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紅く色づく季節

Good and Evil-名も無き店-

2024.09.24 07:59

【詳細】

比率:2:2

現代・サスペンス

時間:約40分



【あらすじ】

ここはお客様の『願い』を叶える『名も無き店』。

この店を訪れた客を迎えるのは兄妹の店主。


貴方には、叶えたい『願い』はありますか?



【登場人物】

 鴫原:(しぎた)

    不思議な店を訪れた男。最近妻を亡くしている。


さくら:鴫原の亡くなった妻。


イチゴ:名も無き不思議な店の店主。ルリの兄。客によって姿(年齢)が変わる。

   

 ルリ:名も無き不思議な店の店主。イチゴの妹。客によって姿(年齢)が変わる。

    


*イチゴとルリは作中、少年姿と少女姿があります。配役を分けていただいてもかまいません。



●名も無き店

   少女姿のルリが店の準備をしている。


 ルリ:おいでませおいでませ。行きはよいよい帰りは……どうなるかはお客様次第

    私たちの城に入られたからにはどうぞお覚悟なさいませ

イチゴ:こらこらルリ。またそんなことを言って。お客様を怖がらせてはいけないよ

 ルリ:あら、兄様。今日も素敵な、紳士なお姿ですこと

イチゴ:どうしたんだい? 今日は珍しく開店前からご機嫌が斜めなようだが

 ルリ:そんなことありませんわ

イチゴ:(苦笑して)そうやって唇を突き出すのはルリに何か思うところがある時の仕草だ

    その姿はとても愛らしいけれど、僕としては他の者に見せたくないな

 ルリ:兄様……

イチゴ:ルリの心を曇らせている原因はなんだい?

 ルリ:だって……

イチゴ:ん?

 ルリ:兄様が大人のお姿ということは、今回のお客様にとって私は不必要ということ

    わかりきった結末なんて興ざめではありませんか。拗ねたくもなりましょう

イチゴ:なるほど、それで……

 ルリ:……嫌いになりました?

イチゴ:まさか。そんなことで僕が最愛の妹を嫌いになるとでも?

    逆にもっと愛おしくなったよ

 ルリ:兄様……

イチゴ:でも、ルリ、これだけは忘れてはいけない。物事には決まった結末なんてない

    一瞬一瞬の選択で変わっていくものだよ

 ルリ:兄様……ごめんなさい……

イチゴ:良い子だね。さぁ、そろそろお客様がいらっしゃる時間だ

 ルリ:えぇ。お出迎えを

  

   店のドアが開く音。


イチゴ:いらっしゃいませ、お客様

 ルリ:ようこそ、私たちのお店へ



さくら:『Good and Evil』(タイトルコール)




●名も無き店

   また別の日。

   少年姿のイチゴが店の準備をしている。

   店のドアが開く音。


イチゴ:おや

 鴫田:(我に返って)……ここは……俺はなんでこんな所に……

イチゴ:いらっしゃいませ、お客様。僕たちのお店にようこそ

 鴫田:子ども?

イチゴ:子どもでもあり、大人でもありますのでどうぞご心配なく

 鴫田:ふざけているのか?

イチゴ:なるほど……お話通りの方だ

 鴫田:は?

 ルリ:(店の奥から)兄様? お客様、もういらしたの?

イチゴ:あぁ、早く出ておいで

 鴫田:兄様?


   店の奥から大人の姿のルリが出て来る。


 ルリ:お待たせしてしまって申し訳ありません、お客様

 鴫田:女?

 ルリ:……

イチゴ:ほら、ルリ。お客様にご挨拶を

 ルリ:……

イチゴ:ルリ

 ルリ:礼節を欠く人に礼を尽くす必要があります?

イチゴ:それでも『お客様』だよ

 ルリ:……

イチゴ:お客様、妹の非礼をお許しください

 鴫田:さっきからなんなんだ? 俺は子どものお遊びになんか付き合っている暇は無い


   鴫田、店のドアを開けようとするが開かない。


 鴫田:なんだこれ、開かない?

 ルリ:無駄なこと

 鴫田:は?

 ルリ:行きはよいよい帰りは……お客様次第

イチゴ:えぇ、この店はなんでも一つお客様の『願い』を叶える店

 鴫田:願いを叶える店? 馬鹿馬鹿しい

 ルリ:信じるも信じないもお客様次第。でも、貴方の『願い』が叶わぬ限り、その扉は開かない

 鴫田:はぁ? 俺をここに監禁でもしようって言うのか? 子どもの遊びのために?

