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小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第二章 深淵 19

2024.09.29 03:00

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第二章 深淵 19

 人口抑制のために、かなり前から殺人ウイルスを作っていたという謝の発言は、荒川にとって「中国ならばありうる」と考えながらも「信じたくない現実」という感じがあった。まさに、この「死の双子」と日本で名づけられた殺人ウイルスは、間違いなく、中国が人工的に作ったものであるということはわかった。しかし、それを駐豪は中国国内で使用するつもりであったということである。逆に言えば、「日本が生物兵器であると主張しても、そうではなく、中国が研究中に何らかの形で外に出たウイルスが、日本に流出した」というような感じになってしまう可能性があるということになるのである。そしてそのりゅしゅつの経路を何らかの形で作られてしまい、そして日本はその反証ができないことになるのであろう。

「中国は、そのウイルスを日本で使用し、そのうえで日本から逆に流出する危険を考えていないのか」

「いや、考えている」

「ではその対策は」

「一つは国交断絶。もう一つは、日本人、日本から帰国した中国人の隔離、そしてウイルスの消滅」

 謝は、落ち着いていった。胡英華の手の動きがまた激しくなった。ある意味で、この手の動きがあることで、荒川は、相手が何を本音として話そうとしているのかを見ることができた。

「ウイルスの消滅とは」

「核兵器によって、日本攻撃し、ウイルスそのものを焼却するということです。これは、戦争ではなく、世界を助けるために、手を尽くしたうえで、仕方なく日本に犠牲になってもらうということを考えている。国連や世界保健機構で許可を得て、暫くの間は何人かの医師や研究者が日本に行き、そしてそこで命を落とすことになるでしょう。当然に中国も積極的に医師や研究者を送り、多くの犠牲者が出るでしょう。そのうえで、ウイルスを持ち帰り世界的に研究してもその解決法が出ない。そのうえで、結局は焼却してウイルスそのものをこの世から抹消しなければならないという結論になれば、あとは、中国が責任をもって核ミサイルを使ってウイルスを、ああ、日本をではないですよ、ウイルスを滅ぼすということになるのです。」

 荒川は絶句した。

 なんと恐ろしいことを考えているのか。他の世界の人を救うために、日本に犠牲になれということを言っているのである。そんなことが許されてよいはずがないのであるが、しかし、謝思文は本気である。それは、胡英華の手の動きでよくわかる。

「要するに、中国は世界の人を守るために、日本と戦争をするのではなく、核ミサイルを使ってウイルスの償却をするということですか」

「少なくともわが中国の周毅頼同志、あなた方の間では国家主席といわれている人物はそのように考えているのです。」

 ため息しか出てこなかった。

 もちろん、彼らの考えるようにうまくゆくはずがない。日本はすでに、そのウイルスの解析をある程度終わらせている。しかし、一方で、世界でいままでにウイルスを完全に根絶したのは、天然痘しかなく、鳥インフルエンザも、エボラ出血熱も、実際には、全くその治療方法はわかっていない。現在の医学では根絶したり完治するのではなく、何か症状が出た時に対処療法をしているのに過ぎないのである。これは、2020年に中国発で世界に蔓延したいわゆる新型コロナウイルスCovid19に関しても同じだ。

「そのようなことをすれば、日本にいる中国人もすべて・・・」

「荒川さん、もともとこのウイルスは人口削減の目的で作られたと申したではないですか。20億人いる中国において、日本にいる100万人の中国国籍の人々などは、誤差の範囲にすぎません。」

 確かに人権などを考える国民性ではないことは、間違いがない。ある意味で「尊い犠牲」と、死んでから言って終わりであろう。

「止める方法は」

「我々と組みますか」

「組むとは」

「胡同志は、そのような手荒なことをする周同志を止めようとしておられるのです」

 これもまた、にわかには信じられない話である。周毅頼は、日本を核兵器で滅ぼそうとしている、それも「世界のために」ということを言って、自分でウイルスをばらまき、そのうえで、ウイルスの消滅を期して核兵器で攻撃するということを言っているのである。

 しかし、その周毅頼と対立するということで胡英華が日本の見方になるという。いや、そうではなく、もともと対立している状態にあって、今回の問題が出てきて、日本を巻き込んで中国の共産党の内部の派閥荒を意をしようということを言っているのに過ぎないのかもしれない。

「にわかには信じられないでしょう」

「そうですね」

 謝は笑った。

「そろそろホテルです。何か他に質問はありませんか」

「では、一つ。」

「はい」

「中国のチャイナセブンの中では、そんなに対立があるのですか」

 胡英華は全く手を動かさなくなった。この動いていないということは、当然に、何らかの回答が予期されているということに他ならない。そして、謝思文が口を開く前に、手の止まった胡が口を開いたのである。

「謝君ならば、それは答えないということになるでしょう。私から答えましょう。対立はあります。中国は日本などでは周毅ラ頼の独裁といっていますが、違う意見があるので合議制になっているのです。そして、合議制であるがゆえに、何らかの結果を求める。そして結果を求めるばかりに、日本を攻撃するとか、世界を敵に回すとか、軍を動かして戦争をするなどということになるのです。そのような考え方を嫌う人もいる。ただし、そのようなことを表面に出せば、当然に、粛清の対象になる。そのために極秘にやらなければならない。日本はこのようなことを言ってもあまり信用はしないかもしれないが、しかし、それが事実なのである。当然に、ここまで話せば、誰がどの派閥化ということを聞きたがるし、その質問が次に来ることになるから先にこたえておけば、当然に、その答えは、謝君もそして私も、答えを拒否する。それは、答えが正しいかどうかは私もわからないからだ。いつ裏切るかわからないし、また、今まで反対派であったものが、粛清をちらつかされて、鞍替えするなどということは中国ならば日常茶飯事である。だからここでそのことを言うわけにはいかないのである。ここまではよいかな」

 荒川にとってはよくわかったような答えである。

「では最後に、一緒に組むという答えは、いつまでに出せばよいか」

 謝は笑って言った。

「それも自分で考えてください。さあ、ホテルです。手遅れにならないように。もちろん、良い答えを期待しています。」

 荒川はヒルトンホテルのロビーで呆然と車を見送るしかなかった。