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ドイツ戦争映画と私

2024.10.02 15:00

 私がドイツの戦争映画で最初に見た作品は『U・ボート』(1981)だったと思います。ゴールデン洋画劇場で放送され、艦長を演じるユルゲン・プロホノフを内海賢二さんがアテたバージョンでした。

 『U・ボート』といえば、まずはあの勇壮なテーマ曲にアドレナリンが分泌し、カタルシス満開なのですが、一方、潜水艦という限られた空間を舞台に、乗組員たちが直面する恐怖や苦悩も描かれ、迫力ある戦闘シーンと合わせて、息をのむようなドラマが展開されていきます。

 ただラストについては、自分の中でも賛否両論があります。あのラストだからこそ『U・ボート』を傑作ならしめたことは十二分に分かっているのですが、『大脱走』のようなハリウッド娯楽作品に脳を冒されていた身としては、もう少し明るいテイストには出来なかったものかという思いも拭えません。

 『大脱走』だって、実際に逃げ延びたのは一握りで、しかも大多数は銃殺される悲惨な結果なのに、映画では微塵も暗さを感じさせないですからね。映画の基本は娯楽だと思っているので、私は大脱走テイストの方が好きです。

 『U・ボート』以外で見たドイツの戦争映画は、あとは『撃墜王アフリカの星』をレンタルビデオで鑑賞したのみです。他にもモノクロのドイツの戦争映画があることは、戦争映画大カタログ等の本で知ってはおりましたが、如何せん80年代は、この2作品しか見る機会がありませんでした。

 1990年代に入ると新しいドイツの戦争映画の話題が入ってきました。その名も『スターリングラード(1993)』。まあ最後は『U・ボート』と同様の悲惨な終わり方になるであろうことは分かりきっていましたが、それまでは『U・ボート』の様なワクワクする展開を勝手に期待しておりました。ビデオジャケットにも「Uボートの製作スタッフが総力を結集!」と書かれていましたし。

 御承知のように『スターリングラード』は私の嫌いな鬱系の戦争映画でした。これまでに1回しか見たことないし、まあこれからも見ないと思います。でも私が嫌いなだけで、この作品はミリタリーファンからの評価も高いようですし、ソフトの売れ行きも良かったようです。

 でも私は、負傷した仲間の治療を強要した結果、懲罰大隊送りになるよりも、『遠すぎた橋』のような展開の方が好きなのです。余談ながら『スターリングラード』といえば、もう一つケツの出る作品もありましたが、こちらも今一つ。何で小林源文先生の『総統命令41号・青』のような映画を作らないかな?

 1990年代も後半になると、私も社会人の端くれとなり、関東に拠点を移しました。そして、これまでコンバットマガジンの広告でしか見たことがなかったお店に実際に足を運ぶようになりました。

 その中で、池袋にあった某店では、西独時代の戦争映画をダ〇ングしたビテオテープが売られており(笑)、そこで『橋』や『壮烈!ブランデンブルグ師団』などを購入して鑑賞しました。

 特に『橋』ですが、初めて見た時は強い衝撃を受けました。戦略的に無価値な橋を守る少年兵を描いた本作は、個人的には反戦映画の最高傑作だと思っています。それに比べて本邦の反戦映画といえば「戦争によって若者の恋が引き裂かれる」的な作品が目立ち、正直言って辟易としておりました。

 そして2000年代に入ると、ドイツ戦争映画界隈に一大転機が訪れます。これまでマトモに見ることが叶わなかった西独時代の戦争映画が、「戦場ロマンシリーズ」という、まるで新谷かおる先生のマンガのようなネーミングで以て続々とDVDでリリースされ、全国のドイツ軍ファンは狂喜しました(多分)。

 これまで見ることが叶わなかった西独時代の戦争映画を、大量にリリースしてくれたケンメディアさんの功績は非常に大であります。しかし、Vol.5としてリリース予定であった『激戦モンテカシノ』と『犯罪部隊999』が、大人の事情なのか分かりませんが別の作品に差し変わったことが何とも残念でした。