イチゴ:では、子どもの遊びではない事を証明いたしましょう、お客様

 鴫田:なんだよ

イチゴ:(静かに微笑み)貴方のお探し物はなんですか?

 鴫田:っ! なんでそれを……

イチゴ:それを見つけることがお客様の『願い』ですね?

 ルリ:あら、兄様、お客様の思考を覗き見なんて……はしたないですわ

イチゴ:僕もしたくはなかったけど、こうでもしないときっと僕たちの話を信じてもらえそうになかったから

 ルリ:それは……そうですわね

 鴫田:な、なんなんだ……

 ルリ:ですから、先ほどから申し上げているではありませんか。ここはお客様の『願い』を叶える店

    『願い』が叶うまで扉は開かないと

 鴫田:……

イチゴ:と、言われても突然のことで戸惑ってしまわれるのはわかりますよ

    さぁ、どうぞお席に。特別ブレンドのハーブティーをお出ししましょう

   

   鴫田、イチゴに促されて椅子に座る。

   お茶の準備をするイチゴ。

 

 ルリ:それで?

 鴫田:……なんだ?

 ルリ:貴方が探している「物」とは何ですの?

 鴫田:……

 ルリ:だんまり? 別にいいけれど。ここから一生出られないですわよ?

 鴫田:……

 ルリ:(舌打ちをする)

イチゴ:ルリ、はしたないよ

 ルリ:だって兄様……

イチゴ:お客様だって混乱しているんだ。そんなにせかすものじゃない。時間はたっぷりあるのだから


   イチゴ、ハーブティーを鴫田に差し出す。


イチゴ:どうぞ

 鴫田:……

イチゴ:そんな疑いの目で見つめなくても、『そのお茶』には何も入っていませんよ

 鴫田:っ!

イチゴ:(意味ありげに微笑み)それで、お客様のお探し物はなんですか?

 鴫田:……妻の日記を探している

 ルリ:奥様の? であれば、ご本人に確認すればよろしいのでは?

 鴫田:妻は先月死んだよ……

イチゴ:それは……大変失礼いたしました……

 鴫田:いや、いい

イチゴ:では、お客様の『願い』は、『亡き奥様の日記を見つける』ということでよろしいでしょうか

 鴫田:……本当に見つけられるのか?

イチゴ:えぇ、もちろん

 鴫田:いったいどうやって?

 ルリ:それは企業秘密ですわ

 鴫田:は? やっぱりいかさまか?

 ルリ:兄様のお力は本物。貴方も先ほど身をもって体験しましたわよね?

 鴫田:……

イチゴ:それでは、はじめましょうか。亡き奥様の日記を探す旅を

 鴫田:旅?

イチゴ:まずは奥様がどのような方だったのか、お伺いしてもいいですか

 鴫田:は?

 ルリ:奥様の想いを呼び起こすために必要な事ですわ

イチゴ:嘘偽りのない事実を、貴方の口から。それが重要な手がかりとなります

 鴫田:あぁ……あぁ、わかったぞ!

    「願いを叶える」だなんだって言っておいて結局は子どものオカルトごっこってわけか!

イチゴ:遊びかどうかは、どうぞこの後の結果で判断してください

 ルリ:お金もかからないことですもの。貴方にとって物理的に失うものは何もない

    いい結果が出ればラッキーなのではなくて?

    それとも……奥様のことはお話したくない、とか?

 鴫田:……いいだろう。お前らのお遊びに付き合ってやるよ

イチゴ:奥様のお名前は?

 鴫田:さくら

イチゴ:どんな方でしたか?

 鴫田:どこにでもいる普通の女だったよ




●回想・過去・鴫田の部屋

   夕方。料理をしながら鴫田の帰りを待つさくら。

   ドアが開く音。


さくら:あなた、おかえりなさい

 鴫田:あぁ

 鴫田:(M)妻のさくらとは上司からの紹介で知り合った

    幼い頃に両親を亡くし、祖父母に預けられたのだという

    その祖父母も高齢になったので早く安心させたいとかなんとかで当時独身の俺に白羽の矢が立った

    あの時期の俺は仕事にしか興味がなく、こいつには早めに家庭を持たせないと危ないと上司たちの間で噂になっていたそうだ

さくら:今日はあなたの好きなカレーを作ったの

 鴫田:……

さくら:あ、その顔

 鴫田:……なんだ……

さくら:隠そうとしてもダメですよ。今、一瞬、眉間にしわが寄りました

 鴫田:……

さくら:もう。人参くらい食べてください

 鴫田:別に、いつも残してはいないだろ?

