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WUNDERKAMMER

ころんだ達磨さんと

2019.01.11 14:19

戸を開けるとそこは、一面の達磨畑だった。


事の発端、というものなのかはわからないが、その夢の前日に見た夢で僕は山で小川を眺めており、そこへ突然上流から一つの真っ赤な達磨が流れてきたのだ。大物だ!と意気込んだ訳ではないがとにかく助けねばと思い、掬い上げたのだ。


そして今日の夢。達磨畑。

それは今僕が暮らしているアパートの和室を、仕事帰りの僕がスパーンと景気よく開けたところ、その部屋一杯の大きさの赤達磨が僕を見下げていたのだ。そしてその周りを野次馬でもするように大小様々な達磨が此方を見ていたのだ。


さてその日からだ。僕の周りで達磨を見るようになったのは。

両手サイズのそいつは目の端に弾ける赤色でアピールさせ、僕がつられてそっちの方へみると動じず胸を張って堂々とそこにいるのだ。それはもう会社から始まり昼休みの喫茶店、帰りの電車に路地、スーパー、アパートの階段まで。


しかし何故だかまあ、不気味ではない。

これは一種の信頼に近いものだろうか。だがきっと誰かに「幽霊か!?物の怪か!?」と聞かれたら、きっとこの神出鬼没さは達磨個人の力だけではないだろうと考え、「物の怪よりだな」と答えるであろう。

しかしまだ誰にも言ってはいない。

言う話でもない気がするし、言ったところで何を言われるかかわかったもんじゃない。今の所「幽霊or物の怪」の問いに対し「その二択ならば物の怪だと思う」という答えしか持ち合わせていない。

悪さをするようには思えないし、実際害はない。自分自身見たとしてうん、居るな、と思うだけなのだ。

言ってしまえば慣れたのである。


深夜、電車はない。項垂れる首を支える恋人も自分への優しさも、ましてやそんな気力も残ってはいない。冬の夜風が心にしみる。

仕事で失敗したのだ。それも完全に自分のせいで。

「大丈夫だよ」と言ってくれた上司の口の端が震えていたのを覚えている。はぁ、思い出して僕の首はまた垂れた。


ゴトン

前方で音がした。

首を垂らしたまま目だけを向けると、街灯の下に赤い丸がいた。

達磨だ。

そいつは珍しく動いていた。横へグイッと倒れては、ゴロンと戻る。

グイッと倒れては戻る。グイッゴロン、グイッゴロン・・・

「七転び八起きだ。元気をお出しよ」

そんな事を言われているような気がした。


僕はその達磨を両手に抱え、ムンと胸を張って歩き出した。

先程まで垂らしていた首が少し痛いが、いずれ慣れるだろう。


それから家に帰り、胡坐の上に達磨を座らせて拭いてやったのだが、やはり色々な処に出歩いていたためか自慢の赤が少し剥げていた。次の休みに直してやろう。


そして達磨を飾って今に至るのだが、相変わらず達磨は見る。

少し変わった事と言えば、僕が見つけるたびに手を振るようになった事と、家に帰ると待っている達磨がいる事ぐらいだ。