Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

わたしの引き出しの奥から Vol.3 SUNPEDAL YOKO

2019.01.10 15:00

かっこよく生きたいわたし。

誰かの憧れでありたいわたし。

頑張ることに疲れたわたし。

これから出会うのは、迷いながらもまっすぐに、自分らしい人生を重ねている女性たち。

「わたし」とは、彼女であり、あなた自身です。

彼女たちの言葉が、わたしらしい明日を生きるためのきっかけになりますように。


健康志向な人の増加に伴って、大手外食チェーンが菜食メニューを取り入れ、街でも少しずつ耳にするようになってきた「ヴィーガン」。蜂蜜や乳製品などの動物性食品を一切使わない、「絶対菜食主義」のことだ。これまでのヴィーガンのイメージを払拭する鮮やかな色彩と圧倒的おいしさで、ファッション業界から引っ張りだこのヴィーガンフード「SUNPEDAL」(サンペダル)。

photo by @sunpedal

ヴィーガン・砂糖不使用・100%天然由来着色・化学調味料不使用で、こんなにも美しくおいしい料理を作り出すYOKOさん。彼女の作る、海外のエッセンスを取り入れた無国籍料理は、ヴィーガンでない女性からも絶大な人気を得ている。


―どんなご家庭で育ったのですか? 


「父が漁業関係の会社をやっているんです。お魚だけでなく、食にはかなりこだわりがあって、わたしが小さい頃から回らない寿司に連れて行ってくれました。自分で魚をさばくこともあって、料理も得意でした。母はマクロビオティックや、化学調味料不使用、そういうことにこだわる人で。そんな家庭で育ったのもあって、いわゆるファストフードは食べさせてもらえず、隠れてお菓子を食べたり、高校生になってファストフード店に入り浸ったりしたこともありました(笑)」 


―その後の食生活はどのようにして変わっていくのでしょうか?


「大学入学の時に上京して一人暮らしを始めました。その時の食事といえば、母の影響で玄米を炊いたり、添加物に気をつけたりですね。そんなこともあって、大学の学食は一度も食べたことがありません(笑)お野菜がもともと好きだったので、ふと気づいたら2ヶ月くらいお肉を食べていなかったことがあって。今でこそヴィーガンとかベジタリアンって街でも聞くようになりましたけど、当時ベジタリアンの友人は1人もいませんでした。お肉を食べていなくても、身体の調子がよくて、風邪も引かないし、それなら食べなくてもいいかなって。そんなふうに思った21、22歳くらいから、“ゆるベジ”というんですかね。外食するときは気にしないけど、家ではお肉を食べないで野菜を食べるみたいに、ちょっとずつベジタリアンに足を突っ込み始める感じです」


―その後、単身イギリスに渡られるのですね。当時から“食”に興味があったとのことですが、渡英した理由にも何か関係があるのでしょうか?


「“食”にも興味があったんですが、オーガニックコスメもすごく好きだったんです。食べ物は原材料を見て無添加にこだわっていましたが、化粧品って何も気にしたことがなくて。それをふと疑問に思った時から、オーガニックコスメにはまっていきました。当時はオーガニックコスメといえば外国のものが多かったし、漠然と『英語が話せたらオーガニック関連の仕事につけるかもしれない』と考えて、大学を卒業した後に語学留学でイギリスへ。語学を学びに行ったとはいえ勉強はあまり好きではなかったので、とりあえず半年だけ語学学校に通いました。学校を卒業した後は『無給でいいから働かせて欲しい』と言ってオーガニック関連の会社に履歴書を送って仕事を探して、オーガニックコスメの展示会を主催している会社でちょっとだけインターンをさせてもらいました。その頃にはほぼ完全にベジタリアンになっていましたね。ベジタリアンの店も多かったですし、過ごしやすかったです」

photo by @sunpedal


―イギリスでの食生活が今のお料理にも影響を与えていますか?YOKOさんのお料理からは異国情緒を感じます。


「ホームステイ先の方が、イラン人とスペイン人のハーフで、すごくお料理上手な方だったんです。中東のご飯ってスパイシーなものが多いんですが、1つの料理に何種類もスパイスを使わないんですよ。ちょっと日本食に近いんです。素材の味を引き立てるために、ほんのちょっとだけスパイスとハーブを使う。今も、Sunpedalのお料理ではお醤油と中東のスパイスを混ぜたり、西洋のハーブとスパイスを混ぜたりしています。そのホームステイ先の方はブルガリアに知り合いがたくさんいらっしゃったので、一緒に旅行に行ってお友達の家で本場の料理を食べさせてもらったこともありました。旅行以外でも、フランス人、イタリア人、イギリス人、いろいろな国の人に混ざって、現地のご飯を食べさせてもらっていました。イギリス滞在中はそういう機会が本当に多くって、イギリスへ渡った当初はオーガニックコスメに向かっていた関心も、もともと好きだった“食”の方にベクトルが変わっていきました」


