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【2024秋特集④】積雪寒冷地域で年『ZEB』実現した高効率帯水層蓄熱システムを柱に面的利用の技術開発へ~日本地下水開発(株)

2024.10.01 01:05

【NPO法人地中熱利用促進協会20周年記念】


山形県内初の「ZEBプランナー」(山形県内では現在6社が登録)に登録されている日本地下水開発株式会社(山形市松原777、桂木聖彦社長、略称:JGD)は、2021年から3年間実証してきた「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」について全期間で運用上でも年間のエネルギー収支が正味0%以下である『ZEB』達成を確認し、冬期の積雪により『ZEB』が難しいと言われている積雪寒冷地域での『ZEB』実現に大きな道筋をつけました。さらに、2024年度からはこれまでの研究成果を基にして複数の熱需要に対して面的に熱供給する高効率帯水層蓄熱システムに関する研究開発をスタートするとしており、注目されます。積雪寒冷地域での『ZEB』実現に大きな役割を果たすことが期待される「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」に焦点を当て紹介します。


◆年『ZEB』達成に寄与した「高効率帯水層蓄熱システム」とは◆


JGDが確立した「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」に基づいて実証したもので、積雪寒冷地域における建物の『ZEB』を実現するため2019年度から研究開発を進めてきたものです。

「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」のベースとなっている「高効率帯水層蓄熱システム」は、NEDO事業「再生可能エネルギー熱利用技術開発」(2014?2018年度)で先に確立した国内初のシステムで、2本の井戸を冬期と夏期で交互に利用し、地下水の流れの遅い地下帯水層に冬期の冷熱、夏期の温熱をそれぞれ蓄える仕組みです。

冷房利用で温められた地下水をさらに太陽熱で加温し、より高温となった温熱を冬期の暖房用井戸周辺の地下帯水層に蓄え、冬期はその温かい地下水を暖房用に利用。一方、暖房で利用して冷えた地下水をさらに融雪の熱源としても利用し、より低温となった冷熱を夏期の冷房用井戸周辺の帯水層に蓄え、夏期に冷房で利用します。

このシステムをJGD関連会社の事務所で空調に導入した結果、従来の帯水層蓄熱システム(3本の井戸を冷暖房の熱源として利用するシステム)と比較して初期導入コストの21%削減と年間運用コストの31%削減を達成するなど目覚ましい成果を上げています。

また、「再生可能エネルギー熱利用技術開発」では、熱利用後に地下に戻すのが難しかった地下水を全量還元できる井戸構築技術も確立しています。

「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」は、この「高効率帯水層蓄熱システム」をベースに、太陽光発電設備(30・7kW)、断熱効果を高めた外壁(厚さ300mm)、給湯回路に真空管式太陽熱温水器(84本)、換気装置に全熱交換システム、照明にLED照明、南西側の窓に太陽輻射熱を最大82%遮断する外付ブラインドを追加設置したシステムで、JGD関連会社である日本環境科学株式会社(山形市高木6、略称:JESC)ZEB棟(写真)で実証実験が行われました。


◆冷暖房・給湯・冬期の無散水融雪の3つの需要を満たす◆


「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」は、「冷暖房」・「給湯」・「冬期の無散水融雪」の計三つの熱需要に対応し、「再生可能エネルギー熱利用技術開発」で開発した冷暖房専用ヒートポンプに給湯回路を付加する形で、ゼネラルヒートポンプ工業と共同開発したヒートポンプ(冷房能力は30kW、暖房能力は30.1kW、給湯能力は30.2kW)を使用。「冷暖房」・「給湯」・「融雪」の3つの需要に対し高効率帯水層蓄熱システムで熱供給を行っています。

「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」の実証が行われたJESC-ZEB棟は、鉄骨造の地上2階建、建築面積285㎡、延床面積562・5㎡。2021年2月から2023年10月までの期間で運転開始してデータを収集。その結果、各年度の冬期運転と夏期運転のトータルエネルギー収支は、創エネで作られたエネルギー量が、省エネで削減したエネルギー量が消費電力量を上回る結果となり、全期間を通じて『ZEB』を達成しています。

蓄熱メリットとして需要側に有利な温度の地下水揚水が可能。地下水初期温度は16℃。例えば2021年度であれば、冷房開始時は事前の冷熱蓄熱でより冷たい温度(13.5℃)、暖房開始時は事前の温熱蓄熱でより温かい(22.8℃)の地下水が得られ、その後は蓄熱の消費(揚水量の累積)に伴い初期温度に向けて収束していくとしています。