 『激戦モンテカシノ』については、先の池袋の某ミリタリーショップでも売っていたのですが、ダ〇ングしたもので画質が悪く、しかも4200円というのがネックで購入を見送っておりました。ようやくDVDが発売される!と期待していただけに、発売中止の報に接した時は本当にショックでした。

 こうなったら海外のソフトを取り寄せるか!ということで、ネットで『激戦モンテカシノ』を検策しましたが、ドイツ本国においても既にビデオは廃盤で、中古も見つけることも出来ませんでした。

 しかし、検索の末、アメリカのとあるサイトでVHSビデオが売られているところを見つけました。ただ正規のビデオではなさそうでしたが、この際、構わないので注文をしますが・・・反応がありません。メールが届かなかったのか?と思い、もう一度オーダーを出します。が、やはり反応はありません。どうやら海外からの注文なので単にシ力トされたようです(怒)。

 そこで諦める私ではありません(笑)。「ならばアメリカに駐在している会社の後輩にオーダーしてもらえばいいじゃん!」ということで、早速、彼に頼んだところ、心よく(たぶん)引き受けてくれました。そして「注文品が発送されたとメールが来ました」と後輩から連絡があり「これでようやく観ることが出来る!」と思っていたら、後輩が気になる一言。「僕、〇月〇日に日本に戻るんです」

 「え~!じゃ、ビデオはどうなんのよ」と僕。「住んでいるところに届いた荷物は、営業所に転送されるはずだから、そこから日本に送ってもらいます」と後輩。・・・大丈夫か不安に襲われますが、こういう時の悪い予感は当たるものです。案の定「荷物が行方不明になった」と連絡が。ちなみにサイトの方も、その後、クローズされました。

 今でこそ『激戦モンテカシノ』は、動画サイトで容易に鑑賞することが出来ますが、2000年代ですとまだまだアナログの時代でした。


 2000年代といえば、ブルーノ・ガンツの『ヒトラー 〜最期の12日間〜』も話題になりました。ただ、作品が公開された当時は、ヒトラーの描写が問題となり、「ドイツ人がヒトラーを人間的に描く資格があるのか?」といった類いの批判が結構あったように記憶しております。

 また2000年代は、トム・クルーズの『ワルキューレ』も公開されております。その影に隠れがちですが『オペレーション・ワルキューレ(2004)』という作品、ドイツのテレビドラマ作品ですが、こちらもお薦めです。

 2010年代だと『ジェネレーション・ウォー』『Uボート ザ・シリーズ 深海の狼』『ちいさな独裁者』といった作品を鑑賞しましたが、いずれも見終わって後味がスッキリしない作品でした。でもUボートのシリーズは早々に次のシリーズの制作が決まったとか。う~ん、人気の理由が分からん。

 正直いって、2000年代以降のドイツの戦争映画は数えるほどしか見ておりません。『ヒトラー 〜最期の12日間〜』でヒトラーの描写が批判となったせいかどうかは分かりませんが、今のドイツの戦争映画は「加害視点」を入れることがデフォになっているように思います。


 しかし、西独時代の戦争映画には、そういった加害視点というのはまず見られません。それどころか、ビックリするくらい格好良く描かれたドイツ軍が出てきたりもしますし、敵対勢力の女性(露人や仏人)との報われぬ恋的な描写もあります。自分の一番のお気に入りの西独戦争映画は先にも触れた『激戦モンテカシノ』です。

 では第二次世界大戦後に、ドイツで最初に制作された戦争映画は一体何だったのでしょうか?ナチスによるホロコーストという未曾有の犯罪を行ったことなどを踏まえると、ドイツ軍が出てくる戦争映画を作ることには、当然、抵抗があったであろうことは想像に難くありません。ドキュメンタリー映画は幾つかあったようですが、劇映画としてはマリア・シェル主演の『最後の橋』が最初だと思われます。マリア・シェルはドイツ人の医師を演じ、敵と味方の間で揺れ動く心の葛藤を描いた反戦映画の名作です。但し、ドイツ映画のように感じますが、厳密にはオーストリア・ユーゴ合作映画。

