Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

小松菜日和

0は1にも成りうるし成らない。

2019.01.13 12:00

それは初めて見た姿だった。

彼はいつも表情をほぼ変えずにいた。変えたとしても目を開けているか、閉じているかの違いだけで『喜怒哀楽』の喜しか顔に浮かべていなかった。しかし目の前にいる彼の顔は額にシワを浮かべ、怒の顔を浮かべている。その表情に僕は別の恐怖を覚えた。今まで彼にはいろいろな恐怖を覚えさせて貰ったがまた覚えてしまったのだ。本当は覚えたくないのだが仕方がないことなのかもしれない。これはどうみても僕の発言が悪かったことが原因であり、僕の責任である。だからこの場面を受け入れなければならない。ただ、つらつらと飲み込まれることしかやれることがないのだ。



何があったのかというと、それは数十分前、彼が僕の部屋に何故か来てしまった時だ。

その頃は、誰も亡くなってはおらず、僕はただリンゴちゃんの帰りを待っていただけであった。それなのに彼は来たのである。

彼はこんにちはとだけ挨拶をし、窓の景色を眺めていた。僕に何か用なのか、それとも思うことがあり景色を眺めたいだけなのかは不明で、ただ僕はドアに向かってリンゴちゃんを待つことにした。

それは、お互いに背を向けている状態で別れ際の恋人のようだが全く違い、僕が死んだらタイムループが出来ると知っていて、そのまま銃で撃つような、かなりの悪趣味な人物である。正直にいって会って交流したときから嫌いである。

しかし、何故彼は僕に近づいてくるのだろう。タイムループの能力を知っていても、たまにアドバイスをして去っていく。本当に見ているだけなのだ。まるで演劇を見ているかのように。

「標的者。」

僕はそう呟いた。彼に僕の能力がバレた時に呼ばれた言葉だ。未だにその言葉が深く耳に刺さっている。彼は本当に僕をどうしたいのだろうか。彼と関わらないためにはどうしたらいいのだろうか。僕は迷っていた。彼と同じ空気を吸っていると思うだけで気が狂いそうだ。

出来るだけ何も考えないようにしようとしたが、本当に小さな呟きだったのに彼は振り向いた。全く、彼は地獄耳である。

「どうしたのですか。」

彼は微笑んで尋ねる。まったく、この人に笑いの他に感情はあるのかと疑問にもつ。本当に不気味だ。でも、彼はプログラムなので仕方がないことなのかもしれない。

「確かに私はプログラムですよ?」

言ってもいないのに彼はそう答えた。考えていることがどうやら読まれているようだ。いちいち考え事もできない。

彼は僕をおいていって話を続ける。

「貴方も不気味だと思うでしょう。こんな笑顔でいるのも。一つの変化も見せないのですから。家政夫さんもいいますよ。『お前は笑ってるだけの人形かよ』と。」

僕は彼の顔を見る。変わらず目を細めながら笑顔である。逆に笑顔である時が少ない僕はいつもいつも僕を標的者と見ながら笑っているのに少しずつ、少しずつ怒りが湧き出てきた。僕は何回も何回もタイムループをし続けて、たくさんの経験をしたことで考え方の一部が堅苦しくなってしまった。このような文章になっているのもそのせいだ。なのに彼は何も動じず、ただ見ているだけ。そう僕は

「何回も死んでいるのに」

彼は細めていた目を開いた。

「それは貴方が望んでいることでしょう。貴方がたくさんの死を受け入れれば死ななくてすむ。」

僕は少し彼を睨む。

「君には僕の気持ちなんて分からない。」

彼は僕に近づいて、しゃがんだ。

「分かりますよ。なんせ、私は『プログラム』ですから。」

言っている意味が分からない。ただただ傍観者みたいに言われたようである。だからなのか、そこで僕の理性がプツリと切れてしまった。

「君はいいよね。」

彼は少し間をおき、「何ですか?」と吐いた。その態度が気に入らなくなって、力強く彼の肩をつかんで、普段より力強く、息を吸い

「君は大切な人が目の前で死んだことがないからそう言えるんだ、僕は大切な人が、好きな人が何回も何回も死んでいった。僕がタイムループしても、彼女はいなくなる。試行錯誤してもどうにもならない。どうしても救えない。ずっと見てるなら、分かるなら教えてよ。どうしたら『優遊リンゴ』ちゃんを救えるのか!!」

と力強く吐いた。久しぶりにここまで叫んだような気がする。

しかし、それが間違いだったのかもしれない。

しばらく間があった後、彼は口を開いた。

「はい、そこまで叫んでいるのにも関わらず、先程の分かっているという私の発言はずれていたのかもしれません。前の発言は撤回いたします。」

彼は小声で呟いた。空気が冷たくなるように感じる。その状況のなか、彼は続ける。

「しかし、貴方も私のことを知ったまでに、話をしている気がするのは何かといただけない。しかも、救いたいのが『優遊リンゴ』単体?他の死はどうだっていいのです?」

「そ、そんなことは」

彼は僕の話を聞かずに続ける。

「確かに貴方は人の死を何回も何回も見てきた。だから辛いのは、分かります。分かりますよ。しかし、残念ながら私の検討違いだったようだ。」

僕は彼の顔をみた。普段と同じ話し方だが、表情は違っていた。怖い表情だった。目は大きく開き瞳孔は小さくなっていて、口元は吊り上げていなかった。

「貴方はもっと賢い子だと思っていましたよ。しかし、ただ一つの愛にしかすがり付かないバカだと分かりましたよ。たくさんの人が愛をくれているというのに。全く貴方は。私はそれをいくつも無くしてしまったというのに。」

