【2024秋特集②】NPO法人地中熱利用促進協会設立20周年記念インタビュー
【NPO法人地中熱利用促進協会20周年記念】
笹田政克理事長に聞く「これまでの地中熱とこれからの地中熱」
脱炭素化に向け「地中熱ロードマップ」を改定
地中熱利用の普及拡大に向けて取り組んできたNPO法人地中熱利用促進協会が2024年度、設立20周年を迎えました。10月17日には設立20周年記念シンポジウムも開かれる中、脱炭素社会の実現に向けて高い省エネ効果が期待される一方、知名度の低さやコスト等の課題も指摘されている地中熱利用をどのように広げていく考えなのか。先般協会として地中熱の今後の拡大方針を盛り込む地中熱ロードマップを改定したNPO法人地中熱利用促進協会の笹田政克理事長に話を聞きました。(ECO SEED代表・名古屋悟<エコビジネスライター>)
◆これまで20年の協会活動◆
政策提言やセミナーなど広報啓発活動を通じて自治体等における認知度は飛躍的に向上
――地中熱利用の普及拡大に向けて取り組まれてきたNPO法人地中熱利用促進協会が設立から20年を迎えました。活動を振り返ってポイントと思うことは何でしょうか?
「協会活動を続けてきた今、『継続は力』ということを噛みしめています。現在、協会活動で中核を担っている会員企業は協会設立初期から活動している企業が多く、各社において地中熱を事業の基盤として位置づけ活躍されています。会員が積極的な活動を継続してきたことは20年で一番大きな成果と言っても過言ではありません。この場を借りて会員の皆様には感謝申し上げます。
さて、協会の具体的な活動としては、認知度の向上やコストなどの課題に取り組んでまいりました。
認知度の向上という点では、私が理事長に就任した15年前、地中熱利用は自治体においてもほとんど知られていない状態でしたが、地道に広報啓発活動を続けてきた結果、この10年ほどで自治体関係部署における認知度は飛躍的に向上したと感じています。セミナーやシンポジウム、全国地中熱フォーラムなどのほか、政策提言等の活動も行っており、こうした活動の結果、脱炭素化に向けて地中熱利用も含めた支援策を講じている環境省、技術的な面で重要性を認識していただき、技術開発に注力していただいている国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)をはじめとした行政関係各方面にご理解いただけるようになったと思っています。建物や施設整備の補助金を有する国土交通省や農林水産省等とも協力関係とも築いてきましたが、今後はより強固な関係を築けるように取り組めればと思っています。一方、一般での認知度については残念ながらいまだに低いと言わざるを得ない状況であり、引き続きの課題だと思っています。
導入コストについても従来から課題と指摘され、コスト低減に向けた技術開発等の取り組みが行われてきましたが、低コスト化には普及件数が増えることが重要だと考えています。主力の地中熱ヒートポンプシステムを見ると、2021年度末までに3,218件で導入されています(環境省:令和4度地中熱利用状況調査結果)。この数年を見ると概ね年間100件程度の増加で推移していますが、地中熱ヒートポンプは受注生産であるほか、ボアホール(熱交換井)工事等で使う掘削機も現在の稼働状況ではさらなる低コスト化が難しいのが実情だと感じています。低コスト化を図るためにも、市場拡大はこれからも大きな課題だと認識しています。
また、技術的な信頼性を高めるための活動も成果をあげてきたと思っています。技術資料として『地中熱ヒートポンプシステム施工管理マニュアル』『一定加熱・温水循環方式熱応答試験(TRT)技術書』や『オープンループ導入ガイドライン』等を整備したほか、資格制度として『地中熱施工管理技術者』(1級、2級)を創設してきました。『地中熱施工管理技術者』の受験者に向けた『地中熱講座』(基礎、設計、施工管理)も充実させ、現在では1級、2級それぞれ100名程が資格認定者として登録しています。TRT技術書の関連でも『TRT装置認定制度』を設け、17件が認定を受けています。技術基盤を整備してきたことで地中熱利用の際の信頼度が高まったと思っています。
このほか、省エネ基準関連でも、ネット・ゼロ・エネルギービル(ZEB)において地中熱を導入する際の計算方法等の確立にも協会として寄与し、現在ではクローズドループ、オープンループともに計算方法が確立されています。
技術的な面では基礎は固まっており、今後はJIS化等に向けた検討も進めていきたいと思っています」
◆10月17日設立20周年記念シンポジウム…過去、現在、未来を考える場に◆
――10月17日には設立20周年記念シンポジウムが会場(千代田区立内幸町ホール)及びオンラインで開かれます。シンポジウムの狙いやポイントは?