さくら:そうですね。いつもちゃんと食べてくださってます

    でも、食べる前からそんな顔されたらちょっと悲しいです

 鴫田:そうか……

さくら:ちゃんと食べやすいように工夫してありますから

 鴫田:……ありがとう

さくら:(微笑んで)はい




●名も無き店


 ルリ:……ダウト

 鴫田:え?

 ルリ:いえ、なんでもありませんわ

イチゴ:とても素敵な奥様だったんですね

 鴫田:まぁ。至らないところは多々あったが、よくしてくれていたと思っている

 ルリ:……自分の奥様に対して酷い言い草ですわね

    殿方の中には褒めることが得意ではない人種もいらっしゃると聞いたことはありますが……

イチゴ:そうだね。一昔前はそれが一般的な風潮だったようだよ

 ルリ:現代の価値観からすると怖気が立ちますわね

イチゴ:ルリ、物事は一方から見ただけでは決められないものだよ

    人間には相反する気持ちをうまく表現できない場合もあるんだ

 ルリ:天邪鬼ということですわね。でも……この方が?

 鴫田:なんだ?

 ルリ:いえ、なにも。どうぞ、お続けになって

 鴫田:……結婚して三年。子どもは出来なかったが、それなりに幸せだったと思う

イチゴ:なるほど……では、奥様は何故お亡くなりに?

 鴫田:……

イチゴ:思い出すのもお辛いかもしれませんが……お聞かせ願えますか?

 鴫田:……持病だ。もともと身体が弱かったからな

イチゴ:そうですか……

 ルリ:……




●回想・過去・病院

   病床に伏すさくら。その姿は弱弱しい。


さくら:……あなた……

 鴫田:……なんだ?

さくら:いっぱいご迷惑をおかけしてしまって……すみませんでした……

 鴫田:そんなことを言うな

さくら:いいじゃないですか……きっともう最期なんですから……

 鴫田:……

さくら:今まで本当にありがとうございました……私、あなたと出会えてよかった……

 鴫田:あぁ

さくら:あぁ……どうしてでしょう……まだたくさん話したい事があるのに……言葉にまとめられない……

 鴫田:いい

さくら:……あなた……

 鴫田:早く家に帰って来い




●名も無き店

 鴫田:「家に帰って来い」と話していた数日後、妻は死んだよ

イチゴ:……それは、お辛かったですね

 鴫田:いや……もともと覚悟はできていたからな。だが、いざ妻がいなくなってみると寂しいもんだ

    彼女との思い出が残る部屋で一人過ごすのは辛い。何かに縋りたくなる

イチゴ:それで、奥様の日記を?

 鴫田:あぁ、少しでもいいから彼女のものに触れたくてな……

 ルリ:ふ~ん……随分な美談へと昇華させてお話されるのね

 鴫田:……は?

 ルリ:本当に物事は一方から見ただけではわからないものですわね、兄様

イチゴ:そうだね

 ルリ:こんな人間、救いの余地もない

 鴫田:は?

 ルリ:貴方が正直に話してくだされば、こんなことをせずに済んだかもしれませんのに。残念ですわ

 鴫田:何を言って……

イチゴ:(遮って)お客様、貴方は大きな嘘をついた

 鴫田:嘘? 嘘なんて……

 ルリ:(遮って)吐きましたわよね?

    それとも、嘘をついていらっしゃるご自覚がない、と? 

イチゴ:本当に残念です

 ルリ:真実はこう、ですよね




●回想・過去・鴫田の部屋

   夕方。料理をしながら鴫田の帰りを待つさくら。

   ドアが開く音。


さくら:あなた、おかえりなさい

 鴫田:……あぁ

さくら:えっと……今日はあなたの好きなカレーを作ったのだけれど……

 鴫田:……

さくら:あ……

 鴫田:……なんだ……

さくら:いえ、なんでも!