◆夏期のフリークーリング等が大きなポイントに◆


◆夏期の無散水融雪システム運転や太陽熱温水器で冬期使用の温熱をプラスして蓄熱◆


3年に及ぶ実証運転の結果、大きなポイントとなる点をJGDは、夏期の冷房でヒートポンプを使わず地下水の冷熱だけで冷房するフリークーリングを行っている点及び給湯用に導入した真空管式太陽熱温水器で集めた熱を利用する点や通常は冬期に融雪で利用する「無散水融雪システム」を夏にも運転させて集めた温熱を冬期に暖房で使う井戸周辺の帯水層に貯めておく点を挙げています。

フリークーリングの効果については、フリークーリングのみで冷房を行った2021年度夏のシステムCOP(SCOP)が23・95だったのに対してヒートポンプ冷房を実施した22年度夏のSCOPが9・00となっています。さらに、フリークーリングとヒートポンプ冷房をそれぞれ実施した2023年度夏の結果によると、フリークーリングのSCOPが23・00、ヒートポンプ冷房のSCOPが8・74となっています。この結果、フリークーリングは、ヒートポンプによる冷房に比べるとおおむね3~5倍近く運転効率が高まっており、エネルギー消費削減効果の高さがうかがえます。なお、冬期暖房は各期ヒートポンプによる暖房運転を行っており、2020年度冬のSCOPが3・69、2021年度冬のSCOPが4・00、2022年度冬のSCOPが4・64となっています。

もう1つのポイントとして挙げている「無散水融雪システム」は、JGDが70年代から手掛けている融雪システムで、15℃程度の地下水を路面の下に設置したパイプに通すことで路面の雪を溶かしますが、実証では駐車スペースの融雪用に設置した「無散水融雪システム」を夏期にも稼働させ、路面の熱で温められた地下水を冬期用の井戸周辺の帯水層に蓄えています。なお、冬期には融雪で使って冷えた地下水を夏期に冷房で使う井戸周辺の帯水層に蓄え、こちらも暖房運転で生じた冷熱にプラスして冷熱を蓄え、夏期の冷房効率向上に寄与しているとしています。


◆帯水層蓄熱を柱とした再エネ熱の面的利用システムの研究開発にも着手◆


JGDは、これまでの研究を基にして複数の熱需要に対して面的に熱供給する高効率帯水層蓄熱システムに関する研究開発をスタートすることも決めています。

NEDOが2024年度から2028年度にかけて「再生可能エネルギー熱の面的利用システム構築に向けた技術開発」を実施しますが、JGDがゼネラルヒートポンプ工業株式会社とともに提案した「帯水層蓄熱を中心とした面的熱利用によるZEB及びZEH-Mの運用に係わる技術開発」が採択されました。

このNEDO事業は、再生可能エネルギー熱利用の導入拡大を目指すため、複数建物や熱負荷の大きい建築物の熱需要を、単一もしくは複数再エネ熱により大容量化した熱エネルギーで賄う冷暖房・給湯システム等に利用可能な技術開発を行うことでスケールメリットを活かした低コスト化を目指すもの。

「帯水層蓄熱を中心とした面的熱利用によるZEB及びZEH-Mの運用に係わる技術開発」の詳細は現在計画中ですが、単一建築物の年『ZEB』達成を可能にした高効率帯水層蓄熱システムが複数建物等における熱利用でのZEB化やZEH-M化にどのように寄与するのか、今後の研究開発にも注目が集まりそうです。


◆高効率帯水層蓄熱導入のポイント◆


なお、高効率帯水層蓄熱システム導入の条件としては、該当する地域の地下水の状況把握がカギとなります。JGDによると、この地下水の状況把握のためには、国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)が津軽平野、秋田平野、仙台平野、山形盆地、郡山盆地の帯水層蓄熱システム適応マップを整備しており、このマップを活用するほか、マップ対象外の地域では地質・地下水の資料調査や実際に井戸を試掘して揚水注入調査を行うなどし、設計段階から適切なシステム構築を行える体制も整えているとしています。

JGDでは、「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」の対象について、東北地方を中心とした積雪寒冷地域を重点エリアとし、ZEB仕様建物の設計事務所や再生可能エネルギー熱の導入に積極的な設計者、環境意識が高い施主や設計者、CO2排出量削減意識が高い施主や設計者などをターゲットにしていきたいとしています。

また、対象施設については、建物面積500㎡~1,500㎡規模の建物で、特に24時間空調が必要な老健施設や診療所、庁舎や消防署等の防災拠点などが主なターゲットとしています。

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