「政府が2050年脱炭素を宣言して4年が経ちます。各所に太陽光発電パネルや風力発電の風車が設置され、社会の中でも再生可能エネルギーがたいぶ浸透してきたように思いますが、未だカーボンニュートラルへ向けては道半ばであり、脱炭素社会の実現に向けて再生可能エネルギー熱の出番ではないかと考えています。こうした状況の中、シンポジウムでは、これまで積み上げてきた過去を振り返りながら、現在をしっかりと認識し、2050年を見据えた未来、すなわち次世代の地中熱を考える場としたいと思っています。
具体的には、地中熱に関するこれまでの施策を協会20年の歩みと共に紹介し過去を振り返ります。また、2017年に策定した地中熱ロードマップを今年度改定しましたので、現状で協会が考えるこれからの地中熱のあり方について内容を紹介します。
ロードマップは協会関係者で考えうるものを盛り込んでいますが、地中熱をさらに広げるためには様々な分野の方々のご意見が必要だと考えており、パネル討論では建築分野やエネルギー全般、自治体などで活躍されている方々を迎え、『これからの地中熱』をテーマに討論を行う予定です。さまざまな分野の方々の意見を参考に将来の方向性を探れたらと思っています」
◆脱炭素先行地域やZEB等での導入加速、地下水規制の緩和、再エネ熱導入義務化など◆
――改訂版ロードマップのポイントはどのような点でしょうか。
「協会が地中熱利用の普及拡大に向け中長期ロードマップを作成したのは2017年で、この時は2030年代に目標を置いていました。その後2020年に国が脱炭素宣言を行い、2050年カーボンニュートラルという目標が設定されましたので、協会でもロードマップの抜本的な見直しを行い、2050年に国の再エネ熱の目標の1割にあたる134万kl(原油換算)を地中熱で実現することを目標にして、脱炭素社会に貢献できるようにロードマップを改定しました。
当面は国の政策との整合性を考え、脱炭素先行地域にできるだけ地中熱を導入し、地中熱の普及モデルを作っていくことと、地中熱利用により省エネ効果の高いZEBの普及を目指すこととし、さらに将来に向けて集合住宅のZEH(ZEH-M)への導入、面的利用の拡大(地域熱供給など)、農業に加えて養殖漁業や醸造業など新規分野への導入を目指しています。これらのうち、面的利用の拡大に関連して、NEDOが今年度から開始する技術開発プロジェクトは、これからの地中熱利用の方向性を考える上で目が離せないものになると思います。
地中熱利用の普及拡大には、これらの取り組みを着実に進めていくことが重要ですが、これまでの導入実績等に基づき、いくつかのシナリオを作って将来を予測してみますと、現状の市場規模での活動で推移した場合、かなり頑張っても、ロードマップが掲げた2050年目標には届かないことがわかりました。高い目標を実現するには地中熱の市場創出をもたらすような政策の転換が必要なのです。
政策転換として重視しているのが『地下水規制の緩和』と『再エネ熱の導入義務化』です。『地下水規制の緩和』については、現在地盤沈下を起こさない帯水層蓄熱の技術実証が進んできており、揚水規制の緩和が実現できれば大きな市場が創出されると考えています。一方の『再エネ熱の義務化』については、ドイツ等でその有効性が確認された政策ですが、わが国に導入する場合は、まずは自治体が温暖化対策の政府実行計画に倣って、公共施設に導入義務化していくのが現実的ではないかと思っています。
地中熱利用促進協会では、ロードマップを通じて未来を見つめながらも、現実にはコスト・認知度などの当面する課題に向き合い活動を進めて行きたいと考えています」
◆ZEB等での拡大のためにもゼネコンなど会員拡大も重要◆
――この改訂版ロードマップをベースに活動を進められるわけですが、進める上でのポイントは何でしょうか。
「環境省のZEB等補助金の実施団体である一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)の採択事業によると採択件数の1割以上で地中熱が採用されています。一方、最近ではZEBの取り組みにおいて省エネだけでエネルギー消費量を50%以上75%未満とした建物を認証するZEB-Readyを採用するケースが増えています。このZEB-Readyではエネルギー消費量の削減量が少なく、地中熱はじめ再生可能エネルギー等を利用は進みにくいでしょう。
2050年脱炭素化を考えた時、目標を達成するためにはエネルギー消費量を一層削減することが大切だということを意識していただく必要があり、創エネルギーを加味した基準1次エネルギー消費量からの削減率が100%以上となるZEBを目指すことが重要だと考えています。そのZEB実現に大きく貢献できるのが地中熱(地下水熱を含む)であり、今後啓発活動を強化していく必要があると思っています。
そのZEBにおける地中熱利用の採用拡大を考えた場合、ZEBを手掛けている会員を増やすことが重要だと思っており、ZEBを手掛けているゼネコンなどにも協会に参加していただきたいと考えています。
また、会員企業には今後の基本的方向性となる改訂版ロードマップを共通認識として持っていただきたいという思いから今年度の総会で議案として提起させていただきましたが、今回開催する『設立20周年記念シンポジウム』でも『改訂版ロードマップ』を紹介しますのでぜひ内容を理解していただき、ともに脱炭素に向けた地中熱普及の取組を進めていただければと思っています。
また、エンドユーザーサイドとなる不動産関係や施設関係の皆様にも地中熱など再生可能エネルギー熱利用の理解を深めていただきたいと思っており、ぜひシンポジウムに参加していただきたいと思っておりますし、今後協会としても関係する各方面に働きかけていきたいと思っています」(終わり)