―海外でのいろいろな経験が、YOKOさんの中の“食”を広げてくれたのですね。


「イギリス滞在中、チーズ屋さんで働いていた時期もあったんです。チーズって牛乳と塩だけでできているのに、あんなにおいしくて種類があるんですよ。知れば知るほどチーズの魅力にどんどんはまっていきました。それ以来チーズ熱が冷めなくて、帰国後は300種類以上のチーズを取り扱っている商社に入りました。そこで、営業として1年くらい。チーズを好きな方って、グルメで海外経験豊富な方がすごく多いんです。相手にしているお客さんたちみんなが一流のレストランだったり、高級料亭だったりして、そこでのお付き合いの中でも、わたしの中の“食”は育っていったんだと思います」


―日本でもまたYOKOさんの中で新たな発見があったのですね。当時ベジタリアンではあったけど、まだヴィーガンではなかったのですか?


「チーズの会社の営業として働いていて、さらにわたしの中での“食”を広げたいと思うようになっていきました。それで見つけたのがヴィーガンレストランの会社です。でもわたし、当時はヴィーガンって言葉を知らなかったんです(笑)そこで働くようになって初めてヴィーガンがどんなものかを知りました。店頭に立っていると、お客さんから『ヴィーガンってどうですか?』って聞かれることがよくあって、そんな時自分がヴィーガンじゃないことをすごく歯がゆく感じていました。『それならヴィーガンになってみよう』って、最初はお試しくらいの気持ちで始めたんですが、チーズ屋さんに勤めていたときと同じで、とことん追求したくなって。またはまっちゃったんです(笑)それが今から3年半くらい前のことですね」


―そして、SUNPEDALとして独立されるのですね。


「ヴィーガンレストランで働いている間も、副業として細々とやっていました。近い人を呼んでイベントをやったり、お料理教室をやったり。でも本当はイギリスにもう一度留学をしたくて、ずっとイギリスのビザを取ろうと挑戦していたんです。でもあれって抽選なので、全然当たらなくて。ビザも当たらないし、『これは日本にいろってことなのかな』って自分の中で踏ん切りがついて『思い切って自分でやってみよう』と。それまでに見て食べて感じてきたいろいろな “食”がわたしの中で集合して、SUNPEDALになっているんだと思います」

「独立してから、昔のご縁とか過去に感じていたことが、どんどんつながってきているように思います。4年ぐらい前ですかね。高円寺に行った時、道でルバーブを売っている方がいたんです。ルバーブって今もそうですけど、当時あんまり売っていませんでした。ヨーロッパでよく食べていたので、見つけた時はびっくり。すごくおいしくて、その翌週も行ったら顔を覚えていてくれたんです。『また東京に売りに来ることがあれば買いにきます』って連絡先を交換しました。その時はまだチーズの会社で営業をしていたので、自分が料理人になるなんて思ってもいなかったんですが、すごく素敵な農家さんで、無農薬でやっていらっしゃるし、『いつか自分が携わるお店で使えたら素敵だな』と、漠然と思っていました。時間が経って独立して、『ルバーブを売ってくれないか』と連絡したらまだその時も覚えていてくださって。それからルバーブはその農家さんのものを使っています」

―ルバーブの色、すごく綺麗です。SUNPEDALのケータリングは彩り鮮やかで、本当に綺麗ですよね。目に美味しいというか。


「ヴィーガンって美味しくないし味気ないイメージがあると思うんです。豆とサラダと米みたいな。味ももちろん大切ですけど、彩り鮮やかにすることで、ヴィーガンのマイナスイメージを少しでもなくせたらなって。野菜の色って本当にきれいなんですよ。それをできる限り活かしたいって思っています。見た目も匂いも食感も味も、料理を五感で味わってほしいんです」


