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富士の高嶺から見渡せば

「政治争点化」しているのは文在寅だ

2019.01.14 15:01

韓国の文在寅大統領は10日、年頭に当たって新年記者会見を開いた。就任3年目に入り、これが就任以来3回目の記者会見だという。安倍総理がことあるごとにテレビカメラの前に立ち発言するのと比べて、少な過ぎないか。国民に向けた発言をほとんどせず「不通(プルトン)」といわれた朴槿恵前大統領といい、文在寅といい、韓国の大統領はなんと気楽な「商売」のことか。

しかも、愛想笑いを浮かべ、記者の質問にざっくばらんに答えているように見せて、口を開けば、ろくなことは言わない。

今回、彼が発した日本に対する批判は、日本では総スカンを食った。翌日の日本の全国紙は一斉に文大統領の発言を批判する社説を掲載したが、韓国の朝鮮日報は、「全国紙5紙が揃って社説で批判するなどというのは、普段、滅多にないことだ」と、日本の厳しい反応を驚きをもって伝えている。文大統領の記者会見での日韓関係に関する発言は、翌日の日本の新聞各紙が一面で大きく伝えたのに対し、韓国の新聞は、朝鮮日報が一面の下で伝えたほかは、各紙とも2面3面で小さく伝えただけだった。そもそも文大統領は、記者の質問に答える前の冒頭30分間の発言では、国内の経済問題や南北問題にほとんどの時間を費やし、日韓関係に触れることはなかった。また外交安保問題に関する質問では、韓国人記者たちの質問はすべて南北問題に集中し、「徴用工」判決や火器管制レーダー照射問題など、今まさに直近で起きている日韓関係に関する質問はまったく出なかった。のちのち、この記者会見の場の雰囲気とその後のメディアの報道ぶりを見て、日韓の間の温度差が話題になった。

記者会見に出席していた日本メディアのソウル特派員たちも一生懸命に手を挙げて、質問のチャンスを狙っていたのだが、文大統領から指名されることはなかった。予定されていた正午まで2時間の会見時間の終了が迫るなかで、日本人記者たちの間では、このまま日韓関係に関する発言はいっさいないまま会見は終わるのではないかという不安がよぎったという。会見終了まで残り15分となり、国内経済問題をテーマにした質問に移っていた時、前から2列目、日本人記者の中では最前列に座っていたNHKの高野洋ソウル支局長が、突然立ち上がり、マイクを奪い取るかのようにして質問を始めた。実は文大統領は、高野支局長に後ろにいたBBC記者を指名したつもりだったが、マイクを持ってやってきた会場のスタッフは、すでに立ち上がっていた高野支局長の気勢に押され、ついついマイクを渡してしまったようだ。その間の経緯は、高野支局長本人が翌日のKBS日本語放送「金曜座談会」の質問に答えて詳しく語っている。

http://world.kbs.co.kr/service/contents_view.htm?lang=j&menu_cate=issues&id=&board_seq=355528

高野支局長が韓国語で質問した内容は以下の3点。「韓国の裁判所が新日鉄住金の保有株を差し押さえたことに対して、昨日、日本政府は二国間協議を要請した。これに対してどのような対応する考えか?」「韓国政府による具体的な対応策はいつ発表するのか?」、そして「韓国政府が財団や基金を設立する可能性はあるのか?」だった。

経済問題の質疑の最中に、日韓関係の質問が出たことに、文大統領は戸惑っていたように見えた。そして「まず、基本的な話からすれば」と切り出し、歴史問題に対する従来の見解から話を始めた。

「過去に韓国と日本の間に不幸な歴史があった。35年ほど続いた歴史だ。そうした歴史があったために韓日基本協定を締結したが、それによってすべてが解決したわけではなく、まだ少しずつ問題が続いている」と発言した。そして文大統領は「これ(元「徴用工」訴訟)は韓国政府が作り出した問題ではない。過去の不幸だった歴史のために生じた問題だ」とした。そして「日本はもっと謙虚な姿勢をもつべきだ。日本の政治家が、これ(「徴用工」判決)を政治争点化し、問題を拡散するのは賢明な態度ではない」と、日本政府に責任を転嫁し、批判した。

