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地方から高齢者が去ってゆく 介護理由の住民転出75市町村 アンケートで見えた北海道の実態

2024.10.19 21:21

2024年10月11日 14:00(10月15日 14:17更新)

 北海道新聞は、道内全179市町村を対象に介護に関するアンケートを行った。望む介護を受けられずに転出した住民がいると回答した自治体は75市町村に上り、介護サービスの自治体間格差が人口流出の要因になっている実態が浮かんだ。また、9割に当たる155市町村が介護サービスの担い手が不足していると回答した。129市町村が人手不足を補うため介護事業に従事する外国人を受け入れていた。

 望む介護を受けられずに転出した住民が「いる」と回答した自治体が75市町村で最多だった一方、25市町村は「いない」、74市町村は「分からない」と答えた。

■9割の市町村「介護人材不足」

 地域の介護人材について、84市町村が「少し不足」、71市町村が「かなり不足」と回答した。「十分確保できている」と答えた自治体はなく、「ある程度確保できている」は17市町村だった。

 介護事業に従事する外国人について、129市町村が「受け入れている」と回答した。このうち70市町村は今後の受け入れを「増やす必要がある」とした。「受け入れていない」のは35町村で、このうち13町村は「(今後)受け入れる必要がある」と答えた。

 外国人の受け入れの課題について自由記述で聞いたところ、「人材紹介費用の負担が大きい」との声が多かった。日常生活の支援も課題で、後志管内島牧村は「住宅の確保が難しい」、赤平市は「公共交通機関の使用が困難で、買い物などの支援が必要」と答えた。

■「実情に応じた介護報酬に」

 国や道に対しては「人材確保事業の費用助成」(空知管内栗山町)や「事業所継続のための介護報酬の増額改定」(オホーツク管内斜里町)を求める声が上がった。

 内海医師は「地方の人材不足の深刻さやサービス提供体制の脆弱(ぜいじゃく)さが明らかになった」と説明。広い道内は訪問介護などの移動コストが高く「国は地域の実情に応じた介護報酬体系に改め、人員の運営基準の緩和や物価上昇に応じた助成も行うべきだ」と指摘した。

■介護「崩壊」 人口減少に拍車

 高齢者が必要な介護を受けられず、慣れ親しんだ地域からの転居を余儀なくされる―。北海道新聞が道内全市町村を対象に行ったアンケートからは、地方の介護サービスの提供体制が崩れ始め、人口減少に拍車を掛けている実態が浮かび上がった。石破茂首相は「地方創生の再起動」を掲げるが、地方は高齢者が日々の暮らしに不安を抱える現実に直面している。

 「まさか父が通うデイケア(通所リハビリ事業所)が閉鎖するとは思わなかった」。釧路管内弟子屈町の団体職員三浦通さん(64)は9月下旬、同居する父昭四郎さん(95)の着替えを手伝いながら不安げに語った。

 父子共に妻を早く亡くし、約15年前から2人で暮らす。昭四郎さんは2月に脳梗塞で倒れて以来、1人で入浴できず、町内唯一のデイケアに週2回通っていた。

■人手不足で事業所閉鎖

 しかし、事業所は9月末、人手不足などを理由に閉鎖した。町内のデイサービス(通所介護事業所)に空きはなく、10月から介護サービスを受けていない。1人で父を入浴させる自信はなく、釧路市に住む介護職の姉が往復3時間近くかけて週2回ほど、入浴を手助けすることになった。

 11月からは週1回、自宅で訪問介護を利用予定。「体を動かすのが好きな父には、通所サービスを使わせたかった。大きなマチなら望む介護を受けられるのに」と、通さんはため息をつく。自身も将来、介護される側になれば「町を出るのも選択肢に入ると思う」。

 北海道新聞の介護アンケートで、望む介護を受けられず転出した住民がいると答えた自治体は全179市町村のうち4割に上った。将来の介護事業所の撤退に不安を感じている自治体は8割超の146市町村に達した。事業所の撤退が進めば、地方の人口流出がさらに加速するのは必至だ。

 昭四郎さんが通ったデイケアを運営していた弟子屈町の医療法人社団「信診連」は、2026年度中に無床診療所や訪問介護などの事業も撤退する予定だ。担当者は「人手不足の慢性化や物価高で経営が立ちゆかなくなった」。町内で不安は広がっており、町福祉課の戸崎泰宏課長は「撤退の動きが続けば、自分に合った介護サービスを選びたい高齢者は、釧路や札幌に転出する可能性もある」と語る。

■稚内から札幌へ 仏壇気がかりだけど

 一方、札幌は地方と比べ、介護サービスの選択肢が比較的多い。稚内市に自宅があった米沢ミヨ子さん(84)は、5年前から冬の間だけ札幌市内で長女の直美さん(55)と暮らしてきた。稚内に戻ろうとしていた今年5月、新型コロナウイルスに感染。直美さんの説得で札幌移住を決めた。

 直美さんが日中働いて不在となっている間、ミヨ子さんはデイサービスに週5回通う。半世紀近く過ごした稚内の自宅と仏壇が気がかりだが「みんな良くしてくれる札幌で、ずっとお世話になろう」と思っている。

■「地方を守る」実現できるか

 石破首相は今月4日の所信表明演説で、都市部への人口一極集中を解消する地方創生を再起動させ「地方を守る」と強調。地方創生の意味を「都市に住む人も地方に住む人も、すべての人に安心と安全を保障し、希望と幸せを実感する社会」と強調した。

 だが、厚生労働省の推計では、介護を必要とする高齢者を支えるのに必要な人材は40年度に272万人となり、57万人不足する見通しだ。介護事業に従事する外国人を含めた人材が都市部に集中する傾向が続けば、地方の「介護難民」はさらに増えかねない。地方の介護需要をどう賄うのか、与野党の論戦からは、処方箋はまだ見えない。


北海道新聞よりシェアしました https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1074126/