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WUNDERKAMMER

コレイウラウラト

2019.01.11 01:26

心霊スポットに行ったら、幽霊に追いかけられたので、轢きました。

幽霊って一回死んでいると思うのですが、こういう場合ってどうしたら良いのでしょうか。

やっぱり呪われますか?今のところ実害は無いのですが、お祓いとかに行くべきなのでしょうか。


と言うのも、今週の金曜夜、あまりに暑くて暇だったので、車に友人二人を乗せて地元で有名な心霊スポットに行ったんです。

何やかんやもつれて女が男を刺し殺し、自身も焼身自殺を遂げたという駐車場です。

友人二人をABとします。運転手は僕で、Aは助手席に乗り、Bは後部座席に乗っていました。

コンビニでお菓子とジュースを買い、真夜中、男三人で悲しい盛り上がりを見せながら、大体国道を20分ほど飛ばした頃でしょうか。くだんの駐車場に着きました。車の姿はありませんが、街灯が立っているのでうす明るく、全然怖い感じではありません。

「全然こわくねぇ」

「何もいねえしな……まあ2時まで待ってみる?」

時刻は1時半を回った辺りでした。僕らは幽霊出現定番の、丑三つ時まで待つことにしました。

車内で三人、近況やら別れた彼女の話やらで盛り上がっていると、かり、と音がしました。


最初は空耳かと思いました。

けれど、何度も何度もかりかりと音がするので僕ら三人は黙って顔を見合わせました。

音は僕らの足元、車の下から聞こえてきます。

「車の下、何かいる?」

「わからんけど……引っ掻いてるっぽくない?」

「引っ掻いてるって、なにが?」

そこまで言った瞬間、ドゴンッっと下から突き上げるような衝撃が走りました。

男三人が乗った普通車がです。


僕は思いました。何かすごい怪力の人を轢いてしまったと。

「駐車場入ってきたとき、人轢いてしもたんかな?」

「は!?お前ありえんやろ!大体ヒト轢いたんなら助手席のオレも気づくやろうが!どう考えても絶対おかしいやろ!」

「えーでも何かすごい揺れてるし…」

その間にも、ドゴンッドゴンッドゴンッと車は揺れています。

「とりあえず降りて確かめてみるわ」

僕はとりあえず提案し、シートベルトを外しました。

「馬鹿じゃないの!?ねぇ馬鹿じゃないの!?」

助手席のAが顔から出せるものを全て出しながら喚いていますが、馬鹿なのは尊い人命を見捨てようとしているお前です。

僕が車を降りようとしたその時、車のスピーカーから、あああ、と言う声が聞こえました。車内の空気が一瞬にして、ビシィッと凍りつきました。

「……カェ…エエエ…ガェ……ガェ…エガェ」

ラジオやCDも入れていません。次の瞬間、バンッと言う衝撃と共に車が揺れました。

もはや僕らの顔色は真っ青でした。


とにかく帰ろう。顔を見合わせながらうなずき、フロントガラスに目をやりました。

顔から血を流した男が、車の上から覆い被さるようにしてこちらを見ていました。

Aが物凄い悲鳴をあげました。

びっくりしたのは僕も同じだし、一回なら良いんです。が、パニックに陥ったのかAは何度も断続的に叫びました。

「ぎゃああああああああああ!!うああああああああああぁぁあ!!うわあぁあ、アアアアあああああ!!!!」

「ちょっとお前気持ちわかるけどうるさい」

正直鼓膜が破れそうな音量だったので、僕はとりあえず生茶の2lペットボトルでAを殴りました。


そんなことをしていた間に、男は居なくなっていました。よく分かりませんがラッキーです。しかし一難さってまた一難とは的を得ていて、今度は今まで静かだったBが、

「あああああぁぁ!ぐるじ$@@〇〇〇×!殺してやるぁああ〇あ〆々ああ∴∞¥¥$あ」

「やかましい」

この非常時に何をふざけたいのか知りませんが、白目をむきながら髪を掴んできたので、僕は生茶の2lペットボトルでBも殴りました。

Bはもんどりうって倒れ、「ゔーうぅぅーー」と呻き出しました。やめろ爪で座席を引っ掻くな。

僕はとりあえず二人を落ち着かせようと車内灯を点けました。しかしそのとき、何やら気配を感じ、右を振り向きました。

運転席の窓から、墨を塗ったように真っ黒な顔をした何かが、てらてらした目玉で僕を見つめていました

ブワアアアアッと音を立てる勢いで鳥肌がたちました。は?え、なにこれ。

怖いし意味が分からないし思考が一切纏まりません。でも。でも何よりキモかったので、僕は反射的に思い切り窓を殴りました。

「ギエゴ」

そう聞こえました。

顔が一瞬窓から離れた隙に、僕はアクセルを思いっきり踏み込んで急発進しました。

とりあえずさっきのは明らかに生きてる人ではない。

そのまま一直線に出口を目指します。

しかし、ミラーを見ると、さっきのキモいのが、頭と足のみつんばい(何故か手がありませんでした)で追いかけてくるのが見えました。


たぶん、捕まったら終わりだろう。

と、直感し、一か八か、僕はブレーキを踏み込んで急停止しました。バゴンっと音をたててバンパーにそれがぶつかりました。成功です。

間髪いれずにバックすると、車体がゆらいで明らかに何かに乗り上げた感触がありました。後輪をそれに乗り上がった状態で止め、景気付けに運転席で座ったまま軽くジャンプしました。

そしてまたアクセルを踏み込み、一目散に駐車場から逃げ出しました。

ミラーを見ましたが、それはもう付いてきていないようでした。


帰り道、Aはやや放心状態ながらも正気っぽかったです。でもBの様子はおかしいままでした。ヘラヘラ笑いながらずーっと何か呟いているのです。

僕はコンビニに寄ってクッキングソルトと雑誌を買いました。そしてBを車から引きずり出し頭から思いっきり塩をぶっかけました。

それでも何かニヤニヤしながら「うーうー」言ってキモかったので、僕は雑誌を丸め、Bの頭を横一文字にはたきました。

スッパーンといい音がしました。

「コレイウラウラトー!コレイウラウラトー!」

昔アンビリバボーで観たうろ覚えのお経を唱えながら、僕はBの頭を何度も殴りました。四年前に貸した三千円をまだ返しやがらない恨みも込めて殴りました。ちなみにお経の意味は全然分かりません。多分お経なんで何か祓うでしょう。

コンビニ内のお客さんと店員さんがなんか物凄い目でこちらを見ていますが気にしません。

そのうちニヤニヤ笑っていたBが黙り出し、やがて、思いっきり殴った瞬間「いってええ!」と絶叫しました。


Bは、僕の髪を掴んだあたりからのことを覚えていませんでした。

まあ覚えてないなら仕方ないよねでも三千円は返せ、と思いながら僕らは帰路に着きました。

今のところ、とくに害や異変はありません。車も普通に運転できています。

でもやっぱり、お祓いは行くべきなのか迷っています。 

※おそらく「コレイウラウラト」は祝詞の「ふるへゆらゆらと」だと思われる