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WUNDERKAMMER

奇妙なホテル

2019.01.12 14:10

外国での話。

友人2人とレストランに行こうとしたがマップがバグり民家も店もほとんどない田舎町に着いた。

1つだけあった大きなホテルを見つけたので、フロントで道を聞こうと入ったのだが誰もおらず壁掛け時計も柱時計も埃を被り止まっていた。

あまりの廃れ加減に廃ホテルかと思い、出ようと振り返ったらお爺さんが背後にいた。

驚きながらもお爺さんにレストランの位置を尋ねたが、そのお爺さんは「コーヒーはどうだ」しか言わない。

仕方なくホテルにあるカフェの席に着いたのだが、いれてもらったコーヒーのソーサーには10年以上位と言っても過言ではないぐらいのホコリが溜まっており、コーヒーの中には虫が浮いていた。

流石に飲めないので口をつけたふりをして机に置き「このホテルは営業してるんですか」と尋ねた。「営業してる。ただ、今年はお前らしか客は来ていない。そうだよな?」と答えるお爺さん。その時既に10月だった。聞き返されて知るかよと思っていたら背後からもう1人おじさんが出てきて「そうだ、俺らはいつも働いている。しかし客が来ないから同時にいつも遊んでいる。ずっと昔から」と妙な会話をしだした。

会話の内容以前に、彼らの英語がまるで幼稚園児のように主語述語文の構成がバラバラでチグハグなので「彼らはヤク中でヤク中のたまり場のホテルだろうか……」と思いあたりを見渡した。壁にかけてあったカレンダーが目に入るも1972年のもの。

入った時からこのホテルを取り囲んでいた古めかしさに気味が悪くなり、ホテルを出ようとしたのだが、何を思ったのかあの汚いコーヒーを飲んだという友人(男)が尿意を催してトイレに行ってしまった。

流石に置いていく事もできず私ともう一人の友人はそのまま席でお爺さんとおじさんの話を聞いていた。


話を聞いていると、お爺さんとおじさんは家族でもなくこのホテルのオーナーでもない事がわかった。彼らは自分たちを「客を迎える役」と言っていた。

そんな時私もトイレに行きたくなり、もう一人の友人を放っておくのは不安だから彼女に耳打ちして2人でトイレを借りることにした。

トイレは長い廊下の突き当たりにあり、いくつかの客室を横切るがやはり客は1人もいる気配がしないし廊下も歩くだけで誇りが舞うくらい埃まみれだった。


埃を散らしながら歩き、女性トイレの戸を開ける。

どのトイレもゴミまみれホコリまみれ、1番ひどい個室は血まみれだった。

気持ちが悪くて尿意どころじゃない。私はなんでもいいから出ようと彼女に言い、もう一人の友人を呼ぶために隣の男性トイレの前で名前を呼んだ。

しかし彼の気配はなく、怖くなって彼女と廊下を駆け抜けたが、人の気配が無かったはずの先程の客室から沢山の笑い声がして本当に怖くなった。

フロントでお爺さんとおじさんにとりあえず礼を言い、逃げるようにホテルを出ようとしたが、何故かそれを聞いたお爺さんが私たちが口をつけた茶器(陶器)を暖炉に投げ込んだ。

慌てて「何故捨ててしまうのか」と聞くと、「お前達は帰る外の客。もう二度と来ない客。食器はいらない」と答えられた。

洗うという概念がないのかポリシーなのか何なのかは分からないが私たちが最後にお爺さんと話したのはそこまで。

外に出る瞬間に「みんな帰る。ここはホテルじゃない、駅。みんな来てみんな帰る」とよく分からないことをおじさんが言ってた。

頭がおかしい人達かもしれないしヤク中かもしれない。

とりあえず話が最初から最後まであまり通じないので分からないけど、半泣きの友人を連れてもう一人の男の友人にはSMSで「来た道を戻る」とメッセージをいれてから外に出た。


猛スピードで元の道を辿り続け、1時間後くらいにチェーン店のドーナツ屋に入った。

それから数時間友人とそのドーナツ屋でお茶をしていると、やっともう一人の友人が店に現われ、合流した。

しかし、彼は激怒していた。放って行かれたからかと思ったがそうではなく、彼が見たものは私たちとは違ったからだった。

彼の話は私たちとは確実に食い違っており、「綺麗なホテルに着いた。お爺さんとおじさん、それとお姉さんとお母さん、小学生くらいの娘さんが出てきて美味しいコーヒーをご馳走されたのに何故君たちはコーヒーも飲まずに出ていったのか」と。

私たちはお爺さんとおじさんしか見ていない。

さらに、私たちが彼を置いていってから女性達を見たのかと思ったがそうではなくフロントに最初からいたと言う。

ふざけているのかとも思ったが、それなら彼だけがあんな汚いコーヒーを飲んだ理由もわかる。

最初は嘘をつくなと口論になったがお互い真剣そのものだったので「なんだこれ」と気味が悪くなり、お通夜みたいなテンションで目的のレストランも探さずにそのまま家のあたりまで戻り解散。


翌々週この話に興味を持ったほかの友人含め5人ほどで再度訪れることにしたが、全く見つからなかった。

私が引っ越してから彼が「実はあのホテルを見つけた!やっぱりいい人達だった!見つけてから何回か遊びに行ってる」と言ってきた。

ふと、私はお爺さんが彼の飲んだ茶器は捨てなかったなと思い出した。

その彼とはその報告以来あまり連絡を取っていませんし最近彼の英語がだんだんとあのお爺さんやおじさんみたいに文法的にバラバラでおかしくなってきてからは繋がっていた連絡先もブロックしました。