 鴫田:食事はいらない

さくら:はい……

 鴫田:なんだ? 不服か?

さくら:いえ! そんなことは……

 鴫田:(舌打ち)使えないな、本当に

さくら:っ! ……申し訳ありませんでした……

 鴫田:ふん




●名も無き店


イチゴ:ですよね?

 鴫田:……

 ルリ:あら、自分の分が悪くなったらだんまりですの? 先ほどまでの口数が嘘のよう

 鴫田:だんまりもなにも。お前たちの茶番に辟易してるだけだ

    俺が自分の妻をそんな風に扱うわけが……

 ルリ:……扱う

 鴫田:なんだ?

 ルリ:いえ、とことんクズですわね

 鴫田:は?

イチゴ:こら、ルリ。お客様に対して敬意を払わねばダメだよ

 ルリ:えぇ、敬意を払うべき相手には、ね?

 鴫田:なんだと!

イチゴ:お客様、落ち着いてください

 鴫田:落ち着くもなにも、失礼なのはそこの女じゃないか!

イチゴ:いいんですか? ことの真実が書かれた奥様の日記が手に入らなくなっても

 鴫田:っ! お前!

イチゴ:おや? 違いましたか? 貴方が奥様の日記が欲しい本当の理由は、そこですよね?

    貴方が隠したい事実がそこに書かれている日記を

 ルリ:(怪し気に微笑む)

イチゴ:お客様。貴方は本当は奥様を愛してなんかいなかったのですよね?

    貴方が愛していたのは彼女の家柄。そして相続した財産

 ルリ:奥様が亡くなって焦ったのではなくて? 

    今まで外に対しては『良い夫』を演じてきたのに、その実は違っていたと日記に書かれていたら……

    見舞いにすらも来ない薄情者だと、そこにあれば……大変ですものね

 鴫田:うるさい! お前らに俺の何がわかるんだ!

    お前らみたいにこんな店でごっこ遊びをして、能天気に暮らしているお前らなんかに!

イチゴ:……

 ルリ:……

 鴫田:俺はな、会社のために好きでもない女と結婚させられて、俺の一生を無駄させられたんだ!

    そんな疫病神を大切に扱う必要なんてどこにある?

イチゴ:……だから、奥様が邪魔になったと

 鴫田:あぁ、邪魔だったよ! 目ざわりだった!

 ルリ:醜悪ですわね。それが貴方の本性

 鴫田:はっ! 言ってろ!

イチゴ:だから、奥様を殺したのですか?

 鴫田:殺してなんかいない。あいつは元々身体が弱かったんだ

イチゴ:本当に?

 鴫田:あぁ!

イチゴ:そのわりには、体調を崩されてからお亡くなりになるまでに随分と……

 鴫田:(遮って)証拠はあるのかよ!

イチゴ:……

 鴫田:ほら、無いだろ? あるわけないよな?

    病院で死んで、葬式も滞りなくやったんだ。怪しい点なんてないだろう?

    所詮はお前たちの妄想に過ぎないんだよ!

イチゴ:……そうですね

 ルリ:兄様!

イチゴ:確かに証拠はありません。僕たちは『聞いた』だけですから

 鴫田:そうだろう! あんまり大人をおちょくるなよ、ガキ

イチゴ:(にっこり微笑んで)申し訳ございません、お客様。お詫びに、お客様のお望みの物を

 鴫田:は?

イチゴ:……奥様の日記は奥様が使っていらっしゃった本棚。その後ろにあるそうです

 鴫田:本棚……後ろ……

イチゴ:はい。僕の言葉が本当かどうかはぜひお家に帰られてご確認いただければと思います

 鴫田:あぁ、そうさせてもらうよ

イチゴ:扉は今開きました。どうぞ

 鴫田:ふん!

イチゴ:あぁ、お客様。お帰りはそちらの扉じゃなくて、こちらの扉です

   

   イチゴ、鴫田が入って来た扉とは違う扉を指さす。

 

 鴫田:黒い扉? そんなものさっきまで……

イチゴ:えぇ、先ほどまでは見えませんでした。多くのことが『決定』したから、それは現れたんです

 鴫田:また何かのごっこ遊びか?

イチゴ:いえ。もう終わりましたから

 鴫田:そうだな。いい心がけだ

   

   鴫田、扉へと歩を進める。

 

 ルリ:ねぇ、お客様

 鴫田:あ?

