーム 婚活ビジネスの拡大には、メディアの影響も大きく関わっています。特に2000年代以降、テレビ番組や雑誌、インターネットメディアが婚活を取り上げ、婚活ブームを煽る形で広めてきました。これにより、婚活が一種の社会的な現象として広まり、結婚に対する社会的な期待が再び強調されることになりました。 白河氏は、メディアによる婚活ブームが結婚に対するプレッシャーを強め、特に女性に対して「婚活をしなければならない」という圧力を増幅させたと指摘しています。これにより、結婚が成功の象徴としての位置づけを再び強化し、婚活に参加しない人々が一種の「敗北者」として社会から見られる傾向が強まったと分析しています。5. 婚活時代がもたらす課題と展望 婚活時代が日本社会に与える影響は広範囲にわたる一方で、いくつかの重要な課題も浮かび上がっています。山田教授と白河氏の視点を踏まえ、これらの課題と今後の展望について論じていきます。5.1 結婚の多様化とその未来 婚活時代の到来は、結婚が単一のライフスタイルではなく、多様な形をとる可能性を示しています。特に、未婚のまま生きる選択や、事実婚、同性婚といった異なる形の結婚が受け入れられつつある中で、婚活という活動が必ずしも全ての人に必要なものではなくなる可能性もあります。 山田教授は、結婚が個人の生き方として一つの選択肢であると同時に、結婚をしない生き方や、異なる家族の形を尊重する社会が必要であると述べています。白河氏も、女性のキャリアや自立した生き方が尊重される社会に向けて、結婚だけが「成功」として捉えられないような価値観の変革が必要だと主張しています。5.2 社会的支援と政策の必要性 結婚や婚活に関する課題は、個人の努力だけでは解決できない部分が多く、社会的な支援が求められます。山田教授は、特に若者の経済的な安定を図る政策が重要であると強調しており、非正規雇用の問題や、住居や子育てに対する社会的支援が不足している現状が、婚活時代の一因であると述べています。 白河氏もまた、働き方改革や育児支援の強化が女性の婚活や結婚後の生活を支えるために不可欠であると指摘しています。結婚が「成功」ではなく、個々のライフスタイルの一環として選択されるためには、社会全体が個人の選択を尊重し、支援する仕組みが必要です。6. 結論 「婚活時代」という言葉は、結婚が自然に進行するものではなく、個人が積極的に活動して相手を探す時代を象徴しています。山田昌弘教授と白河桃子氏は、それぞれの立場から婚活時代の背景やその影響を深く掘り下げ、現代社会における結婚の困難さや婚活の必要性を指摘してきました。 山田教授は、経済的な不安定さや社会的な格差が婚活を必要とする背景にあるとし、白河氏は、特に女性に対する結婚へのプレッシャーや婚活市場の厳しさを強調しています。婚活時代は、経済的・社会的な背景と個人の生き方の変化が重なり合い、結婚が一種の「活動」として行われる現象を表しており、それは同時に社会の変化と価値観の多様化を反映しています。 今後、結婚が個人の自由な選択肢としてより柔軟に捉えられる社会を目指し、婚活や結婚に対するプレッシャーが軽減されるための社会的支援や政策が求められるでしょう。そして、結婚が単なる成功の象徴ではなく、多様な生き方の一つとして尊重される社会の構築が、婚活時代を超えて求められています。