自己破産における自由財産(の拡張)とは
自然人が債務超過ないし支払不能に陥り、負っている債務の免責を得ることを主目的に裁判所へ破産の申立てをする。
破産を申し立てるにも、弁護士報酬を含め一定の費用がかかることは、当事務所ホームページ(http://trout-law.jp)のトピックス(破産・民事再生)の個人破産の項で説明したとおりです。
破産を申し立てる人の中には、自己破産したときに、今ある財産がすべて失われて返済にまわる、とか、銀行などの預貯金、あるいは手持ちの現金が。返済に充てられて全く使えなくなる、といった具合に、考えてしまう方が少なくありません。
しかし、それでは、せっかく破産、債務の免責を申し立てて経済的再生を図ろうとしても、その資金的きっかけがつかめず、再び他から借金をせざるを得なくなるなどして、負債を抱えたり支払不能を繰り返すことになりかねません。
このようなことのないように、破産法は、例え自己破産の申立てをしても、債権者への返済に充てるための破産財団を構成しない財産として、「自由財産」というものを認めています(破産法34条3項)。
破産者は、この自由財産の範囲で、当該財産を自由に管理処分できることから、生活を維持したり、破産・免責後の経済生活の再生のための便宜に充てることができることになります。
以下では、どのようなものが自由財産に該当し、破産者が自由に管理処分できる自由財産の範囲はどこまで認められるのかということについて、破産裁判所の実務に即して解説します。
1 自由財産の定義
自由財産とは、破産者の財産のうち、破産財団に属せず、破産者が自由に管理処分できる財産をいいます。
2 本来的自由財産
(1) 99万円以下の金銭(現金)(破産法34条3項1号,民事執行法131条3号,同法施行令1条による)
(2) 差押禁止財産(民事執行法上のもののほか、特別法にも規定がある)の主なもの
・ 生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品、畳及び建具
・ 1か月間の生活に必要な食糧・燃料
・ 農業・漁業従事者の農具、漁具
・ 技術者等の業務上必要な器具類(大工道具、理容機具など)
・ 給料・退職手当(原則4分の3相当分)、なお、中小企業、小規模企業の退職金共済は全額
・ 民間の年金保険
・ H3.3.31以前に効力が発生している簡易生命保険契約の保険金又は還付金請求権
・ 各種保険給付受給権、高額療養費の支給、家族埋葬料の支給
・ 生活保護受給権、失業等給付受給権、労働者の補償請求権、交通事故被害者の請求権
3 自由財産の拡張
(1) 預貯金
預金は、本来的な自由財産ではありませんが、現金に準じるものとして、一定の範囲で自由財産としての拡張が認められています。
(2) 年金
年金そのものは、差押禁止財産として本来的自由財産ですが、通常、隔月で指定の銀行口座などに振り込まれ、預金となります。こうして銀行預金となった後は、差押禁止財産ではなく、差押えが可能とされています。
年金振込分と合わせて99万円以下であれば自由財産の拡張の範囲内といえます。これが99万円を超える場合には、年金が破産者の今後の生活に不可欠であることを疎明して、自由財産の拡張を申し立てることになります。
4 自由財産拡張の手続運用
自由財産拡張の可否(破産裁判所の判断)は、破産管財人の意見を聴いて判断されます。
裁判上の運用(例)
ア 99万円に満つるまでの現金
イ 残高が20万円以下の預貯金
ウ 見込額が20万円以下の生命保険解約返戻金
エ 処分見込価額が20万円以下の自動車
オ 居住用家屋の敷金債権
カ 電話加入権
キ 支給見込額の8分の1相当額が20万円以下である退職金債権(すなわち支給見込額が160万円以下の退職金)
ク 家財道具
ケ 差押えを禁止されている動産又は債権
上記財産について、同じ項目の財産が複数ある場合は、個々の財産の評価額を合計して得た額を当該項目における評価額とする。
CF. 東京地裁では、自由財産の総額が99万円以下となる場合は比較的緩やかに判断し、99万円を超える場合は慎重に判断される傾向があります。東京地裁においては、上記20万円というような基準の数字はないようです。
5 まとめ
いずれにしても、上記のような自由財産を法が予定しているのは、破産者が真に経済的再生を遂げるために必要と考えられるからです。このような定めや運用がないとすると、破産を申し立てる者は、自己の財産状況を真摯に裁判所あるいは破産管財人に申告することが期待できなくなってしまいます。債務の免責後、一文無しから経済生活を始めることが現実的ではないことは明らかです。
それゆえ、破産を申し立てるときに、相談者は、破産申立てを依頼しようとしている弁護士に対しても、上記自由財産制度及び自由財産の拡張制度を十分に理解した上で、正直に自己の財産状態を打ち明けて申立ての相談をするようにしてください。 (文責弁護士福島政幸)