ーSUNPEDALというブランドを通して、伝えていきたい“想い”があるのでしょうか。


「『ヴィーガンってこんなにいいですよ!』とか、『やってみてください!』って言う気は全くありません。“食”のジャンルの一つとして、“イタリアン”とか“和食”とかの中に“ヴィーガン”って認識されたらいいなと思います。ヴィーガンを広めると言うよりは、新しい“食”の可能性を知ってもらいたいと言う感じです。先日開催したヴィーガンラーメンのイベントも、あえてラーメンっていうジャンキーな食べ物にしたのはいろいろな人に食べてもらいたいからでした。私のお客さんってほとんどが女性なんですが、以前やったお酒とヴィーガンフードのイベントでは、お客さんの半分くらいが男性で。その時も初めてヴィーガンフードを食べる方がたくさんいらっしゃったんですけど、そんな方達が『ヴィーガンって意外といいじゃん』って思ってくれていたとしたら、それが一番嬉しいです」


―ヴィーガンを知らない人にも楽しんでもらえるよう、いろんな工夫をしていらっしゃるのですね。YOKOさん自身もそのお仕事を楽しんでいるように見えます。


「自転車が好きなので自転車で配達したり、絵を描くのが好きなのでメニューを手書きで書いたり、自分ができることを全部楽しみながらやっている感じです。ケータリングは、いつもお客さんのことを考えて作ります。『この方は前回も召し上がってくれているからメニューを変えよう』とか、『あの食材が好きって言っていたから使おう』とか。わたしはレシピを持っていないので、今日は昨日と違う味付けにしてみることもできる。ポップアップイベントでお店の店主みたいなことしてみたり、カスタムオーダーでケーキを作ってみたり、どんどん新しいことに挑戦しています。今のSunpedalでは砂糖・甘味料・小麦粉を使わないんですが、独立した当初は違いました。あるお客さんが砂糖・甘味料抜きでというご注文をくださったから始まったことなんです。経験がなくても依頼があればとりあえずなんでもやってみる。そんな風に何でもかんでも注文を受けてしまうので、『本当に大丈夫かな…』って不安になることもありますけどね(笑)今はファッション業界の現場にケータリングやお弁当をお届けすることが多いのですが、食べてくださるお客さんは日本を代表するプロフェッショナルな方々。畑は違えど、作品を創るその真摯な姿勢と想いに、お届けする度たくさんのインスピレーションをいただいています。それが色々な挑戦につながっている。いくつになってもいろいろな出来事や人とお互いにインスパイアし合えるような、そんなお仕事をしたいと思っています」

―YOKOさんが“働くこと”を楽しんでいることは、お客様にも伝わっていると思います。お仕事にそこまで熱中できるって、とても素敵ですね。


「高校生でアルバイトを始めた時から働くことがすごく好きでした。おばあちゃんになっても、働ける限りは働きたいとずっと思っていて、独立してお仕事をしたいというのも、昔から漠然とありました。友人とご飯を食べに行っても、常に頭の中は仕事のことです。『この人の接客いいな』とか、『これケータリングに使えそうだな』とか。今はとにかく、いただいた機会とご縁を大事にしたいと思っています。だから一つ一つ全力でやっている感じですね。わたしの仕事に限らずどんな仕事でも、一生懸命になれることが何か一つでもあれば、それだけで素敵なことだと思います。どんなことでも、自分の中で、課題や目標を見つけて、一つ一つクリアしていく。“毎日植木に水やりを忘れない”とかでもいいんです(笑)どんなことでも、積み重ねれば意味のあるものになると思います」


「わたしは、どんな時でも楽をしないで厳しい方を選ぶようにしています。限界を決めてしまうとそこで終わりにてしまうから、やれるところまでなんでもやってみることが大切。毎日ずっとアトリエにこもっていて、誰かと話すとしたら宅配便の配達員さんくらいだし、0時に寝て1時半にアトリエにくるなんていう、寝ているのか起きているのかどっちかよくわからない日もあります(笑)そんな日でもお客さんに『おいしかったよ』って言ってもらえたら、それだけで充分。今はその一言をもらうために、毎日をただただ全力で生きています」


YOKO

自身のブランド「SUNPEDAL」として、ヴィーガン、シュガーフリー(砂糖、メープル、アガベ不使用)、化学調味料・添加物不使用の、他では味わえない無国籍フュージョン料理を提供。ケータリング、カスタムオーダーのケーキ販売や、ポップアップイベントなど幅広く活動。2018年7月に東京幡ヶ谷にアトリエを構え、オリジナルスイーツ「SUNPEDAL ENERGY BALL」の店頭・通信販売を行なっている。


(取材・文/道端 真美 撮影/長尾 隆行)