Prime Minister首相
私は、自民党の国会議員でもなければ、党員でもないが、明日の自民党総裁選に関心がある。この自民党総裁が事実上次の首相になるからだ。
英国流の保守主義者である私からすれば、高市早苗氏や小林鷹之氏が私の考え方に比較的近いのだが、小林氏は経験不足だ。
これに対して、高市氏には、大臣や党の要職の経験があるが、学歴詐称疑惑のある東京都知事の小池百合子氏と同様の胡散臭さがある。
高市氏がメディアに登場した頃を覚えている。というのは、その発言内容もさることながら、「米国連邦議会立法調査官」「立法調査官」という肩書きが強烈な印象として残っていたからだ。
のちに鳥越俊太郎氏が経歴詐称疑惑として追及した。
詳しい説明は、下記の記事に譲るが、高市氏の弁明では疑惑を完全に払拭できておらず、私の中ではいまだに胡散臭さが消えない。高市氏の政治的言説には好感が持てる部分があるだけに残念だ。
ところで、日本では、戦後、日本国憲法によって議院内閣制が採用されたのだが、Prime Ministerプライム・ミニスター「首相」という肩書き自体は、日本の方が英国よりも先だったと言うと、驚かれるかも知れない。
Prime Ministerという肩書きが正式に用いられたのは、エドワード7世の1905年(明治38年)であるのに対して、伊藤博文が初代首相になったのは、1885年(明治18年)だから、日本の方が英国よりも20年早かったわけだ。
このPrime Ministerは、もともとSir Robert Walpole ロバート・ウォルポール卿(1676年8月26日 - 1745年3月18日)に対する悪口だった。
ウォルポールは、Prime Ministerと呼ばれることに立腹し、自分をFirst Ministerファースト・ミニスターと言っていた。
なぜPrime Ministerが悪口なのか?
我々日本人にはちょっと分かりにくいので、少し説明する。
1714年、Stuartスチュアート家のAnneアン女王が亡くなり、ドイツのHanoveハノーバー家のGeorge Iジョージ1世が英国の王位を継承したのだが、この国王ジョージ1世は、英語がまったく話せないし、また、政治に無関心だったため、大臣の会議に出席せず、全幅の信頼を寄せたウォルポールに政務を任せきりにした。
その結果、「君臨すれども統治せず」の慣習法が確立し、ウォルポールは、実質上の初代Prime Ministerとなった。
ministerは、ラテン語minister「奉仕者」「下僕」が語源であって、対義語は、ラテン語master「主人」だ。
そこで、英語ministerは、主イエス・キリストに仕えるしもべ=「牧師」、主君に仕えるしもべ=「大臣」という意味で用いられるようになったわけだ。
本来、mini小さい+ster者なので、直訳すれば、「小臣」ということになるが、我が国では律令制を前提に「大臣」と意訳されている。
primeは、ラテン語primus「初めの」「第一の」「最初の」が語源だ。そこで、primeは、「最初の」「主要な」「最高の」という意味で用いられるようになった。
テレビCMでよく見かけるAmazon Prime Videoは、アマゾンが配信する最高のビデオという意味で名付けたのだろう。
前述したように、ウォルポールは、国王ジョージ1世から全幅の信頼を寄せられ、政務全般を任されたので、「国王陛下からの寵愛(ちょうあい)を一身に受けているなんて、許せない!」と他の大臣たちから嫉妬された。男の嫉妬ほど醜いものはない。
そこで、「最高の」寵愛を受けている大臣、国王陛下の「一番の」お気に入り大臣ということで、Prime Ministerと悪口を言われたのだ。
これに腹を立てたウォルポールは、「いやいや、私は、first among equals同輩中の首席にすぎません」と謙遜して、First Minister「首席大臣」「第一大臣」と自称したわけだ。
さて、明日、自民党総裁に選ばれた人がPrime Ministerとして、語源通り主権者たる国民に奉仕し、国民から最高の寵愛を受ける大臣であってほしいものだ。