 『最後の橋』をドイツ映画から除外すると、本邦初公開のドイツ戦争映画は、おそらく『08/15』だと思われます。原作は、ハンス・ヘルムート・キルストによる同名の小説であり、映画はドイツ国防軍の兵士たちが主人公です。ただ『08/15』は、戦争映画のカテゴリーではありますが、あくまで兵営生活が話のメインで、戦闘シーンなどはありません。『08/15』が制作された翌年には西ドイツも主権の回復と再軍備を果たしており、ようやく戦争映画も作れる環境になってきたということでしょうか。

 同じ時期に、ヒトラー最後の日々を描いた『Der letzte Akt』という作品も作られておりますが、こちらは日本未公開。脚本には『西部戦線異状なし』のレマルクが名を連ねております。当時はヒトラー生存説が今よりも説得力があった頃で、それをレマルクは払拭したかったとか。

 他は、軍に志願した子供を取り戻すために、母親たちが前線に押し掛ける『戦場の叫び』や、ヒトラー暗殺事件を描いた『暗殺計画7.20』、反ヒトラーであるカナリス提督を描いた『誰が祖国を売ったか』等が制作されております。反戦や反ヒトラー的な題材が取り上げられているのも、まあ自然な流れですね。

 しかし、1950年代も後半になると『撃墜王アフリカの星』や『激戦モンテカシノ』そして『壮烈第六軍!最後の戦線』など、戦いをメインにした作品が増えてきます。そこに出てくるドイツ軍は極悪非道ではありませんし、ユダヤ人迫害などの加害視点もありません。ましてや『スターリングラード(1993)』のように階級順に女を輪姦しようとする兵士も出てきません。

 私はかねてから、戦争映画が一番輝いていたのは1960年代だと思っております。1960年代は『大脱走』『ナバロンの要塞』『バルジ大作戦』などの傑作が生まれましたが、ベトナム戦争が泥沼化し、ヘイズコードが撤廃される頃には、徐々に陰惨な描写の映画も増えてきます。

 では60年代の独戦争映画で、カラー作品は?と問われると、思いあたる映画が皆無です。50年代後半には、今のドイツ戦争映画では考えられないほど「勇ましいドイツ軍」映画がバンバン制作されていたのに、60年代に入ると『壮烈!ブランデンブルグ師団』や『大勝利』あたりを最後にパタッと無くなってしまいます。

 1960年代にドイツで戦争映画が制作されなかった主な理由は何か?当時の出来事でいえば、アイヒマンが拉致され、裁判にかけられました。忌まわしい過去を忘れたかったドイツにとっては、過去の亡霊が脚光を浴びた形ですが、さほど社会情勢に影響はなかったように思われます。

 敗戦後、ドイツではナチス党員だった人物を公職から追放する、所謂「非ナチ化」が進められました。しかし、東西冷戦の始まりや西ドイツの再軍備などの社会情勢の変化に伴ってそれらは形骸化していきました。また過去の忌まわしい出来事も、経済復興に伴い人々の意識からは薄れていき、それが「勇ましいドイツ軍が出てくる戦争映画」の製作に繋がっているものと思われます。

 そのような中で、1963年にフランクフルト・アウシュビッツ裁判が開廷し、収容所での残虐な実態が明らかになったことが、ドイツ国民の戦争に対する歴史認識にコペルニクス的転回となったようです。このフランクフルト・アウシュビッツ裁判を題材にした映画が「顔のないヒトラーたち」です。

 これを機に、ドイツでは全くといって良いほど戦争映画が作られなくなりました。この流れは60年代から70年代に入っても継続します。1978年のテレビドラマ「ホロコースト/戦争と家族」も、お茶の間にホロコーストが持ち込まれたことで大きな反響があったようです。

 結局、1981年の「U・ボート」まで、ドイツの戦争映画は長い不遇の時期を過ごすこととなりました。もしフランクフルト・アウシュビッツ裁判がなければ、1960年代にドイツではどんな戦争映画が作られていたのでしょうか?


 『激戦モンテカシノ』なんかはリメイクをしても良いように思うのですが、今となっては「良いこともしたドイツ軍の話」なんかは敬遠されるんだろうなと思う次第。