僕の肩を強く掴んだ。そして彼は顔を伏せて何かボソボソと呟いているようだったが何も聞こえなかった。いや、僕が聞きたくなかったのかもしれない。あれだけいつも笑っていたのが、急にあんな表情になるとは思っていなくて恐ろしさを感じて逃げたかったのだろう。

長々と何かを言い終えた後、彼は顔をあげてこう言った。

「どうやら、私がいたことにより貴方にたくさんの混乱を及ぼしてしまったようですね。申し訳ありません。前に私はただ見ているだけと申しましたが、約束とは違うことを行ってしまいました。」

その時の彼の顔はもう笑っていた。

「やれやれ、やってしまいました。貴方にこんな表情を見られてしまうとは失念してしまいました。私も過去にいろいろとありましてね、こういう命関係の話にはピリピリとしてしまうんですよ。」

笑っているのに彼が寂しそうにみえた。僕は疑問にもつ。こんなに人に質問したいことはあまりないのだが、聞きたくなってしまった。僕は話しかける。

「…貴方はいったい何がしたいの?貴方の過去には何があったの?」

彼は僕に至近距離で、笑顔で接近し

「…私はね、過去に夢を叶えることができなかった。何十年も何百年もさまよってきましたが、やっぱり叶えれませんでした。だから、諦めたんです。どうせ私にはできないことですから、誰かが夢を叶えるのを見守っていこうと。そして私の夢に一番近い人を見つけました。それは貴方です。」

「…僕?」

僕は驚く。

「そう、貴方です。しかし、夢が近いからこそこうやって理想を抱いてしまうことが分かりました。このように感情がでてしまうことが分かりました。感情がみせると人は別の行動をする。私は正直それをさせたくない。だから、これ以上過去のことは話さないことにします。このままだといけません。」

僕をおいてけぼりにして話が進む。

「私はしばらくこうやって二人きりになることをしばらく禁じようかと思います。貴方も私といるのは心地が悪そうですし、いいときでしょう。」

僕は息を吐く。正直、二人きりになるのは彼の言う通り心地が悪く心臓が締め付けられそうだったのでほっとした。多分この気持ちもバレているだろうがそれはもう別にいい。

「今からでも私はここから離れた方がいい。ということで、忠告をしておきます。今回は」

彼は一本指をたてた。

「一つ目、前も話したように貴方の能力は無限に使えますが、別の意味で限界がくる。しかも、そのときはもうそんなに遠くはない。だから頭をたくさん回らせて方法を考えなさい。『優遊リンゴ』を救う方法を。」

彼はよっぽど前の発言を根にもっているのか強めにいった。

彼はまた一本指を立てる。

「二つ目、貴方の能力を私以外に知っている人が二人いる。もう一人は貴方の存在を消そうとしている。気を付けなさい。その日も近くない。」

彼はまた一本指を立てる。

「三つ目、私はこれから貴方と二人きりにはならないでしょう。しかし、貴方をずっと見続けていますからね。」

そして、彼は手をしまった。

「では、さようなら。『明暗ルク』さん。標的者よ。」

彼は部屋から出ようとしたが立ち止まる。

「…いかないの?」

彼は振り返る。また、顔は笑っていない、僕にとって怖い表情であった。

「貴方には私のことが少し知られてしまった。私は中途半端に事が知られるのは嫌なんですよね。何故か。ということで。」

彼は僕に至近距離で近づき

「全てのことが解決したとき、私の過去全てをお話致しましょう。」

と静かに囁いた。そして、背中をむけ部屋から出ていった。

何だったんだろうか、今までの時間は。僕は力が抜ける。これから彼は見守っていても、もう僕に近づいてはこない。それだけでも安堵があった。

しかし、僕は少し気になった。彼、『Not=Nihil』の過去が。あれだけ僕の些細な発言で表情が変わるのだ。だから、僕は決心をした。彼は僕を見ているんだ。僕も彼の仮面を剥がそうではないか。そして皆にバラしてやろう。

…皆に?

僕は優遊リンゴちゃんにしか興味がなかったはずなのに、何故『皆』と?

何故か考えようとしたが、丁度ドアがガチャリと開ける音がした。リンゴちゃんだ。僕はリンゴちゃんにかけより、僕は考えを放棄した。それがいけないことでも僕は彼女を大切にしたいから。そっちのほうが大事なことなのであるから。




私はため息をつく。

まさかあの発言で切れてしまうとは。私もまだ修行が足らないようだ。

あの発言で私の過去が速いスピードでフラッシュバックしてしまった。そのことが原因で標的者につかみかかろうとしてしまった。途中でハッとし落ち着こうと顔を伏せて小声で聞こえないように自分に言い聞かせた。

「今までのことは終わったんだ。落ち着くんだ。彼らはもういない、私は一人だ。誰も助けてくれない。自分で何とかしろ、何とかしろ、落ち着くんだ。」

これを何回もいったら落ち着いた。なのでまだ良かった方なのだが。

さて、標的者と二人きりになれないから、これからたくさん見守らなきゃならない。標的者は今を進むのか、進まないのか。それは標的者次第なのだから。僕はどんなに批難を浴びせられても、傍観者としてこれからを生きていこうではないか。



0は1になりそうである。