 ルリ:本当に、奥様のこと、愛してはいらっしゃらなかったのですか?

 鴫田:当然だ

 ルリ:少しも

 鴫田:あれは俺の人生の汚点だ

 ルリ:……そう

 鴫田:あぁ、今俺が言ったこと他言するなよ?

    まぁ、言ったところでお前らみたいなやつらの言葉なんて誰も信じないだろうがな

イチゴ:他言なんてしませんよ。僕も、ルリも

 鴫田:そうか、じゃあな


   鴫田、扉を開け去る。


イチゴ:(穏やかな表情が消え)だって、その必要はありませんから

 鴫田:(扉の向こうから)お。おい……なんだ、お前ら……

    あっちにいけ!

  

   獣の唸る声が扉越しに聞こえる。


 鴫田:来るな……来るなぁ!


   鴫田の断末魔。その後、獣が肉を喰う音が聞こえる。


 ルリ:あ~あ、少しでも良心というものがあれば違った未来もあったでしょうに。ねぇ、兄様?


   ルリの視線の先には大人の姿のイチゴがいる。


イチゴ:そうだね。でも、ルリが大人の姿であの客人をお出迎えした時点で大方は決まっていた

 ルリ:そうですわね。私と兄様はお客様を移す鏡

イチゴ:その魂が白ければ僕が

 ルリ:暗ければ私が、それに相応しい姿でお客様のお相手をする

イチゴ:結果を覆すのなかなかに難しい。申し訳ありません、さくらさん。やはりこのような結果に


   店の奥からさくらが出て来る。


さくら:いえ、お二人にご説明いただいて覚悟はしておりました

    特別驚いたり嘆いたりという感情はありません

    なんとなく、わかっておりましたから……あの人はそういう人だと……

 ルリ:……さくらさん

さくら:ちょっとだけ。本当にちょっとだけそうじゃなかったらいいのになぁって思っただけなんです

    イチゴさん、ルリさん、私の我儘を聞いてくださってありがとうございました

 ルリ:我儘なんてそんな

イチゴ:えぇ、これが僕たちの役割ですから

さくら:ありがとうございます

イチゴ:日記についてですが、どうされます? ご希望であれば人目につく場所にうつします

さくら:……そのままで……

イチゴ:よろしいのですか?

さくら:はい。彼もまた人生を狂わされた側の人間です。存在が消えた今、意図的に彼の醜態を晒すこともないでしょう

 ルリ:さくらさんは優しすぎますわ

さくら:そんなことありませんよ。一度は愛した方ですから、ね?

 ルリ:……

イチゴ:では、さくらさんのご希望通りに。日記はそのままの場所に

さくら:はい

イチゴ:これで、貴女の『願い』を叶えることは出来ましたか?

さくら:はい。ありがとうございました

イチゴ:では……


   イチゴ、鴫田が出た扉とは別の扉を指す。


イチゴ:さくらさんのお帰りはあちらの扉です

さくら:あの人と同じ扉ではないのですね

イチゴ:残念ながら

さくら:もう彼とは会うこともないのね

 ルリ:えぇ。あの方の魂は、人間たちが言うところの「地獄」に落ちました

    上がってくるまでには途方もない時間が必要ですわ

さくら:……そう……


   さくら、イチゴとルリを見つめる。


さくら:イチゴさん、ルリさん。本当にありがとうございました

イチゴ:お力になれてよかった

 ルリ:お元気で

さくら:はい


   さくら、扉を開け出ていく。扉の閉まる音。


 ルリ:終わりましたわね

イチゴ:あぁ

 ルリ:本当に、人間は不思議な生き物ですわ

イチゴ:そうだね

 ルリ:脆いくせに優しくて、愚かなくせに儚い

イチゴ:それが人間とういう生き物だよ

 ルリ:そうですわね……

イチゴ:さぁ、次にいらっしゃるお客様のための準備をしよう

 ルリ:はい、兄様。次にいらっしゃるのはどんな方かしら?


   扉をノックする音。

   イチゴ、ルリ、顔を見合わせクスリと笑う。


イチゴ:ルリ、お出迎えだね

 ルリ:はい、兄様



―幕―




2024.07.24 『しなコン!~こえコン!シナリオコンテスト~』応募作品

2024.09.24 修正・HP投稿


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