さらに文大統領は「三権分立を制度として持つ世界のすべての先進国と同じように、政府は最高裁の判決・司法府の判断に関与することはできない。日本も同じだ。日本は不満を表明するかもしれないが、韓国は司法府を尊重しなければいけない。日本は不満があってもその部分はやむを得ないという認識を持たなければいけない」とし「韓日両国がこれを政治的な攻防の素材として未来志向的な関係まで毀損するのは望ましくない」と答えた。

元「徴用工」訴訟の最高裁判決をめぐる日本の二国間協議の要請についてはいっさい触れず、 韓国政府がこの問題にどう対応するという考え方も示さなかった。

文大統領は「新しい財団については、今回の事件(大法院が元「徴用工」訴訟の判決を遅らせたなどの疑惑)に対して捜査が行われている状況であり、状況を見守り整理した上で判断すべきだと考える」と述べるに止まった。

驚くことに、たったこれだけの発言だが、いわゆる元「徴用工」訴訟の最高裁判決が出て以降、また1月になって新日鉄住金の株式差し押さえが実際に行われる事態に至るまで、この問題に関する文大統領の公の発言はこれが初めてだった。それにしても、NHK記者の質問に答えたあと、「ほんとはあなたを指名してのではなかった」といって会場の笑いを誘ったのは、言わずもがなの発言というしかなく、日韓関係には出来たら触れたくなかったという彼の気持ちをありありと表わすものだった。

そもそも1965年の日韓基本条約の請求権協定という国際的な約束・取り決めを根幹から覆す韓国最高裁判決に対して、これまで韓国政府の態度や対処方針をいっさい明らかにすることなく、この問題を政治争点化しているのは、むしろ文大統領であり韓国政府であることは間違いない。

徴用工訴訟の最高裁判決に関して言えば、この問題を互いに政治争点化させないためには、韓国政府が、あるいは文大統領が、この問題をどう扱うのか、その考え方を表明すれば済む話だ。韓国政府がどう対処するか、明らかにしないから、日本の閣僚や国会議員もあれこれと対抗策を議論することになる。

前述のKBS日本語放送「金曜座談会」に出演した「国民日報」シニアコラムニストの趙容来氏も、「文大統領からは、政治争点化しないために何をどうするかを聞いて見たかった」とし、何の対応策も示さない韓国政府には批判的だった。

韓国メディアの間では、徴用工判決や韓国軍のレーダー照射の問題で日本が問題を大きくして騒いでいるのは、「このところ支持率が下がっている」安倍総理が、ことし7月の参議院選挙を前にして、この問題を政治利用しているからだという論調がはびこっている。徴用工判決してもレーダー照射問題にしても、すべて韓国側が火をつけた問題であるのに、それをすべて安倍政権のせいにするとは、責任転嫁も甚だしい。「韓国の安倍たたきはもう病的域に達し」ていて、文字通り「安倍憎しシンドローム(症候群)」(『韓国はどこへ?』海竜社p207)がはびこっていると、産経新聞の黒田勝弘ソウル駐在客員論説委員はいう。

何かにつけて、韓国メディアは、韓国に対して批判的な日本の人々を「極右勢力」だと決めつける。韓国を批判する人たちを「極右」だと定義すれば、彼らの善悪二元論のなかで、日本は悪、韓国は善、ということで簡単に済まされることになる。そんな単純な二元論で、そもそもいいのだろうか。日韓関係を真剣に考える人をはじめ、韓国にちょっと意見を言いたいと思う人たちは皆、極右勢力と分類される。そんなことでは、健全な議論も成り立たなくなる。文大統領の記者会見での態度もまさに、日本は悪、韓国は善という二元論から脱することはなかった。その方が、他に何も考える必要がなく、楽なことは間違いない。しかし、一国の命運を牛耳る指導者が、そんな何も考えない、あるいは何も考えたくない思考停止状態で、この複雑怪奇な国際社会の中で、まっとうな舵取りを出来るのだろうか。李朝の末期も、自らの力で自立する道は選ばず、その時々の外部世界の力関係を見計らいながら、強い国につくという事大主義から抜け出せなかった。それが結局、日本による併合という道につながったことへの自らの反省、自分が置かれた状況に対する客観的な評価、分析はなかった。文政権も、いつか来た道に再び戻っているように思えてならない。